完全なる人魔融合体

 ♦︎……グラ視点




 私が二体の巨人と五体の赤い化け物を、使い魔達と協力して何とか殺すことができた。犠牲は少なくなかったが、私の緑司祭ドルイドとしての能力を駆使すれば、使い魔なんて後で幾らでも作ることができる。


「キシャ……」


 さて……私が近くで戦っていたロアを確認すると、既にそっちも終わっていたようだった。あの小さな体でよくもあの化け物どもを倒せるものだ。


「……キシャ?」


 私の種族としての力と気配察知に何かが引っかかった。私たちの方に何かが向かってくる。それも、普通じゃない。さっきの巨人達とは比べ物にならないくらいの尋常じゃない何かが……近付いてくる。


「グォ……」


 私と同じく異変に気付いたのか、私の隣にロアが歩いてきた。

 そして、その何かはゆっくりと近付いてくる。あそこだ。あの通路から、何かが来るぞ。


「……見つけたぞ、貴様ら」


 通路の角から現れたのは、一見ただの人間だった。だが、溢れ出るオーラはどう考えてもただの人間のものではない。


「良くも私のモノを壊したな……A-AnimusアニムスK-Kingキングも殺された……いや、あの失敗作だけならまだ良い。だが、最も許せないのは……」


 と、そこで男は後ろを振り向いた。



「────貴様だ」



 振り向いた先には男の背後に転移してきたネロが居た。そして、男は振り返ると同時に拳をネロに押し当てると、黒い波動が拳から放たれてネロは思い切り吹き飛んだ。


「貴様が、貴様が居なければS-2は……我が最高傑作は死ぬことなど無かったのだ。貴様のような、薄汚いゴブリンが居なければなッ!!!」


 男はネロを凄まじい形相で睨みつけている。


「あぁ、貴様さえ居なければ……貴様は、貴様は我が帝国の発展と栄光を妨げた屑だということを理解しているのか!? いや、いないだろうなッ! 貴様のような屑に理解できる訳もないッ!」


 ネロは冷や汗を垂らしながらも剣を構えて警戒している。


「ならば、貴様の体に刻み込んでやる。我が帝国の栄光をッ! そして、消えることのない私の怒りをッ!」


 男の体から黒いオーラが湧き上がってくる。そして、男の顔は怒りの形相から少しずつ落ち着いた表情に戻っていく。


「……レミック・ウォーデッグ。それが私の名だ。正面から向かい合った敵に名乗らないのは帝国の流儀に反するから、教えておいてやろう。だが、この名を覚えておけるのは今日までだ。どうせ、貴様らは今から殺されるのだからなッ!」


 レミック。そうか、これが主の言っていた男か。となれば……絶対に殺さねばならんな。こいつの存在は、我が樹海を脅かしかねない。


「キシャッ!」


 私が声を上げると、私の周りにいる植物を素材にした使い魔達がレミックに向かっていき、更に緑司祭(ドルイド)の能力で地面から三メートル程の人型の木が十体も現れる。


「無駄だ」


 レミックが片手を上げると、その手は銀色の金属に変化した。そこに使い魔達が近付いていくと、その銀色の手はグニャリと歪み、それは棘のように各方向に伸びて使い魔達を一瞬で串刺しにした。

 しかし、それだけで死ぬほど私の使い魔達は弱くない。彼らは身動きが取れずに苦しそうにしながらももがいていた。


「……無駄だ。そう言っただろう」


 レミックが言うと、棘と化した銀色の手だったものは赤熱していく。


「キ、キシャ……」


 何かをしようとしているレミックに、私は警戒しながらも木の兵士達を向かわせる。


「消えろ」


 瞬間、赤熱していた銀色の棘が膨張し、金属の破片を撒き散らしながら爆発した。棘に刺されていた使い魔達は当然として、近付いた木の兵士達も爆発と飛散する破片の餌食となった。


「……ふむ」


 だが、その餌食となったのは自分の手だったものを爆発させた張本人であるレミックも同じだ。片腕は肩ごと吹き飛び、身体中に穴が空いている。

 しかし、そのボロボロの体はみるみるうちに修復されていき、十秒もする頃には完治していた。


「クキャ……」


 一瞬でやられた私の使い魔達と、高速で再生したレミックを見て、私たちは呆気に取られていた。強い。この男は強い。主に仕えているエトナという者ならば分からぬが、それ以外が一対一をすれば負けてしまうことだろう。


「ふむふむ。やはり、これは成功と見ていいだろうな……クククッ、漸くだ。理性を持ち、人の体を持ち、何体もの魔物の力を行使する……クククッ、私だ。アーテルでもS-2でもなく、私こそが完全なる人魔融合体なのだッ!!!」


 レミックは口元を歪め、狂ったように笑い始めた。


「あぁ……それはそうと、見ているだけでは私には勝てんぞ? ……まぁ、動く気が無いというのならば私から行くとしようか」


 レミックは一瞬でロアの前に移動し、拳をロアの胸に叩きつけた。


「グォッ!!!」


 黒い波動が拳から迸ると、ロアは思い切り吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「……キシャッ!」


