闇に潜む者たち
罅だらけの窓から夕焼けが差し込む昏い酒場の中、明らかに堅気ではない雰囲気を醸し出す者たちが話していた。
「例の大会の優勝者……気に入らねえよなぁ?」
赤と黒の混じり合った髪に、赤と黒のオッドアイを持つ男が言った。
「あぁ、気に食わねえ。全くもって気に食わねえ」
腰に大剣を二本も差している筋骨隆々の上裸の男が言った。
「生意気。潰したい」
短杖を腰に差している青髪の女が言った。
と、そこでドアが勢い良く開いた。突然の大きな音に酒場の面々は武器に手を伸ばすが、入ってきた者を見ると直ぐに警戒を解いた。
「うんうんっ、その通りですっ! 従魔の力に頼ってばかりの軟弱者には、躾が必要ですねっ! ですですねっ!」
入ってきたのは少し幼い容姿の銀髪の美少女だった。
「おぉ、やっと帰ってきたのかよクラマス!」
赤黒の男が席を立ち、言葉に喜色を滲ませて言う。
「はいっ、帰ってきたのです! カルブデッドはサブマスターとしてちゃんとしてましたか?」
「へっへっへ、当たり前だぜ! ま、こいつらは碌に言うこと聞かねえけどな!」
赤黒の男が酒場の面々に視線を向けると、彼らは素知らぬ顔で視線を逸らした。
「そうなのですか? 皆さん、カルブデッドの言うことも聞いてあげて下さいねっ!」
銀髪の少女が言うと、彼らはこくこくと素直に頷いた。心から頷いているかは不明だが。
「さてさて……本題に戻りますけど、従魔に頼ってばっかりの軟弱者にはお仕置きが必要ですよね?」
その言葉に酒場の者たちは強く頷く。
「あぁ、ムカつくぜ」
「殺す。ぜってぇ俺が殺す」
「私が教育してあげたいわぁ、うふふ」
「ついでにあの首飾りも奪っちまおうぜ」
好き勝手に恨みの声を上げる者たちに、銀髪の少女は優しく頷いた。
「うんうん、分かりますよっ! 分かりますよ、その気持ち。でも……ドレッドとブレイズを知ってますよね?」
銀髪の少女が言うと、酒場の面々は苦々しく頷いた。
「あぁ、向こうのクランのやつか」
「変な執事服にやられてたな」
「あいつら、結構強いって聞いてたが……所詮は噂だったってことか?」
ざわざわと話し出す者たちを、銀髪の少女は人差し指を口元に当てるだけで黙らせた。
「うーん、先に言っておきますけど……彼らは、結構強い部類に入るプレイヤーでしたよ? 特に、PvPの分野においてはすっごく強かったのですっ! ……ですけど、その彼らですら正面戦闘であっさりと負けてしまいました。それなのに、私たちが一人一人で順番にぶつかったところで簡単に勝てるとは思えないのですよ」
うんうん、と銀髪の少女は自分の言葉を確かめるように頷いた。
「だから……今回、私は初めて総力戦を掛けようと思ってるのですっ! 全員で同時に挑めば……主人を守る戦力が減って、隙が出来るはずなのですっ!」
少女の言葉に、少しずつ賛同の声が上がっていく。だが、そんな中に一つ不満そうな声が響いた。
「待てよ、レヴリスちゃん」
声を上げたのは、大剣を二本も携えた上裸の男だった。
「はいはい、何ですか?」
「俺はよ、あのクソガキを一対一でボコりてえんだ。だから……その総力戦とやらの前に、俺は勝手に仕掛けさせてもらうぜ」
上裸の男は不遜な態度で言った。
「はいはい、なるほど……別に、構いませんよっ!」
銀髪の少女は目を瞑って少し考えたが、結局出てきたのはあっさりとそれを許可する言葉だった。
「……自分で言っといてなんだが、良いのかよ?」
上裸の男は意外そうな様子で聞いた。
「えぇ、もちろん構いませんよっ! 私はクランマスターですけど、あんまりメンバーを縛り付けるようなことはしないって決めてるのです。ですけど……もし、挑んで負けた場合は総力戦に加わって貰えますよねっ!」
「お、おう……勿論だ」
押し切るような少女の態度に、男は少し狼狽えながらも頷いた。
「ふふふ、それは良かったです。このクランの中でもニラヴルさんは貴重な戦力ですからねっ! 参加してもらえなかったらどうしようかと思ってました」
少女は嬉しそうに言った。今更断ることなど出来ない雰囲気である。
「あ、他の方も挑みたければ好きに挑んでも良いですよ。ですけど、負けたら私の作戦に参加して下さいね?」
少女の威圧的な言葉に、酒場の面々は一人残らず頷いた。
「さて、私たち
少女は口元を三日月のように歪めた。
♦︎
宿屋の中、ネクロは不意にくしゃみが込み上げてきたので、咄嗟に目の前のエトナから顔を逸らした。
「っくしッ……あー、なんかムズムズするなぁ」
鼻をさするネクロに、エトナは笑いながら話しかける。
「ふふふ、きっと誰かが噂してるんですよ。それに、今のネクロさんは注目の的ですからねっ! 多分、町中で噂されまくってますよ。噂パラダイスに違いありませんっ!」
エトナの言葉に疲労の滲んだため息を漏らしたネクロだが、謎の単語にネクロが突っ込むよりも早く、メトが口を開いた。
「エトナさん、噂をされるとくしゃみが出るというのは根も葉も無い嘘です。それこそ、単なる噂に過ぎません」
「い、いやッ、私だってそれくらい分かってますよ!? 前から思ってましたけど、メトさんって私のこと頭悪いと思ってますよねっ!?」
真面目な表情で話すメトに、エトナは思わず表情を歪ませた。……と、いつも通りの愉快な様子に思えたが、ネクロは怪訝そうな表情で顎に手を当てて俯いている。
そんなネクロに、エトナは不思議そうな表情で、どうしたんですか? と問いかけた。
「エトナの言うことを支持するわけじゃないけど……」
ネクロは顎から手を外すと、机の上に置かれた首飾りを見た。
「うーん、なんていうか……嫌な予感がするんだよね」
ネクロは机の上で輝く首飾りを眺めながら、ゆっくりと思索を巡らせ始めた。
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