妖しく光るは魂の灯火

 約二千体のウィスプと、その中心に漂うマザーウィスプ。彼らの役割はある程度決めてある。なので、当然取得するスキルも大体は決めてあった。


 一つは、【水属性耐性】と【風属性耐性】。彼らは火と光に強い耐性を持つ代わりに、水と風にはめっぽう弱いという謎の性質がある。

 まぁ、火の玉みたいな体をしているので水に弱いのはなんとなく分かるが、風は何故なんだろうか。もしかすると、ふよふよと頼りなく浮いているので風に吹かれれば散ってしまうからとかだろうか。


 気を取り直して、次は【気配察知】だ。一部の子には【縄張り】も取得させてある。

 これを取得させた理由は、単なる監視目的だ。

 では、何故これだけのウィスプを監視に充てる必要があるかと言う話だが、僕はこの巣のゴブリン達にこの険しく厳しい禿山……ボルド山を支配して貰う予定だからだ。


 この山には現在、僕らが配下にしたギィ・ゲルドを王とするギィ氏族の他に、ガァ・ゴレバを王とするガァ氏族とグゥ・ザロビを王とするグゥ氏族が居る。他にも、小さい氏族や集団が幾つも乱立しているのが、この混沌たる禿山なのだ。

 因みに、僕らは奇跡的に出会っていないが、この禿山にはトラックくらいの大きさで鰐のように凶悪な顎を持つ蜥蜴のような見た目の地を這うものアースクローラーや、人の胴体くらいの太さでありながら25m以上の体長を持つ蛇である伏地筒蛇クレーラサーペンスに、白黒の体毛に覆われただるんとした外皮と鋭い牙を持つイタチっぽい見た目の擦り抜け牙獣パスルーラーテルなど、凶悪な魔物が勢揃いしているので、数が多いだけのゴブリン達は寧ろ狩られる側であることが殆どだ。

 なので、出来ればそういう強力な魔物も狩れるようになったら良いなとも思っている。


 話を戻すが……固定で取得させているのはそれだけだ。他のスキルだが、近接戦闘系は当然一つも取得させておらず、魔術系を主体にしている。

 魔術は基本属性魔術に加えて、氷魔術や時魔術に空間魔術や音魔術、透過魔術に魔力術までありとあらゆる魔術を取得させた。


 また、一部のレベルが高めな個体には【転移魔術】をSLv.3まで取得させ、転移門という魔術を解放させた。理由だが、その転移門をエウルブ樹海にある僕の配下のゴブリン達の巣に設置してもらい、向こうの巣とこっちの巣で協力してもらう為だ。


「……うん、ウィスプはこんなところかな」


 魔術が使える物理無効の監視カメラって感じだろう。あ、因みに彼らウィスプは生まれついた時? から火属性親和と光属性親和を所持している。これらはスキルショップから取得できるスキルでは無いので、結構貴重である。



 さて……最後にマザーウィスプのムーンだが、彼女は本当に別格。異常だ。


 マザーウィスプはドラゴンに並ぶほどこの世界のあらゆる英雄譚で出てくるボス的立ち位置のメジャーな魔物だが、それも納得と言える力がある。

 先ず、彼女はウィスプ達が……つまり、沢山の魂が融合することによって現れる魔物なのだが、その融合によって魂達はスキルやSPやステータスを少しだけ引き継ぐのだ。

 引き継がれるSPは1%から2%程度で、運が良ければ5%程引き継げる。スキルは低確率で引き継ぎ、ステータスに関しては1%未満だ。


 ……と、ここまで聞けば大したことは無いように感じるかも知れない。だが、違う。僕が今回融合させたウィスプの数は約二千体。そして、この山のゴブリンは低く見積もっても平均Lv.20程度。つまり、一人当たり200SPはほぼ確実に持っているということだ。



 そして、今回捧げたのは約二千体。その結果、ムーンが得られたSPは……6897。



 正直、僕はこの作業を繰り返すだけでこの世界の神になれる気がしたが、エトナ曰くこの世界の真の強者は本当に別次元の強さらしいので、英雄譚で倒されてしまうレベルの魔物では無理なのだろう。


 そして、そのムーンのSPはどう振り分けたかと言うと……実は、まだ全ては消費していない。というのも、ムーンに相談した結果、この環境でしばらく暮らしてから必要そうなスキルを判断すると言っていたので、最低限のスキルしか取得させていないのだ。


 一応、僕の我儘でSLv.10まで【並列思考】と【思考加速】を取得させ、その上位スキルである【神域思考】を取得させた。

 これにより、ムーンのSPは1450+750+300で2500消費された。これは250レベル分のSPということになる。因みに、ここまで思考の効率を伸ばした理由だが、マザーウィスプである彼女にはとある能力があり、それを尋常じゃない思考力で最大限に活かせると考えたのだ。


 彼女には、ウィスプと魂を接続する力がある。それにより、彼女は魂の繋がった配下のウィスプ達と感覚を共有し、彼らが知覚した情報を収集することが出来るのだ。


 つまり、このボルド山に散りばめられたウィスプ達の気配察知や縄張り、魔力感知などによって得られた情報をこの山の地下に潜むムーンが全て管理し、ゴブリン達に効率よく共有できるという訳だ。

 これにより、また一歩ギィ氏族によるこの山の支配が近づいたことだろう。


 因みにだが、思考加速は思考速度を上げることが出来るだけだし、並列思考は同時に幾つものことを考えられるようになるだけだ。故に、これらのスキルを取得したところで思考力を上げる……つまり、頭を良くすることは出来ない。

 なので、鳥に思考加速を与えても結局は鳥頭のままである。人に敵う知能を得られはしない。一応、神域思考には記憶力を超強化する力もあるが、これも別に知能が上がる訳では無い。


 尤も、マザーウィスプのムーンは元々人間以上の知能を持っているのでこの力を十分に活かしきれるだろう。


 後は、ウィスプの弱点である水と風の属性耐性をSLv.10まで上げておき、他の耐性も火と光と物理以外はいい感じに上げておいたし、HP自動回復とMP自動回復もSLv.15くらいまで上げておいた。また、駄目押しに回復魔術も取得させてある。

 それと、もしもの時の逃亡用に透過魔術をSLv.3まで取得させている。これで透明化も出来るし、魔力が続く限りだが、自分の体を地面に透過させて地下に逃げることもできる。

 そして攻撃用の火魔術SLv.10に、その上位スキルの極炎魔術を取得させてある。あ、一応光魔術もちょっと取っている。

 一応補足しておくと、高速再生は肉体の欠損が生じないウィスプには効果が無いので取得させていない。


 さて……これで弱点はほぼほぼ克服したし、生存性能はかなり上げられただろう。これで暫くは安泰だと思うので、スキルに関しては彼女から連絡があるまでは放置することにしよう。


 まぁ、じゃあこんな所で。


「良し……帰ろうか、エト────」


 その言葉は遮られ、代わりに僕の胸元に少女が詰め寄ってきた。


「遅いですよネクロさんッッ!!!」


 少女の頬はぷっくりと、堪えきれない怒りを溜め込んで膨らんでいた。

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