暗黒魔術

 強力な魔物が跋扈する『鉄虎の森アイアンタイガー・ウッズ』だが、遠くからは僕の従魔達が森の魔物を殲滅している音が聞こえる。


「……ま、取り敢えず僕は魔術の実験をしようかな」


 と、独り言を呟きながら僕は後ろに振り向いた。


「一応言っとくけど、バレてるからね」


 僕は、青い獣のような耳が飛び出している茂みを狙って指先を突き出した。


闇光線ダークビーム


 瞬間、僕の指先に魔法陣が浮かび上がり、そこから親指くらいの太さの紫色をした光線が発射された。その光線は茂みの中から様子を伺っていたコボルトシーフを貫いた。


「切断」


 そして、僕はコボルトシーフを貫通し地面に穴を開けている闇光線ダークビームの発射元である指を上にスライドし、コボルトシーフの上半身を真っ二つに引き裂いた。


「さて、お次は……」


 コボルトシーフが死体となっているのを確認した僕は、背後から迫る木の姿をした怪物……トレントを次の標的とすることにした。

 トレントは森を守ろうとする習性のようなものがあるので、闇光線ダークビームの暗い光を見て僕を排除しに来たのだろうか。


「にしても、凄いね。どう見ても木だよ、君は」


 根を手足のようにして操ることを除けば木そのものだ。良く見れば、顔のようなものが木の幹に現れているのだが。


「まぁ、だけど……」


 トレントがその長い根を振り上げ、鞭のようにしならせて僕に打ち付けようとした。が、当然そうはさせない。


 闇壁ダークウォール


 左側から迫る根の鞭に、闇の壁が立ち塞がり、轟音を立てながらも僕を守った。


「君は今から、ただの木材になるんだけどね」


 僕は指先をトレントの少し左に突き出し、例の如く闇の光線を発射した。が、今度はさっきよりも太い。具体的に言えば、直径が腕の長さと同じくらいの光線だ。


「切断」


 暗く光る紫色の光線は、トレントの幹を左から右へと通り抜け、あっさりと両断した。


「……あー、どこでも使える技じゃないかもね。これ」


 しかし、闇光線ダークビームの威力はトレントだけでは抑えられず、貫通後のビームによって森の木を何本も伐採してしまった。犠牲になった魔物も一匹や二匹では済まなそうだ。


「まぁでも……うん。速いし、強いし、魔力消費も調整しやすくて、使いやすい」


 闇魔術のSLv.9で解放されるスキル、闇光線ダークビーム。これは中々使いやすいし、強力だ。今後の僕のメインウェポンになるかも知れない。場所は選ぶけどね。


「じゃあ、次の魔法。行ってみようか」


 轟音と共に何本もの木と魔物を伐採してしまった僕は、この森の魔物からすっかり恐れられてしまったのか、全く誰も近寄ってこない。


「しょうがないなぁ……僕から攻めるね」


 僕は木々の合間からこちらを見ている魔物達の内の一匹に狙いを付けた。何のことはないただのゴブリンである。


「良し、君に決めた。じゃあ、早速────ッ」


 瞬間、左側から尋常じゃない殺意と威圧感が襲った。しかし、僕はそちらを見るよりも先に、小跳躍ショートジャンプで後ろに飛び退くことにした。


「……危ないなぁ」


 予想通りというか、僕がさっきまで居た地面は何かで抉られたような痕が残っていた。

 犯人は分かっている。その痕の上で僕を睨みつけている全長三メートル程の鉄の虎だ。その虎の毛や皮膚は金属で構成されており、爪や牙に至ってはミスリルを超えるほどの硬さを持つらしい。更に動きは地球の虎よりもずっと俊敏で、力強いらしい。


鉄虎アイアンタイガー、この森のエリアボスだよね」


 レベルは44……僕一人でも、倒せないことはない。


「良し、君の相手は僕一人ですることに決めたよ」


 全身が大抵の金属以上に硬く、一部はミスリルを超える硬度の物質で出来ているこの虎を、僕はソロで迎え撃とうと決意した。そもそも、僕のレベルは60越えなんだ。本来、テイマーじゃなければ楽勝なはずだ。


