※樹海を守ろう!【3】

 ♦︎……ブリッツ視点




 二匹の狼を刺し殺した俺は、嵐を纏う槍を振り回して更に数匹の狼を葬った。しかし、それでもまだ二十匹以上の緑色をした狼が残っている。

 シニョンは良くこいつらに囲まれて生き残れたものだ。


「ガルルゥ……ヴァウッ!!」


「ヴァウッ、ヴァウッ!」


「アォオオオオオオッッ!!」


 唸り、吠え、咆哮を上げて俺たちに突っ込んでくる彼らだが、さっきまでとは少し様子が違った。彼らの体が緑の輝きを放ち始めたのだ。


「クソッ、自分にバフをかけやがったのか!?」


 俺は言いながら槍を奴らに振るい、コスト無しで風の刃を放ちながら距離を取る。


「……ブリッツ」


「なんだ、シニョンッ!?」


 神妙な顔で話しかけてきたシニョンに俺は声を荒げて返事をする。


「あいつら……使い魔ファミリアだ」


 ふぁ、ふぁみりあ……? 俺は聞きなれない単語に首を傾げた。


「使い魔だ。自分で作れる従魔みたいなものだが、永続的に行動できないという欠点がある。例外はあるが」


「……んで、それがどうしたんだ?」


 俺が聞くと、シニョンは近くで暴れ回っている大蛇を見た。と同時に、狼たちが飛びかかってきたので嵐の槍を振り回して牽制する。


「その使い魔の主が、グラって書いてあるんだ。そして、グラって言うのが……あの、大蛇の名前だ」


 つまり、あのクソ蛇は何故か使い魔を作り出すことが出来るってことか。今まではそんな情報無かったが……いや、もしかしてあの木で出来た化け物もそうなのか?


「じゃあ、あの一応人型の木の化け物も使い魔か?」


「いや、あれは違うな」


 違うのか。じゃあ、使い魔とかを使えるようになったのは最近……やっぱり、ネクロってのがなんかしたってことだな。


「へぇ、なるほどな……つか、なんでそんなこと知ってんだよ」


「いや、偵察や警備に使えるかと思ってな」


 確かに、便利そうではあるな。


「まぁ、何はともあれ……さっさとこいつらを片付けようぜ。幸い、動きが早くなっただけで硬さは変わってねぇっぽいからな」


「あぁ、そうしよう」


 シニョンが言うと、彼の気配がスーッと薄くなる。見えているにも関わらず、まるで背景のように意識外に消えてしまった彼は、俺に気を取られている狼達の一匹の首を刎ねた。


疾風突撃ゲイルスラストッ!」


 俺は風を纏いながら前方に突撃し、数匹の狼を槍から吹き荒れる嵐ででグチャグチャに引き裂いた。が、突進後の隙に二匹の狼が左右から飛びかかってくる。


「くッ、お前らも風かッ!」


 二匹の爪を紙一重で回避したにも関わらず、俺の体には二本の切り傷が深く刻まれた。それは、狼の爪より放たれた風の刃が原因である。


「だったらこっちもッ、風刃ウィンドカッター!」


 俺の左手から風の刃が放たれ、左側にいた狼に直撃し、その顔面に切り込みを入れた。


「目ぇ瞑ってる場合かッ?!」


 そして、思わず目を閉じてしまったその狼に、俺は思い切り槍を突き立ててその命を刈り取った。


「まだまだ……『風よ舞えッ、刃と成れッ、血を噴き上げて踊れッ、血嵐乱舞ウィンディシア・ダンスッ!!』」


 俺は槍を両手で持ち、天に掲げて詠唱を始めた。当然、何匹もの狼が俺に襲いかかり、その爪や牙で俺の体に傷を付けていった……が、俺のHPが三割を切る寸前で詠唱は完了した。

 すると、俺の体を緑色の淡いが包み、ゆっくりと俺の周りを回転し始め……次第にそれは、俺を中心に吹く竜巻のような風となった。


「オラッ、オラッ、オラッ! 裂かれて死んでッ、弾けて消えろッ!!」


 俺が槍を振るうと、槍を纏う嵐が敵を切り裂き、敵が俺に襲いかかっても、吹き荒れる風の鎧に弾かれる。これこそが俺ッ、A級冒険者である『荒槍』のブリッツだッ!


「ハァッ、セリャッ、オラァアアアアッ!!」


 俺に纏わり付くように吹き荒れる緑色の風で、視界はあまり良くないが、それでも目の前の敵くらいは認識できる。


 俺は槍と一体化し、戦場に吹き荒れる一陣の風となって狼を殺戮し始めた。




 あれから、数秒か数十秒か、はたまた数分か。


「ハァ、ハァ……終わった、か」


 嵐のように荒れ狂って暴れ回っていた俺は、漸く体に纏わり付く風を振り払い、槍を包む嵐を霧散させた。


「数十秒か、一分か……あぁクソ、頭が疲れて分かんねえ」


 さっきのスキルの弊害で俺は凄まじく疲弊し、遂に槍を地面に刺して膝を突いた。周囲にはさっきの狼どもの死体が転がっており、それ以外にも森の魔物達の死体も混ざっている。


「んー、少なくとも一分は経ってそうだな」


 そこで漸く、俺は仲間達とあの蛇のことを思い出した。頭がボーッとしているが、取り敢えず状況を確認しないといけない。


「……おいおい」


 周囲を見渡す。しかし、状況は絶望的だった。べニールはお互い傷だらけで木のような背丈の熊と戦っており、ペキンは飛び回る巨大な怪鳥に翻弄されてボロボロになり、ヤミにゃんこは息も絶え絶えの様子で殺しても殺しても数が減らない常に十体はいる人型の木と戦い続け、蘭乱馬茸とホワイティとシニョンは協力しながらあの大蛇を抑えている、が。


 遂に彼らの防御を大蛇が食い破り、戦闘で障壁を張っていたホワイティに大蛇が突っ込んだ。


「ホッ、ホワイティッ!」


 俺は体力を振り絞り、全力でホワイティの下まで駆け抜けたが……一歩、間に合わなかった。


「ホワイティィィイイイイイッッ!!!」


 緑色の結晶と化した大蛇の頭が彼女の体に直撃し、白いローブを纏った彼女の体は俺の少し後ろにある大木にぶつかり、グチャッと嫌な音がした。


「ホワイティ! 大丈夫かッ!?」


 俺は直ぐにそばまで駆け寄り、その手を掴んだ。が、既に彼女の瞳に宿る光は焦点を失いかけていた。


「ふふ……そんなに騒いで、本当に死んだみたいじゃ、無いですか……後は、任せました……よ……」


「ホワイティッ! ホワイティッ!!」


 必死に呼びかけるが、当然効果などある訳がない。


「……畜生」


 俺は光の粒子と化したホワイティを見送り、槍を構えた。


「クソ蛇……お前は絶対、俺がぶっ殺す」


 数秒後、槍の穂先に再度嵐が宿った。

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