チープの慟哭
あれから数十分、僕同伴でクランの手続きや説明は終わり、その場の流れで歓迎会的なのが始まった。
「じゃあ、みのるん。自己紹介できるかニャ?」
問いかけたのはこのクランの中でも幹部クラスだと言う猫獣人のプレイヤー、メルカットだ。因みに、猫獣人とケットシーは別物、人種と魔物という区別があるので気を付けよう。犬獣人とクーシーも同じである。
「は、はいっ。みのるん、ジョブは剣士です。よろしくお願いしますっ!」
ぺこりと実が壇上で頭を下げると、歓声と拍手が湧いた。規模は全然違うが、闘技大会を思い出す騒がしさだ。
「ネクロ」
後ろから声がかけられた。その声の主は僕のリアルフレンドである安斎ことチープだ。
「ん、どうかした?」
「いや、大した要件じゃねえけど。今度、どっかのダンジョンかエリアか、どっちでも良いけど行こうぜ」
あぁ、そういう話ね。
「良いよ。ただ、僕はどうやらPK集団に狙われてるらしいから……一緒に行動すると危ないと思うよ」
「んー、なるほどな。まぁ、大丈夫だろ」
あっけらかんと宣ったチープに僕は少し驚きながらも、ニヤッと笑った。
「あはは、ありがとう。そうだね、君はそういう人だったよ」
こういうところがあるから、僕は躊躇なく彼を親友だと言えるんだ。口に出したことは無いけどね。
「何言ってんのか分かんねぇけど、そういうハプニングがあった方が面白いだろ?」
「うん、そうだね。そうかもね」
僕はそう言いながら、大きな広間でクランメンバー達と戯れている実を見た。もう、完全に適応している。やっぱり、実はコミュ力が高いのかな。僕には無い素質だから羨ましいよ。
ていうか、僕より運動も出来て頭も良くて社交性も高い……寧ろ、僕は今までよく嫉妬せずに生きてこれたね。人によっては完全にコンプレックスになりそうだけど。
「そういえば、チープ」
「ん、何だ?」
僕の方を向いた青髪の青年、現実の彼よりも三割増しから五割増しくらいでイケメンな彼に僕は純粋な質問を投げかけた。
「PK、PKerってさ、捕まらないの?」
ドレッドとかブレイズは余裕で酒場で飲んでるし、ある程度有名なPKでも普通に街で買い物をしていたりする。
「PKか……あー、なんて言えばいいんだろうな。取り敢えず、結論から言うと捕まる。ただ、こっちの世界の機器で写真に収めたり、何らかの証拠を握らないと捕まらない。それに、衛兵もPKを積極的に逮捕しようとはしねぇ」
「え、そうなの? 一応、PKも人殺しじゃないの?」
僕の問いに、チープは難しそうな表情を作った。
「んー、そうなんだが、そうじゃねえ。PKってのは、言ってしまえば取り返しがつくからな。殺しても蘇る相手を殺してるだけだ。それに、痛覚も基本的に無いし傷もどうせ治るから傷害罪としてもそこまでの罪はない」
確かにそうだね。PKされても本当に死ぬ訳ではないし、基本的には痛みを負うこともない。
「ただ……現地人を傷付けた場合は別だ。この世界の人間とかを傷付けると、当然罪が発生して罰が与えられる。その上、プレイヤーは普通の殺人犯とかよりも存在自体が凶悪だからな、即指名手配されて各都市の衛兵達が血眼になって探し始める」
あ、そうなんだ。まぁ、確かにプレイヤーってだけで普通の殺人者よりも危険だもんね。世界を虚構としか思ってないから罪の意識なんてない上に、死んでも無限に蘇る。寧ろ放っておく理由がない。
「そして、プレイヤーが逮捕された場合だが……通常よりも重い拘束で、通常通りの刑が執行される。具体的には手枷と足枷、猿轡を付けられる。あと、食事は与えられずトイレも無い。まぁ、必要無いからな」
へぇ、手枷は兎も角、猿轡まで。
「そこまで拘束する理由は?」
「手枷足枷猿轡、全部暴れねえようにって理由もあるだろうが……一番は自死を防ぐためだろうな。自殺するだけで痛みも無く簡単に逃げ出せるのがプレイヤーだ。あ、言い忘れてたがプレイヤーには禁固刑以外の罰は無い。鞭打ちとか水責めとか、やっても無意味だからな」
確かにそうだね。大抵のプレイヤーは鞭で打たれても平気な顔をしているだろうし、流石の僕もそんな状況になったら痛覚設定をオフにするかも知れない。
「ま、そういう訳でただのPKは犯罪者ではあるが、言ってしまえば軽犯罪者扱いだってことだな。まぁ、殺した相手の立場が高ければその限りじゃないかも知れねえけど」
あー、居るのか知らないけど爵位とか持ってるプレイヤーを殺しちゃったらマズいんだろうね。
「うし、PKについては大体こんなもんだな。まぁ、PKにはやり返すのが一番だ。PKのデスペナルティは普通よりも重いから、それが一番の罰になるだろうしな」
「うん、そうだね。僕にしてもそれが一番簡単で、分かりやすい方法だよ」
結局、PKに罰を与えるには自分の手で報復するのが一番良いってことらしい。
「ところで、ネクロ。結構前に、PvPで俺に勝った報酬で卵渡したろ? あれ、何が出た?」
「ん、卵? ……あ」
僕の漏らした声に、チープの表情が険しくなっていく。
「お前、俺の渡した卵……どうした?」
睨みつけるチープに、僕はにっこりと笑いを返し、口を開いた。
「インベントリの中に────」
「────ふ、ふざけんなぁあああああああああ!!!」
チープの慟哭が、クランハウスの中でこだました。
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