覚醒者
僕らの視界を埋め尽くした青い光が消えると、アリーナの中央には青いオーラを纏っているチープの姿があった。
「
独り言ちるチープの手から双剣は姿を消し、代わりに一つの両手剣がにぎられていた。その両手剣は双剣の特徴をかなり継いでいるので、恐らく双剣が何らかの能力で両手剣に変化したものだと思われる。
ていうか、前に僕と戦った時はこんな光なんて無かったよね? 手を抜いてたのか、新しい能力なのか……まぁ、それは置いておこう。
「何を言っているのか分からない。だけど、お前も準備は整ったな」
「ん? 律儀に待っててくれたのか? ハハハッ、そりゃありがてぇな」
チープが笑うと、レンは少し眉を顰めた。
「違う。嫌な予感がしたから近寄らなかっただけだ」
「おー、凄えな。勘まで良いんだなお前は。まぁ、確かに近寄ってたら腕の一本は無くなってただろうよ」
そう言ってチープは不敵に笑う。なんか、学校でのチープと今のチープを比べると違和感が凄いね。
「取り敢えず……お互い、時間制限はあるんだろ? チャチャっと決めようぜ」
「あぁ、それには賛成だッ!!」
チープが青いオーラを放ちながら凄まじい速度でレンの一歩先まで駆ける。それをしっかりと目で追ったレンは銀の輝きを放っている双剣をチープに振り下ろした。
「
「ッ!?」
しかし、双剣はチープの体を擦り抜け、代わりに青い光の粒子が散乱するだけだった。
「残念、そいつは残像だ……ってな」
「ぐッ、『炎よッ!』」
後ろから思い切り斬り付けられたレンは、苦悶の声を上げながらも叫んだ。すると、体から噴き上がっている炎が勢いを増し、レンを守るように彼の体を覆い隠す。すると、炎の勢いは更に増していき、近くに居たチープも巻き込んでしまう程の大きさに膨れ上がった。
「おいおい、これじゃ近付けねぇ……って、言うと思ったか?」
チープは嗤うと、手に持った青い両手剣を上段に構え、天に向けた。すると、青い光が両手剣に溜まっていく。数秒の内に輝きに満ちたそれを……
「
チープは思い切り振り下ろした。
『蒼い斬撃が巨大な炎に直撃しましたッ! 蒼い光が又もや場内を照らします……こ、これはッ、一体、どうなったんでしょうか!?』
『……爆発、でしょうか。蒼い斬撃がぶつかった直後、爆発が起こり……蒼い炎がそこら中で燃え盛っています』
実況席の言葉通り、レンの隠れていた大きな炎は蒼い光の斬撃とぶつかり、蒼い光を伴う爆発を巻き起こした。そして、その爆発によって散らばった炎は蒼い光を巻き込み、蒼い炎となってアリーナの至る所で燃え盛っている。
「おいおい……これ、どうなって────ッ!?」
チープが呟き、両手剣を構え直した瞬間、全てのオーラを消し去っているレンが背後から斬りかかった。
「クソッ、だけど俺は回復もできるんだぜ? 持久戦ならこっちのもんだが……そこだッ!」
チープは炎の中に隠れたレンを狙い、両手剣を振り下ろした。
「ッ、当たってな────ッ」
ガツン、大きな音が鳴り、蒼い炎が撒き散らされた。直後、チープの隙にレンの双剣が振り下ろされる。
「くッ、だが回復を……そこだッ!
チープの両手剣が蒼い軌跡を残しながらレンの影が潜む炎の中に振り下ろされた。だが、チープの剣は僅かにズレて地面に叩きつけられる。
「がはッ!? クソ、これ以上は……無駄か」
瞬間、チープの纏う蒼いオーラが消え、剣がいつもの双剣に戻った。しかし、今度はチープの傷は治っていない。
「しっかし……全然当たんねえな、テメエ」
「陽炎だ。炎の揺らめきで狙いはズレる。俺はお前が外したところを斬れば良いだけだ」
チープが睨みながら言うと、レンは簡単に答えた。
「はッ、狙っても当たんねえなら、数打ちゃ当たる作戦で行く。……双千斬」
チープはさっきよりも薄い青のオーラを纏うと、目にも留まらぬ速さでレンの潜む炎を斬り付け始めた。しかし、当たらない。
「クソッ、当たんねえッ!?」
「当然だ。避けているからな」
そういう問題じゃねえだろ! とチープは叫びながらも炎を斬り裂き続ける。
「一応言っておくが……俺は加護の力で炎をほんの少しだけ操れるし火傷は負わない。つまり、陽炎も俺が操れる」
「あぁッ! 通りでお前の都合が良いように揺らめきやがると思ったぜッ!」
チープは荒々しく叫びながらも、増えていく傷を鑑みてか作戦を切り替えたようだ。
「
それは遠距離攻撃で炎を一つずつ消していく方法だ。これでレンの隠れる炎を一つ残らず消してしまうつもりなのだろう。
「
しかし、その目論見はたった一つの魔術で覆った。巨大な炎の壁が地面から迫り上がり、アリーナを半分に分割した。
『おーっと、これはッ!? アリーナが半分に分けられてしまいましたッ!』
『そうですね……これは炎の中でも平気なレンが有利な形になります』
そうだね。ていうか、こんなことが出来るくらいのMP、本当にあるのかな?
「おいおい、そんな魔力がどこにあるんだよ」
「違う。使い切りだ。俺の力じゃないから使いたくなかったが……それだけ、お前が強かったということで許してくれ」
炎の壁の中から声がした。チープはアリーナの壁際に下がっていきながらも声のした方向に
「なッ!? クソッ、いきなり出てきやッ!?」
飛ぶ斬撃によって炎の壁の一部は吹き飛び、炎が撒き散らされる。そしてそこから今まで全く姿を見せなかったレンが飛び出し、チープに向かって片方の剣を投げつけた。
チープはギリギリでそれを回避したが、当然体勢を崩してしまう。
「『光よ』」
「ッ!?」
レンが空になった片手をチープの顔の前に突き出すと、ピカッとその手が光った。離れたところにいる僕らからすれば少し眩しいくらいだが、チープからしたら一瞬視界を失ってしまうレベルの光だろう。
「『剣よ』」
レンの燃え盛る剣、その炎が銀色に染まり……チープの心臓に突き刺された。
「……く、はッ」
体内に染み込んだ銀の炎は内部から燃え上がっていき、経った数秒でチープの吐いた息にも混じるようになった。
「言い忘れていたが、当然光も操れる。本当にほんの少しだけど……この距離なら、目潰しもできる」
「そう、かよ……ハハッ、クソ……加護って、ずりいじゃねえか……なんて、な。ハハッ……まぁ、俺も人のことは、言えねえけど……よ……」
まるで火葬されているかのように銀の炎で燃え上がっていくチープは、最後にそんな恨み節を口に出し……遂に、息絶えた。
『か、勝ったのは……レン選手ですッ!!』
実況が言うと、一拍遅れて凄まじい拍手と歓声が巻き起こった。
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