エウルブ樹海のボス
レーニャの武具屋を出た後、僕はエトナ達を連れて僕は再びエウルブ樹海へと向かった。狙いはエリアボスだ。
一応、さっき樹海に行った時も探していたのだが見つからなかったので誰かに倒されていたかと思われるが、数時間経った今ならもう沸いているだろう。
「ネクロさん、このスライムぽよぽよしてて可愛いですねっ」
スライムって基本ぽよぽよしてるけどね。あ、メトとロアとミュウも一緒に連れて来てるよ。
「さて、エトナ。ボスっぽい気配とか無い?」
「んー、今のところ近くには……あ、見つけたかもしれません」
エトナは顔をバッと上げると、僕らの左斜め前を指差した。
「こっちです。多分、こっちに真っ直ぐ進みましょう」
そう言ってエトナは先行し、樹海の奥へと進んだ。
数分間森を駆け抜け、僕たちは漸くこのエウルブ樹海のエリアボスと遭遇した。
「……でかいね」
それは、蛇だった。おおよそ五十メートル以上はあろうかというほどの巨体の蛇だ。その長すぎる体はエメラルドのように緑に艶めく鱗に守られており、今正に大きな口を開けて猪に襲いかかったところだった。
「そうですね。でも、エリアボスって大体大きいですから」
「サイズで言えば、
確かにそうだね。
「……解析(スキャン)」
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エリアボスなだけあって流石のレベルだ。
「こんにちは、蛇君。僕にテイムされる気はないかな?」
大蛇は咥えた猪を呑み込むと、ジロリと僕たちの方を見た。
「キシャァ……(何だ貴様ら……)」
大蛇の鋭い眼光が僕を睨みつける。眼も綺麗な緑色だった。
「僕はネクロ、ただの魔物使いだよ。後、こっちは僕の仲間ね」
「キシャァ……キシャシャ(そうか……ならば死ぬが良い)」
冷たい鳴き声でそう告げた大蛇は先頭に立っていた僕を丸呑みしてやろうと襲いかかってきた。
「グォオォオオオオオッ!!」
が、それを僕の従魔達が許すはずも無い。一番後ろにいたロアが
「キシャッ?! (何ッ?!)」
そして、斧を思い切り振り上げ、飛び込んできた大蛇の顎を打ち上げた。そこまでのダメージは無さそうだが、顎の鱗が一部砕けている。
「キシャシャ……キシャ!(確かに少しはやるようだ……ならば!)」
大蛇は後ろにズズズと這って下がると、大きく鳴き声をあげた。すると、大蛇の周りから木で出来た人型の化け物がニョロニョロと生えてきた。
身長三メートルくらいの大柄の人を模したそれの指は三本ずつしか無いが、異常に長く鋭く尖っている。恐らく、あの鋭い枝のような指が彼らの武器なのだろう。
うーん、あの蛇には木で出来た兵士を造り出す能力があるらしいが、現れた木の兵士は十体のみ。一度にそれ以上は作り出せないのかも知れない。
「メト、ミュウ。あの木の奴らを抑えて」
生み出された木の兵士はメトとミュウに任せることにした。残った僕たちはあの忌々しげに僕らを睨む大蛇を仕留めなければならない。
「VITは高そうだけど、鱗は壊せたし……エトナ、攻撃通ってる?」
大蛇に黒く染めた刃の腕を何度も振り下ろし、突き立てるエトナに聞いた。
「通ります。けど、体が大きすぎてこれ以上のダメージを与えるとなると……かなり隙が大きい技を使うことになりますし、それを使ったとしても蛇さんが真っ二つになるだけですね」
うーん、真っ二つは困るなぁ。流石にそこまでの損傷があるエリアボスをゾンビ化させるのは厳しいだろう。それに、第一目標はテイムだ。
「……ネルクス。いつものあれでやれそう?」
僕が自分の影に尋ねると、影から頭がニュルリと現れた。
「難しいですねぇ……体の形が細長くて、しかも異常に大きいですから、
いやぁ、流石にそれはねぇ……それに、幾ら外部の損傷が少ない技だとしても十回もあの威力を叩き込めばボロボロになってしまいそうだ。
「……蛇君、何したらテイムされてくれる?」
「キシャァ! (何をされても断る!)」
駄目だ。打つ手が無い。出来るだけ損傷を与えずに殺す方法……何か無いかなぁ。
「キシャッ! (
大蛇の口元あたりから荒れ狂う風の刃が放たれる。更に、僕らの足元から鋭く太い木の枝が生え、僕らを突き刺そうと襲いかかってきたが、ネルクスが僕の体を掴み、引っ張ると枝の刺突は外れ、ただの枯れ枝のように変化した。
