クオレリアル古代遺跡群

 山を降り、アーテル達と別れた僕らはカノシアラ霊園に来ていた。漸く全てが終わり、依頼の報酬を受け取りに来たのだ。


「では、約束通り……調査の成功分と解決できた分の報酬です」


 アライは先ず三万サクを袋から出し、続けて五万サクを別の袋から出した。


「それと、これは想像以上に危険な依頼となってしまった分のオマケです。合わせて十万サクになるようにしました」


 そう言って、アライは更に二万サクを手渡した。


「労力と比べると割に合わないかも知れませんが……私も、これから色々としなければならないことがありますから」


「いやいや、寧ろ貰いすぎなくらいだよ。この依頼が無かったとしても、レミックを見つけていれば倒してたと思うからね。この依頼はきっかけに過ぎないし、半分は返そうかと思ってるんだけど」


 そもそも、元々の調査報酬は三万サクだけだ。追加報酬については金額が明記されていなかったので、そこまで高くする必要はない。


「いえ、これは私からの感謝の気持ちでもありますから……受け取ってください」


 そう言って、アライは穏やかに微笑んだ。ニーツはアライの足に頭を乗せて目を閉じている。犬のスタミナがあっても流石に疲れたのだろう。


「……そっか、じゃあ貰っておくね。また、いつかお土産でも持って会いに来るよ。……そうだね、闘技大会が終わった後くらいに、会いに行こうかな」


「えぇ、是非そうしてください。でも、もしまた会うとすれば……今度は皆さんでゆっくりご飯でも食べましょうか。アーテルさんも呼んで、どこかのお店で美味しいご飯をいただきましょう」


 アライが言うと、エトナは何度も首を縦に振った。


「それは良いですね! ネクロさん、約束ですよ?」


「はいはい、分かったよ。みんなでご飯ね。約束するよ」


 アーテルとウーレ、アライとニーツにエトナとメト。そこにネルクスと僕も加われば、絶対に面倒ごとが起きる予感がするけど……まぁ、それも良いだろう。


「では……ネクロさん、メトさん、エトナさん、また会いましょう」


 アライはペコリと頭を下げた。足元のニーツもひょっこりと起きて軽く頭を下げている。


「はい! 絶対また会いましょうねっ!」


「うん、またね。闘技大会の後で、また会おう」


 ぴょんぴょんと跳ねながら手を振るエトナと、静かに頭を下げるメト。二人を眺めながら僕は、夜の霊園で微笑んでいた。






 ♦︎




 あれから数日後、僕はボルドロとウルカの協力によって海を往復し、グランとアースを回収した。本当はグラと誰かを交換しようかとも思ったけど、それだと既に伝えてたメンバーが可哀想だし……闘技場の中に全長50m越えの化け物を放ったらちょっと狭くなってしまう。

 確か、闘技場の直径が百メートルくらいだったはずだ。


「……さて」


 ここはサーディアからかなり離れた平原で、僕は従魔空間テイムド・ハウスの中にいる三匹の魔物に話しかけていた。その三匹とは、闘技大会に出場させる予定のグラン、ロア、アースである。


「闘技大会は一週間後に迫ってる訳だけど……今日は、みんなで連携する訓練をしようと思ってるんだ」


 周囲を森で覆われただだっ広いこの場所の名はクオレリアル平原、紫色の草と地面が特徴のこの平原には大量の魔力が溢れる地脈……通称、魔脈が通っており、その紫色に大地は魔脈の影響を大きく受けている為であると言われている。


 と言っても、ただの平原では無くそこら中に古代遺跡というものがあり、クオレリアル古代遺跡群とも呼ばれている。

 この平原に何十個も点在している遺跡はそれぞれが地下深くまで続くダンジョンのようになっており、屈強な魔物やゴーレムが中で待ち構えている。

 しかし、遺跡内には古代の遺産が多く隠されており、貴重なアイテムや強力な武器防具が発見されている。更に、遺跡の最深部には強力な守護者が待ち受けており、その先には驚くべきお宝があるということらしい。


「みんな、知ってる? ここら辺の遺跡って、ゴーレムとかを量産する工場だったらしいよ?」


 なんでも、この平原を通っている魔脈の力を利用し、自動で強大な魔力を供給することができるゴーレムの生産工場だったらしい。初めはゴーレムを自動生産する場所だったらしいけど、幾つも工場が壊れていき、魔力を貯める機構だけが残った結果、何にも使われずに増えていく魔力のせいで強力な魔物が大量発生し始めたらしい。

 だけど、壊れていない工場もまだあり、そこから現れるゴーレム達と、大量の魔力が篭った遺跡の地下から自然に発生する魔物達が日々この平原で争っているらしい。まぁ、それに加えてプレイヤー達も居るわけだが。


「……っと、そんな感じであんな風に遺跡の中からゴーレムとか魔物とかが出てくるってことだね」


 しかし、ゴーレムも長い年月を経ておかしくなったのか、魔物だけで無く人間も見ただけで襲いかかるようになっている。つまり、ゴーレムも結局他の魔物と変わらないということだ。

 因みに、ここのゴーレムはただの土のゴーレムなどでは無く、黄土色の特殊な石材で出来たゴーレムで、通常のゴーレムよりも遥かに強力で、冒険者やプレイヤー達からは遺跡ゴーレムと呼ばれている。


「まぁ、そんな訳でどうやって特訓をするかって言うと……」


 多種族が争い続ける平原の中心へと、僕は歩みを進めていく。


「ゴーレムに魔物……そして次元の旅人。彼ら全員を同時に相手してもらうよ」


 平原の中心にゆっくりと歩いて現れた僕を訝しげに見るプレイヤーや魔物達を見て、僕は微笑みながら従魔空間テイムド・ハウスを開いた。

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