黄金の乱舞

 僕がゴブリンを一瞬で灰に変えると、エトナが興奮した様子で僕の隣にやってきた。


「今の何ですかネクロさんっ! もしかしてその首飾りの力ですか?」


「ん? うん、そうだよ。MP消費は激しいけど、結構使いやすいね。……こんな風に」


 前方から迫る団子になって突撃する数体のゴブリンを、僕は軽く腕を振るうだけで灰に変えた。手法はさっきと同じ、地面から伸ばした細い黄金の糸を起点に金焔を放っただけだ。

 三メートル程の高さまで噴き上がった黄金の炎は一瞬でゴブリン達を焼き尽くした。


「……もしかして、その首飾りめっちゃ強いですか?」


「あはは、勿論強いよ。だってこれ、神話級Mythicだからね」


 軽く発せられた僕の言葉に、エトナはギギギと錆びついた歯車のようにぎこちなく振り返った。


「……え、嘘です?」


 混乱した様子のエトナに僕は笑いながら答えを返した。


「いや、本当だよ」


 言葉と同時に、僕に背後から飛びかかってきたゴブリンが液体のように流動する黄金で串刺しにされる。

 僕は気配察知のスキルを持ってないけど、流石に大声で喚きながら飛びかかってきたら分かるね。


「……ネクロさんが強くなっちゃいました。私が守る隙がどんどん無くなっちゃうじゃないですか」


「んー、エトナの役割は矛になることが多いからね。盾としての役割はメトとかの方が多いし、ネルクスに関してはずっと護衛して貰ってるしね」


 そうですけど……と不満げに言うエトナに僕は僅かな笑みを浮かべ、十本の指から黄金を生み出し、鞭のように変形させた。


「うん、やっぱり手から発生させる方が操作しやすいね」


 僕は十本の黄金鞭でバサリバサリとゴブリンの首を落としながら言った。体のどこからでも出すことができる黄金だが、指を動かすのと同期して操作できるので手から生やすのが一番動かしやすい。


「うーん……強い、けど」


 強いけど、僕は微妙な引っ掛かりを覚えていた。


神話級Mythicって程じゃない気がするし、帝国十傑がわざわざナルリアに乗り込んでまで強奪する価値のあるアイテムじゃないと思うんだよね」


 ウルガナの籠手は伝説級Legendaryだったが、ステータス上昇が無いことも考えると、あれと然程価値の変わらなそうなこの首飾りがここまでのランクになるのは少し納得できない。

 確かに経験値が五倍になるのは破格だが、そもそも経験値増加系はそこまで珍しく無い部類の能力だ。当然かなり値は張るが、金に糸目をつけなければその系統の装飾品は簡単に手に入るだろう。


「やっぱり、アレかな」


 僕は飛びかかるゴブリンを黄金の鞭で真っ二つに引き裂き、解析スキャンを首飾りにかけた。


「この加護を持ちし者はある門を開く為の鍵となる……ただのフレーバーテキストとは思えないよね」


 その門が……いや、その門の先にある何かが各国にとって重要な物であり、この首飾りを神話級Mythic足らしめる要因になっているのかも知れない。というか、僕は半ばそうだと確信している。


「とは言っても……特に、何も感じないしなぁ」


 首飾りから門の存在やその在りかを感じる訳ではないので、あくまでこれは鍵に過ぎず、コンパスの役割までは持っていないらしい。

 まぁでも、まだ調べては無いからね。意外とネットで調べれば直ぐに見つかるかも知れない。だけど、それでも分からなければ……。


「……うん、チープに聞いてみようかな」


 僕は言いながら、取り敢えずあと数十匹は残ってるゴブリン達を殲滅することにした。




 ♢




 数分後、軽く百匹は居たであろう赤いゴブリン達を虐殺した僕たちは、地面を掘り続けるアース達の存在に今更気付いた。


「あれ、アースってもしかして……」


「もしかしなくても、ずっと掘ってたみたいですよ」


 確かに作業を止めるように命令はしてないけど……まぁ、良いや。


「取り敢えず、アースも回収してさっさと帰り────ッ」


 言いながら踵を返そうとした瞬間、アースの掘っている穴から凄まじい轟音が鳴り響いた。更に、それから一秒と待たずに激しい戦闘音のようなものが聞こえ始めた。


「ね、ネクロさん……絶対、下でなんか起きてますよね?」


 僕は責めるようなエトナの視線に微笑みを返し、アースの掘った穴を覗き込んだ。少し暗いが、穴の底でアースがゴブリン達と大激闘しているのが分かった。


「良し、折角だし行こうか」


 僕の言葉に、エトナは凄く嫌そうな表情で振り向いた。


「え……いや、はい」


「ん、もしかして……嫌?」


 僕が聞くと、エトナは首を振った。


「嫌って程じゃないですけど……ゴブリンの巣って臭いので、率先して入るようなとこじゃないと思うんですよね」


 ゴブリンの巣って臭いんだ。あの時は死臭のせいかと思ってたけど、巣自体も臭いんだね。


「まぁ、嫌なら強制はしないよ。……僕は行くけどね」


 言いながら、僕は激戦が繰り広げられるゴブリンの巣穴に飛び込んだ。


「ね、ネクロさん!?」


 手を伸ばすエトナだが、もう僕は穴の底まで一直線に落ちている。声のした上を一瞬だけ見ると、メトも一緒に落ちてきていた。


「って、ちょっとメトさんまで……もうっ!!!」


 甲高い声が聞こえると同時に、地面が直ぐそこまで迫り……ぽよん、という感触と共に僕は地面から弾かれ飛び跳ねた。意味不明な現象に僕が周囲を見渡すと、僅かに自慢げな表情を浮かべるメトが居た。


「あ、メトがやってくれたの? ありがとね」


「いえ、従魔として当然のことをしただけですので」


 そうメトが返した瞬間、ドンっと凄まじい音が背後から聞こえた。


「い、いたた……痛いです。痛いです、ネクロさんっ!」


 頬を膨らませ、理不尽にも僕を睨むエトナに、僕は思わずメトを見た。すると、メトは珍しく口角を上げ、僅かな笑みを浮かべていた。


「……って、ここ思いっきり激戦区じゃないですかッ! は、はやく二人とも構えて下さいッ!」


 エトナの言葉で、僕はここがゴブリンの巣穴であることを思い出した。


「あはは、そうだったね。……じゃあ、全部アンデッドに変えちゃおうか」


 突然落ちてきた僕らに警戒していたゴブリン達だったが、僕らが殺意を見せた瞬間にグギャアと喚き声を上げながら襲いかかってきた。

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