呑みこむ黄金

 黄金と漆黒が、凄まじく重い大剣の一撃を受け止めた。


「なッ!? テメェ、どっから……いや、テメェがレヴリスちゃんが言ってた執事服か」


「クフフフ、私は執事服ではなくネルクスです。どうぞお見知り置きを」


 鋭く睨みつけるニラヴルに、余裕の表情で答えるネルクス。


「……まぁ良い、二人纏めてぶっ飛ばしてやるよッ!!」


 ニラヴルが両手にそれぞれ握った大剣を持ち上げ、クロスさせるように同時に振り下ろした。すると、大剣の刃から斬撃波スラッシュ・ウェーブのような斬撃が放たれた。


「おっと、危ないですねぇ……」


 ネルクスが飛び退き、僕の黄金が斬撃を防ぐ。が、その斬撃は分厚い黄金の壁を一撃で破壊した。凄まじい威力だ。この黄金の壁、スライムみたいな性質があるせいで並みの攻撃じゃ怯みもしないはずなんだけど。


「凄い火力だね。でも、隙だらけだよ」


 僕の言葉と同時に、大剣を再び構えた瞬間のニラヴルの足元から黄金の棘が次々と生えて彼の体に突き刺さり、その棘は黄金色の炎を噴き出した。


「ぐッ!? あ”あ”ぁ”ぁ”!?」


 驚愕に目を見開くニラヴルの体に纏わり付く黄金は、彼の体を完全に拘束した。


「クソッ、なんだよこれ……ッ!」


 もがくニラヴルだが、その体は僅かに揺れるだけだ。


「僕の……というより、この首飾りの力だね」


 僕は言いながらニラヴルに近付き、毒々しい赤色の短剣を彼の首筋に当てた。


「言い残すこととか、ある?」


 問いかけると、男は一頻り僕を睨みつけた後、ハッと笑ってこう言った。


「確かにテメェは強かったぜ、レヴリスちゃんが言ってた通りなァ……だが、お前はこれから地獄を見るだろうよ」


 僕が首を傾げると、ニラヴルはニヤリと口角を上げた。


死闇の銀血シルバーブラッドは既にお前を標的に選んでる。しかも、俺たちの総力を挙げてテメェをフルボッコにする計画も立てられてる。幾らバケモンを山ほど連れてるお前でも……精鋭揃いの俺たちには勝てねぇだろうなァ? ハハハハハハハッッ!!!」


 豪快に笑うニラヴルだが、僕はまだ首を傾げていた。


「精鋭揃いって言ったけど……もしかして、君程度の奴しか居ないってこと?」


「……んだと、テメェ」


 ニラヴルが笑うのをやめて僕を睨んだ。


「君には悪いけど……正直言って、PvPならドレッドとかブレイズの方が強かったよ。あと、半裸はやめた方が良いんじゃない? 防御力下がるし」


「テメェッ! ぶっ殺すッ!! 覚えとけよッ、テメェは俺たちが全力で叩き潰すッ! もう二度とこのゲームが出来ねぇようにし────」


 黄金は完全にニラヴルを包み込み、その炎で男を蒸し焼きにした。暫くすると、黄金の中からは誰の気配も無くなっていた。


「……良し、一件落着だね。ネルクス、戻って良いよ」


「了解致しました」


 ズブブと執事服の男が僕の影に沈んでいく。それと同時に僕の後ろ側の木に隠れていた妹が飛び出し、僕の下まで駆けてきた。


「あ、実。終わったよ」


 言いながら覚醒状態を解除し、実を見る。


「それは知ってるけど……その、影の人だれ?」


「ん? あぁ、ネルクスっていう僕の仲間だよ」


 そう言うと、実は混乱した様子で僕を見た。


「えっと……プレイヤー?」


「いや、違うよ。そもそも、人間ですらないし」


 僕の言葉で、実の表情は完全に固まった。


「じゃあ……何なの?」


 僕は微笑み、声には出さずにネルクスを呼んだ。


「悪魔だよ」


「えぇ、悪魔です。今後ともよろしくお願いします」


 小さな悲鳴を漏らし、実は石化した。




 ♢




 久々に歩くファスティアの街、新規から古参まで多種多様なプレイヤーは集まるそこは、サーディアよりもやはり活気があった。


「ほら、着いたよ。連絡は既にしてあるから直ぐに来ると思うけど」


「うわ、すごいっ」


 実は目の前の大きな建物、蒼月のクランハウスを見上げてそう言った。


「まぁね。大手クランだから、このくらいは大きくないといけないんじゃない?」


「なるほど……でも、本当に私がこんなところ入れるかな」


 不安げに呟く実。そう、僕たちはこのクランに入るためにやってきたのだ。勿論、入るのは実だけだが。


「大丈夫だよ。これだけ大きいってことは、それだけ受け皿も広いってことだからね」


 と、僕が実を落ち着けていると、クランハウスの扉が開き、中から一人の男がやってきた。


「すまん、待たせたな。実ちゃんもごめんね?」


「いや、全然大丈夫です!」


 気持ち悪い程の爽やかさで実に迫ったその青髪の男は、チープだ。現実での名は安斎である。


「まぁ、ここで話すのも何だからな。中で話そうぜ。ところでネクロ、お前もうちのクランに入らねえか?」


「あはは、冗談が上手いね」


 冗談じゃないんだけどな、とチープは呟きながらクランハウスへ入っていった。

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