正体
敵は見えない。が、確かに存在はしている。動けば音がするし、地面に足跡もできる。ただ、ニーツが反応していないことから匂いは消しているのだろう。更に言えば、エトナ達が気付いていないので魔力反応も消せるのだろう。
(エトナ、メト。僕の気配は分かるよね? 僕の居るところに急いで来て。犯人と遭遇した。それと、多分今から戦闘になる)
僕は
「……答えずに、ゆっくり近付いて僕を殺そうって寸法かな?」
僕はため息を吐いた。そして、使い慣れたある呪文を口にした。
「
瞬間、この霊園の一部分が大きな闇の雲で覆われた。そして、全てを闇で覆ってしまえば、見えないものも見えるようになる。
「あれ、ネルクス。何でだろうね?
そう、透明でも存在しているならば
「ッ! ……これ以上は、魔力の無駄になる、か」
闇の中にある不自然な人型の空間が、足元からゆっくりと埋まっていく。
「へぇ、こんな顔だったんだね? アーテル」
アーテル・ウィリディス、それがこの男の名前だ。黒い髪に緑色の目。左目の下には一本の大きな切り傷が残っている。これと言って特徴の無い黒い外套を纏っており、その下から見える服やズボンも黒い。また、ベルトには何本かナイフが装備されていた。
因みに、名前をどうやって知ったかと言えば
「……ステータスを見たか」
知らないはずの名前を呼んでみたのに、動揺は無かった。ステータスを見られるというのは想定内だったのだろうか。
「さて、何でこんなことをしてたのか話してもらえるかな?」
「……ふん」
男は顔を逸らした。どうやら、話す気は無いようだ。まぁ知ってたけど。
「話す気が無いなら力尽くになるけど……行くよ?」
「我が主よ。捕らえさえすれば、我が能力の一つで記憶を読み取ることも可能です」
ネルクス、色んな能力持ってるなぁ。まぁ、悪魔の種族スキル的に当然ではあるんだけどね。やっぱり、悪魔って強いなぁ……だからこそ、あのなんちゃら教会は忌み嫌っているのかも知れないけど。
「そっか。だったら、出来るだけ殺さないように頑張ろうか。……殺しても、ゾンビにしてから話を聞けば良いしね?」
僕が微笑んで言うと、アーテルは初めて表情を強張らせた。
「ッ、惑わされるな……さっさと殺して、持ち帰る。それだけだッ!」
アーテルは腰のナイフを抜き、予想を遥かに上回る速度で迫ってきた。しかし、僕を斬ろうとしたナイフはネルクスに遮られた。
それにしても……持ち帰る、ねぇ? やっぱり遺体が欲しいのかな?
「
「無駄だ」
しかし、いつの間にか握っていた長剣を振り回し、
「……遊んでいる暇は、無さそうだな」
遠くから近付いてくるエトナ達の気配を察したのか、アーテルはそう呟いた。
「
瞬間、魔力の奔流がアーテルから立ち上り、身に纏う雰囲気がガラリと変わった。
「無属性魔術の身体強化ね。相当魔力の消費が激しいって聞いたんだけど、燃費はどう?」
僕は
「当然、最悪だッ!
アーテルは同時に六つの
「おやおや、私を無視ですか?
僕の前に立っているネルクスの姿が歪み、引き裂かれていく。
「「「「クフフフ、四人居れば流石に無視は出来ないですねぇ?」」」」
そして、引き裂かれたネルクスは四体に分裂した。四人のネルクスはそれぞれ不気味な笑い声をあげている。
「クソッ、流石に意味が分からんッ!」
アーテルが闇雲に四体の内の一体を何らかのスキルを使い素早く斬り裂いたが、斬られたネルクスから闇が溢れ、暗黒を噴き出して爆発した。
「ぐぁッ! な、んだ、これッ!」
そして、爆発の闇に巻き込まれたアーテルは負傷し、膝を突き、若干目を虚ろにしている。精神に作用する効果もあるのかもしれない。
「……クソッ、だが、まだッ!!」
そう言ってアーテルが手を胸に当てると、紫色の光がそこから溢れ出す。
「────任務は、遂行するッ!!!」
言葉と同時に、アーテルの体に周囲一帯の魔力が集まっていく。
「ネルクス、これって……ッ!」
「えぇ、そうですねぇ。これは、まずいですねぇ?」
そう言いながらも僕は
「────
瞬間、アーテルの体から紫色の波動が放たれ、ブワリと僕たちの肌を通り抜けた。その直後、アーテルの胸のあたりが強く光った。
「来るッ!!!」
僕は
「
「消え去れッ!!!」
ネルクスが手を前に突き出し、アーテルを閉じ込めるように漆黒の障壁を作り出し、それと同じタイミングでアーテルの胸のあたりから魔力の爆発が放たれた。紫色の爆発が一瞬で広がっていく光景を幻視した。
だが、これでは僕たちが助かっても霊園はタダでは済まないだろう。僕は歯を食いしばって爆発に備えた。
「────ネクロさんッ!」
「────マスターっ!」
爆発の瞬間、エトナとメトの声が聞こえた。メトは僕らの足元の地面を操作し、思い切りエトナ達の方に跳ね飛ばした。エトナは跳ね飛ばされた僕をキャッチし、安堵のため息を吐いた。ネルクスは僕の影に戻ったようだ。
「────
凛とした声が響き渡ると同時に、夜の闇のような漆黒の結界が霊園の一部を包み込む。そこで後ろを振り向くと、エトナ、メト、アライにニーツが居た。最後の結界はアライによるものらしい。
四重にもなった障壁を、ガリガリと削る音が聞こえ続ける。
「……終わった、ね」
「そうみたいですね……間に合ってよかったです」
それから約十秒後、遂に爆発は収まり、更に十秒後、障壁は消滅した。
「────え、生きてる?」
障壁が消えた後、爆心地であった墓場の上には……息を荒くしているアーテルの姿があった。
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