※樹海を守ろう!【1】

 ♦︎……グラ視点




 私はグラ、このエウルブ樹海を守護する者だ。私は主によって与えられた新たな力でこの森を強化することにより、更なる森の安全を確保している。

 そんな私の最近の趣味は使い魔の作成だ。主であるネクロ殿は光の球の形をした単純な使い魔である『光り魔』以外は永続的に使用することは出来ないと言っていたが、それは間違いであると最近知った。

 確かに、普通に使い魔を作ればいつか魔力切れを起こしてしまうが、やり方を少し工夫すればその心配は無くなる。


「キシャ……(先ずは……)」


 この森に棲む大精霊との契約により手に入れた緑祭司ドルイドの力で木を生やす。幹は細く葉は無いが、力強く生えている立派な木だ。

 因みに、主には精霊のことを未だに話していない。というか、主から命令されるまで話すことはない。それもまた、契約の一つだからだ。


「キシャキシャ(我ながら良い木が出来たな)」


 次に、木の形を加工していく。大きな木の姿が歪み、幹が捻じ曲がりながら更に小さくなっていく。圧縮されていく幹は少しずつ形を変え、美しい木彫りの鳥になった。しかし、木を元に作られたその凛々しい鳥の大きさはそこらの熊を超えている。


「キシャシャ……(うむうむ、美しいぞ……)」


 次に、この樹海全域から集めた素材達を混ぜていく。その中には、主の配下であるゴブリン達に頼んで地下から採掘して貰っている吸魔石や、使い魔や森の住民達に採取して貰っている緑耀樹の葉もある。

 吸魔石は名前の通り周囲から魔力を吸収する石で、緑耀樹の葉は周囲の光を歪める程に強く光を吸収する葉っぱだ。

 他にも多様な力を持った無数の素材達が、沈むように木の鳥の中に消えていった。それらは我が『使い魔』と『緑祭司ドルイド』の力によって混ざり合っていく。


「キシャァ……ッ! (見事だ……ッ!)」


 そうして出来上がったのは、鷺に似た造形の美しい鳥だった。色は綺麗な翠緑に染まり、眼は深紫の美しい鳥である。


「キシャキシャ……? (美しさで言えば最高傑作では無いか……?)」


 緑の羽根は緑耀樹の葉を元に作られており、眼は吸魔石を加工したものである。つまり、光合成による魔力の吸収と、吸魔石による魔力の吸収、この二つの魔力回収機構によって私の使い魔は直接的な魔力供給無しに、そして永続的に活動出来る。

 一応、夜は光合成が不可能だが、この鳥の体内には集光石ルメピスという光を貯めておける特殊な石もあるので、朝昼の間に貯めた光で夜も活動できる。


 更に、鋭く伸びた青紫に輝く美しい三本の長い爪は、吸魔石と蒼輝鋼ブルーシマーを混ぜ合わせたもので出来ており、魔力を込めることで大抵のモノを切り裂くことができる。


 最後に、この鳥の心臓部には主が直々に強化した生産専門ゴブリン達が作った特注の魔石が核として入っており、緻密な魔術回路が刻まれたそれは様々な働きをこの鳥に齎すのだ。

 例えば、魔力を消費することで体を再生させたり、同じく魔力を消費することで身体機能を強化したりなどである。また、集光石に集めた光を放つことで目眩しなども出来るらしい。


 因みに、魔術回路はそのゴブリン達から少しずつ教わっており、ゆっくりではあるが身に付いてきている。尤も、主から生産系のスキルを与えられていない私が専門のゴブリン達に叶う日は来ないと思われるが。


「……キシャ(……ふぅ)」


 少し疲れたな。私は使い魔と木々に囲まれながら満足の篭ったため息を吐いた。さて、並列思考によって分けられた監視用の思考が反応している。少々厄介な相手のようだ。


「……キシャ、キシャ、キシャシャ。キシャ(クルワ、イローティク、ウォリケルムたち。行くぞ)」


 私は木のように大きな熊と、先程作った鳥、最後に狼の群れ。そんな使い魔達を連れて、私は森を荒らす不届き者の場所へと向かうことにした。






 ♦︎……???視点




 私の名はエラウ・キベフ、偉大なる帝国に仕える忠実なる配下だ。

 私は今、次元の旅人なる信頼は出来ないが命を賭ける度胸だけはあると噂の輩どもを連れてある場所に来ている。


「む、これは……」


 それは一面を緑が覆うエウルブ樹海、人呼んで緑蛇の森だ。その広さは樹海と言われるだけはあり、そんじょそこらの森を軽く凌駕する。その為、一部の人々からは迷いの森や出られずの森と呼ばれることもある。


「この痕跡、報告書にあったものか……」


 そんな場所に来るからには、当然連れてきた者も腕利きだけで構成している。彼らは冒険者ギルドに所属しているBランクパーティの『瞬息万変』だ。リーダーもAランクの『荒槍』のブリッツである。帝国民では無い故に信用は出来ないが、腕だけは確かなはずである。


「……ふむ」


 そして、私達がこの森にやってきた理由は一つ。この森に棲む巨大な緑の蛇……暴食の緑蛇グラ・セルペンスの調査だ。

 元々、この森に棲息する暴食の緑蛇グラ・セルペンスは普通とは違う性質があり、何故か種としての本質である暴食の傾向を示さないと言われていた。それに加え、かの煉獄をも押し退けた帝国の敵であるネクロという次元の旅人に従えられたという話もある。

 故に帝国はこの大蛇を調査し、可能ならば討伐せよとの命令を私に下した。もし討伐が叶えば私の身分は単なる平民では無くなるだろう、とも。

 つまり、今まで単なる軍の研究者であった私が一躍貴族になるのも夢ではないということだ。


「この痕跡……這いずった跡だろうな。しかも、かなり最近と見える」


 木と木の間にある巨大な跡、そしてその跡が示す不自然に木が生えていない平らな道。


「見つけたぞ。これが蛇の道とやらか」


 私は予想よりも早い手がかりの発見に口角を上げた。


「おい、貴様ら。準備をしておけ。……そろそろだ」


 私の言葉に次元の旅人……異世界人どもは眉を潜めたが、リーダーらしき存在が手を上げると不満げにしながらも頷いた。


「リーダー、あいつムカつきますよ」


「気持ちは分かるけど落ち着いてくれ。命さえ守りきれば多額の報酬金が約束されてるんだ」


「でも、あいつって帝国の奴ですよね。本当に約束を守るんですか?」


「バカッ、依頼主の前でそれを言うんじゃねえよ」


 呆れたように言うリーダーの男だったが、明らかにこちらに対する不信感がその眼差しには篭っている。だが、そんなことはどうでもいい。目的さえ達すれば後はどうにでもなるのだ。


「……お、おい。なんか音が聞こえるんだが」


 木々で覆われた視界。その中で、一瞬だけ木と木の間に緑の鱗が煌めくのが見えた。それは数秒も経つ頃にはこちらに迫り……ッ!


「キシャァアアアアアアアアアアッッ!!!」


 我々の目の前まで来て止まると、その大きな頭を木々の上まで上げて力強い咆哮を上げた。


「き、きさッ、貴様らッ! 仕事だッ! 奴をッ、奴を討伐しろッ!!」


 私は余りの巨体とその迫力に一瞬思考力を奪われたが、直ぐに冷静になって次元の旅人達に命令を出した。

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