煉獄
更に続々とアリーナに飛び込んでくる観客達。僕は溜め息を吐いて状況を整理することにした。
『や、やめて下さいッ! 危険なのでアリーナに飛び込まないで下さいッ! 飛び込んだ者には然るべき罰が与えられッ!? い、痛ッ! や、やめ────ッ』
思い出すと、最初に飛び込んできた奴らは真っ黒な服で全身を覆ってたり、白い仮面を付けてたりとか、自分を隠せるなにかを身に付けていたので、そいつらは計画的な犯行だろう。
だけど、今入り込んできている人達は特に顔を隠すものを付けていないし、表情に躊躇いが見える者も多い。多分、元々強奪する気が無かった人も漁夫の利狙いで飛び込んでるんだと思う。
「……さて」
この混沌極まりし状況で僕が一番最初にするべきこと。
「
それは、この状況に更なる混沌を追加することだ。
「ネルクスとネロはあの首飾りを最優先で追って。他のみんなは……そうだね、敵意を向けてきた人は殺してもいいよ」
僕が言うと、グラやボルドロなどのここにいない従魔を除く仲間達はアリーナ中に散らばり始めた。
「クキャッ! 《了解だぜッ!》」
「了解しました、我が主よ。ところで、下手人の魂は頂いても……」
ニタニタと悪魔のような笑みを浮かべる悪魔に、僕は苦笑しながら頷いた。
「うん、そうだね。良いよ。こんだけの人数が動くくらいの物を強奪して我が物にしようとする連中だからね……どうせ、碌な奴じゃない」
そもそも、彼らが善人か悪人かの判定は最初の魔術攻撃で警備員含むスタッフ達に怪我を負わせた時点で終わっている。
「あ、そうだ。忘れない内に……っと」
僕は表彰台の下に放置されている箱、その中身を回収しておいた。このどさくさに紛れて緋珠玉とかを取られたら嫌だからね。
さて、この後はどうしようかな……
「ネクロさんっ!」
「マスター、御命令を」
と、思ってたらエトナとメトがアリーナに降りてきた。
「そうだね、今は僕の護衛が居ないから……うん、二人は僕の護衛をお願い」
僕が言うと、二人は力強く頷いた。まぁ、首飾りの方は……大体何でもやってくれるネルクスと転移を使えるネロが居れば大丈夫だと思う。
僕は小さく頷き、アリーナを見渡した。
♦︎……???視点
空から見下ろしたアリーナの様子は、正に地獄だった。
「うわぁ、本当に凄い事になっちゃってますねぇ〜」
私は動画を撮らなければいけないことも忘れて、思わずそう口走ってしまった。
「良し良し、じゃんじゃん撮りますか!」
気合いを入れながらアリーナにゆっくりと下降していき……丁度アリーナの地面から十メートルくらいの位置で滞空し、カチャリとカメラを構えた。
そんな私の名前はフミ。何処にでもいるようなただのプレイヤーだが、一つだけ他とは違うことがある。
「むふふ、これは結構な取れ高になりそうですね!」
それは、私はこの世界で新聞記者として生計を立てているということです。あ、ついでに
自慢じゃないですけど、あっちでも生計を立てられるくらいには稼げてますよ。ふふふ。
「おぉ、すっごい大きいですね〜! うっわ、すっごい爆発ですッ! ……っと、危ない危ない。気を付けないと私が燃えカスになっちゃいますからね〜!」
私はパシャパシャと音を鳴らしながら、アリーナで暴れ回る巨人の写真を撮る。
巨人が赤い結晶と化した拳を地面に叩きつけて地面が大きく爆発する瞬間に加え、その巨体で乱暴に暴れ回ってアリーナに蔓延る窃盗未遂の犯罪者達を次々と潰していく瞬間。他にも沢山の取れ高が私のカメラと
だけど、あれだけめちゃくちゃに暴れているのにスタッフや警備員などは襲っていないようだ。飽くまで、近付いてくる戦意のある敵のみを潰していると言ったところだろうか。
「さーて、お次は……おぉ、こっちも凄いですねっ!」
私はアリーナの中央から少し北上した辺りに移動した。
そこでは、クッソ重そうな斧を持った禍々しい見た目のオーガ・ゾンビがバッタバッタと敵をなぎ倒していた。攻撃をちょくちょく食らってはいるようだが、浅い傷ならば直ぐに癒えてしまうようだ。
「良し良し、この人達も撮っておきましょうね〜」
そして、アリーナのそこかしこで乱闘を繰り広げている人間同士もカメラに収めておくことにした。
「んー、おやおや?」
黒装束の人達と白仮面の人達も争ってますね〜。一緒のタイミングでアリーナに飛び込んだから味方同士なのかと思ってましたが……ふむふむ、敵同士でしたか。
しかも、どっちも結構な強さみたいですね。混じろうとした一般プレイヤーは大体やられてます。あ、更に更に……あいつら、こっちの住人みたいですね〜。黒装束の怪しい奴なんて多すぎて分かりませんけど……白仮面の人達は恐らく、
「うわわッ! ……っと、危ないですね〜!」
白禍之剣と黒装束達が争う戦場に、巨大な岩が降り落ちた。続けて赤い結晶が飛来し、岩で削れた地面を更に爆発で抉った。
「危険な戦場ですけど……取れ高は良い感じです!」
後は死ななきゃ大丈夫、と思っていたが……あるものを見つけた。見つけてしまった。
「あれは……
そして、その首飾りが今、私の目の前に転がってきたのだ。反射的に私がそれを拾おうとすると……私の頭上から大量のマグマが降り注いだ。
「うわわっ! ……って、貴方は!?」
私は何とか赤黒い高熱の濁流を回避し、目の前に現れた男を見た。
それは、黒いラインが入った赤い全身鎧を身に纏い、マグマのようにグツグツと煮えた黒い刃の剣を持った男だった。
そして、私はこの男のことを知っている。彼こそが有名な強国であるバリウス帝国における最大戦力……帝国十傑の一人だからだ。
「何故、我がここに居るか不思議か?」
降り注いだマグマは地面に沈むようにして消え、そこから傷一つない黄金の首飾りが現れた。
「ま、マズイ……ッ!
私は靴の能力を起動し、風の力でその場から飛び退く。
「逃げるか? この我から逃げられると思っているのか? 当然、無駄だ」
男は剣を構え、兜越しに赤い瞳で私を睨んだ。
「────帝国十傑、『煉獄』が一人。フェルナンド・ガーヴォイス」
この世界最強レベルの現地人が、私に襲いかかってきた。
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