起床、朝食。起床、朝食。
眩しい朝日が僕を照らすことで、僕は一日の始まりを悟った。
「……あー、やっぱりね」
朝食を摂りながらスマホをいじり、情報収集として掲示板を見ていると僕のことについてもかなり書き込まれていた。その内容はやはり、ロア達についてだ。
エリアボスとユニークボスを差し置いて今のところ一番活躍しているロアは、掲示板でも人気者らしく、ザッと見ただけで僕個人についてよりも三倍以上の書き込みがあった。
「光と闇を操る
他にも気になるプレイヤーは居たが、僕のスマホ弄りはそこで中断されることになった。
「あ、お兄ちゃん! また私が起きるより先にVRで遊ぼうとしてるでしょ!」
「あはは……ごめんね、実。朝早くから行かないと間に合わないからさ」
最近は夏休みで余裕があるからか、少し遅れて起床してくる実に僕は昼と夜しか会えないことが増えていた。昼も実が出かけている時は会えないので、夜しか話さないことも多くなってしまっている。
「まぁ、もうすぐVRベッドも届くみたいだから良いけど……こっちを疎かにし過ぎたらダメだよ。学校が始まったら大変だよ?」
「あー……そういえば僕、高校生だったね」
高校、辞めたいなぁ。
「もうっ! そもそも、夏休みの宿題は進んでるの?」
あー、課題全然やってないなぁ。
「まぁ、そっちは夏休みが終わってからでも遅くないよ」
「いやいや、遅いよっ!? お兄ちゃん、また宿題遅れて出すつもりなの? どんどん平常点が下がっちゃうよ……」
甘いね。担当の教師にもよるけどあれは一日二日遅れたくらいじゃ下がらない。僕は知ってるんだ。
「まぁまぁ、そんなに責めないでよ……と、ご馳走様でした」
実が作り置きしていた料理だったので、実に向かって手を合わせた。
「お粗末様でした。……全く、お兄ちゃんはマイペース過ぎるよ」
「あはは、だからしっかり者の妹が生まれてきたのかもね」
僕は笑いながら皿を軽く洗ってから台所に置き、洗面所で歯を磨いた。
「良し、それじゃあ……」
僕はVRベッドに横たわり、向こうに行くための魔法の言葉を唱えた。
♦︎
僕は目を覚まし、体を起こした。
「おはよう、エトナ」
「あ、おはようございます。ネクロさん」
毎度のことだが、眠った瞬間に目を覚ますというのは不思議な感覚だ。
「メトはどうしたの?」
「ん? あぁ、買い物に行くって行ってましたよ。もうそろそろ帰ってくるんじゃないですかね?」
と、エトナが言った瞬間にドアがガチャリと開いた。
「ただいま帰りました。おはようございます、マスター」
「うん、おはよう。食料?」
メトが手に提げている布の袋の中身を僕は予想した。
「はい、そうです。何か食べますか?」
「うーん、僕は良いかな」
かなり前から食料の買い出しはメトが率先して行っていたのだが、最近は買ってくる量が明らかに増えていた。理由は考察するまでも無く、メトが食べる分だ。
昔は自分には不要と断じて何も食べたがら無かったメトだが、最近はすっかり食道楽のように様々な趣向の食べ物に手を出すようになっていた。まぁ、生への渇望を見出してくれたのは僕としても嬉しい変化ではある。
「では、私は少しだけ頂いておきます」
そう言ってメトは袋の中身を取り出し、部屋に置いた冷蔵庫的な魔道具に詰め込んでいく。
「そういえばネクロさん、次の対戦相手……あの人みたいですよ?」
「ん、誰だっけ?」
そういえば、肝心の対戦相手を確認していなかった。
「あの人ですよ、あの人。光の翼で飛んでた人です。ダスティス、みたいな名前の」
あー、ジャスティスね。盗賊と魔物が襲ってきた助けるつもりで大迷惑を掛けてきた人だ。
「ジャスティスね……うわ、あの人か」
彼の噂は少なくないが、実際の実力については未知数なところがある。分かっているのは光の翼で天高く飛び上がり、そこから圧倒的破壊力の爆発する光の刃を乱射してくることだけだ。
それだけでもかなり厄介そうだが、他にも隠された力があると本人は言っているらしい。……真偽は不明だが。
「まぁ、飛ぶ相手ならロアはキツそうかな」
そもそも大きく、攻撃範囲も広いグランや遠隔攻撃ができるアースは相手できるかもしれないが、ロアはジャンプ攻撃か石ころを投げるくらいしか出来ないだろう。
「対策を練るべきではあるだろうけど……取り敢えず、飛行対策だけは考えようかな」
僕は冷蔵庫からカフェオレとサンドイッチを取り出し、結局こっちでも朝食を摂ることにした。
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