黄金の真価

 ここはサーディアから北東に進んだ所にある大きな禿山だ。偶に枯れ木などは見かけるが、それ以外の植物は一切見当たらない。


「んー、ここら辺でいいかな」


 ロアに抱かれた状態で山を一瞬で結構登った僕は、ロアから下ろしてもらうと従魔空間からエトナとメトを呼び出した。


「はい、着いたよ」


「分かってますよ。ん〜……」


 虚空から飛び出してきたエトナは目を擦ると、青空の光を浴びながら背伸びをした。隣に現れたメトは周囲をサッと見渡すと、僕の左斜め後ろ辺りを睨みつけた。


「マスター、ゴブリンがこちらを見ています。……が、逃げました。追いますか?」


 メトの言葉に、僕はゆっくり後ろを振り返った。そこには、見晴らしの良い山の斜面を慌てて下っていくゴブリン達の姿が見えた。


「んー、別に良いかな。もしかしたら、自分の巣の親玉に報告しに行ったのかも知れないけど、どうせここに登る間に見られまくってるしね」


 恐らく、僕らに挑むのではなく逃亡したのはロアがいるからだろう。実際、見るからに強そうなこの禍々しいオーガに正面から挑む勇気は僕にも無い。


「確かにそうですけど……良いんですか? その首飾りを試しに来たんですよね?」


 そう言ってエトナは僕の胸元を指差した。そこには見る者全てを魅了する黄金の首飾りがあるのだが、今は暗星の外套ダークスター・ローブの内側に隠されている。

 正直、こんなものを見せびらかせて歩く勇気は僕には無いからね。


「うん、まぁそうなんだけど……ゴブリンの巣って地下にあるんだよね? アリの巣みたいに」


 僕が前に攻略した時と同じならば、巣は地下にあるはずだ。


「はい、そうですけど……?」


 腑に落ちていない様子のエトナに、僕は何か説明することもなく無言でアースを呼び出した。


「キュウ?」


「おはよう、アース。早速で悪いんだけど、ここから真下に穴を掘ってもらえる?」


 僕の言葉にアースは一瞬だけ疑問符を浮かべたが、直ぐに威勢の良い鳴き声を上げると土魔術で何体ものゴーレムを作り出し、それらと一緒に地面を掘り始めた。

 どうやら、掘削にも土魔術を使用しているようで、ただ爪で掘っているだけとは思えないスピードで地面が削れていく。周りに溜まっていく邪魔な岩などはゴーレム達が離れた場所に捨てているようだ。


「おぉ……なんか凄いね。こういうの、ずっと見たくなっちゃうかも」


「えー、そうですか? 私は一瞬で飽きちゃいましたけど」


 ゴリゴリと地面が削られ、ゴーレム達が削られた土や石を運ぶ……何故か分からないが、見ていると楽しくなってくる。


「……確かに面白いです」


「えっ、メトさんもそっち側ですかっ!? ……って、やばいですッ! ネクロさんッ、メトさんッ、ゴブリン達に包囲されてますよッ!?」


 エトナの叫びに、僕とメトはハッと気付く。僕らの周囲には数え切れないほどのゴブリンが武器を構えて立っていた。


「あ、この山のゴブリンって肌が赤いんだね」


 そして、そのどう考えても百匹は超えているであろうゴブリン達は全員が赤い肌をしていた。取り敢えず解析スキャンしたが、結果はレッドゴブリン。良く分からないが、ユニークモンスターでは当然無かった。


「そ、そんなことどうでも良いですよっ! ネクロさん、倒しちゃって良いですよね?」


 エトナの言葉に僕は頷きかけたが、直ぐにそれを取り消した。


「そう……いや、取り敢えず自衛だけでお願い。全員ね」


 僕はそう言うと、削れていく地面と厳ついオーガを警戒している赤いゴブリン達に近付いていく。


「あ、よく見たら普通のゴブリンよりもちょっと小ちゃいね。まぁ、理由は知らないけど……『黄金と炎の神の加護ブレス・オブ・アムナルフ覚醒アウェイク』」


 瞬間、僕の体から黄金の炎が噴き出し、皮膚全体が黄金で覆われていった。


「うわっ、何これ……凄いね。こんな風になるのか」


 僕はすっかり金ピカになってしまった体を観察し驚きつつも、取り敢えずやれることを確かめることにした。


「これで黄金と炎の神の力アムナルフ・フォースが覚醒状態になったってことだよね」


 僕がステータスを開くと、黄金と炎の神の力アムナルフ・フォースの表記が黄金色に染まっている。レンから聞いてたから確かめてみたけど、本当にこういう演出もあるんだね。


「取り敢えず……この金ピカの奴を取り除いて、っと」


 最初に僕は、僕の体を覆う黄金の膜を全て取り除いた。多分、防御の為の機能なんだろうけどちょっと気持ち悪いから今は消しておく。


「次に、炎を生み出すのは……出来た。けど、普通のは無理そうかな?」


 僕が腕を伸ばし手を仰向けにして開くと、そこから黄金の炎が花開いた。燃え盛るそれは僕が念じ続ける限り消えそうに無い。

 取り敢えずその炎を念じて消し、次に普通の炎を出そうとしたが……どうやら、それは不可能なようだった。僕が出せるのは黄金の炎……は長いから、金焔ね。そう、金焔オンリーらしい。


「……んッ、危ないね」


 と、僕が自分の能力で遊んでいる時、僕の正面からゴブリンの放った矢が飛んできた。僕の心臓に一直線のその矢は、間一髪で外套の中から溢れ出た黄金に防がれた。


「だけど、これでもう一方の実験もできたね」


 どうやら、こっちの黄金も体から出して操ることができるらしい。しかも、ただの黄金の方が金焔よりも操りやすくて、動かす速度も断然早い。


「うんうん、良いね……」


 僕は体から黄金を生み出し、それを触手のようにして操り、更にそこから金焔を噴き出させながら無意識に頷いた。


 これで知りたいことは殆ど分かった。先ず、この権能で出せるのは黄金と金焔のみで、ただの鉄や赤い炎は出せない。

 次に、その黄金と金焔は僕の体か、黄金と金焔からしか生み出せないみたいだ。つまり、相手から直接金焔を噴き出させて焼殺とか、黄金の壁を一瞬で遠くに作り出すとかは出来ない。

 それと、この覚醒状態……MPの消費が結構激しい。


 そして……今から、最後に知りたいことを実験しようと思う。


「まぁ、自分かこの能力で作り出した物からしか生やせないって言っても……」


 僕は、現在進行形で僕に矢を射ってきているゴブリンを金焔で灰に変えた。


「グギャッ!?」


「グ、ググッ……!?」


「グギャッ、グギャグギャッ!!」


 確かに、遠距離に直接炎を出したり黄金を出したりは出来ないけど……。


「細い黄金の糸を地中を伝って相手の足元まで伸ばして……そこから金焔を放って一瞬で燃やすとかは、出来るよね?」


 僕は新たな力の可能性に思わず笑みを浮かべた。

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