不忍の上忍 vs 無敵の聖騎士
『東門から入場するのはこの男ッ! 忍ぶ者を意味する忍者であるにも関わらず、逃げも隠れも忍びもしないッ! 筋骨隆々のその肉体から繰り出されるのは華麗なる忍術と体術ッ!それは
現れたのは実況通りの大男。上半身裸のその男は筋肉隆々の肉体を見せつけるように歩きながら、自信に満ちた表情をしている。
『続きまして西門から入場するのはこの男ッ! 白銀の鎧ッ、堅牢なる肉体ッ、不屈の精神ッ! その様は正に人型要塞ッ!! ナルリア王国騎士団所属、聖騎士のユーゼスッ!』
来た。西門から入ってきたのは白銀の鎧に身を包み、身を覆い隠す程の巨大な盾を構えている。片手には白銀の剣が握られているが、盾よりは小さい。
攻撃最強のプレイヤーがウルガナだとすれば、防御最強のプレイヤーはユーゼスだ。当然その秘密はステ振りにある。
ユーゼスのステータスは殆どがHP,VIT,MNDに振られている。正確にはHPとVITに極振りされているらしいが、アクセサリーの効果でMNDもVITと同じ値になっているらしい。
『それでは始めます。準々決勝、最終試合……開始ッ!』
喇叭の音が鳴り響き、それと同時に二人の体が光ったりオーラを纏ったりし始める。
『さぁ、両者とも自身を強化しつつの睨み合いといったところでしょうか。しかし、その時間もそろそろ終わりそうです』
実況の言葉通り、二人を取り巻くオーラや光はある程度の落ち着きを見せた。
「さてと……ユーゼスつったか? どうせそっちから攻める気はねぇんだろ?」
「当然だ。攻めずとも勝てるならば、こちらから攻める理由は無い……そうだろう?」
不敵に笑う二人、どうやらユーゼスから動く気は一切無さそうだ。
「ははッ、あるぜ? 守ってばっかじゃ面白くねえだろうがよッ!!」
荒々しく叫ぶ乱破は腰辺りで構えた両の拳に力を込めると、体勢を少し低くして思い切りユーゼスの懐まで飛び込んだ。
「ほう、中々豪快だな。だが……それは、蛮勇とも言うがなッ!」
「はッ、うっせえぞ盾野郎ッ! 守ってばっかじゃなくて片手の剣も使いやがれッ!!」
しかし、乱破の突き刺すように繰り出された拳はユーゼスの盾に防がれ、僅かなダメージすらも与えることは出来なかった。
そして、攻撃を防がれた乱破はその場に留まって攻撃を続けている。まぁ、ダメージはあまり入っていないように見えるが。
「無駄だ。何度殴っても、幾ら傷付けようとしても……我が無敵の肉体は貫けんッ」
「はッ、どうだかな? だけどなァ、そもそも攻撃しねえとダメージは入んねぇって知ってるかッ! ちったぁ剣も使いやがれッ!」
確かにユーゼスにダメージが入っている様子は無いが、逆にユーゼスも攻撃できていない。
恐らく、素早く動きながら的確に鎧の防御が薄い部分に拳を突き入れようとする乱破から身を守りながら攻撃に転ずるのは難しいのだろう。
「……しかし、乱破よ。不忍の上忍よ。私がただ耐えていただけだと思ったか?」
乱破の拳がユーゼスの胸に直撃する瞬間、ユーゼスの体から眩い光が発せられ、その光はユーゼスから乱破の全身へと広がっていく。
あまり他のジョブに詳しくない僕でも分かる。これは恐らくカウンター系のスキルだ。
『おーっとッ、これはカウンターですッ!』
『聖騎士の技の一つ、セイクリッドカウンターですね。数十秒間で受けた攻撃、それを自身の防御力で無効化した分だけのダメージを一気に相手に返す技です。しかし、これだけの光を発しているということは……かなりのダメージでしょう。防御力の高くない忍者では、恐らく……』
察した様に言う解説。そして、漸く光が収まっていく。
「聖騎士を舐めたのがお前の敗因だ。……何?」
厳しげな口調で言うユーゼス。しかし、彼の見つめた先にあるはずの彼の姿はどこにも無い。代わりにあったのは、ボロボロに砕け散っている木片だった。
「身代わりの術だ。おいおい、もしかして俺が忍者だってこと忘れてねぇか?」
「……確かに、忘れていた。お前は忍術を使う気配も無かったからな」
と、ユーゼスが忌々しげに言うと、乱破は不思議そうに首を傾げた。
「あ? 術なら既に使ってるぜ?」
「なに? 貴様、一体何を……ッ!?」
ユーゼスが警戒して辺りを見渡すが何も無い。そう思った瞬間、ユーゼスの身体中に謎の印が刻まれていることに気付いた。
「俺はよォ、複雑な印を結ぶのがあんまし得意じゃねえんだ。だからよ……手を合わせるだけで良いこいつが、俺の得意忍術だ」
ユーゼスが警戒し、防御系のスキルを複数使うと同時に乱破はただ手を打ち鳴らした。
「ぬぅうううううッッ!?」
瞬間、ユーゼスの身体から軋むような、甲高い音が鳴り響いた。
「ぬッ、うッ、くッ、貴様ァアアアアアアッッ!!!」
「はッ、俺ァ手を叩いただけだぜ?」
ユーゼスの身体中に刻まれた印が震えながら黒い霧状に魔力を溢れさせている。それと同時に、ユーゼスの鎧や盾に兜が軋み、歪み、凹んでいく。
「こいつは俺の得意忍術、共振拳だ。殴った場所に印を刻み込み、後から殴った威力分の振動を与える。だが、何度も殴ってからこの術を発動すると……刻んだ印の数だけ印は共鳴し、振動は増強される。まぁ、こんだけ殴ればお前の防御も貫けるってことだぜ」
と、乱破が言い終えた頃にはユーゼスの身体中から鳴り響く音は止み、振動は止まり、刻まれた無数の印は全て消えていた。
なるほどね。殴るだけ威力が上がる術……厄介そうだね。特にグランとか、モロに喰らいそうだ。しかも、振動ってのが厄介だ。ただ揺れるだけに思えるが、音が鼓膜を破るほどの威力を持つ様に振動には力がある。しかも、これは鎧だとかの外付けの防御を超えて内側まで伝わってくるダメージだ。
「ぐ、ぅ……ぁ」
バタリ、ユーゼスは地に倒れ伏した。
『た、倒れましたッ! ユーゼスが気絶し、倒れましたッ!』
『は、はい。今回のルールでは気絶も敗北判定になりますので……』
つまり、殺せはせずとも脳に振動を伝えて気絶させるくらい、造作も無いということだ。
『今回の勝者はッ、乱破選手ですッ!!』
実況が叫ぶと、アリーナが歓声で揺れる。
「はぁ……これは、厄介な敵になりそうだね」
そう言ってから、僕はもう一度深い溜め息を吐いた。
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