 ここで止まっている訳にはいかない。通路の中で身動きが取りづらく、逃げることもほぼ不可能な私だが、最も耐久力があるのも私だ。ならば、私が行く他に無いだろう。


「何だ、私に勝てるとでも思っているのか?」


 振り向いたレミックが足を振り上げ、地面を思い切り踏みつけた。


「キシャッ!?」


 すると、私とレミックの間の地面が隆起し、私の頭は突如現れた壁に激突した。


「防ぐだけでは終わらんぞ? 少し固そうだが、先ずは貴様からだな」


 レミックが跳び上がって壁の上に立ち、片腕を上げると、それはさっきと同じ金属に変化した。しかし、さっきと違うところが一つある。それは、その金属の腕に黒いオーラが巻きついていき……黒い金属に変化したことだ。

 そして、その黒い金属の腕は段々と形を変えていく。二メートルはある巨大な刃だ。


「さて、死んでもらおうか」


 レミックが隆起した地面から飛び降りながら、刃と化した腕を振り下ろす。そして、その黒い巨大な刃が私の頭に触れる直前、私と刃との距離が一瞬にして数メートルも開いた。


「……何だ?」


 そして、私の前にネロがスタッと現れる。


「クキャ……」


 ネロは剣を構えると、目の前のレミックに斬りかかっていく。それを防ぐように、レミックの右腕は黒い金属のままで刃から腕の形に戻り、顔の前に構えられた。


「クキャキャッ!」


 しかし、いかにも固そうな黒い金属の腕はネロの剣にいとも容易く真っ二つにされた。


「あぁ、分かったぞ。その力、空間魔術だな? ゴブリン風情に使い手がいるとは思わなかったが……まぁ良い」


 言いながらもレミックの体は再生していく。


「クキャキャ……クキャッ!」


 だが、再生しきる前にネロは剣を振り続け、レミックの体をザクザクと斬り捨てていく。


「分からないのか? 貴様の攻撃に意味は無い。どうせ治るんだから、無────」


 ネロの斬撃がレミックの頭を縦に両断した。


「────駄だ。頭を潰されようと、何をされようと部位に依存していない私の完全な再生能力は無敵だ。一片でもあればそこから再生できる。だが、これは当然だ。私は数え切れないほどの魔物の素材と人魔混合体を取り込んできたのだからな」


 しかし、真っ二つにされた頭は直ぐにくっつき、元に戻った。


「キシャ……!」


 何をやっても駄目だ。これでは殺しようがない。私はそう思いながらもせめて拘束はできないかと地面から木を蔦のように伸ばしてレミックの四肢を掴んだ。


「あぁ、拘束も無駄だ。というか、この私にそんなもの……意味がある訳が無いだろう」


 すると、レミックの四肢が金属に変わり、スルリと拘束を抜け出した。


「さて、やはりあの蛇よりも先にこのゴブリンを殺すとしよう」


 レミックは言いながら、尚も斬り続けるネロに視線を向けた。


「ク、クキャ?!」


 すると、レミックの足元の地面が黒く変色し、そこから黒い触手が無数に生えてネロを襲った。しかし、ネロは転移によってそれを回避した。


「グォオオオッ!!!」


 そして、レミックの後ろから圧倒的重量の斧で切りかかったのはロアだ。その斧はレミックの脳天に直撃し、レミックはただの肉片となってそこら中に飛び散った。


「…………無駄だ。何回言えば分かるんだ? 少なくとも、この蛇は人語を解すと聞いていたが」


 十数秒後、飛び散った肉片は再集合し、大きな塊となったそれは直ぐにレミックへと戻った。服も着ているということは、この服も何かの能力で作られたものなのだろう。


「キシャァアアアッッ!!!」


 何かされる前に間髪入れずに襲いかかる。今度は頭を結晶化させてからの突撃だ。同時に木を鋭く生やし、風魔術で風の刃も放つ。三種類の攻撃を同時に捌くことは出来ないだろう。


「ふむ……その能力、結晶化だったか? 残念だが、単なるスキルは取り込めないのだよ」


 レミックが地面をもう一度隆起させて壁を作るが、今度は無駄だ。結晶化によって圧倒的な硬度を得た私の頭は容易く壁を砕き、レミックの体を吹き飛ばした。


「キシャァ!」


 更に、そこに風の刃と木が襲いかかり、レミックの体はもう一度グチャグチャになる。


「私の体に痛覚は殆ど無いからな。痛みも無いのだが……」


 レミックはぐちゃぐちゃの体を直ぐに再生させ、起き上がる。


「……あぁ、もしかして、何か時間稼ぎでもしているのか?」


 レミックは冷静な目で私たちを見た。


「……キシャ」


 あぁ、そうだ。私たちの目的は時間稼ぎだ。私たちは待っている。この不死身の化け物を殺すことができる、この勝負の鍵を私たちは待っているのだ。


「無駄だな。何をしようとも、この私を殺すことは……」


 レミックが呆れた顔で首を振った、その時。



「────ピキィ!」



 左の通路から、スライムのミュウが……この勝負の鍵が現れた。

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