第一試合、開始。
試合開始の喇叭が吹き鳴らされ、闘技場内の緊張が一気に高まる。実況席の上にある巨大な板に、アリーナの様子が映し出されている。エトナ曰く、あれは魔白板という魔道具らしい。
『さぁ、始まりました第一試合ッ! 壁際に並んだ選手達は先ず自分の左右をチラチラと警戒しながら武器を構えています。どちらに仕掛けるか悩んでいるのか? それとも、ビビっているのか?』
開始と同時に膠着状態になったアリーナだが、挑発する実況の言葉によって僅かに空気が変化する。
「舐めんじゃねえぞッ! 全員ぶっ殺してやるッ!」
実況席の上、元々はただの白い板だったそれに、憤怒の表情に満ちた男の姿が映し出され、その男の声が拡大される。
大斧を持ち、皺の多い布の服を着たその男は、レベル37の
「食らえッ、
ライアンは左の魔術士の方に襲いかかろうとスキルを発動しながら大きく踏み込んだ。魔術士は尻餅を着きながらもそれを回避するが、ライアンはもう一度スキルを発動し、斧を構えている。
「馬鹿がッ!
だが、その瞬間に右側に居た魔剣士の男がバフをかけ、剣を赤熱させてから斬りかかってくる。
「はッ、馬鹿はテメエだッ!!」
しかし、赤く煮えたぎった刃をライアンは予想していたかのように回避し、発動していたスキルを魔剣士の男に叩き込んだ。
因みに、開始時点で選手と選手の間には五メートルくらいの間がある。
『おーっと、ここでマーケンが平野ライアンに不意打ちを仕掛けますが見事返り討ちッ! アリーナの中央付近まで吹き飛ばされたマーケンに無数の魔術が殺到してしまい……ノックアウトッ! 細かい粒子になって消えて行きましたッ! ですが皆様、ご安心下さい。彼らは次元の旅人ですので、死んでも死ぬことはありませんッ!』
『えぇ、見事ですね。恐らく、ライアンは初めからマーケンを殺すつもりで近距離では非力な魔術士に襲いかかったのでしょうね。魔術士ならばあの距離での反撃は難しいですから』
実況が大声でマーケンの死を叫び、解説がライアンの戦略を語る。
「
「
「『
「『火炎よ、豪炎よ。煮え滾る我が殺意を焼べ、燃え盛る我がふべしっ!?」
そしてその間にも戦況は目まぐるしく変化していく。ライアンによって崩された均衡によって、アリーナには先ずバフやデバフをかけるプレイヤーが増え始めた。が、それを止めようと隣のプレイヤーが襲いかかり、その隙を突こうと更に別のプレイヤーが襲いかかり……と、こうして誰にも止られないこの混沌とした戦場が完成したのだ。
戦場は様々な魔術や剣戟が交差し、召喚された大量のゴブリン達が主人を守るようにアリーナの一角に固まり、大魔術を詠唱しようとしていた者は殴り飛ばされ……この様に混戦となったアリーナの中で、逆に中央まで逃げていくプレイヤーが一人居た。
当然、魔白板はそれを映し出し、実況席の二人も注目し始めた。
「
瞬間、アリーナの中央に直径十メートルほどの大きな砦が現れた。その円形の砦は主に石のような物で形成されている。
『おっと、何やら砦のようなものがアリーナ中央に現れましたッ! これは一体何なんでしょうかッ!?』
『はい、これは恐らく大地魔術ですね。土魔術の上位版と考えて頂ければ大丈夫です。しかし、これはかなりの使い手ですね……詠唱破棄で
当然、観客や選手達も含めて全ての視線が集まる砦。
「ぐぉぁああッッ!?」
「がはッ!? や、やめッ────ッ」
が、その隙を突いて黒い全身を覆う服に身を包んだ男が一瞬で二人のプレイヤーを殺害した。
『おーっとッ! この隙にまた二人の選手が殺されてしまったッ!』
『えぇ、恐らく暗殺系のスキルでしょうね。見事な手際です』
暗殺系のスキルと聞いて僕がチラッとエトナを向くと、エトナは自慢げに胸を張って口を開いた。
「ふふん、あれは
確かに、二人目はちょっとだけ生きながらえてたね。
『さぁ、砦を造り上げたつちたまんですが、砦の中から一向に出てくる様子はありません。しかし、代わりにゴーレム達が次々と現れて砦を守るように固まっていきますッ!』
