PKクランの襲撃に備えよう!

 あれから宿屋に帰り、ぐっすりと眠りログアウトを済ませた僕は、目を覚まして直ぐに朝のルーティンをこなし、VRベッドに潜り込んでログインした。


「ネクロさん、分かってはいましたけど……ここ、すっごく寒いです」


「うん、そうだね。ていうか、エトナのレベルでも寒いって感じるんだね」


 そう、ここは極寒の地。サーディアから北に進み、川を跨ぎ、ガンドラ山脈を越え、また川を跨いだ先にある凍結の大地……アデント雪原だ。

 ここは様々なプレイヤーから恐れられ、避けられている高難易度エリアだと言われている。


「勿論です。暑いのと同じで感じはしますよ。感じるだけなのでくしゃみとかは出ないですけど」


 あー、寒いと感じるだけで実際に悪影響を受ける訳では無いんだね。


「メトはどう?」


「感じることもできますが、感じないようにすることもできます」


 うわ、ホムンクルスって便利だね……と思ったけど、僕たちプレイヤーも似たようなものだね。


「そうだ、今回はエリアボスを仲間にしに来たんだけど……その前に、いつも通り適当に仲間を増やそうか。ほら、あの子とかどう?」


 僕は雪の中に埋もれて地面に擬態する白い蜥蜴……というより、コモドドラゴンのような魔物を見つけた。その白い目が太陽の光をキラリと反射したので、偶然気付くことが出来た。


「えーと、雪蜥蜴スノーリザードでしたっけ?」


「うん、そうみたいだね。まぁ、サクサク行こうよ。基本は死霊術で仲間にするから、傷はあんまり付けないようによろしく」


 僕の言葉に頷いた二人は、雪蜥蜴スノーリザードを一瞬で絞め殺した。


「……ステータスの暴力って感じだなぁ」


 ジタバタともがくも、結局逃げ出せずに窒息死した雪蜥蜴スノーリザードを憐れみながら僕は呪文を唱えつつ、次の獲物を探した。




 ♢




 数時間後、アースを呼び出し、メトと協力して簡易拠点を作ってもらった僕は妹お手製の昼食を頂いてからこの世界に舞い戻った。因みに、妹も結構ハマっているようで何よりだ。


「頸弄拳」


 身体中に雪を纏い、所々が凍っているアンデッド……フロストグールにメトの拳が直撃し、頭がガクガクと揺れる。


「メト、それってどういう技なの?」


「基本は頸椎に損傷を与える技です。破天」


 あー、そういうね。じゃあ、人型以外にはあんまり使えないのかな。なんて考えている間に、メトの拳がフロストグールにめり込み、彼の寒そうな体は爆発四散した。


「んー、アンデッドはアンデッド化できないって、不便だよね」


「ふ、不便ですか……ちょっと、私には分からないです」


 確か、死霊術にアンデッドを修復するとか、復活させる的なのもあった気がする。ネクロマンサー限定だった気もするけど。


「それより、ネクロさん。あそこに他のよりも強そうなのが居ますよ。あのゴーレムです」


 エトナが指差したのは、青白い体を持つ身長四メートルくらいのゴーレムだ。体には所々に雪がくっついている。


「あー、エリアボスだね。ほら、この雪原には三種類のボスが居るらしいんだけど、あれはその内の一体、フロストゴーレムかな」


「え、エリアボスが三種類も居るんですか? 凄いですね、ここ」


 僕は頷き、数十メートル先にいるフロストゴーレムに向かって歩き出した。


「まぁ、気負わなくても大丈夫だよ。あれは三体の中でも一番弱いらしいから。まぁ、相性にもよると思うけど」


 僕は青白い巨体に近付きながら、言うべきことを思い出した。


「あ、そうだ。ゴーレム系って基本的にテイムされてくれないから、壊しちゃっても良いよ」


 知能がそこまで高くないというか、自由意志がないゴーレムを従わせることは逆に難しいのだ。彼らは、自身に下された命令にのみ従うからである。


「そうなんですか? じゃあ、やっちゃいますよっ!」


「マスター。あれは恐らくコアを保有する型ですが、どう致しますか?」


 まぁ、あれだけしっかりしてるゴーレムだとコアもあるよね。


「回収できるならしちゃって。他はどうでも良いよ。……従魔空間テイムド・ハウス


 僕は命令を下しながらアースとロアを呼び出し、周りの雑魚敵を狩ることにした。


「了解ですっ!」


「了解致しました」


 さて、僕はここから戦況でも眺めておこうかな。


「うん、良いね」


 先ず、アースは大量にゴーレムを生み出して効率良く多くの敵を狩ろうとしている。少し手強い敵は自らの力で狩っているようだ。

 次に、ロアはある程度強そうな奴にのみ飛びかかり、自慢の斧で瞬殺している。


「じゃあ、エトナ達は……えぇ」


 最後にフロストゴーレムの相手をしている二人だが……そこには、無残にも木っ端微塵になったゴーレムの姿があった。


「ネクロさん、終わりましたよ!」


「マスター、コアを回収しました」


 余裕そうに背伸びをしながら帰ってくるエトナと、ゴーレムのコアを恭しく差し出すメト。


「……三十秒も経って無かったと思うんだけど」


 僕の呟きに、メトが視線を向けた。


「フロストゴーレムの討伐に要した時間は十八秒です」


「……うん、そっか」


 あれ、おかしいな。ゴーレムって、耐久力に自信がある種族だったはずなんだけど。


「いやぁ、ネクロさん。メトさんが凄かったんですよっ! いきなり鉱石を生み出して吸収したかと思ったら、一撃でコア以外がバラバラになったんですから!」


 あぁ、腕輪の力ね。やっぱり、結構な威力があったんだね。


「いえ、それよりもその溜めの時間の間にゴーレムの両腕を落としていたエトナさんの方が優れているかと。所詮、私は道具の力に頼っただけです」


「いやいや、メトさんっ! コアだけを壊さないように殴るなんて私どころか師匠にも出来ないレベルの技ですからっ! 道具の力とか言える力量、余裕で超えてますよっ!?」


 ……何この功績の押し付け合い。


「……あー、ごめん。そろそろストップで」


 フロストゴーレムの討伐時間を超えた辺りで僕は待ったをかけた。


「あ、はい。すみません」


「失礼致しました」


 まぁ、たまには仲良く言い争いしててもいいんだけど……。


「ちょっと、激しくやりすぎたからさ……集まって来ちゃったみたいだよ」


 二人は割と静かに終わらせたようだが、豪快に喧嘩を売りまくっていたアースとロアはかなりの量の魔物を集めてきてしまったようだ。

 勿論、彼らだけでなく、フロストウルフが遠吠えで仲間を呼び、ディスチャージタートルの放つ特有の匂いを持つ白い煙が更に敵を集め、白き巨人ホワイト・タイラントの起こす地響きで地下で眠っていた眠り潜む白熊ステルス・ポーラベアーがぞろぞろと出てきたり、最悪の相乗効果でどんどんと敵が溢れ出てきたのだ。


「……なるほどね。これが高難易度エリアの所以って訳だ」


 僕は笑みを浮かべながら、全員に固まって動くように命令した。

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