『ミラクルム・プローディギウム魔道具店』
小さな少女の名前は店の名前と同じ、ミラクルム・プローディギウム。そして、プレイヤーではないようだった。勿論、これは
「……ふ、ふーん、アンタ達、結構強いみたいねッ! で、でもっ、私のベレの方が強いんだから!」
少女が少し怯えた様子でそう叫ぶと、店の中から深い青色の短髪を持った男が現れた。
「あー、うちのミラがすみませんね。お客さんでしたら、どうぞこちらへ」
腰に剣を挿しているその男の服装はお世辞にも立派とは言い難く、襤褸一歩手前の色褪せた薄い茶色の服を着ている。また、片手はポケットに突っ込まれ、髪はボサっとしており、何となくガサツそうなイメージを受けた。
だが、僕はそれ以上に何かの違和感を彼に感じていた。彼は普通の人間と何かが違う。
「あぁ、そいつらはほっといて大丈夫ですよ。うちの店の魔道具を狙う輩は少なくないんで、もう道の端に寄せといて後は放置ってことにしてるんですよ」
僕らがチラチラと壁に叩きつけられて痙攣しているプレイヤーを見ているのに気付いたのか、男はそう言った。
「なるほど……確かに、ここだと大変そうですよね! 私達もここに来るまでに二回も襲われましたし……」
というか、何故こんなに治安が悪い場所に店を建てたんだろうか。
「ねぇ、ミラさん。なんでここに店を建てようと思ったの?」
僕が言うと、ミラは少しムスッとしながら口を開いた。
「……親の店を継いだだけよ。お父さんもお母さんも魔技師で、二人から教えられて私も魔技師になったのよ。他に出来ることも無いし、昔はここも治安が悪くなかったから……別に、それだけよ」
小さい声でボソボソと語るミラ。どうやら、さっき僕らを怒鳴りつけたのは彼女の中では無かったことになっているらしい。
「そうなんだ……うん、ありがとね。じゃあ、そろそろ見せてもらおうかな」
僕は言いつつ、店の中に入った。エトナ達も僕の後ろに続いて入ってくる。
「この周りとは比べ物にならないくらい綺麗ですね……」
エトナが言った通り、この店の中は周囲のボロボロな建物達とは違い、非常に清潔で綺麗だった。魔道具も透明なケースの中に収納されており、綺麗に並べられている。
「うーん、どうしようかな……あ、これとかどう?」
僕はショーケースの中に入っている指輪を指差した。
「ふんふん……良いんじゃないですか?」
それは銀色のリングに緑色の宝石が嵌められた指輪だ。名前は『耐毒の指輪』とシンプルだが、効果は強力だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『耐毒の指輪』
【VIT+30-MND+30】
毒に対する強い耐性を持ち主に与える指輪。素材の強度は高くないが、ルーンによって壊れ難くなっている。また、持ち主の防御力を強化する。
[
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
指輪の横にある説明も、これとほぼ同じことが書かれている。防御力を強化できて、更に毒に対する耐性も得られる……うん、予想通りかなり高いがそれに見合った性能だ。
それと、これと同じ性能で水色の宝石が嵌っている睡眠耐性版と、黄色の宝石が嵌っている麻痺耐性版もあったので二つとも買うことにした。
「これで合計40万サク……まだ使えるね」
これでも僕はお金持ちだ。ゴブリンの巣に溜め込まれていた財宝を売って得た金はまだ残っている。
「……これ、良いね」
殆ど店の中を見尽くした僕の目に留まったのは、綺麗な桃色をした小粒の宝石が等間隔で埋め込まれている銀色の腕輪だった。
「へぇ……確かに、便利そうですね」
それは、防御面というか、生存面で有用な能力を持った腕輪だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『
【HP+50】
[頑丈のルーン:SLv.2、体力嵌留:SLv.3]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この体力嵌留という能力は説明文の通りで、腕輪に合計8個も嵌め込まれている
「……うん、このくらいで良いかな。ミラさん、決まったよ」
僕は振り向き、カウンターの向こう側で仏頂面をぶら下げているミラに話しかけた。
「ん、はいはい。どれを買うのかしら?」
「ここの耐性系の指輪三つと、
僕が言うと、ミラは少し驚いたような顔をした後に、ぎこちなく頷いた。
「アンタ、結構金持ちなのね。まぁ、じゃなきゃウチに買いに来ることはないでしょうけど」
確かに、この店に来るのは魔道具を買いに来た金持ちと、魔道具を奪いに来た貧困者の二択だろう。
「まぁね……はい、丁度だよ」
僕が渡した代金をミラは数秒で数え、それをカウンターの内側にある棚に直すと、棒を取り出した。
「先ずは指輪三つと……腕輪ね」
ミラはその棒をショーケースの端にあった凹みに差し込んだ。すると、ショーケースの蓋がパカッと開き、ミラはそこからあっさりと魔道具を取り出した。
「はい、毎度。アンタ達みたいな客だったら、また来ても良いわよ。……と、空いた分の商品を入れなくちゃいけないわね」
そう言ってミラは店の奥へと消えていった。と、そこで僕は店の端で壁に寄っかかって俯いているベレットの存在を思い出した。
そして、僕は数秒だけ彼を眺め、漸く違和感の正体に気付いた。
「……そういえば、君は? ただの店員さんって感じには見えないけど」
僕がベレットに視線を向けて言うと、彼は俯いていた顔を上げ、閉じていた目を開いた。
「あ、分かります? 俺はこの店の用心棒をしてます。ベレットです」
そう平然と言うベレットだったが、
「へぇ、そうなんだ……ただの人間って感じには、見えないけどね?」
僕が言った瞬間、ベレットの視線が氷のように冷たく凍てついた。
「……お前」
ベレットの手が腰の剣に添えられる。いつでも戦闘を出来る態勢を整えたって感じかな。
「あはは、怒んないでよ。僕のジョブはテイマーだからさ。色々気付くこともあるんだよ。まぁ、半分勘みたいなものだったけどね」
僕が戯けたように言ってもベレットの怒気が収まる気配は見えない。
「あ、あれ? どうしたの? 私が居ない間に何かあったの?」
店内に満ちた怒気にミラは動揺しながらも訪ねた。
「……いえ、何でも無いですよ。気にしないでください」
「うん。じゃあ、僕はそろそろ行くよ」
彼が人じゃなかったとしても、別に僕には関係の無い話だ。彼が魔物だからと言って、悪人だとは限らないし、寧ろ善良な部類だろうと僕は判断した。
「ネクロさん、大丈夫ですかね? さっきの人、不穏な感じでしたけど」
「うーん、大丈夫じゃないかな? 悪い人って感じじゃなかったし」
心配するエトナを宥め、この治安の悪い場所から抜け出す為の一歩を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます