九人 vs 一人と三匹
加護の力で強化された闇光とその分身が僕らに襲いかかる。初めに飛び出してきたのは両端にいた二体の分身だった。
二体は並みのプレイヤーの数倍の速度で駆けると、一瞬で僕らの前まで到達した。
「キュウウウウッ!」
だが、二体の分身は僕らの数メートル先と言うところで地面から生えた無数の鉄の腕に掴まれて動きを止められる。
「グオオオオッ!!」
「キュウウウウッ!!」
そして、拘束されている二体の分身に襲いかかるのは巨大な結晶と大岩だ。
赤く美しく巨大な結晶は、赤熱しながら分身に近付いていき、アリーナの地面に穴を開けながら爆発。もう片方の分身の頭上に浮かんだ魔法陣からは大岩が現れ、轟音と共に分身をぐちゃぐちゃに潰した。
「アッハハッ、二人やられちゃったね! でも、それは囮だよッ!」
囮? と、首を傾げる寸前で僕は気付いた。
「……包囲されてる」
七人の闇光が僕たちを取り囲み、剣を構えている。
「じゃあ、残念だけど……死んで」
その言葉と同時に襲いかかる七つの影。
「グォオオオオオオオッ!!」
「グオオオオッ!!」
「キュウウウウッ!!」
猛り狂う三体の魔物。剣で斬りつけられながらも二人纏めて敵を薙ぎ倒すロア、
「アッハハッ、惜しいッ!」
だが、後一人。ただ一人生き残った闇光……そう、色鮮やかな色彩を纏う唯一の本体が、闇に染まった漆黒の剣を振り上げ、僕に襲いかかる。
────たった一撃、たった一撃だ。それさえ、躱せば良い。
僕は迫り来る闇光に意識を集中させた。距離は約五メートル。
魔術による攻撃……無駄だ。避けられて、斬られる。
剣で受ける……駄目だ。近接戦は彼女の領域、マトモにやれば斬られる。
回避する……これも、違う。
だったら、これしかない。喜色満面で駆けてくる闇光に、僕は二つの魔術を行使した。
「じゃあね、ネクロ! 久し振りに楽しかっ────ッ!?」
瞬間、闇光の耳元から爆音が響き、彼女の体は一瞬で倍以上の速度に加速した。
「痛ッ……あ、ぁ……み、耳……やば、バランスが……ッ」
僕の横を猛スピードで通り過ぎ、僕の数メートル後ろですっ転んだ闇光は、片耳を抑えながらも剣を杖にして立ち上がろうとしている。
「
使い終えた魔術を、僕は余韻を確かめるように呟いた。そう、この二つの魔術が今僕が行使した力だ。
二つの異常によって彼女の感覚はたちまち狂い、目眩や平衡感覚の乱れにより、目の前の僕を斬ることも出来ずに転んだ。
「……それが、この切り札のタネね」
いつの間にか加護のオーラや光も消え去っていた闇光は、なんとか立ち上がり諦観の眼差しで僕を見ている。
「いや、別に切り札って程じゃないけど……咄嗟に思いついただけだよ」
「咄嗟にって……従魔だけじゃなくて、貴方も化け物だったんだね」
呑気に話している間にも、主人を傷付けられかけた怒れる従魔は闇光に近寄っている。
「ていうか、普通に話してるけど鼓膜大丈夫なの?」
「まぁ、片方だけはギリギリ無事だったから。それでも、ずっと耳の奥でキンキン言ってるけどねぇ」
くつくつと笑う闇光に、大きく黒い影が差す。
「グォォオオオオオオオッッッ!!」
ロアが凄まじい咆哮を上げ、重厚な斧に炎を纏わせながら落ちてきている。
「あ、そろそろ私も年貢の納め時みたいだね……じゃあ、また」
闇光が言った瞬間、ロアの無慈悲な斧が闇光を叩き潰し、斧から燃え盛る炎でついでに火葬まで済ませてしまった。
「グォオオオオオオオッ!!」
天井を見て叫ぶのは、勝利の咆哮か、それとも体を食えなかった怒りか。そんなことは知る由も無いが、とにかく勝敗は決した。
『オ、オーガのロアが闇光を豪快に叩き潰しましたッ!! 勝者は……ネクロ選手ですッ!!!』
オォオオオオオ、とロアの咆哮にも劣らない歓声が上がり、僕の勝利は証明された。
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