しかし、そうしている間にも目前まで風の刃は迫っている。
「ネルクス」
「えぇ、我が主よ」
僕に放たれたそれは僕の影から現れたネルクスの闇を纏った拳の前に散った。
「さて、出来るだけ損傷が無いように殺す方法は……」
僕はエトナ達が大蛇を抑える中、思考の海に耽っていた。
「……あるじゃん。原始的な方法が」
そして、思いついた。別に、特殊なスキルで敵を倒す必要なんて無い。ただ、簡単なやり方で殺せるはずだ。例え魔物でも、この蛇は生物だ。だったら、これで傷一つ付けずに殺せる。
「メト、巨人にやったのと似たようなやり方でこいつを倒すよ」
「そうだね。どうにかこいつを拘束して、窒息死させよう」
そう、窒息だ。窒息させて、こいつを殺す。だけど、スルスルと動くこいつの動きを捉えて石の牢獄に閉じ込めるのは難しいだろう。
「皆、一瞬でもこいつの動きを止められるなら、お願いしたいんだけど」
僕が言うと、エトナと影の中のネルクスが声を上げた。
「うん。じゃあ、お願い」
「キシャ、キシャァ! (何をする気か知らんが、思うようにはさせぬ!)」
蛇が大きな声で鳴くと、地面からまた木の兵士達が生えてきた。今度も数は十体だ。やはり、同時に出せるのは十体が上限なのだろう。
「
だけど、それは当然僕も予想していた。大蛇が木の兵士を生み出したタイミングで僕は闇の騎士を作り出した。数は同じく十体だが、あいつらの足止めだけなら十分だ。
「二人とも、今だよ」
木の眷属達の守りが無い大蛇は無防備だ。鱗は硬くとも、その大きすぎる図体に攻撃を当てるのは容易すぎる。
「
「
大蛇の影に何本ものナイフが突き刺さり、次に幾つもの暗黒の鎖が大蛇に巻きつき、影から伸びた黒い触手達が大蛇を拘束した。
「キ、キシャッ?!(い、一体何だこれはッ?!)」
大蛇が混乱した様子で身を捩るが、影に縫い付けられて鎖を巻かれ、触手に掴まれている状態で幾ら力を込めても体は少ししか動かない。一応、影に刺さったナイフは少しずつ抜けかけているし、鎖もギシギシで音を立てている。
だけど、もう遅い。
「メト、今だよ」
「分かっています。マスター」
大蛇が拘束されている辺りの地面がボコボコと煮立ったように泡立ち始め、柔らかくなった地面は覆い被さり、飲み込むように大蛇を包みこんだ。
「
そして、大蛇を呑み込んだ泥のようなものは硬質化していき、虹色の光沢を放つ銀色の塊へと一瞬で変化した。
因みに、土をミスリルとかに変化させて売り捌いたりはしない。何故なら、メトの込めた魔力が尽きた瞬間に元に戻ってしまうからだ。
……まぁ、一応売ることは出来るんだけど、普通に詐欺だからね。少なくとも、今はやらない。
「エトナ、この中で大蛇が死んだら分かるよね?」
「はい、死んだら気配が薄くなっていくので簡単に分かりますよ」
流石、気配察知のスキルレベルが八なだけはある。
僕は大蛇が死ぬまで暇なので、地面に座り込み掲示板でも眺めながら待つことにした。
「……そういえば、蛇って呼吸を長く止められるとかだったっけなぁ」
数分経っても全く死ぬ気配の無い蛇に僕はため息を吐いた。メトの魔力はまだまだ余裕そうだし、やばそうになっても僕が『魔力譲渡』というスキルを取得すれば良いだけではあるが。
「あれ、ネクロさん。……なんか、反応がおかしいです」
「ん? やっと死にそう?」
僕は地面に座ったまま尋ねた。
「いや、違います。これは……マズいです! 全員、構えてくださいッ!」
エトナが大声で警告した瞬間、ミスリルの塊にヒビが入った。
「……そんなSTRありそうな感じには見えなかったんだけどなぁ」
僕はため息を吐き、立ち上がった。
「あぁ、なるほど……そういうことね」
ヒビが入り、パキパキと音を立てて崩れていくミスリルの塊の中からは、木の根っこのようなものが生えていた。
「キシャァアアアアアアッ!! (もう許さんぞ貴様らァアアアアアアッ!!!)」
完全に壊れたミスリルの塊の中から緑の大蛇が現れた。つまり、この蛇はミスリルの中から木の根を生やして、少しずつ食い破って出てきたということだ。
「第二ラウンド、かな」
僕は今日で何度目かも分からないため息を吐き、再度思索を巡らせることにした。
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