もうこいつ一人で良いんじゃないかな
翌日、僕はまたアリーナの硬い地面を踏みしめていた。初日は試合数が多く、僕の出番は一度だけだったが、今日は二戦も出来るらしい。そして最終日である明日は三戦だ。
『さぁ、無敵の魔物使いに相対するは召喚士ッ! 一騎千兵の召喚士、シノミーヤですッ!!』
紹介された男が向こう側の門から登場してくる。黒髪の大人しそうな男……いや、男の子だ。見た目だけの可能性は高いが。
因みに、僕は既に入場済みで畏怖の織り混ざった歓声を浴びたばかりである。
『それでは本戦二日目、第四試合……開始ッ!!』
喇叭が鳴り響くと同時に僕はロア達を呼び出し、相手はゴブリンの軍団を呼び出した。と言っても、ただのゴブリンでは無くそれぞれが役職持ちのゴブリンだ。
ゴブリンウォーリアー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンアサシン、様々なゴブリン達が一瞬で現れた。
「作戦は変更無しで。ロアは召喚獣を蹴散らしつつ本体を狙って。グランは僕を守りながら結晶投擲でロアに当たらないように支援。アースは僕の護衛主体で好きに動いて良いよ」
と、指揮を執っている間に相手もインベントリから大量の武具を取り出してゴブリン達にキビキビと配っていた。どうやら、この数秒で全てのゴブリンに武器が渡されたらしい。
「ロア、取り敢えず速度だけ強化するね……
突撃役のロアは一瞬でも速く敵を殺すのが役目だ。テイマーとしての能力でもっと強化することもできたが、今回はやめておいた。代わりにアースとグランをスキルで強化していく。
「グォオオオオオオオッ!!」
ロアが咆哮を上げ、ゴブリン達に恐怖を与えてから跳躍で飛び込んだ。ゴブリンの数は50体程だろうが、何匹居ようがロアの敵では無い。
「グォオオッ! グォオオオオッ!!」
射られる無数の矢も、魔法も、剣も、全てが無意味。細かな傷は直ぐに治り、大きめの傷を負ってもSLv.4になった悪食の効果によってゴブリンを食らうだけで回復する。
「なッ!? ば、化け物じゃないかッ! クソッ……僕のゴブリン達を、よくもやってくれたなッ!!」
一瞬恐怖の表情に歪んだシノミーヤだったが、ゴブリンをどんどんと蹴散らしながら近付いてくるロアに気付くと、ロアを睨みつけながら召喚士のスキルを発動した。
「来いッ、ラプタッ!!」
シノミーヤがラプタと呼んだそれは、
最近知ったことだが、アースはモグラに鱗を付けてそのまま巨大化させたような姿をしているが、実はそれが土竜の幼体と酷似しているらしい。しかし、アースの年齢だと余裕で成体の立派な
変な話だけど、だからこそユニークボスになっていたのかも知れない。
「グォオオオオオオオッ!!!」
と、考え込んでいる間に宙に舞い上がったロアが
熱風が離れた僕のところまで伝わり、土煙の後には息も絶え絶えの
「あれを食らって生き残ったのは凄いけど……」
「や、やめ────ッ」
ぐちゃり、肉の潰れる音が場内に響いた。
「……グォ」
静寂の包み込んだ場内を困ったように見渡し、ロアが鳴くと、会場は一瞬で歓声と熱気に満ちた。
『き、決まりましたッ! オーガ選手がッ……失礼しました。ネクロ選手のオーガが決めましたッ!! 正に一騎当千の活躍ですッ!!』
と、実況が勝敗を告げるのを聞いて僕は気付く。
「……これ、ロア以外何もやってないじゃん」
シノミーヤには悪いが、圧勝以外の何者でもなかった。
♢
あれから数時間後、観客席に戻ってエトナ達と試合を観た後、また控室へと戻り、そしてアリーナへと踏み込んだ。
「あー、これでもう三回目だね」
僕を讃えながら紹介する実況の言葉を聞き流し、そう呟いた。
『さぁ、西門から現れましたッ! 一瞬で迫り圧倒的な一撃を食らわせるそのさまは正に落雷ッ! 万夫不当の大剣豪とは彼のことッ、そうッ! 矢野坂丸ですッ!!』
うぉおおおおおお、と今までよりも一際大きな歓声が上がる。この矢野坂丸という剣豪のプレイヤーは、ファスティアの民には名が知れている冒険者らしい。
職業は剣豪で、道場にも通っているらしく、流派は龍奏流というらしく、その腕は確からしい。
その容貌は正に和装で、どこにそんなもの売ってるんだというくらい和な服を着ており、腰には一本の鞘が挿さっている。恐らく刀だ。雰囲気的に。
『それでは行きます。本戦二日目、第十八試合……開始ッ!!』
実況の声、鳴る喇叭と同時に駆け抜けたのは矢野坂丸だった。だけど、当然予想していなかった訳では無い。僕は速やかにロアから順に呼び出していく。
「消えぃッ! 龍奏流ッ、
「グォオッ!!」
姿勢を腰程まで低くし、鞘から刀を抜きながら踏み込んで来た矢野坂丸に相対するはオーガ・ゾンビのロアだ。
鈍い金色のオーラを纏った刀を、僕の代わりにロアが斧で防いだ。
「ぬぅ……ッ! 一歩も退かぬかッ!」
「グォオオオオオオッ!!」
僕の目の前で迫り合う二人に僕は若干ビビりながらもグランとアースを呼び出し、直ぐに後ろに下がろうとする。
「ならば……飛螺帰り、蝶耀の歩、
斧と刀で迫り合っていた二人だが、矢野坂丸がひらりと力を緩めながら舞うように動いて刀を斧から外し、ロアは振り絞った力をぶつける先が消えたので体勢を崩した。
更に、そこから矢野坂丸はひらひらと捉えどころのない動きでアースの
「
「無駄ッ!」
後ろに下がりながら闇に満ちた壁を作り出す。が、矢野坂丸は一瞬でそれを破壊しながら尚も刀の先を僕に向けて走ってくる。
スキルの効果だろう。水色のオーラを帯びてキラキラと光る刀が、あと一メートルも無いくらいまで迫っている。
「グォオオオッ!!!」
ロアが咆哮している。だが、それではこの男は止まらないだろう。
「貫かれよッ!!」
天の川のように優しく煌めく刀が、僕の心臓を……今、貫く。
「ぐッ、がはァ!?」
血反吐を吐いた……のは、僕では無かった。
「くッ、馬鹿な……魔術まで、使えると言うのかッ!!」
更に言えば、心臓を貫かれたのも僕では無い。矢野坂丸の胸に氷の槍が一本、突き刺さっていた。
「だが、貴様を斬れば……ッ!」
「グォオオオッ!」
矢野坂丸が血を吐きながらも刀を構えた瞬間、ロアの斧が振り下ろされ、無慈悲な金属の刃が肩から腰まで抜けていった。
「……無念、なり」
バタリ、最後までロールプレイを崩さなかった剣豪が今、体を二つに斬り裂かれて倒れた。
『勝ったのはッ、またしてもネクロだぁああああああああッ!! 強いッ、強すぎるッ! 本体は何もしていないと言うのに一体なんでこんなに強いのでしょうかッ!!』
うるさいなぁ。それが魔物使いってものでしょ。
「……ふう。これで漸く今日の試合は終わりだね。やっとまったり観戦できるよ」
確かに僕は何もしていないが、この身に感じている重い疲労は恐らく本物なので、僕はゆっくりと軽食でもつまみながら観戦して休むことに決めた。
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