優勝賞品

 あれから数十分後、三位決定戦が行われ、その後に表彰式が始まった。16位から始まったそれは、漸く僕の番まで回ってきたらしい。僕は控え室から呼び出され、アリーナの地面をもう一度踏みしめた。


『さぁ、いよいよやって参りました! 今回の優勝者……第1位ッ、ネクロ選手ですッ!!!』


 僕はとことことアリーナの中央に設置された表彰台に上がった。すると、実況者の声と同時に割れんばかりの歓声が鳴り響く。


『さて、先ずはお待ちかねのインタビューです。では、ネクロ選手。今大会に参加したきっかけは何でしょうか』


「招待を貰ったから、面白そうだと思って来ただけだよ」


 僕が言うと、実況はなるほど〜、と声をあげた。疲れているのか、ちょっと雑である。


『では、今大会に参加してどうでしたか?』


「うーん、戦うのは楽しいけど疲れるね。それと、正直ここまで追い詰められるとは思ってなかったよ。だって、こっちにはエリアボスにユニークボスまで居るっていうのに、ここまで負けそうになったのは……ちょっと、人の力っていうものに感動したよ」


『おぉ、とても人間側とは思えない発言ですね。流石は異界の魔王です』


 ねぇ、その異界の魔王っていうの定着させようとしてない? ちょっと恥ずかしいんだけど。


『では、次回大会への参加予定はありますか?』


「うん。一応参加する予定だよ。だけど、今度は違うメンバーで行ってみようかな。グラとネロと、ミュウとかね」


『おっと、ネクロ選手! 恐ろしいことを口走っておりますッ! まるであの巨人や土竜アースドラゴンレベルの魔物をまだ抱えているような言い方ですが……』


「うん、そうだよ? むしろ、こっちのメンバーの方が割と大会では強いかもね。グラはちょっと窮屈になるかもしれないけど」


 勝つ為の編成を組むとしたら……アース、ロア、ネロとかかな? うん、やっぱり今回の大会で痛感したけど、小回りが利く方が強いね。僕の護衛もやりやすいし。


 ……いや、世間体とかを全部無視して本当に勝ちに行くならエトナ、メト、ネルクスだろうね。多分、エトナだけでも誰も歯が立たずに負けるだろうし。


『な、なるほど……あの、本気で世界を滅ぼしたりしないで下さいね』


「いや、しないから」


 本気でビビっている様子の実況に僕は呆れかけたが、一般人目線から考えてみたら僕って結構恐ろしい存在だね。


『そ、そうですか……それは良かったです。えぇ、本当に。……では、ネクロ選手。今大会での一番の強敵は誰でしたか?』


「うーん、まぁ当然だけどレンかな。あのドラゴン無しでも単純な力では一番強かったよ。あー、だけど闇光あんみつも捨てがたいね。あの人は本当に、戦い方が上手くてヒヤヒヤさせられたよ」


『なるほどなるほど、ありがとうございます』


 実況は自分の役目が一段落したことを確認すると、実況席の中で満足気に頷いた。


『では、お待ちかねの賞品を……はい、準備が出来たようですね』


 実況の言葉通り、表彰台の下には沢山の箱が積まれている。


『さぁ、沢山あるのでサクサク行きましょう! 先ずは16位以上に入賞の賞品……緋珠玉あかしゅぎょく・中ですッ!』


 緋珠玉、それはAPが込められている不思議なオーブだ。緋珠玉・中だと、大体30から50のAPを取得できる。見た目は綺麗に透き通った赤い水晶玉である。中心には赤く光るツブツブが見える。


『次は8位以上の賞品……蒼珠玉あおしゅぎょく・中を五つも贈呈ですッ!』


 蒼珠玉、大体は緋珠玉と同じ性質だが、唯一にして最大の違いはその中に込められているのがAPではなくSPだということである。

 しかし、五つも貰えるんだね……誰に使おうかな。


『そして、5位以上の方に個別で贈られる賞品ですが……ネクロ選手は武器か防具、どちらがよろしいでしょうか?』


 あ、そこは個人個人で選べるんだね。


「じゃあ……防具かな」


 正直、僕はあんまり僕自身の攻撃手段を必要としていない。


『なるほど、防具ですか。渋い選択ですねぇ……では、ネクロ選手には暗星の外套ダークスター・ローブが贈られます』


 暗星の外套ダークスター・ローブが箱から取り出され、掲げられる。それは艶のある漆黒のローブで、内側が暗い青色に光っており、何となく神秘的で高級そうな雰囲気があった。

 しかし、それは僕が解析スキャンする前に箱にしまわれてしまった。


『そして、いよいよ来ました。最後の優勝賞品です!』


 優勝賞品、その言葉に僕は息を呑んだ。


『さぁ、優勝賞品は……こちらです!』


 箱から取り出されたものを一言で形容するなら……黄金の首飾り、だろうか。ルビーに似た赤い大きな石があしらわれた首飾りだ。その首飾りは見るもの全てを魅了するような黄金色の輝きを放ち、嵌め込まれた赤い宝石は、炎が燃え盛るように中身が流動している。


 そんな美しい首飾りを、今度は直される前に解析スキャンしようとした、その瞬間だった。



「────う、うわッ、な、何だッ!?」



 無数の魔術による光が煌めき、観客席から何人もの観客がアリーナに飛び降り、首飾りを持っていたスタッフは飛んできた炎の魔術を避けようとして転んだ。


「おい、馬鹿ッ、急げッ!」


「クソッ、同業者が多すぎるッ!」


 僕は一瞬で理解した。突然発生した異常事態、そして彼らの狙いは……この地面に転がった首飾りだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る