暴食の緑蛇
ミスリルの大きな塊を木の根っこを使って破壊し、血走った翠緑の眼で僕たちを睨みつける大蛇をどうするべきか、僕は考えていた。
「……どうしよう」
大蛇の周りから大柄な木の兵士達が生み出されていく。木の兵士達の内の一体がメトに狙いを付け、その鋭い三本の枝のような指をメトに向けて突き出すが、メトは軽く回避して代わりに炎を纏った拳を叩き込んだ。
「うーん、八方塞がりというか、何というか……」
エトナが大蛇から放たれる無数の風の刃と地面から鋭く生える木の枝を回避しながら少しずつ鱗に傷を付けていく。だが、あの威力で攻撃しても大した効果はないだろう。
「ロアは、そういう手段は持ってないだろうしなぁ……」
ロアが鋼鉄の斧を振り回して周囲の木の兵士達を吹き飛ばす。そうやって包囲を解くと次は
「物理的な拘束じゃ窒息する前に逃げられるし、他の殺す手段は損傷が激しくなりすぎる……うーん、こうなったら超低確率になるのを覚悟して普通に殺すしか無いのかなぁ」
最初に見た時よりも一回り大きくなっているミュウは、木の兵士に覆い被さって溶解液で溶かしながら吸収している。
それを見た周りの木の兵士達がミュウに襲いかかるが、鋭い枝のような指で何度突き刺されてもダメージを負った様子は無い。指に開けられた穴は一瞬で塞がってしまうからだ。
一応、刺突耐性を持っていないミュウだが、その性質上耐性が無くとも刺突攻撃には強い。どころか、ほぼノーダメージだ。
「……いや」
ミュウだ。ミュウの力があれば、最低限の損傷であの蛇を殺せるんじゃないだろうか。
「ねぇ、ミュウ。ちょっとこっちに来てもらえる?」
ロア、エトナ、メト。もはや前線を抑えるにはこれだけで十分だ。ミュウが少し離脱したところでそこまでの影響は無いだろう。
今も、大蛇の巨体を生かした突撃をエトナとメトは簡単に回避し、ロアに至っては正面から斧を振り上げて大蛇を迎撃している。
「ミュウ、苦しかったり痛かったりしなかったらで良いんだけど……」
僕が作戦を話すと、ミュウはプルプルと体を揺らして頷いた。
さて、念の為にミュウに出来る限りの強化をかけておいて、と。
「良し、じゃあ……お願いね」
「ピキィ!」
ミュウは元気良く声を上げると、真っ二つに分裂した。そして分裂した片方のミュウが大蛇に向かって飛び跳ねていった。
「キシャッ! (何だ貴様ッ!)」
驚きながらも口元にとびこんできたミュウを吹き飛ばそうと魔術で暴風を吐き出した。
「ピキィ! (
が、吹き飛ばされたそばからミュウは跳躍し、再度大蛇の口の中に飛び込んだ。
「キ、キシャ、シャッ! (な、なに、何だ貴様ッ!)」
ミュウに口内を占領された大蛇はガボガボ言いながらも何とか吐き出そうとするが、どんどんと奥へ入り込んでいくミュウを止めることは出来ないようだった。
「ギ、ギシャッ、ギシャ! (ク、クソッ、スライム風情が!)」
苦しそうな声を上げながら大蛇がのたうちまわり、自ら体の中に
「……作戦通りだね」
更に、ミュウがスキルで生成した毒に蝕まれて少しずつ大蛇が弱ってきている。対するミュウはいくら大蛇が動いても不定形の体で潰されることは無い。
「キ、キシャッ、キシャ……(ま、魔物使いよッ、取引をしよう……)」
取引、ねぇ……。
「キシャッ! キシャ……キシャ! (契約だッ! ただ……条件がある!)」
「条件……何かな?」
僕が穏やかな表情で尋ねると、大蛇は焦ったような様子で言った。
「キシャ……キシャ、キシャ(私は……この森から、離れたくないのだ)」
「離れたくない……って言うと、ここに住んだままでいたいってことかな?」
大蛇は苦しそうにしながらも頷いた。
「そもそも、あんまり連れ回す気は無いけど……必要な時は来てもらうよ?」
「キシャ……キシャ、キシャ?(それは勿論だが……その、高すぎる頻度では無いよな?)」
慎重に尋ねる大蛇に僕は優しく頷いた。
「うん、勿論だよ」
「キシャ……キシャ、キシャッ(そうか……うむ、分かった)」
大蛇は毒に蝕まれる体で苦しそうにしながらも、頭を僕に差し出した。
「じゃあ、えっと契約内容を確認するけど……君は僕の従魔になるけど、必要な時以外はこのエウルブ樹海の中で過ごす、と」
「キシャ。キシャ……キシャシャ(うむ。具体的には……一月のうち十日まではこの森の外に連れ出すことを許そう)」
まぁ、一月で十日もあれば十分だよね。僕はうんうんと頷いた。
「じゃあ、契約内容はそれで……始めるよ?」
僕が聞くと、大蛇は頭を僅かに上下させた。頷いたのだろう。
「『我は汝が魂を認め、汝は我が魂を認める』」
綺麗な緑色の頭を触り、魔力を注いでいく。
「『汝は我が従僕となり、その魂を我に捧げよ』」
今度は、大蛇から僕に魔力が伝わってくる。
「『故に契約せよ。我を守る盾となり、敵を貫く矛となることを』」
段々と存在が近付いてくるのを感じる。
「『
瞬間、お互いの魔力が急速に互いに流れ始め、大蛇の頭に小さく青い紋章が刻まれていき……契約は完了した。
一瞬、なにか違和感があったが契約は間違いなく成立しているし問題は無いだろう。
《『称号:エウルブ樹海の踏破者』を取得しました》
テイムの完了と同時に称号を得た。効果はいつも通りのSPとAPだ。
「はぁ……本当に疲れるなぁ、これ。……あ、そうだ。ミュウ、もう出ておいで」
僕が言うと、ミュウの分裂した体が大蛇の口からドロドロと溢れ出てきた。
「ギ、ギシャ……(く、苦しい……)」
流石に出てくる際には大蛇も苦しそうにしている。だが、ミュウは無事に元通りになって大蛇は僕の従魔になったんだから良いだろう。
「良し、じゃあ先ずは僕の従魔として君を強くしていきたいんだけど……その前に、名前だけ付けちゃおうか」
僕は顎に手を当てて考えることにした。蛇かぁ……スネーク、サーペント……緑色だから、グリーン……いやぁ、無いなぁ。
そこで、僕はこの大蛇の種族名を思い出した。
「ボーショック、リョクーダ……いや、普通にグラで良いや」
変に捻ってもダサくなるだけなので、安直にグラと名付けておくことにした。
「む。ネクロさん……雑ネクロですね?」
エトナがニヤつきながら言う。どこか嬉しそうなのは何故なんだろう。
「まぁ、そういうわけで君はグラね」
「キシャ……キシャ、キシャシャ(グラか……いや、その前のよりはマシだろうな)」
確かに、ボーショックとかリョクーダとかよりはマシかもね。……リョクーダ、良くない? ラクダみたいで。
僕は密かにゴブリン達の一体にこの名前を付けることに決めた。
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