ノエル vs ネロ
ネルクスはダメで、一番強い奴ね……ミュウ、アース、グラン、ロア、全員手持ちにいないんだよね。だったら、この子かな。
「
すると、僕の斜め後ろの何もない空間からネロが現れた。
「アー、オヨビ、カ?」
「……あれ、ネロって人の言葉話せたっけ」
僕が驚いて言うと、ネロは横に首を振った。
「クキャ、クキャキャ。クキャキャ(いや、最近練習中ってだけだぜ。使えると色々便利だからな)」
まぁ、そうだろうけど。
「でも、ゴブリンなのに人の言葉を話せるなんて不思議だね」
僕がそう言うと、ネロはまた首を振った。
「クキャ、クキャキャ。クキャキャキャ。クキャキャ(いや、普通のゴブリンは無理だろうな。人に近いフォルムのハイゴブリンに進化した俺だから出来るだけだぜ。人と俺らの声帯はほぼ同じらしいからな)」
ふーん。まぁ、この魔物の言葉が翻訳されて伝わってくるの違和感が凄くてちょっと嫌だし、人語を喋れる子が増えるのは僕としても嬉しいけどね。
「……喋るゴブリンかよ。つくづく意味が分かんねえ」
ノエルは吐き捨てるように言いながらも、熱い戦いの予感からか口角は上がっていた。
「まぁ、割と初見殺しなところはあるかも知れないけど……頑張ってね」
「初見殺し? 大丈夫、そういうのは慣れてるほうだ」
ノエルは橙色の綺麗な刃を持った剣を構え、ネロを睨みつけた。
「俺はいつでも良いぜ、どっからでも来い」
ネロを見ると、ネロも準備が出来ているようなので僕は合図を送ることにした。
「おっけー、じゃあ行くよ? あ、一応言っとくけど殺しは無しね? それじゃ、よーい……始め!」
開始の合図と同時にノエルは距離を取り、その後は剣を構えて警戒しながらもジリジリと少しずつ距離を詰めている。
「ドッカラデモ、イッタナ?」
両者の距離は三メートルというところ、ネロはニヤニヤと笑いながらそう言った。
「あ? 言ったけど、それが────ッ!」
ノエルが僅かに気を抜いた瞬間、ネロの姿はそこから消え失せた……かと思えば、ノエルの背後に現れていた。
「……あっぶねぇ、マジで」
背後から振り下ろされる刃。しかし、ノエルは間一髪で気配に気付いて
「正直、想像以上に強いみたいだけど……勝てない訳じゃない」
勝てない訳じゃない……確かに、ノエル君も勝てる可能性はありそうだね。ネロの攻撃技は殺傷能力が高すぎる奴が多いから、殺さずに倒すってなると難しそうではある。
「クキャキャ?(それはどうだろうな?)」
ネロは笑うと、手を前に突き出して何かを呟いた。すると、ネロとノエルの間の空間が歪み、不自然に引き伸ばされたように変化する。
「……なんだ、それ。どうなってんのか、全然分かんね」
ノエルは警戒するようにゆっくりとネロに近づいていく。
「だけど、突っ込んでみなきゃ何か分かんねえし!」
拡張された空間の直前でノエルは一度立ち止まり、剣を構えてネロを睨むと、
「クキャ(
ノエルが拡張された空間の中心辺りに辿り着いた瞬間、ネロは闇の刃をノエルに放った。
「はッ、その程度余裕で避けられッ!?」
ネロが指を鳴らすと、五メートル程はあった闇の刃とノエルの間が一瞬で縮まった。
「……俺の、腕が」
ノエルと重なり合った闇の刃は彼の左肩辺りを通り抜け、バッサリと斬り落とした。そして、ノエルは地面に落ちた自分の左腕を呆然と見ている。
「クキャ、クキャキャ?(ご主人、こりゃ俺の勝ちってことで良いのか?)」
「ん? あぁ、ちょっと待ってね」
ネロが余裕そうな表情で僕に聞いてきたが、まだ投降の宣言はされてないし、利き手は残ってるからもしかしたらいけるかもしれない。
「ノエル君、試合は終わりで良いのかな?」
僕が訊ねると、ノエルは無言で剣を構えた。
「……えっと、ノエル君?」
かける言葉を探していると、ノエルは僕を一瞥もせずに口を開いた。
「続ける。まだ、奥の手があるから」
ノエルは、決意に満ちた様子でそう言った。
「お! ノエル君、遂にあれを出すんだねっ! 待ってましたっ!」
ユキも反応しているようだし、きっと何かあるのだろう。
「ふーん……ま、良いけどね。じゃあ、仕切り直すよ。……よーい、始め!」
僕が開始の合図を送ると、ネロは警戒するように剣を構えながら動き始めたが、ノエルは微動だにせず目を瞑った。
「……シロ」
ノエルが呟いた瞬間、ノエルの体から髪の色と同じ白色の粒子が溢れ始めた。その粒子は無くなったノエルの左腕部分に集まると、腕を象るように形を形成していき、純白の左腕が現れていた。
「クキャッ!」
それを見たネロは、慌ててノエルの前に転移し剣を振りかぶった。
「……クキャ?」
だが、その剣はノエルの前に集まった白い雪のような粒子の壁に阻まれた。
「正直、自分の力とは言い難いから使いたくなったんだけどな。でも、あれで終わるよりは、マシだろ」
ノエルから更に白い粒子が溢れ、まるでそこだけが豪雪地帯になったかのように雪のようなものが吹き荒れている。それを見たネロは流石に距離を取り、警戒するように観察し始めた。
「やっと分かったんだけど、お前のそれは空間魔術だろ? そっちのタネは分かったから、こっちも公平に教えとく」
ノエルは雪を固めて作ったような白い片腕を掲げた。太陽の光を浴びたその腕は、溶けも崩れもせずにただ銀色の光を反射している。
「俺のジョブは剣士でも、魔術士でも無い」
豪雪がノエルを中心に収束していき、その雪のような粒子はノエルの背後に集まっていく。そして、その粒子は何かを象るように固まっていく。
「────俺はノエル。精霊術士のノエルだ」
ノエルの背後に現れた白いナニカ。まるで、雪で作られたかのように白く、儚いナニカ。
「そして、こっちが俺と契約してくれた精霊のシロだ」
それは、精霊。一目見るだけで内に秘められた力の異常さが伝わってくるような、白い狐の姿をした精霊だった。
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