ついでに高難易度エリアを踏破しちゃおう!

 全体的に白っぽい色合いの魔物たちが、一斉に暴れ出す。その全てが僕たちを狙っている訳ではないのが不幸中の幸いだが、それでも危機的状況には変わりない。


「んー……よし、ネルクスも出てきて」


「おやおや、私の出番ですか」


 視界の端でこの雪原で唯一見かけていたプレイヤーが魔物の群れに囲まれて死んだのを確認し、僕はネルクスを呼び出した。


「プレイヤーはもういないっぽいし、今回は自由に戦って良いよ。偶には好きに暴れたいだろうし、護衛も大丈夫だよ」


「クフフフ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えましょう」


 ネルクスはそう言うと、奥の方でチラチラと見えていたマンモスみたいな魔物に飛びかかっていった。


「お、もう結構死んでるね………………生擬きニメイト・ゾンビ」


 僕は小声で死霊術を唱え、そこら中の死体に一斉に魔法をかけた。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……成功したのは二十匹くらいかな」


 僕はアンデッド化に成功したフロストウルフやアイスフィストオーガ、そして腕が氷で下半身が霧になっている人型の魔物であるアイスアーチャーなどにスキルを付与し、速攻で戦闘に参加させた。


「みんな頑張れ〜……っと、『我が従魔よ、我らが為に力となれ。全強化オールブースト』」


 すると、絶賛戦闘中の僕の従魔達の動きが少しだけ速くなった。僕のスキルによって全てのステータスが1.25倍されたからだ。


「おっと、あれは……来ちゃったね」


 戦況を観察している僕の視界の端に映ったそれは、ゆっくりとこの混沌たる戦場に踏み入ってくる。


「……カタ」


 それは、骸骨。燃え盛る太陽の下にあっても焼け焦げる気配の無い、逸脱の死霊。


「……カタ、カタ」


 それは、骸骨。二メートル越えの巨躯に分厚いローブを纏った、凍える骸。


「……カタカタ、カタ」


 それは、骸骨。骨の体も外套も杖も凍てついた、雪原の屍王。


「カタカタッ、カタカタカタッ!」


 それは、凍てつく骸骨の王フロストスケルトン・キング。多くのプレイヤーを悪辣な技と大いなる力で葬ってきた、正真正銘のボスだ。


名持ちネームド、全員集合。それ以外、今まで通り雑魚を駆除」


 僕は名前を持つ従魔のみを僕の元に集めるよう命令を出した。


「カタ、カタカタッ!」


 水晶のような青く透き通った体の骸骨がその手に持った杖を掲げると、青い光が先端から放たれ、雪の地面に次々と魔法陣が展開され、そこから氷で作られた騎士達が現れた。

 恐らく、僕が最初期に戦ったユニークモンスターの馬が使っていた氷魔術で作り出した騎士と同じものだ。


「……皆、あれは意思の疎通が出来ればテイムしたいから、取り敢えず殺さないようにお願い」


 と、命令している間に骸骨の王は再びなにかをしようとしている。


「カタタタッ!!」


 更に、骸骨の王が杖をまた掲げると、辺りの地面がぞわぞわと蠢き、フロストスケルトンと呼ばれる青みがかった色のスケルトン達が地面から次々と這い出てきた。

 しかも、彼らの数は尋常ではない上に、その全員が氷の武具を手にしている。


「……氷騎士に、フロストスケルトン。約十五体と、約五十体ってところかな」


 因みに、このスケルトン達もそうだが、この雪原のアンデッドは日光ダメージを受けない。代わりに、炎属性にはとても弱いらしい。まぁ、氷属性が炎弱点なのは僕も大好きなあの世界的育成ゲームでも同じだからね。


「やぁ、骸骨さん。僕の仲間になってみる気は無い?」


「カタァ、カタカタッ! (無いのぉ、少なくとも儂より弱いものにはなッ!)」


「あはは、じゃあ君よりも僕たちの方が強いってこと、証明すれば良いんだね?」


 僕の言葉と同時に、従魔達と氷の魔物達が交差する。


銀聖閃刃フラッシュエッジ!」


「破天」


「グォオオオオオオオッ!!」


「キュウウウッ!」


 閃く銀の刃が、赤いオーラを纏う拳が、炎を纏う斧が、十本以上の鉄の槍が、一瞬で氷の魔物達を砕いていく。

 と、それを尻目に悠々とこっちに戻ってくるネルクスが居た。


「クフフフ、あれが相手ですからねぇ。流石に私は護衛に戻らせて頂きましょうか」


「あ、ネルクス。ありがとね」


 確かに、この過酷な雪原で油断は禁物だ。一人くらいは護衛につけておくべきだろう。


「キシャシャーッ!! キシャッ!?」


「クフフフ、危ないですからねぇ? このように」


 僕の足元の地面を突き破って出てきた氷の蛇を、ネルクスは一瞬で叩き壊した。


「カタッ、カタタタッ!? (ぐぬぅ、何なのだ此奴らはッ!?)」


 一瞬で取り巻きを倒された骸骨の王は、狼狽しながらも何らかの術で後方に転移し、代わりに自分そっくりの氷の人形を残した。その氷の人形は現れると同時に敵意を持って動き出したが、一瞬でエトナに破壊された。


「ふむ……あれの拘束には私が必要そうですねぇ。どうしましょうか、我が主よ?」


「あ、行ってきて良いよ。やばかったらこれ使うから」


 僕が首飾りを指差しながら言うと、ネルクスは直ぐに骸骨の元に向かった。


「カタタッ! カタタ、カタタタッ!! (畜生どもめッ! このままでは、先王に顔向けすら出来んわッ!!)」


 先王。気になるワードが出たが、そろそろ骸骨の王も限界だ。まぁ、しょうがない。こっちは人間の力で超強化された魔物の集団。そっちは所詮、ただのエリアボスだ。


「カタッ、カタタッ! カタタタッ!? (ぐぬぅ、動けんッ! 入れ替わりも使えんだとッ!?)」


 と、考えている内に骸骨の王はメトの力によって石や金属で体を固定され、ネルクスの放った謎の闇の鎖に繋がれた。


「カタッ、カタタッ! カタタタッ!! (畜生めッ、入れ替われんのはこれが原因かッ! 忌々しい闇の鎖めッ!!)」


 必死にもがく骸骨の王だが、拘束が解ける気配はない。


「……早かったなぁ」


 こいつ、登場時は強そうな雰囲気あった癖に、意外と一瞬で捕まったよね。


「まぁ、良いや」


 僕はため息を呑み込み、ゆっくりと雁字搦めの骸骨に近付いた。

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