面倒なヤツら
聞こえた悲鳴、それは間違いなく実のものだった。
「ドゥール、行くよ」
「ブモッ」
僕が言うと、直ぐにそれを察してドゥールは実のいる方へ飛び込んだ。飛び込んだ先には、実の他に三人のプレイヤーが居た。
「ブモォオオッ!!」
咆哮と共に棍棒が地面に叩きつけられ、轟音が鳴る。
「なッ、なんだッ!?」
「ダークオークッ! エリアボスよッ!!」
「面倒臭いな……逃げるか?」
一人は片手剣を持った銀髪の男、一人は気が強そうな赤髪の女、一人は眼帯を付けた黒髪の男。どこかで聞いたことがある。確か、初狩りを生業にしているPKとかだったはず。
「無理だッ、この距離はもう戦うしかねェ!」
「チッ、怠いわね! 豚がッ、空気読みなさいよッ!」
「時間はかかるが、ダークオーク程度なら殺せる……仕方ないだッ!? 来たぞッ、構えろ!」
悠長に話している三人にドゥールが襲いかかったのを見て、僕はこっそりと実に近付き、後ろから声をかけた。
「大丈夫、実?」
「きゃっ!? ちょ、ちょっとお兄ちゃん……びっくりさせないでよ。って、そうだ。いきなり、後ろからあの人達が急に襲ってきて……」
実にも奴らにも気付かれなかったのは、僕のこの黒い外套の力だ。これに込められた気配遮断と闇隠というスキルによって僕はバレずに移動できたのだ。
「分かってるよ。取り敢えず、あんまり僕から離れないようにね」
「う、うん……」
実の頭をポンポンと叩くと、外套を妹にかけると、僕は不届き者たちの前に姿を現した。
「やぁ、大変そうだね」
僕が声をかけると、三人は血走った目で僕を見た。
「プレイヤーか!? おい、こいつ普通の奴よりすばしっこいんだよっ! ちょっと、手を貸してくれねぇか!?」
「手伝ってくれたら謝礼は弾むわよっ!」
「あぁ、たっぷりとお礼をしてやる」
ニヤつきながら謝礼だとかお礼だとか口にするPK達。多分、彼らの中でのお礼は僕をリスポーン地点までワープさせてくれることだろう。
「うんうん……そっか」
彼らのレベルは、銀髪が40、赤髪が38、眼帯が48。思ったよりも高い。まぁ、確かに本来ならダークオークを倒せてたかも知れないね。
「お、おいっ! 早く手を貸してくれッ!」
「ていうか、この豚ッ、なんか回復してないッ!?」
「不味いな……このダークオーク、再生能力持ちだ」
「そ、そんなこと有り得るのっ!?」
普通は有り得ないね。普通は。
「さて、と……手伝ってあげようかな。あ、その前に……実は見ないようにね」
「う、うわ……真っ暗になっちゃった」
僕の後ろに隠れ、外套の中で縮こまる実を
「
僕の指先から魔方陣が花開き、そこから指くらいの太さの闇の光線が放たれた。
「なッ、足が……あなた、なんで私を撃ってるのッ!? 下手くそッ!!」
もしかして、誤射だと思ってる?
「んー……十発までなら誤射かも知れない」
僕は人差し指を伸ばしたまま、九回も詠唱を繰り返した。
「なッ、うわ!?」
「馬鹿ッ、さっきからどこ撃って……ま、また当てたわね!?」
「くッ……こいつ、わざとだ。俺たちが何か、気付いてやがる」
眼帯が黒い隻眼で僕を睨んだ。
「て、てめぇッ! 絶対許さ────ッ」
標的を変え、僕に飛びかかってきた銀髪の首が、闇の刃に刎ねられた。
「
呆気なく絶命した銀髪を見て、二人は一瞬固まった。
「ブモォオオオオオッ!!」
「キャッ、やめてッ! キモいッ! キモいのよ豚ッ!! って、やめてッ、何をッ、何するのよッ!?」
赤髪の女にドゥールは飛びかかり、女の持っていた短剣を適当に投げ飛ばすと、女の肩に思い切り噛み付いた。
「ギャアアアアアッ!? や、やめてッ!! こ、怖いッ! 怖い怖い怖い怖いッ!!」
生きたまま食われる恐怖を味わう赤髪は、ログアウトという選択肢が残されていることも忘れて必死に逃げようとする。
「……実に目隠ししといて正解だったなぁ、これ」
この光景、間違いなく年齢制限が付くと思うんだけど。人を踊り食いって、流石に全年齢対象じゃないと思うんだけど……運営さん?
いや、そもそも運営って仕事してるのかな? なんか、アップデートも来なければホームページも殆ど更新されないし。まぁ、その代わりバグとかは無いからアップデートは来なくても良いんだけどね。
「────隙あッ!? ぐッ、なんだッ!? く、クソッ、呑まれる!? 呑まれていくッ!?」
僕の後ろから声がしたので振り返ると、既に僕の影に引き摺り込まれかけていた。
「ん? あー、眼帯の人ね。ありがと、ネルクス」
『いえいえ、お構いなく』
僕の脳内に直接声が響いた。ネルクスだ。
「や、やめろッ!? お、俺はどうなるんだッ!! 頼む、やめてくれッ!」
「あはは、やめないよ。君はやめろって言われてもやめなかった……とかは、どうでもいいんだけどさ。初狩りとかPKの中でも最悪の部類だし、しかも僕の妹に手を出すとか……万死に値するよね」
悲鳴が聞こえる。影の中から、ガボガボと溺れていくような声が聞こえる。
「後はまぁ……好きにしちゃって良いよ」
『御意』
また、脳内に声が響く。これでこのプレイヤーはネルクスの気が変わるか僕が死なない限り、このゲームを僕の影の中以外でプレイすることは出来ないだろう。
「ログアウトは出来るだろうし……まぁ、何人もの新規をやめさせた罪だと思ってよ」
冷静に考えると、僕もこのプレイヤーみたいに
「よし、実……怖い思いさせてごめんね?」
ドゥールの食事が終わったのを確認した僕は、
「いや……外から聞こえるあの人達の悲鳴の方が怖かったんだけど、何したの」
実の鋭い視線を僕は微笑んで回避し、町に向かって歩き出した。
「帰ろっか……あ、今日1日やってみてCOOどうだった? 楽しかった?」
「話の変え方適当すぎでしょ……別に、楽しかったけど」
そっぽを向いて言う実に、僕は思わず笑みを零した。
「あはは、それなら良かったよ……じゃあ、一旦帰ろうか」
「もう、笑わないでよ……お兄ちゃん、そう言うとこだから」
そういうところ……どういうところだろう。
「あはは、ごめんね。そういえば、安斎って知ってるよね? この前、実がCOOやるって話したら、あいつが色々教えたいって言ってたけど……どうする?」
「どうしよう。私、安斎さんとそこまで沢山話したことないけど……」
「まぁ、教えてもらうとかは置いとくにしても……あいつの居るクランに入るのはオススメだよ。蒼月っていうクランなんだけど、初心者へのバックアップも手厚いし、リーダーの性格が良いからか知らないけど、人柄が良い人多いしね」
「ふーん……じゃあ、入ってみようかな?」
上目遣いで問いかける妹に、僕は肯定の言葉を返した。
「にしても、このゲームってマップ移動が大変じゃない?」
「いや、大体の人は跳躍スキルとかで跳び回ってるから、そこまで大変じゃな……え、なにあれ」
暗い森のあぜ道の中、僕は道の先にて仁王立ちで待ち構える上裸の男を指差した。
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