永久焦土の人狼
炎が背中を覆うように纏わりつき、踏まれた地面は凍りつく。
「さァて、テメェら。死ぬ準備は出来たかよ?」
それは人狼。白き人狼。鋭く長く伸びた爪を携えた氷炎の人狼。
「あはは、生憎だけど出来てないね。……寧ろ、僕のものになる準備は出来たかな?」
言いながら、僕は首飾りに触れる。出し惜しみできる時間は過ぎてしまった。
「ハッ、つまらねぇ冗談だなァ? もはや、魔王だろうと勇者だろうとオレを止めることは出来ねえよ。オレは一族の誇りを全て背負ってるからなァ……負けらんねェんだよ」
人狼の背中から噴き上がる炎が逆巻く。凍てつく大地がひび割れていく。
「そっか。でも、僕は負けていいと思って戦ったことなんて無いかな」
指先に触れる首飾りが熱を持ち、黄金色に輝く。
「『
黄金の炎から皮膚から噴き出し、指先が黄金で覆われる。が、直ぐにそれらは収まっていく。無駄な力を使っている余裕はないのだ。
「ほォ……カミサマの力かよ」
人狼は神妙な面持ちで言った。
「うん、よく分かったね。結構便利な力でさ、こういうのを操れるんだ」
「あ? こういうの……テメェ、一体何を言って────ッ!」
言いながら、僕は地中から黄金を触手のようにして伸ばす。それは人狼の足元まで到達すると、幾重にも枝分かれし、まるで無数の槍のようにと地上に飛び出した。
「ぐッ、なんだこの金ピカッ!」
地面から同時に飛び出た十数本の黄金の触手、その内の数本は鋭い尖端で人狼を捉えた。深々と突き刺さり、貫通した黄金は、人狼の炎でも溶けることはない。
そして、そのまま黄金はスルスルと伸びながらぐにゃりと形を変え、縄のようになって人狼を縛り上げようとする。
「ガァアアアアアアッッ!!! ウゼェんだよッッ!!!」
が、人狼の体を貫き、そのまま絡み付こうとした黄金の触手は圧倒的過ぎる人狼の膂力で千切られてしまった。
「うーん、凄い力だなぁ……」
「グォオオオオオオオッッ!!!」
と、顎に手を当てて悩んでいると、いつの間にか斧を拾っていたらしいロアが飛び込んできた。
「ハッ、今度はオーガかよ。見た目通りの馬鹿力で何よりだ……ぜッ!!」
「グォオオッ!?」
飛び降りながら振り下ろされる大斧、それを人狼は両手の鉤爪で受け止めると、足元から氷の棘を生やして伸ばし、ロアの腹部を貫かせた。
「オラッ、先ずはテメェにトドメ────ッ!」
「キュウウウウウウウウウッ!!」
次々と生えて刺さっていく氷の棘に固定され、動けなくなったロアに振り下ろされる氷の鉤爪。しかし、それは自由落下する巨大な岩石によって中断された。
人狼は慌てて飛び退き、アースが作り出した岩石はロアの目の前の地面に激突して粉々になった。
「ハハハハハハハハッ!! おもしれェ、面白くなってきたじゃねえかッ!! まさか、今のオレをこれだけ抑えられるとはなァ!? そう思うだろッ、短剣女ァ!!」
言った瞬間、人狼の背後から巨大な黒い刃が迫る。変化したエトナの腕だ。
「ハハッ、危ねェなァ?」
「うわっ、氷ですか」
しかし、黒い刃は人狼の足元からニョキニョキと生えてきた氷に防がれてしまった。
「ハハッ、氷だけじゃねェぜ?」
人狼が不敵に笑うと、彼に備わった氷の鉤爪が燃え上がった。しかし、不思議なことにその鉤爪が溶ける様子は無い。
「ほ、炎の氷の鉤爪?」
頭の悪そうな言葉を漏らしながらも、鋭い氷の爪を黒い刃と短剣でいなし続けるエトナ。その鉤爪から噴き出ている炎は不規則に動きながらエトナを狙うが、それが彼女の体に触れることはない。
