黒樫の主
硬そうな黒い肌を持つ豚人間、ダークオーク。それは通常のオークよりも大きく、恐ろしい。そんな存在が、僕たちの背後から現在進行形で襲いかかってきている。
「
「きゃあッ!?」
が、僕はそんなダークオークの棍棒を
そして、僕は妹を後ろに放り出し、代わりに首飾りを掴んだ。
「『
瞬間、僕の体から黄金の炎が噴き出し、腕は黄金に覆われ、瞳も黄金に染まった。
「な、何それ……お兄ちゃん、ど、どうやったの?」
混乱している様子の実に僕は笑いながら、首を振った。
「あはは、一から説明するのは難しいけど……まぁ、簡単に言えばこの首飾りのお陰だよ」
因みに、前回は覚醒時に皮膚全体が黄金で覆われてしまっていたが、今は少し制御力が上がったので腕だけに留めることができた。
あと、腕を覆った黄金も既に消している。なんか、感触が好きじゃないからね。
「ブ、ブモッ……ブモォオオオオオッ!!」
そして、目の前のただならぬ事態を察したダークオークは、僅かに恐怖の感情を浮かべながら棍棒を振り上げる。
「
しかし、ダークオークと並ぶほどに巨大なその棍棒は、僕の体から溢れ出して壁となった黄金に防がれた。
「ブ、ブモ……ブモッ! ブモォオオオオオッ!!!」
防がれた棍棒とそれを為した僕を交互に見たダークオークは、決心したように僕を見ると、耳をつんざくような咆哮を上げた。
「ぁ、ぅ……おに、ぃ……」
後ろから情けない声が聞こえる。そう言えば、咆哮ってそういう効果あったね。レベル差とかMNDの関係上、僕には効かないけど。
「ブモッ、ブモォ!!」
全く平気そうな僕の様子を気にすることもなく、ダークオークは叫び、地面を思い切り棍棒で叩いた。
「あー、そうだったね。そういえば、そんなことも出来たね」
すると、棍棒が当たった点からブワッと衝撃波が放たれ、まるで地面が脈々と波打っているようにグラグラと足元が揺れる。槌術とかの力だったはずだ。
あ、一応言っておくと、太い棍棒は槌術の判定になるけど、普通の棒は棒術で補正がかかる。
「お、お兄ちゃんっ! じ、地面が揺れてる!」
「うん、分かってる……よっ、と」
足元が不安定な僕らに、地震の影響を受けていないダークオークが襲いかかってくるが、所詮はゲームっぽく言えば1-2のボスだ。危険を感じるほど速い動きでは無い。
言ってしまえば、僕でも目に追える程度だ。なので、今度も容易く黄金の壁で防がせてもらった。
「そろそろ攻撃に転じようかな」
僕は言いつつ、片手から伸ばした黄金の刃に炎を纏わせ、一繋ぎの大秘宝を追う主人公のように、その刃をグイッとゴムの如く伸ばして攻撃した。
「ブッ、ブモォ!?」
「や、やった! 腕が落ちたよ!」
そして、伸縮自在な燃え盛る黄金の刃はダークオークの丸太のような腕を呆気なく斬り落とした。実際は少し硬く引っかかるような感じがあったが、金焔で焼いて溶かしながら斬ったので特に問題は無かった。
「そうだね。じゃあ、もう一本」
実の言葉に頷き、僕はすかさずもう一本の腕も斬り落とし、続けて胴体を軽く斬り刻んだ。しかし、ダークオークは膝を突くだけで叫びもせず、不穏な気配を発しながら俯いて震えている。
「よし、そろそろかな?」
丁度、僕がそう言った瞬間……ダークオークの体から漆黒の闇が噴き出した。
「ブ、ブモッ、ブモモッ……ブモォオオオオオッ!!」
噴き出す闇、増す威圧感、そして……再生していく両の腕。
「お、お兄ちゃん! 見て! 不味いよっ、あれ、また生えてきてる!」
「うん、見てるよ」
「い、いや、見てるだけじゃなくてどうにかしてってばっ!」
有り得ない、と言いたげな表情を浮かべながら僕を見る実に微笑みを返しつつ、僕はダークオークを観察した。
「うん、先ず……再生速度は凄く早い。良いね」
「いや、良くないよお兄ちゃん!?」
僕の外套を後ろから掴んでくる妹の頭を撫でながら、更に僕はダークオークを観察する。
「ブモォオオオオオオオッ!!」
体から闇のオーラを溢れさせながら僕に迫るダークオークに、僕は黄金の壁を創り出した。
「うん、速い。さっきよりも断然速いね。これも高評価かな」
「馬鹿っ!? 評価付けてる場合じゃないよお兄ちゃんっ!」
ひたすらビビっている妹は僕の背中をバシバシと叩いてくるが、その力は大して強くないのでダメージは無い。
だけど、流石に無視し続けるのは可哀想なので少し返事をしてあげることにした。
「実、知ってる? オークって太ってるように見えるけど、本当は殆ど筋肉らしいよ」
「ごめんねお兄ちゃん、私、そんな知識よりも先にあれを倒して欲しいなっ!!」
そっかぁ……
「うん……現実の豚も同じで、筋肉ムキムキなんだって。あと、豚って不潔なイメージがあるけど、結構綺麗好きらしいよ」
「あれっ! 私、話続けろとか言ってないよねっ!? 言ってないんだよっ!?」
ここまで大声で叫ぶ実は久し振りなので、僕は思わず笑いを漏らしながらもダークオークを見た。
「実、ちょっとごめんね」
「お、お兄ちゃ────ッ」
僕は言いながら実を黄金で籠のように包み、そのままの状態で後ろに飛び退いた。すると、さっきまで僕らが立っていたそこを通過した大きな棍棒が、樫の木に直撃した。
「うん、パワーも十分あるね」
「見れば分かるよっ!? どう見てもパワーに満ちた体してるよっ、そもそもさっきオークは筋肉ムキムキとか自分で言ってたじゃん」
確かに、言ってたね。でも、そうじゃない。
「あはは、そうだけどさ、やっぱり実際の威力は自分で見てみないとね」
「いやっ、要らないから! その意識の高さこんなところで要らないからっ!!」
黄金の籠の中で喚く妹を無視し、僕はオークを観察した。
「良く見たら棍棒にも黒いのが纏わり付いてるね……この状態に入ったら武器ごと強化出来るってことかな」
言いながら、こちらを睨むダークオークに僕は片手を差し伸ばした。
「ねぇ、君。僕の従魔になる気ない?」
「お、お兄ちゃん? 何言ってるの?」
僕はテイマーの力を使い、耳を傾けた。
「ブモォ? ……ブモモ。ブモ、ブモォ(話せるのか? ……詮無きことか。吾を下せば、認めよう)」
「あ、あれ……オークも、なんか返事してる?」
すると、ダークオークは僕の言葉に理性的に答えた。
「勿論、聞こえてるよ。君に勝てば良いんだよね?」
「ブモ(然り)」
「あ、あれ……私が可笑しいのかな。さっきまで殺しあってた魔物と人が普通に話すのがこのゲームの常識なのかな??」
……随分古めかしい喋り方をするダークオークだけど、倒せば良いってのは話が早くて良いね。まぁ、タイマンで勝ったら仲間になってくれるタイプの魔物は少なく無いけど。
「そっか、じゃあ早速で悪いけど……」
僕は差し伸ばしていた手をギュッと握り締めた。
「────王手だよ」
瞬間、ダークオークの周囲の地面から無数に触手のようにうねうねと動く黄金が飛び出し、鎖のように黒い巨体に絡みついた。
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