『砦の壁上や天辺の
あ、つちたまんって聞いたことある名前だね。確か、最初のロアの戦いの時に居た気がする。思えば、僕が起こした最初の事件はあれだったね。
『あれだけ居た戦士達がもう十人ほどまで減っていますッ! まだ時間は五分と少ししか経過していませんが、これはかなりのハイスピードですねぇ……解説のウーテさん、どう思いますか?』
『そうですね……やはり、数が多いとそれだけ死角も増えますから、攻撃している間に攻撃されてやられると言ったことも多くなってしまうのでは無いでしょうか?』
まぁ、そうだろうね。全方位に気を配るなんて難しいからね。テイマーとかサモナーは別だけど。
『なるほど、確かにそうですね。では、序盤は魔術士がかなり不利な印象を受けましたが……現在は、寧ろ魔術師の方が生き残っているように見えますね』
『はい。序盤は五メートル程の距離があるとは言え、一瞬で詰められてしまう魔術士が不利ですが、後半だと寧ろ広大なフィールドを活かして自分の領域を守りながら遠くの敵を殺せる魔術士が有利かも知れませんね』
確かに。最初は距離が近くてキツそうだけど、後半は平面で距離が取りやすい戦場だから魔術士の方が有利になりそうだね。
「
「っぶねぇなァ! お返しだぜッ、
暗殺技を使う黒い男がライアンの首筋を狙うが、ギリギリで避けられて突き飛ばされてしまう。地面に倒れた黒い男に、灰色のオーラを纏った斧が無慈悲にも振り下ろされた。
『ここでウタサナが脱落ッ! ライアンッ、この男一体どれだけの敵を屠れば気が済むんだッ!?』
『もしかしたら、まだ貴方の挑発に怒っているかも知れませんよ』
『ハハハッ、恐ろしいことを言わないで下さいウーテさんッ!』
と、実況席の二人がふざけあっている間に砦の真上に真っ赤で巨大な魔法陣が現れた。直ぐさま魔白板はそれを作り出したプレイヤーを映し出す。
それは、白い聖職者の着るようなローブを身に纏っている穏やかな表情の男だった。
「……
その赤い魔法陣からは巨大な紅蓮の火球が……いや、煮えたぎったマグマの塊のような物が放たれた。
その火球はドボン、と沈むように落ちていき、砦に襲いかかった。
『おーっと、ここで大魔術だッ! 放ったのはばんとりーゔぁらだッ!』
『そうですね……あれは、火魔術じゃないですね。上位互換とかでも無いと思います。うーん、あの火球は何でしたかね……恐らく、使用者の職業が司祭なので神聖系のスキルだと思います』
へー、聖職者でもこんなスキル使えるんだね。と、見ている間に砦の近くにいたプレイヤーが二人、マグマに呑み込まれた。
『おーっとッ、ここで勝者が決定した様ですッ!!』
『お、遂にですか。いや、試合時間は十分程なので短い方でしょうかね』
実況が試合の終了を叫び、選手達の動きがピタッと止まった。
『えー、勝者は……平野ライアン、ばんとりーゔぁら。そして、つちたまんだァアアアアアアッッ!!』
おおおおおおおおッ!! と、凄まじい歓声が上がる。ていうか、生きてたんだねつちたまん。あのマグマに呑まれて死んだかと思ったけど。
『いやぁ、中々に見応えのあるバトルロイヤルでしたね。しかし、良くつちたまんはあの砦の中で生き残りましたね』
『えぇ、やはりあれは砦の耐久力が凄まじかったのと、術者は一番下の階層に居るようなので、構造的に砦が溶けていっても中々辿り着かないようになっていた様です』
へぇ、運が良かったのか、計算の上なのか……分かんないけど、結構面白かったね。次の試合も期待しようかな。
「ネクロさん、次の試合は七分後らしいですけど……その間に、食べ物でも買いに行きませんか?」
「ん? あぁ、良いよ。行こっか。メトもおいで」
七分後って結構早いね。まぁ、出場する人が滅茶苦茶多いから巻きでやってるのかな?
「了解しました。マスター」
僕は背伸びをしてから立ち上がり、次の試合に期待しながら歩き始めた。
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