vs クラーケン
海の中から現れたのは青紫色の巨大なタコもどきだった。それは大小8本ずつの16本の触手を持ち、鋭い目で僕たちを睨んでいる。
「レン、行きますよ!」
「あぁ」
最初に動いたのはクラペコとレンだった。クラペコは船の後方から魔法を放ち始め、レンは一直線にクラーケンの頭に走っていった。
「メト、戦えない人たちを一箇所に集めて守って欲しい」
「分かりました。マスター」
さて、先ず優先すべきことは人命を守ることだ。僕らが戦ってる間にどっかの触手に一般人をぶっ飛ばされたら目も当てられない。
「エトナ、触手を斬りまくって誰にも被害が及ばないようにお願い」
「了解です!」
エトナにはクラーケンの攻撃手段と思われる触手を潰してもらい、他の戦闘員の仕事を楽にしてもらおう。それに、乗客が狙われるリスクも減る。
「さて、僕は……」
取り敢えず、僕は戦局を俯瞰し、人員の足りていないところを探しつつ、クラーケンの攻撃を見ることにした。
「小ちゃい方の触手は、杖の代わりかな」
大きい触手は、鞭のようにしなやかに動きエトナや他のプレイヤーを襲う。単に殴りつけて攻撃するようだ。
が、小さい方の触手は船の外側から氷の槍を飛ばしたり、水をレーザーのように放ったりしている。そして、よく見ると小さい触手の先端の辺りに一つだけ目のようなものが付いている。なるほど、小さい触手は魔法で大きい方の触手を支援しつつ、離れた場所でも敵を捉える為の目にもなっているのか。
どうやら、大小の触手は一本ずつでセットになって動いているらしい。
「……予想はしてたけど、再生力が高いね」
エトナは何度も触手を斬り飛ばしているが、十数秒も経てばにゅるりとまた生えてくる。それは大小どちらの触手も一緒のようだ。
てことは、さっさと頭を潰さないといけないんだけど。
「……苦戦してるなぁ」
クラーケンの頭を一人で相手しているレンだが、かなり苦戦しているようだった。
どうやら、あのクラーケンはかなり練度の高い闇魔術を使えるらしく、僕にとってはお馴染みの
更に言えば、クラーケンの頭の傍には大小の触手が一本ずつ守るように聳えている。
クラペコの支援もあり、致命的な事態にまではなっていないが、少しずつ
それにしても、水属性に氷属性、そして闇属性まで使えるとはなかなか多彩な魔物だ。ただ、部位によって使える魔術は違うようだが。
「まぁ、レンの支援かな」
他のプレイヤー達は後方で支援しているクラペコのお陰もあってなんとか耐えれそうだが、レンの方はいつ決壊してもおかしくない。
「……だけど、ちょっと相性が悪いなぁ」
闇魔術は闇そのもので作られている
「助けに来たよ、レン」
僕は
「……ネクロか。こいつら、強くは無いが硬い上に数が多い。丁度助けが欲しかったところだ」
そう言いながらも、レンは燃え盛る刀と振るう度に飛ぶ斬撃を放つ剣を両手に持ち、巧みに使いながら、
「良くそんな二本も剣を振れるね。僕だったら頭がこんがらがるよ」
「ん、お前だってナイフを二本使うんだろう」
僕はその言葉にため息を吐きながらナイフで
その間にレンは燃え盛る刀を異常な速度で振り続け、
「いやいや、ナイフと剣や刀じゃ取り回しが違いすぎるよ。普通の人には中々できないと思うけどね」
「……そうか。しかし、中々打開策が無いな。膠着状態だ」
確かに、そうだね……良し。変に渋るのはやめよう。
「ねぇ、レン。ちょっと動きが速くなると思うから覚悟してね」
「速くなる? 強化系の何かか?」
僕は頷き、指先をレンに向けた。
「
瞬間、レンの速度が二倍以上に引き上げられる。
「……これは良いな」
突然速度が二倍以上になったにも関わらず、レンは特に戸惑う様子も無く、一瞬でその速度に適応して
「……
僕はフリーになったクラーケンの頭目掛けて、闇の刃を放った。高威力の刃が鋭くクラーケンの頭を切り裂か……ない。
タコ頭の前に突如闇の壁が発生し、
「これは……本格的に困ったかも」
「……しょうがない、ここは一つ頼ろうかな」
そう言って僕はAPを振り、スキルショップから
「クゥウウウウッッ!!!」
猛スピードで迫る僕にクラーケンは慌てて二本の触手を向かわせた。
「あはは、遅いねッ!」
