チープ vs レン
ダスティスとの戦いを終えた僕は疲労を溜息で吐き出しながらエトナの隣の席に座った。次の僕の番まではまぁまぁ時間があるのでここでゆったりと観戦させてもらおう。
「あ、ネクロさん。お疲れ様でした!」
「うん。疲れたよ……正直、ヒヤヒヤしたね」
ダスティスの能力は既に知っているものではあったが、その対処方法については割とゴリ押し気味なところがあった。だけど、それでも僕がこの方法を選んだのは一重に仲間達への信頼があるからだ。
「マスター、私が従魔として出ていれば簡単に勝利できます。先ず、私の能力で銀罫石の壁を創り……」
やばい、メトの長話が始まった。僕は相槌を打ちながら話を聞き流すことに決めた。
「あ、もうそろそろ始まりますよ!」
と思ったが、エトナのお陰で話は強制終了された。メトは少し不満げな表情だが後で構ってやれば大丈夫だろう。
『さぁ、東門から入場するのはこの男ッ! 蒼き双剣は全てを斬り裂き頂点への道を切り拓く……蒼剣無敗の双剣士、チープだッ!!』
お、チープだ。ここまでの試合は見逃しちゃってたけど、漸く見れるね。
「ねぇ、あれ僕の友達だよ」
「へ、そうなんですか? 凄いですね〜」
こいつ、適当だろ。
「一応言っとくけど、僕がこの世界に来たのはあいつに誘われたからだよ」
「……え、そうなんですか? それは感謝しないといけないですねっ!!」
盛り上がるエトナの後ろでメトも興味深そうに聞いている。だけど、そろそろ試合が始まるから話は終わりだ。
『……のは炎剣と飛剣の剣舞ッ、双剣士のレンだッ!!』
レンが入場すると、さっきよりも大きな歓声が場内に響く。
『さて、それでは準々決勝、第二試合……開始ッ!!』
試合開始の喇叭が鳴り響くと同時に、両者は二つの剣を抜き放った。
「……まさか、同じ双剣士と当たるとは思わなかった」
そう、いきなり話し始めたのはレンだ。
「おいおい、対戦相手と馴れ合いか? まぁ、俺も意外だったけどな。こういうのには魔剣士が残るもんだと思ってたぜ」
「そうか? 俺はあんなに準備に時間がかかるジョブが勝つとは考えていなかった。……と、すまん。そろそろ始めるか」
レンが言うと、両者は剣を構え直した。
「じゃあ、俺から行くぜ」
最初に動いたのはチープだ。チープは姿勢を低くすると、一瞬でレンの眼前まで迫った。
「ッ、危ないなッ! スピードはッ、俺よりもあるッ!」
「はッ、当たり前だッ! 極振りには及ばねえが三分の一以上はAGIに振ってるからなァ!!」
ぶつかり合う剣技と剣技。炎を撒き散らすレンの剣がしつこく迫るチープを何度も追い払うが、レンの斬撃を飛ばす剣は余り力を発揮できていないように見える。
「チープ、前に僕と戦った時より倍以上速くなってる」
「でも、私の方が速いですよ?」
あれで三分の一しかAGIに振っていないと言うのだから、凄まじい成長速度である。あと、アホの子は無視だ。
「
チープが距離を詰め、二つの剣を縦に振り下ろす。
「
チープの双剣とレンの双剣がぶつかり合い、その瞬間にレンが双剣を振り上げる。当然チープの剣は弾かれ、隙を晒すことになる。
「
「ぐッ、いてえじゃねえかッ!」
チープの胸を双剣が斬り裂き、深くバツの字が刻まれた。更に片方の剣は燃えているので火傷まで負っている。
「
「
追い討ちをかけるように放たれたレンのクロスされた
「どうした? チープ。蒼剣とはこんなものか? 浅い経験しか積んでいないのか?」
「はッ、舐めやがってよ……こちとら成人もしてねえんだぞ」
と、チープの失言に会場が騒めく。大体のプレイヤーは大人だと思っていたようだ。
「ん、それを言うなら俺も高校生だけど」
続けてレンの言葉に会場が更に騒めいた。こんなところで個人情報を晒しまくるとか、馬鹿なんだろうか。
「……おいおい、マジかよ? まぁ、そんな雰囲気はしてたけどな」
「それより、そろそろ再開しよう」
レンが言うと、チープはニヤッと笑った。
「あぁ、すまんすまん。そうだったな。だが、その前に……」
チープが嗤うと、青い光がチープの双剣から溢れ、胸の傷に入り込んでいく。
「ッ、なんだそれ」
レンが駆け出し、チープに向かって双剣を突き出す。
「残念、もう治っちまったよ」
が、既に青い光は消え去り、チープの傷は完治していた。チープは突き出された双剣を冷静に往なす。
「そう、か。だったら俺も本気を出そう。今まで、試合では一回も使ってなかったんだが」
そう言ってレンは飛び退き、双剣をクロスするように構えて目を閉じた。
「はッ、やらせるかってッ!」
だが、当然チープがそれを見過ごす訳も無く、レンに接近する。
「『
が、レンから溢れた炎に動きを止められ、迸る銀色のオーラに後退りし、眩い光に顔を背けた。
「すまん、待たせた」
漸く消えた三色の中から現れたのは、体の所々が燃え上がり、双剣は銀色の輝きを放ち、目と髪が金色に光っている、正に覚醒体と言った様子のレンだった。
「おいおい、主人公かよテメエ……」
溜息を吐くチープ。だが、その口元は笑っていた。
「だけどよ、俺だってそう言うの……」
チープは二つの剣を合わせるように構え、目を閉じる。
「────あるんだぜ?」
瞬間、青い光が場内を埋め尽くした。
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