三つの心臓
青白く内側から光る人狼の心臓。その光が収まる頃には、人狼の目は青から赤に染まり、体からは仄かに赤いオーラが立ち昇っていた。
「ガルル……倍ノ力デ、ぶっ潰す」
赤く染まった人狼の目が、僕を睨み付けた。そう、彼の能力……トゥライス・ウェアウルフの最たる力がこれだ。
三つの心臓を持つ彼らだが、普段はその内の一つしか使用しておらず、残りは凍らせて保存している。それは、余りの心臓を一つ解凍することで、例え死んでも肉体の傷を全て再生しながら復活することができるからだ。
「ネクロさん……あの狼さん、さっきよりもだいぶ強いです」
そして、今彼が使ったのは凍らせた心臓の蘇生以外の使い方、単純な身体能力強化だ。同時に二つの心臓を起動することで、その身体能力は元の二倍になる。
まぁ、普通は心臓が二つあっても身体能力は二倍にならないし、心臓を動かしたところで傷は治らないが、そこらへんは種族スキルの力だろう。
「知ってるよ。それに、今の彼は二倍だけど、彼は三倍になることもできる」
「さ、三倍……凄いですね」
戦々恐々としてるところ悪いけど、あの人狼が三倍になっても速さでは君に届かないと思うよ。
「ゴタゴタ話してるとこ悪いガよォ……さっさト終わらせてやるぜェ?」
赤いオーラを纏った白い人狼が、瞬足で駆け出した。
「
「
人狼の鉤爪を氷が纏い、更にその氷の鉤爪はスラリと長く伸びた。まるで剣の如く鋭く長い氷の爪は僕の首を狙っていたが、途中で慌てて軌道を変えると、エトナの赤く光る短剣を受け止めた。
「チッ、危ねェなァ!? ハハッ、女どもォ……テメェらどっちもメチャクチャ強ェなァ!!」
人狼は笑うと、両手に備わった氷の鉤爪でエトナに襲いかかった。
「オラッ、オラッ、オラッ! ハハハハッ、どうだァ!! 楽しいなァ!? でもよォ……この調子なら
人狼は笑いながら、エトナに爪を振り下ろす、右から左に、左から右に、上から下に、下から上に……正に縦横無尽な氷の爪が二方向から同時に、しかも連続で襲いかかる。
「ふッ、はッ、はぁッ! 確かにその爪ッ、速いし重いですけどッ、師匠の方が何倍も強いですからッ!!」
しかし、エトナはそんな猛攻も綺麗に交わし続け、逆に人狼に少しずつ傷を付けていく。
「オイオイ、本当カソレッ!? 良いなァ、戦ってみてェなァ!! オレノ数倍モ強ェ師匠って奴と────ッ!?」
テンションがどんどん上がり、攻撃の勢いも増していく人狼が突如吹き飛んだ。
「ハッ、ハハッ、オレとしたことが夢中ニなりすぎて忘れてたぜェ……オレと同レベルに強ェ奴が他にも居たってことをよォ」
人狼の視線の先にはメト、そしてそれを為したのも当然メトだ。不意を突いたメトの拳が人狼を吹き飛ばしたのだ。
「キュウウゥゥッ!!」
「グォオオオオオオオッ!!」
そして、人狼とエトナの密着状態が解かれた瞬間、その時をずっと待っていた二匹の獣たちが咆哮をあげた。
「なッ、オイオイ……こいつァ、やべェ────」
人狼の足元から生えた無数の鉄の腕が人狼を掴み、雁字搦めに拘束した。力を入れて逃れようとする人狼。鉄の腕に少しずつ罅は入っていくが……もう遅い。動けない人狼に飛来する黒い大斧と、頭上から振り落ちる大岩。
「……あ、あれ、これやっちゃったんじゃないですか?」
エトナが不安そうに呟く。
「エトナ、やったか? はフラグだよ。でも、大丈夫。どうせ一回は復活できるはずだし」
僕は何の不安もなく、ぐちゃぐちゃになっていてもおかしくない人狼の方を見た。
「……あれ、おっかしいなぁ」
岩の破片と、鉄の欠片、地面に突き刺さる大斧。そこに立っているのは、お世辞にも再生済みとは言えないようなボロボロの人狼だった。しかも、その赤いオーラはより濃く噴き上がっている。
「……
へぇ、あの状況で蘇生じゃなくて強化を選んだのか。ステータスを上げればあの攻撃も耐えれるって考えたのかな。
ていうか、これもしかしてエトナのフラグのせい?
「皆、気を付けて。来るよ」
言った瞬間、人狼から凄まじいプレッシャーが放たれた。
「ガルルゥ……ガァアアアアアアアアッッ!!!」
三倍。最初の三倍の力だ。それは言うまでもなく強力。異常な強さ。
「
「ガルゥッ!!」
銀色に光る刃。しかし、それは簡単に弾かれてしまった。
「うーん、強いですね……ネクロさん、あれ貰えますか?」
「
あれって、何だろう。これで良いのかな?
「ナイスですネクロさんっ、
どうやら、合ってたみたいだ。ヒヤヒヤするからアレとか分かりにくい言い方はやめてほしい。
「ガルゥ!? オレよりッ、圧倒的ニ速ェ!? しかもッ、なんだァその残像ッ!!」
「当たり前です、ネクロさんと私が揃ったら最強なのでっ!
かなり押している様子のエトナ。体格とか攻撃の性質的に手を出せているのはメトだけだね。
まぁ、ロアは攻撃が大振りすぎて邪魔になっちゃうし、アースはあの速度の戦いを補助できるほど速い魔術を持っていないのでしょうがない。
「
「感謝します。マスター」
メトも加速させつつ、戦況を眺める。もうアースとロアは割り切って周りの雑魚処理を始めてしまったが、メトとエトナは良い感じに人狼を追い詰めている。
「ぐッ、ぐぁッ!? ぐゥ……がァッ!?」
メトの拳が、エトナの斬撃が、少しずつ人狼に傷を付けていく。人狼の体力を削いでいく。
「ハァ、ハァ……ガァアアアアアアアアッ!!」
人狼が息を荒くしながら両手の凍った鉤爪を振り下ろす。
「
「ガルゥッ!?」
しかし、その鉤爪も倍速になったエトナに容易く弾かれる。
「ハハッ、ウソだろ……こっちは、三倍なんだぜェ?」
「あはは、しょうがないよ。こっちは数的に君の三倍なんだから」
本当はロアとアースとネルクスも含めて六倍なんだけど、今は戦闘に参加してないからね。
「だが、オレハ死なねェ! 喰らえッ、
「
クロスして振り下ろされる鉤爪が、黒いオーラを纏った黒い拳と真っ向からぶつかり合う。
「…………ハッ、ハハッ、ハハハハッ! テメェら、幾ら何でも強すぎんだろうが」
膝を突く人狼、その鉤爪は無残にも砕けていた。
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