大きい触手が横薙ぎで僕に迫る。今までの僕なら対応に困っていたところかも知れないが、今の僕には
僕は甲板を払うように振るわれた大きい触手を飛び越えた。しかし、その先には魔法を使う小さい方の触手が待ち構えている。
「
小さい触手の先端から放たれた無数の
「クゥウッ!? クゥウウッ!!」
一瞬で頭のところまで辿り着いた僕に、クラーケンは驚きながらも抜け目なく
「
だけど、
「
僕は短剣術のスキルを発動し、
「クゥウウッ!?」
深く深く突き刺さったナイフだが、恐らくあまり効いていない。僕のSTRは100丁度で決して低くは無いが、逆に高くも無い。
だけど、これで終わるわけでは当然無い。
「ネルクスッ!」
ここまで近付いたのはネルクスの要望だ。ネルクスは悪魔だ。ネルクスが現れてしまえばその抑えきれないオーラに警戒され、頭は海の中に逃げ隠れてしまうだろう。
だから、見た目も弱そうであまり警戒されていない僕がサクッと近付いて、そこでネルクスを影から呼び出せば良い。
「えぇ、分かっていますとも。我が主よ」
「クッ、クゥウウウウッ?!」
黒い執事服の男から滲み出る余りにも邪悪なオーラは、魔物だけでなく一部の鋭い人間にも伝わり、レンやクラペコが一瞬僕らの方を振り向いた。
「
ネルクスの拳にドス黒い何か邪悪なものが纏わりついていき、その漆黒のオーラを放つ拳を思い切り逃げ腰のクラーケンに叩きつけた。
「クゥウウウウゥゥゥッ!!!」
ネルクスの拳を纏う黒いナニカが、クラーケンの頭に拳を伝って入り込み、浸透していく。
「…………クッ、クゥウ……」
あっという間に体全体に染み込んだ黒いナニカに肉体か精神か、そのどちらかを穢されたクラーケンはバタリと甲板に倒れ込み、少しビクビクと震えた後に静かに死んだ。
「……ネルクス、今のは?」
「クフフフ、
なんか、えげつない説明きたんだけど。
「うん、流石ネルクスだよ。じゃあ、レン達が来る前に僕の影に隠れちゃって」
「了解致しました、我が主よ」
そう言うとネルクスは染み込むように僕の影に入っていった。それと同時に、ズルズルとクラーケンの死体が重さに引っ張られて海に落ちようとしているのに気付いた。
「……『円環の理に未だ導かれぬ者よ、死を以って偽りの生を取り戻せ。
僕は確信していた。体に傷は少なく、死後1分も経っていない僕と同レベル程度の魔物、そして僕の死霊術のレベルも低くは無い。
ほぼ確実に、この魔法は成功する。
「……クッ、クゥ……」
「静かに。今から、死んで海に落ちたフリをしてね」
正直、死霊術というのはあまり評判が良いものではない。国によっては禁忌とされることもあるほどだ。なので、今クラーケンをゾンビ化したことはバレたくないのだ。
だが、広い海の中に放置してしまえば今度はクラーケンを発見できなくなり、一生放し飼いになってしまう……今までの僕ならば。
「大丈夫。後でまた
そう、ネルクスをテイムした僕の
その中でも、特に有用なスキルが……
「じゃあ、落ちて良いよ……あ、君の名前はウルカね」
僕が小声でそう言うと、クラーケンのウルカはズルズルと海の中へ落ちていった。
「……ネクロ。今、その死んだクラーケンと話していなかったか?」
僕の後ろから突然レンが現れ、話しかけてきた。
「んー、僕は独り言を言ってただけだよ?」
「…………そうしたいなら、別に構わんが……目の前でゾンビを生み出されるのは何となく複雑な気持ちになるな」
あれ、なんか完全にバレてるんだけど。
「え、ゾンビ? 何を言ってるのか僕には分からないけど」
「……何故しらばっくれようとするんだ? さっき、クラーケンの生死を確認する為に
……確かに、
「まぁ、プレイヤーにバレる分にはいいや。現地人にバレると流石に不審な目で見られるだろうから、一応隠してみたんだよね」
「……そういうことか。問題無い、黙っておこう」
そういうと、レンはクラペコの方へと帰っていった。
「さて、一波乱あったけど……何で、クラーケンがこんなところに居たのかな。そもそもクラーケンって深海に棲む魔物のはずなんだけどね?」
僕はウルカの沈んでいった海を睨んだ。
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