 僕はAPを全て割り振り、続けて新たな力を使用した。


「……影身シャドウアバター


 僕の影が独りでに起き上がった。黒い影のような体のそれは、僕と同じ姿をしている。


「命令は一つ、あいつを倒せ」


 僕が僕に命令すると、黒い影の僕はニヤリと笑って頷いた。


闇光線ダークビーム


 影の僕は指先を鉄虎に向けると、そこから紫色の光線を放った。そう、影身シャドウアバターは僕の所持している闇系統のスキルならば自由に扱うことが出来る。

 と言っても、彼のステータスは僕のINTによって決まるので、僕と同じ威力の技を出せる訳では無い。因みに、今の僕のINTである500の場合、僕のステータスの50%となる。


闇光線ダークビーム


 影の僕の光線を躱した鉄虎の回避先に僕は闇光線ダークビームを発射した。


「ガルッ!?」


 しかし、10センチほどの穴を皮膚に開けたところで鉄虎はその場から飛び退いて回避した。


「避けられちゃったか……でも」


 幸いなことに、鉄虎の体は全身が金属では無いようだ。硬いのは皮膚や毛などの表面だけで、内部の肉はそこまでの硬さは無いように見える。


「だったら、作戦変更だね」


 硬いのが表面だけならば、内部にダメージを与えれば……臓器を潰せば殺せるはずだ。


「僕。あいつを拘束して、出来るだけ時間を稼いで」


 頼んだよ。と締めくくり、僕はインスタントスロットからマナポーションを取り出し、グビっと一息に飲み干した。掛けても効果はあるらしいが、飲んだ方が良い。


「ふぅ……久し振りに飲んだね」


 そもそも、MPが枯渇することは少ない僕だが、今から使う魔術は僕の全MPである400の内、300も消費するのでポーションで強引に回復しないと使えないのだ。


「『暗き底より来たれ、暗黒に満ちし肥の腕よ』」


 影の僕が闇騎ダークウォーリアーを五体召喚し、闇棘ダークスパイク闇壁ダークウォールに加え、闇腕ダークアーム等も駆使しながら鉄虎の行動範囲を狭め、拘束していく。


「『全てを壊し、潰し、蹂躙せよ』」


 鉄虎の体に剣を突き刺して縋り付くように動きを抑える闇の騎士も、一人また一人と倒されていく。今は、最後の一人になった闇騎ダークウォーリアーと影の僕が命懸けで鉄虎の動きを抑えている。


「『顕れろ、暗黒巨腕ダークネス・ギガハンド』」


 犠牲になった闇の騎士達の無念を晴らすべく現れたのは、慈悲なき無情の腕だった。僕の右側から現れた巨大な魔法陣から現れたのは、やはり巨大な腕だ。

 金色に光る幾何学的な文字が鎖のように絡みついた、大木のように太い漆黒の腕。


「……潰れろ」


 僕はその腕を……大木のように太く、深淵の底にあるが如く暗く黒いその腕を、僕は躊躇なく振り下ろした。

 大地ごと鉄虎が潰されていくような、なんとも形容しがたい凄まじい轟音が聞こえた。


「……ガ……ガル……ガルッ!」


 しかし、生きていた。鉄の虎は、苦しみながらもどけられた腕の下から起き上がってみせた。


「君、僕の仲間になる気は無い? 今なら入会オッケーだけど」


 僕は出来るだけ優しい語気で語りかけたが、鉄虎はその視線だけで殺せそうな眼で僕を睨むだけだった。


「そっか。まぁ、君を殺さないと君に殺されるからさ……許してよ」


 僕はそう言って、鉄虎の上にある硬く握られたままの拳を再度振り下ろした。


「……あ、レベル上がっちゃった」


 それが示す意味、それはつまり、あの鉄虎の死である。ついでにエリア踏破の称号も来たので間違いない。


「蘇生は無理そうだし、良いかな」


 あの巨人のような腕を二度も叩きつけられて死んだのだ。きっと、あそこには金属板のようになった鉄虎の死体があることだろう。


「……さて」


 僕の方の調整はこれくらいで良いだろう。後はもう、細かな調整と覚悟だけだ。

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