「チッ、炎も氷も当たんねえなァ……焦げてさえくれねえたァ、困ったもんだぜッ!」
「当たり前ですっ! その炎、触れなくてもあっついのに態々触れるわけないですっ!」
「ハハッ、不規則に揺らめく炎を避けようと思って避けられるのがスゲェって話だろうが」
と、悠長に話しているようにも見える二人だが、実際は熾烈な争いが繰り広げられている。
人狼が鉤爪を振り上げ、隙が一瞬できると、そこにエトナの短剣が素早く突き出される。が、その短剣が人狼の腹部に到達する寸前、人狼の足元から無数の氷が棘のように伸びてエトナを狙った。
「ッ! 氷の棘……やりますね」
「ハハッ、テメェこそ良く反応できたなァ? 今ので土手ッ腹ぶち抜いてやるつもりだったのによォ!」
結果、エトナが後ろに飛び退き、自分の影を布のように変化させて目の前にぴしゃりと張って壁を作ったことで短剣も氷の棘もお互いに突き刺さらなかった。
僅か数秒を見ただけでこれだ。こんな攻防が、息もつかせぬ勢いでずっと続いている。
「オラァッ!!」
「ハァッ!!」
交差する鉤爪と刃、噴き上がる炎と闇、足元から相手を狙う氷と影。お互い本気で殺し合っているにも関わらず、お互いに傷が付くことは無い不思議な均衡が保たれていた。
「────
しかし、その均衡を破る者が居た。赤いオーラを纏う拳を振り上げた少女、メトだ。
「ぐふァッ!?」
「メトさんッ、ナイスですッ!」
体内に上向きの衝撃を流し込まれた人狼は、嘘のように空中に弾き飛ばされた。
「へぇ、この技って本当はこうなるんだね」
メトの破天は大抵その強すぎる衝撃で相手を爆発四散させてしまうが、今回はそれに耐えられる程の耐久力と吹き飛ばされてしまう程度の体重を持つ人狼が相手だったので正常に技の役割が果たされたようだ。
「闇槍ッ、
空に向かって放たれた
恐らく、あの
「あァ? 空中のオレならこんな雑魚魔術でも当たると思ったのかよ?」
しかし、そのことに人狼は気付いていない。人狼は呆れたような態度で体を捻り、
「
人狼を通り過ぎた闇槍からぐにゃりと現れたエトナは、その腕を黒い刃に変化させて人狼を背後から斬り裂いた。
燃え盛る人狼の背中には、バッサリと深い傷跡が刻まれる。
「ぐあァッ!? なッ、なん────」
「────
動揺しながら振り向いた人狼にすかさずエトナが短剣を繰り出すと、片腕があっさりと斬り落とされた。
「……決まったね」
ボトリ、地面に丸太のような腕が落ちる。
「キュウウウウウウウッ!!」
「グォオオオオオオオッ!!」
「ぐふゥ、ガァッ!?」
続けて、落ちてきた人狼に地面から生えた鉄の腕が振るわれ、更にロアの大斧がもう片腕も斬り落とす。
「ガァァ……がはッ、ハァ……じゃ、ねェ……」
荒い息を漏らし、血を吐く人狼。しかし、その目は死んでいない。全くもって、生を諦めてはいない。
「テメェ、らァ……舐めんじゃッ、ねェええええええええええッッ!!!」
人狼の咆哮と共に猛烈に噴き上がる背中の炎。追撃を入れようとしていた面々は慌てて飛び退く。しかし、その隙をこの人狼に与えていい訳が無かった。
「ハァ、ハァ……ハハッ、ハハハハッ!! オレはッ、死なねェッ!!!」
狂ったように笑う人狼。彼の胸が輝くと、三つある心臓の一つが輝くと、無くなったはずの彼の両腕は、全身の傷は……全て元通りに治っていた。
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