作戦会議 in 酒場

 闘技大会はいよいよ明日まで迫っている。そんな中、僕は訓練をする訳でも無くエトナ達と酒場に入っていた。


「ネクロさん、闘技大会はもう明日ですよ。ご飯なんか食べてて大丈夫なんですか?」


 エトナは心配そうに言ってからパスタを啜った。赤いトマトソースが唇を汚すが、それは直ぐに白い布で拭われた。


「うん、勿論だよ。もう訓練は十分やったし、今日は軽く動いてもらっただけで後は休息を取ってもらうことにしたよ」


 かくいう僕も、今この時間が休息だ。飯を食らって談笑するというのは、僕にとってはかなりの心の休息になる。それと、この海老的なものが入ったグラタンがめちゃくちゃ美味い。最高に美味い。


「マスター、体術ならば少し程度は指導できますが」


 メトは口に入れたものをゴクリと飲み干し、そう言った。


「うーん、それは後で教えてもらおうかな。少なくとも今は、頭も体も心も、一旦リラックスさせたいんだよね」


 やっぱり、グラタンが一番美味しい。カプレーゼも良かったが、やっぱりこのグラタンが最高だ。また来た時もこれを頼むとしよう。


「……なんか余裕そうですけど、もうちょっと緊張したらどうですか?」


「いやいや、緊張してるからリラックスする為にこうやって談笑しながらご飯を食べてるんだよ」


 僕は心にも無いことを言いながら、エトナを安心させる為に微笑んだ。


「……まぁ、別に良いですけど。ネクロさんはそういう人だって分かってますし」


 エトナは諦めたようにため息を吐き、代わりにパスタを口に運んだ。


「そういえば、この後はどうするんですか? ご飯食べた後の予定、まだ聞いてませんでしたけど……流石に訓練ですか?」


 訓練、好きなのかな?


「いや、違うよ。実は、今日の主目的は休憩じゃないんだよね」


 僕が言うと、エトナは不思議そうな表情で首を傾げた。


「じゃあ、何ですか?」


 僕はカプレーゼに再度手を伸ばす為、水をゴクッと飲んで口内に混沌と満ちていた味をリセットし、そして微笑んだ。


「今日は、僕が死なない為の魔道具とか、装備とか、そういうのを買いに来たんだ」


 簡単に言えば、防御力が上がるアクセサリーだったり、気配が薄くなる装備だったりとか、そういう系のアイテムを買いに来た訳である。


「あ、なるほど。確かにネクロさんの装備って貧弱ですもんね」


 ……ストレートに言うなぁ。


「まぁ、うん。そうだけど」


 僕は軽くエトナを睨んで言った。


「それと、軽く作戦を練り直そうかなって思ったから、考える時間が欲しかったんだよね」


 元々、ある程度の動きは考えていたのだが、大会に出てきそうな敵を調べた結果、色々と作戦の修正が必要そうな感じが出てきた。


「だから、この時間はその為のものでもあるね」


 態々、三人で集まって酒場まで来ているのは、酔っ払いの喧騒とかが聞こえてた方が何となく落ち着くからだ。寧ろ僕は、無音な方が集中力が乱されてしまう。


「とは言っても……どうしようかなぁ」


 調べた結果、本当に多種多様な力を使うプレイヤーがそこそこ以上の実力を持って存在していることが分かった。


「暗黒魔術を使ってくるジョブがダークロードの人とか、土魔術極めすぎてる人とか、この前戦ったけど攻撃力に全振りしてる人とか、なんか透明化して魔術ばら撒いてくるラピッドキャスターの人とか、光と闇の両方で視界を封じてくる人とか……後はまぁ、空間魔術が使えるプレイヤーとかも結構居たね」


 更に言えば、ネットで情報が出ているプレイヤーだけでこれなので、あまり目立っていないプレイヤー達も合わせるともっと厄介な力を持つプレイヤーは多いことになる。


「……それ、全部対策するの不可能じゃないですか?」


 エトナが疲れたような目をしながらそう言った。


「まぁ、全部はそうだろうね。でも、透明化とか視界封じとかくらいなら対策出来そうだけどね」


「うーん……確かに、そうかも知れませんね」


 実際、既にある程度は考えてるんだけどね。


「透明化は闇雲ダーククラウドを使って闇で包んだら、不自然に人型の空洞の部分が出来るから、それで場所が分かる。こっちは暗視の力で闇雲ダーククラウドの中でも見えるしね」


 まぁ、ロア達は見えないだろうけどそこは僕の指示で何とかしよう。あ、でもゾンビは夜目が効くらしいからちょっとは見えるかもね。


「なるほど……じゃあ、視界封じはどうするんですか?」


 光と闇を用いた視界封じ。確かに、厄介ではある。


「まぁ、闇の方の視界封じに関しては僕は暗視で効かないけど、光の目眩しはキツイよね。視覚以外の感覚器官が強力なアースなら、あんまり効かないかも知れないけど」


 アースは……というか、モグラにはピット器官とかいう特殊な感覚器官が鼻らへんに付いているらしい。昔、ロアが斧でぐちゃぐちゃにしてしまったが、今は何とか使えるようにはなっているらしい。


「それに、最悪の場合リングの中を好き放題に爆発させまくれば良いしね。グランの爆発する結晶を撒きまくってればいつかは殺せそうだし」


 作戦とも言えないような作戦だが、何もしないよりはマシだろう。


「そうかも知れませんけど……あ、闇雲ダーククラウドに隠れたらどうですか? あの中なら光は遮られると思いますけど」


「確かに、太陽の光くらいなら遮ってくれるけど……闇雲ダーククラウドって、光球ライトボールとか打ち込まれたら一瞬で掻き消されちゃうんだよね」


 だから、相手の目眩しを無効化できる訳ではない。


「まぁでも、一発は無効化できますし……ロアさんとかなら、光球ライトボールを撃ってる隙に一瞬で倒せそうですけどね。」


 あー、なるほどね。僕らの隠れている闇雲ダーククラウドが光魔術で消された瞬間に距離を詰めて速攻で倒すって作戦か。


「うん、悪くないかも」


 良し、その人と戦うことになったら試してみよう。


「ふふんっ! そうでしょう? これでもA級冒険者ですからね! このくらい楽勝ですよ!」


 一瞬で調子に乗ったエトナから視線を外し、僕は残り少ないグラタンを一箇所に集めながら他のプレイヤーの対策について考えた。

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