光と闇とラピカスと
熱狂が埋め尽くす闘技場、そこで僕は準々決勝の第三試合を観戦するべくアメリカンドッグもどきを貪りながらエトナ達の間に座っている。そして、今正にその試合が始まったところだ。
『おーっとッ、開始と同時に仕掛けるのは
第三試合目の選手は
變怒戮戦はサングラスをかけたヤクザ顔負けの強面で高身長の男だが、体は意外と細くて不健康そうに見える。
対する闇光は自信に満ちた表情を浮かべている若い女だ。黒みがかった紫の髪に黄色いメッシュが何本も入っている。
『さぁッ、百を超える變怒戮戦の茶色い魔法陣から遂に魔術が放たれましたッ!』
『おぉ、凄いですね。これだけの量の
確かに、結構なMPが無いと一手目でこれだけ消費することはしないだろうね。
『宙に浮かんだ魔法陣から石槍が三本ずつ、それも絶え間無く発射されていきます。息もつかせぬ魔術攻撃ですが……闇光、これを華麗にかわしていますッ!』
『身体強化のお陰も勿論あるでしょうが……これは中々の身のこなしと言って良いでしょう』
実況席が感嘆している間に、闇光は全ての石槍を躱し終え、變怒戮戦は次の魔術を発動しようとしている。
『おっと、ここでまたもや魔法陣が浮かび上がりますが……今度は緑の魔法陣が八つです』
『はい。恐らく、さっきのより威力が高い魔術でしょう』
と、解説の言葉通り緑の魔法陣から八つ連続で放たれたのは
『放たれたのは猛烈な風の刃ッ、荒々しい緑の風が闇光を斬り裂き……ませんッ! 割と範囲広めの魔術ッ、それも八つ連続でッ、しかし闇光は華麗に跳び上がり、アリーナの壁を蹴って避けましたッ!』
それにしても……闇光って人、全然仕掛けないね。こんだけの技量があれば變怒戮戦のところまで一瞬で詰められそうなものだけど。
「んー……私さ、ここまで上がってくるラピカスだから他よりも面白いかと思って期待してたんだけど……別にかな?」
と、僕が考えていると闇光は完全に舐め腐った態度でそう言った。なるほどね、仕掛けないのは様子見してただけってことか。
「な、なんだとテメェッ! クソッ、お望み通りぶっ飛ばしてやるよッ!」
「あー、はいはい。やってみたら? どうせ貴方じゃ無理だけど」
闇光は呆れた様子でそう言い、アリーナの壁にもたれかかった。
『お、おおッ、闇光選手ッ! 完全に余裕の表情ですッ!』
『実際、余裕はあるのでしょう。あれだけの魔術を簡単に回避できるのですから、何を撃たれても同じだと考えているのではないでしょうか』
「クソッ、死に晒せやッ!!」
變怒戮戦は怖すぎる形相でそう言いながらも冷静に魔法陣を展開していく。
『さぁ、現れていくのは黄色の魔法陣と紫の魔法陣……これは、光と闇の魔術でしょうか?』
『はい、恐らくそうでしょう。風も土も効かなかったので、どんどん違う属性で様々なアプローチを掛けようとしているのでしょうね』
と、実況席が話している間に黄色い魔法陣から光の鎖が現れた。
「喰らえやッ、
光の鎖は闇光を捕らえるべく真っ直ぐに彼女の方に伸びていく。
「まだ終わらねえぞッ!
變怒戮戦の言葉通り、紫の魔法陣から闇の槍が次々と射出されていく。
『おーっとッ、息もつかせぬ攻勢ですッ! 光の鎖と闇の槍が闇光を追い詰めますッ!』
『魔法陣に込められた魔力の限り相手を追い続ける
そう語る解説。確かに、ちょっとAGIが高いくらいじゃあれは避けきれないだろうね。
「ねぇ、私相手に闇魔術とか光魔術とか……」
闇光は不愉快そうに表情を歪め、迫る鎖と槍を前にアリーナの壁際から一歩も動こうとしない。
「────舐めてるでしょ」
瞬間、闇光の黒い右目が黄金色に輝いた。すると、彼女の前に分厚い光の壁が出現した。
「光の魔術と闇の魔術は光の壁で防げる。光は光に溶けて同化し、闇は光に浄化されるから。そんなのを私が知らないとでも思ったの?」
闇光の体は光に包まれると、目にも留まらぬ速さで動き出し、僅か数秒でアリーナの反対側にいる變怒戮戦の前まで到達した。
「なッ!? くッ、やべぇッ!」
變怒戮戦は焦りながらも
「いや、意味ないって。分かるでしょ? この距離まで近付かれたら貴方たちラピカスは終わりなの」
「や、やめ────ッ」
闇光は呆れたようにそう言いながら變怒戮戦に接近し、鞘から剣を抜いて素早く首を斬り落とした。
『おーっとッ、ここで勝者が決定しましたッ! 勝ったのは、凄まじい身のこなしと速度で相手の魔術を避け、冷静に対処し続けた闇光選手ですッ!』
実況の声と同時に凄まじい歓声が上がる。
「うーん……」
まぁ、事前評価的に闇光が勝つとは思ってたけど……正直、彼女の得意の戦術らしい闇魔術と光魔術で視界を潰す戦法が見られなかったのは残念だったね。
僕はあと一口になったアメリカンドッグもどきを食べると、トイレに行くべく席を立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます