vs 6人のプレイヤー

 

 ♦︎……COO掲示板




【公式】COO掲示板・Ⅺ part.28


 1:*公式

 COOの公式掲示板です。次スレは自動で立てられます。

 また、過度な荒らし行為や一定以上の通報が集まった場合、掲示板にログインできなくなる可能性がありますので、予めご了承ください。


 178:Mr.シュガーサイト

 なんだ今の?! ワールドアナウンス?


 179:ぽおくチョッパー

 そもそもワールドアナウンス自体初めて聞いたわ俺


 180:レン

 いや、β版の頃にもあった。ネン湿原にしばしば出現していた暴風の怪鳥ストーム・ビッグバードをほぼ全員で協力して狩った時に流れた


 181:王舞・GOD

 うわ、やば。レン君さんじゃん


 182:ストルム

 レン君キタコレ。でもβ勢が力を合わせないと勝てないような相手に普通勝てるようなクランありましたかね?


 183:クラペコ

 お久しぶりです、レンさん。いや、あの頃は私たちも弱かったので今ならあのクソバードにも勝てるクランは幾つかあると思います。


 184:Mr.シュガーサイト

 うわ、なんでこんな人気もない11鯖にβ勢二人もいるの?


 185:レン

 適当に開いて入っただけ


 186:クラペコ

 私もそうですね。


 187:ゲヴェア

 でも、どこのクランだろうなあ。『龍餌会りゅうじかい』はモグラには興味なさそうだったし、倒したとしても公表しそうだから、違うかな。


 188:レン

 β勢にも俺の知ってる限り倒したそうな奴は居なかったな


 189:クラペコ

 私の知る限りもそうですね。


 190:ぽおくチョッパー

 だったら『Re:スレイヤーズ』も『黒剣の集いエペ・ノワール』も違うだろうな


 191:ストルム

 じゃあ虫人勢とかじゃねーの? あの界隈は人数も情報も少ないから良く知らねーけど。


 192:ドラン・ク・Drunk

 虫人勢なら公表するんじゃねーの? 不遇だし、仲間を増やしたがってるし、人口増やす為には公表すべきでしょ


 193:ナウ丼.com

 噂のネクロさんかもよ? あの人も情報少ないけど


 194:クラペコ

 あのオーガをゾンビ化させて従魔にしていましたし、名前から見てもジョブは死霊術士ネクロマンサーで間違いないでしょう。まぁ、蘇生擬きネクロマンスの成功率に補正がかかるのはテイマーもありますが、どちらにしても基本的に本体は非力なので、どう頑張っても土竜アースドラゴンを倒せるとは思えません……。


 195:レン

 あのオーガ倒しに行こうと思ってたらもう掲示板で討伐隊組み終わってた。辛い。


 196:クラペコ

 貴方はランギル公国にいるんじゃないんですか? 態々ファスティアまで来るつもりで?


 197:レン

 俺のAGIとスキルならファスティアくらい一瞬だ。


 198:クラペコ

 そもそもあのオーガはゾンビ化する前から私も狙ってたんですけどね。倒そうと思った頃には余りにもレベルが離れてましたから、やめたんです。でも、強くなったなら今度行ってみましょうかね


 199:レン

 話を聞く限り五人パーティで行くみたいだった。多分俺がファスティアに着く頃には生きてない。


 200:クラペコ

 あら、生きていましたら一緒に倒しますか?


 201:レン

 あのオーガが生きてたら、それでもいい。


 202:ピクノフ

 あのー、イチャイチャやめてもらえます? 書き込みしづらいんですが(憤慨)


 203:Mr.シュガーサイト

 リア充爆発しろ(憤死)


 204:レン

 言っておくが、俺のリアルはかなりクソだ。リア充ではない


 205:クラペコ

 そもそもイチャついた覚えはありませんね。適当なことを言うと、PKしますよ?


 206:ナウ丼.com

 クラペコさんが言うと洒落にならねえww






 ♦︎……ネクロ視点




 取り敢えず光属性耐性を取得させておいた僕は、現在悩んでいた。


「どうしよう、これ」


 悩んでいた。というか、思考が止まっていた。主な原因は、鼻が潰れて使い物にならなくなった所為か、閉じた目がはっきりと開いた元土竜、現在は腐敗土竜アースドラゴン・ゾンビのこいつの所為だ。


「グオ? (取り敢えず全員分のSP振るべきでは?)」


「……うん。そうだね。ロアの言う通りだ」


 僕はやけに長い意味が込められた一鳴きに首を傾げながらも、SPの振り方について考えた。取り敢えず、蠍のアスコルから行こう。






 数十分後、スキル振りが完了した。先ずはアスコル。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


Race:腐敗大蠍 Lv.33

Job:──

Name:アスコル

HP:137

MP:102

STR:78

VIT:152

INT:99

MND:103

AGI:70

SP:0


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.5】

【MP自動回復:SLv.4】

【毒液生成:SLv.3】

【光属性耐性:SLv.1】

【結晶化:SLv.1】

【高速再生:SLv.1】


□アクティブ

【土魔術:SLv.5】

【尾撃:SLv.4】

【結晶術:SLv.3】


■状態

【従魔:ネクロ】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 先ず、高速再生から説明しよう。

 これは50SPを必要とするスキルで、体の欠損や傷などを高速で回復するパッシブだ。毒などの状態異常によって減ったHPは回復できない。

 次に、毒液生成、尾撃。読んで字の如く、体内で毒を作るスキルと、尻尾で攻撃するスキルだ。体内で作った毒を尻尾を通じて注入する。この二つは元からアスコルが持っていたスキルだ。尾撃で尻尾の先を飛ばし、毒状態にする。


 次に、結晶化。

 文字通り体を部分的に、又は体全体を結晶化するスキルだ。これも50SPを消費する。結晶化された体はカッチカチになり、防御力、攻撃力、共に上昇する。但し、使用中は結晶化している箇所に比例して常にMPが減り続ける為、過度な使用は厳禁。スキルレベルアップで硬度とMP消費効率が上昇する。

 そして、結晶術。

 これは結晶化と土魔術SLv.5を所持していることを条件に取得できるスキルだ。能力は単純で、自分以外の何かを結晶化させたり、結晶を生成して発射したりできる。

 但し、生物を結晶化させる場合は直接触れる必要がある。


 こんな感じである。結構いい感じに仕上がったんじゃないかなと思う。懸念点はMPが枯渇しそうってところかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Race: 腐敗大蚯蚓ジャイアントワーム・ゾンビ Lv.27

Job:──

Name:レタム

HP:79

MP:156

STR:38

VIT:46

INT:119

MND:54

AGI:122

SP:0


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.4】

【MP自動回復:SLv.6】

【溶解液生成:SLv.3】

【光属性耐性:SLv.1】

【気配遮断:SLv.1】


□アクティブ

【水魔術:SLv.5】

【闇魔術:SLv.3】

【回復魔術:SLv.2】

【強化魔術:SLv.2】


■状態

【従魔:ネクロ】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 特に語るようなこともないけど、闇魔術は便利だから闇腕ダークアームが取得できるSLv.3まで取らせた。回復魔術と強化魔術は名前の通り、HPを回復させる魔術と、味方を強化する魔術だ。

 レタムはこんな風にサポート特化にしてみた。それと、出来るだけ敵に狙われない方がいいかなって理由で気配遮断も取った。SLv.1までしか取れなかったけどね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Race: 腐敗岩禿鷲ロックバルチャー・ゾンビ Lv.28

Job:──

Name:ボルドロ

HP:98

MP:102

STR:103

VIT:101

INT:87

MND:78

AGI:179

SP:0


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.3】

【MP自動回復:SLv.3】

【光属性耐性:SLv.1】

【高速飛行:SLv.3】

【結晶化:SLv.1】


□アクティブ

【風魔術:SLv.5】

【突撃:SLv.2】

【重力魔術:SLv.1】


■状態

【従魔:ネクロ】

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 取得したのは高速飛行、結晶化、重力魔術。

 やりたいことは簡単。結晶化で頭を硬くして、高速飛行と重力魔術を使って突撃する。それだけだ。唯一の誤算といえば、重力魔術が100SPも必要だったくらいだ。

 まぁ、きっと、コストの分は強力だろう。うん、きっとね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Race:オーガ・ゾンビ Lv.38

Job: 重戦士ヘビー・ファイター Lv.7

Name:ロア

HP:218

MP:88

STR:233

VIT:179

INT:78

MND:112

AGI:116 

SP:0


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.5】

【MP自動回復:SLv.3】

【光属性耐性:SLv.2】

【悪食:SLv.2】

【気配察知:SLv.3】


□アクティブ

【斧術:SLv.4】

【体術:SLv.2】

【跳躍:SLv.3】

自己強化セルフブースト:SLv.3】

【咆哮:SLv.3】

【投擲:SLv.1】


■状態

【従魔:ネクロ】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うん、異常にステータスが上がってる。

 まぁ、スキルは気配察知と投擲を取得したよ。本人の希望で。ロア曰く、今回の特訓で敵の位置を把握することの大事さを知ったらしい。

 まぁ、アボン荒野は空からも地面からも奇襲が来るからね。かなり大事ではある。僕も後で取ろうかな。

 それと、投擲は敵に斧を投げつけた時に結構有効な手段だと気付いたらしい。斧を投げるのはあんまりやらないで欲しいけど……まぁ、斧じゃなくても石とか投げればいいからね。遠距離攻撃の手段は実際大事だ。飛ぶモンスターや、遠距離からチクチク撃ってくる魔術士を潰せるし。



 そして、最後。大トリを飾るのはこのモンスター。土竜アースドラゴンだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Race: 腐敗土竜アースドラゴン・ゾンビ Lv.53

Job:──

Name:アース

HP:423

MP:375

STR:232

VIT:567

INT:374

MND:512

AGI:178

SP:460


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.5】

【MP自動回復:SLv.3】

【麻痺毒生成:SLv.2】

【光属性耐性:SLv.1】

【高速再生:SLv.1】


□アクティブ

【爪術:SLv.3】

【土魔術:SLv.6】


□特殊スキル

土竜アースドラゴン


■状態

【従魔:ネクロ】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……実は、まだSPを振っていない。


 名前はアース、それと光属性耐性、高速再生だけは付けた。だけど……残りのSP460、何に使えばいいんだろう。ステータスは防御力がかなり高いってこと以外、あんまり特徴もないし……うーん、なんていうんだろ、僕の身の程に合ってないって感じがするなぁ。まぁ、エトナの方が強いんだけど。


「アース、なんか……希望ある?」


「キュウゥ……(特には……)」


 うん、そっか……。どうしよう。


「キュ、キュウッ!(いえ、そういえば……)」


「ん、何かある?」


 ……何気に礼儀正しい喋り方だよね、アース。


「キュウ、キュキュウ。(私もあるじと同じ、死霊術を賜りたく存じます)」


「ん? 別に良いけど、なんで?」


「キュウ、キュウウゥ?(単純に、主の真似をしたいからに御座いますが?)」


「……うん、そう。分かったよ」


 僕は思考を放棄し、死霊術を与えることにした。


「じゃあ、SLv.4まで上げとくよ」


「キュッ」


 アースは頷いた。……アース、見た目と声が合ってないよね。


「じゃあ、あとは……どうしようか?」


「キュ、キュキュウ(後は、眼を良くするスキルを賜りたく存じます)」


「分かったよ、それなら……視覚強化、かな」


 取り敢えず、SLv.2まで上げてみた。そこそこ高くて、合計70SPだ。視覚強化はパッシブだが、強化の程度を自分で操作できる為、視力を逆に下げることも出来るらしい。使う機会はなさそうだけど。


「どう? アース。いい感じ?」


「キュ、キュウゥ! キュキュウ(はい、いい感じに御座います! 初めての感覚です)」


 そっか、まぁ、モグラって目が見えないらしいからね。


「どうしよっかな、あと270かぁ……んー、なんか面白いのは……」


 あー、取り敢えずこれ付けとこうかな。


「はい、これ【悪食】ね。一杯食べたら強くなれるよ」


「キュッ」


 うん。アースも多分喜んでくれてるみたいだ。


「んー、後は順当に土魔術でも上げとこうかな」


 僕は限界までSPを突っ込んで土魔術をSLv.8まで上げた。余りは20だ。


 何も考えずに上げてみたけど、どんな感じか見てみたいな。


「アース、ちょっと試してみてよ」


「キュッ」


 直後、アースの周辺に10本を超える石の槍が発生し、近くにいた野生の岩禿鷲ロックバルチャーに命中する。更に続けて地面から土のゴーレムと石のゴーレムが複数出現し、落ちた鳥をタコ殴りにした。


 鳥が動かなくなると、ゴーレム達は砕け散って消えた。


「ゴーレムか……凄いね。形って変えられるの?」


「キュ、キュキュウ。(変えられますが、大きい程必要な魔力は上がります)」


 20、20かぁ……。


「じゃあ、跳躍ジャンプ瞬歩ステップ取っとくね。SLv.1だけど」


「キュッ」


 頷いた後、新たな力を簡単に試すアースを見て、漸く一段落したと思う僕だった。






 ♢




 現在時刻は13:50。そろそろ危なくなってきたところだが、テイマーのスキル【従魔空間テイムド・ハウス】にボルドロ以外を収納し、ボルドロに掴んでもらって飛ぶことで何とか辿り着くことができた。

 やっぱり平原は良いな。緑と魔物だけが広がるこの空間を眺めて思った。特に、あの鬼畜な荒野を乗り越えてきた後なら尚更そう感じてしまう。


「よし、それじゃあ……どうする?ロア。アース達と一緒に戦ってみる?」


「グオ。(いいえ)」


 見るも恐ろしい顔を横に振るうロア。


「グオ、グォオ。グオ。(これは、私の試練です。手を借りては意味がない)」


「……そっか、何か、うん。大人な考えだね」


 手を借りることしか能がないテイマーからは何も言えんです。


「それじゃあ、まぁ。あとは頑張っ──」


「グォオオッ!!」


 激励と共にロアの肩に手を伸ばした瞬間、ロアは斧を振り翳した。

 何事かと思い周囲を確認すると、真っ二つに分かれた矢が地面に落ちていた。

 矢の飛んできた方向には、六人の男女がいた。

 矢をつがえた弓をこちらに向けている女、レミエ。

 その隣で刀身の反った剣を二つ構えている男、エイマー。

 刀を持った和装の男、閏柳。

 茶色いローブにフードを被った男、つちたまん。

 身の丈程もある大剣を持った男、ふぁんぐ@ドラム缶。

 そして最後に、何故か銃を二丁も持っている男、バレル@ドラム缶。

 女一人、男五人の合計六人パーティが待ち構えていた。名前から察せられる通り、全員プレイヤーだ。


「へぇ、随分とご挨拶だね。……とかで、良いのかな?」


「グ、グオ……(わ、私に聞かれましても……)」


 そっか、残念。


「あんた、そのオーガの仲間な訳? だったら殺すけど」


 六人パーティ、唯一の女が僕に言った。


「それ、普通撃つ前に言わないかな? まぁ、別に良いけど。ていうか、聞いてた情報よりも一人多くない? それに、そこの二人なんか見たことあるような気がするんだけど……なんだっけ?」


 僕は双剣のエイマーと、弓使いのレミエを指差して言った


「エイマーだ。俺とレミエを見たのはギルドでだろうな。あそこで女を侍らせていたのを見た。それと、一人多いのはこの女の所為だ。レミエが無理矢理にでも付いてくるって言うからな……はぁ、みんな済まない」


「うんにゃ、全然構わん」


 つちたまんが杖を取り出しながら言うと、他の面々も頷き、得物を構え始めた。


「まぁ、お喋りは終わりってことかな? でも、残念ながら僕は戦うつもり無いんだよね。これは、ロアの試練だからさ?」


「知ったことか。お前ごと斬り捨てるだけだ」


 ……うん、逃げよう。


従魔空間テイムド・ハウス。ボルドロ、僕を頼んだ」


 ボルドロを呼び出し、滞空するその足に僕がしがみ付くと、ボルドロは溜息を吐いてから全力で飛び始めた。


「てめッ! 逃すかッ! 大跳躍ハイジャンプッ!」


 跳んでくる大剣使いのふぁんぐの攻撃を、闇槍ダークランスで迎え撃ち、墜落させた。


「うーん、面倒だなぁ……あ、そうだ。ボルドロ、方角覚えといてね」


 クケェッ! とボルドロが鳴くのを確認し、僕は闇雲ダーククラウドを発動した。


「お、おいッ! 何だよ、あれ。空に、新しい雲が出来たぞ?」


「……正に暗雲立ち込めるって、感じかぁ?」


 今まで一言も喋らなかったバレルが言う。直後、銃弾が雲の中を何発かすり抜けて行くのが分かった。恐らく、適当に撃っているのだろう。


「グゥゥゥォオオオオオオオオオッッ!!!」


 僕を攻撃した怒りからか、過去最大の咆哮が響いた。

 白と黒の雲を抜けた遥か高みから、平原のレッサーオーガ達が一斉に集まってくるのが見えた。咆哮の効果だろう。


「まぁ、ロアなら大丈夫だよね。ね? ボルドロ」


「クァ、クァッ。(ああ、そうだな)」


 ……ボルドロって、そんな喋り方なんだ。






 ♦︎……バレル視点




「クソ、来るぞッ! 仲間も呼びやがったッ!」


 あのロアとか言うやつの叫びに反応したのか、遠くにいたレッサーオーガまで集まって来やがった。反対に、オークやコボルト達は一目散に逃げ出している。


「グォオオッ!!」


 叫びを上げて俺に斬りかかるオーガ。


「任せろッ!!」


 回避も間に合わず、咄嗟に銃を構えたところで相棒のふぁんぐが斧を受け止めた。


「STRにはなぁ、自信があるんだよッ!!」


「グゥ? グオォオオッ!!」


 鍔迫り合いを始めたふぁんぐにオーガは首を傾げたが、それだけだった。筋肉を隆起させたオーガは、思いっきりふぁんぐを吹き飛ばした。


「──隙あり」


 が、全力を斧に込めてしまったオーガは体勢を崩し、後ろから迫った閏柳に斬られ……無い。オーガは崩れた体勢のまま跳躍し、俺たちと大きく距離を離した。

 代わりに近づいて来るのは20を軽く超えるレッサーオーガの群れだ。


「レッサーオーガは俺に任せろッ! だけど、あと一人は欲しいなッ?!」


「僕が行くッ! 僕の刀じゃ、あのオーガの斧は受け止められないッ!」


 レッサーオーガの群れを受け持つのはつちたまんと閏柳らしい。


「行くぞ? 土魔術の極致、魅せてやる…… 変地創兵クリエイトゴーレム多重召喚マルチプルサモン石塊兵ストーン・ゴーレム


 つちたまんが杖を掲げると、地面に現れた魔法陣から等身大の石の人形が10体出現した。レベルは9らしい。


「僕も行こうか……『血刀の主よ、咲き乱れし血の花を以って永久とこしえの舞を踊らん。斬血乱舞ブラッディ・ダンス』」


 閏柳の全身を薄く血のように赤いオーラが覆った。


「……無駄ッ!」


 背後から棍棒を叩きつけようとしたレッサーオーガが一太刀で斬り伏せられる。


「無駄だ。今の僕は、斬れば斬るほど強くなる。君たちの血を糧にしてッ!」


 確かに、閏柳が敵を斬る度に彼を包む赤いオーラは濃くなっている。


「俺達も、任せてちゃいれねーなァ、こりゃ」


 それぞれ柄の違う二つの銃を構え、自己強化セルフブーストを済ませてしまったオーガにぶっ放す。結果はハズレだが、問題無い。何故なら、


「今のは威嚇射撃だからなァ!!」


 俺は再度引き金を引き、オーガに瞬歩ステップで急接近してぶっ放した。今度はオーガの両肩を二つの弾丸が撃ち抜いた。


「グォオッ!! グォオオオオオオオッッ!!」


 オーガは叫ぶと俺に突進し、斧で薙ぎ払う。何とか予見できていた動きだったので回避できたが、恐らくもう一度は難しい。


多段射撃マルチショット追尾する風の矢ウィンド・ウェイ・アローッ! 死になさいッ!」


「下がれッ! 破城大剣撃キャッスル・ブレイクッ! 地震撃クエイク・ソードッ!!」


 迫る三本の風の矢はオーガの皮膚に突き刺さり、大剣による大振りな振り上げと、振り下ろし。前者は斧をかち上げ、後者はオーガの足元に大きな揺れを齎した。


「グォオッ!! グゥォオオオッ!!!」


 オーガは咄嗟に跳ぼうとするが、不安定になった地面では上手く跳べずに地団駄を踏んだ。


「今だッ! 爆裂弾エクス・バレットッ! 風烈弾ハリケーン・バレットッ!」


 左の銃からは爆発する弾丸を、右の銃からは強烈な風を纏った弾丸を撃ち出した。


「グォオオォォッッ!!!」


 オーガは体を捩り、何とか爆発する弾を回避したが、風烈弾ハリケーン・バレットは避けられず、胸を大きく抉られた。


「グォオオッ!!」


「何だとッ!!」


 オーガは衝撃に身を押されながらも、自分の体から矢を引き抜いて投げつけた。凄まじい速度で迫る矢はレミエを撃ち抜いた。


「クソッ! 大丈夫かレミエッ!」


「待てやエイマーッ! そんなんじゃ死にはしねェ!」


 オーガの背後から迫っていたエイマーが思わず声を上げた。

 だが、声を上げるまでも無くオーガは気付いていたようで、斧を振り回し、真後ろのエイマーにぶち当てた。当然のようにエイマーは吹き飛んだ。


「グォオオオオオオオッ!!」


 エイマーが吹き飛んだのをオーガは満足そうに見届けた後、凄まじい跳躍力で大ジャンプした。恐らく大跳躍ハイジャンプだろう。


「だけどよォ、お空は銃撃の的でしかねえぜ鬼いさんッ!!」


 再び射撃、今度は火炎弾ファイヤー・バレット風烈弾ハリケーン・バレットだ。火炎弾を風の力で押してやる。


「グォオオオッ!!」


 オーガは音速を超えて迫る弾丸を斧を振り下ろして受け止めた。だが、風烈弾ハリケーン・バレットで増幅された火炎弾ファイヤー・バレットを受け止めきれる筈も無く、火炎弾は斧の刃を少し溶かし、均衡を保てずに斧の真横をすり抜け、オーガの胴体を撃ち抜き、傷跡を焼いた。


 だが、オーガはそれで終わらず、新たにできた傷跡を気にする様子もなく空中から石を投擲し始めた。


「クソッ! 食らうかよッ! そんなのよォ!」


 俺は爆裂弾エクス・バレットで迫る石ころを迎撃し、破壊した。だが、狙われていたのは俺だけでは無かったようだ。


「ぐぁあああああッ!!」


「ふぁんぐッ! クソッ!! 石投げなんざセコい真似しやがってッ!」


 大剣で石を防ごうとしたふぁんぐは、大剣でカバーできていない足を貫かれて転び、そこに更に二発の石弾を撃ち込まれた。


「…………より来たれ根源の波動ッ! 受けてみよ弓神・アルクセウスの力の片鱗をッ! 致命の一矢リィタル・サギッタッ!』」


 止めの燃える斧が空から振り下ろされる時、倒れていたレミエから黒と赤のオーラが渦巻いた黄金の矢が放たれた。

 矢は斧と激突し、斧にヒビを入れてオーガを吹き飛ばした。


「ナイスだレミエッ! 喰らえッ! 黄金魔弾ゴールデン・バレットッ!」


 放たれた黄金の弾丸は紫色のオーラを纏っていた。効果は単純な威力増強。こいつは完全に狙ったところに当たる時にしか使わねえが……それは今だッ! あいつはヒビ割れた斧を呆然と眺めている。


 だが、弾丸が当たる直前、オーガはニタリと笑い、跳躍した。


「クソッ! 外れたか……だがッ?!」


 宙に浮いたオーガを狙撃しようと狙いを定めた時、ヒビ割れた斧が俺に向けて放たれた。

 矢のような速度で迫る斧、銃を撃つ体勢に入ったせいで急に動けない俺、これは……避けられねぇ。

 俺は少しでも身を捩って回避しようとするが、このままだと俺の右半身が吹き飛ぶコースで決まりだろう。俺が生存を諦めたその時、俺の体はフワリと宙に浮いた。


「あんたは死んじゃ、駄目だッ──」


 俺を突き飛ばした大剣使いは、鋼鉄の斧の餌食となり、ぐちゃぐちゃに破壊された。肉塊と化したふぁんぐは、中指をオーガに立てて見せると、遂に力尽きて消滅した。


「ふぁんぐゥウウウウウウウウウウウッッ!!!」


 したり顔で更にヒビの入った斧を拾うオーガに、俺は弾丸をぶち撒けた。


「ふぁんぐを、てめェ良くも……オラッ! 死ねェ!」


 特殊弾ですらない普通に弾丸を撃ちまくった、が。当たったのは精々二、三発程度だ。クソ、折角繋いでもらった命を、無為にしちまう……クソッ!


「まだだッ! 勝手に諦めるな大馬鹿がッ! 俺とレミエを信じろッ! あの二人だってレッサーオーガを片付けたら戻ってくるッ! 今は……今は耐え凌ぐんだッ!」


「そうよ、信じなさい。もうMP無いけど」


 最後に気の抜けることを言いやがった女の頭を叩き、銃を構えて頭を冷やした。


「さて、第二ラウンドの始まりだッ!!」


 最早、俺たちの心は勝利以外を信じていない。これで終わりだ、クソ野郎ッ!






 ♦︎……COO掲示板




【公式】COO掲示板・Ⅺ part.30


 1:*公式

 COOの公式掲示板です。次スレは自動で立てられます。

 また、過度な荒らし行為や一定以上の通報が集まった場合、掲示板にログインできなくなる可能性がありますので、予めご了承ください。


 242:ぽおくチョッパー

 で、どうだった?


 243:つちたまん

 いやぁ、長く苦しい戦いでしたね。


 244:フロス・T・マット

 前スレ見たぞ。で、どうだったんだ?


 244:ふぁんぐ@ドラム缶

 正直、俺は途中退場したからどうなったかまだ知らん。そういえばフレンド登録してなかったしこのチャットでしか話せないことに気づいたわ


 245:れじょんだりー

 うん。で、どうだったんだ?


 246:閏柳

 ……みんなと戦えて僕は良かったと思ってる。結果なんて関係無いさ。


 247:レン

 で、どう?


 248:クラペコ

 私も報告を待ってましたよ。どうでしたか?


 249:エイマー

 惨敗だよクソが悪いかよおおおおおおおおおおッ!!!


 250:ゲヴェア

 お疲れ。正直勝つと思ってたわ。


 251:クラペコ

 ということはレン。私と討伐に行きましょうね? ね?


 252:レン

 ……面倒なことになった。


 253:リヤス

 あ、イチャイチャは余所でやってもろてぇ、掲示板がピンク色になる上に話も進まないんでやめてもろてぇ、イチャイチャ、やめてもろてぇ


 254:クラペコ

 リヤスさんですね。名前は覚えました


 255:レン

 分かった。俺も、覚えた


 256:リヤス

 冗談ですよ!? PKされるぅぅぅぅ! 勇者様助けてェ!


 257:レン

 NPCの勇者のことなら碌な奴じゃない


 258:フィール

 なぁんで勇者と関わりがあるんですかねぇ……


 259:イフォン

 なぁんでメインの話が全く進んでないんですかねぇ


 260:エイマー

 あぁ、分かったわ。説明するぞ


 261:アイン

 漸くあのオーガの話が聞けるのか。オナシャス


 262:エイマー

 先ず、あいつのスキル構成は基本的に変わっていない。大きく変わっているのはステータスだ。何故この短期間で強くなっていたかっていうのは後で説明する。


 263:つべるんっ!

 強くなってたのも意外だけど、理由まで分かってるのか


 264:エイマー

 あり得ないほどステータスは高いと思う。まず、オーガのレベルは38。レベル33でSTR特化のふぁんぐが押し負けた。相手のSTRは少なくとも200以上。ちなみに自己強化セルフブースト使う前でこれ。つまり使うともっとヤバい


 265:Mr.シュガーサイト

 おぉ、終わってたのか。つか負けたんかいww……マジかよ。え、マジで?


 266:閏柳

 6対1で惨敗しましたけど、何か?


 267:つちたまん

 いや、人数不利は俺達だったけどな。さっき新しい能力は無いって言ってたが、恐らく咆哮で仲間を呼べるようになってる


 268:レン

 咆哮なら多分、呼ぶこともできるけど自分と同じ系統の種族の格下を従わせるスキルがあったはず


 269:エイマー

 あぁ、そういうことかもしれんな。それで、あいつは石をめちゃくちゃ投げてくるようになった。恐らく、投擲スキルだ


 270:イフォン

 なんか全体的にスキルのチョイスが渋いな


 271:エイマー

 分かる能力はそれくらいだな。後は戦闘の経緯だ。


 272:ぽおくチョッパー

 面白おかしく頼むぞ


 273:エイマー

 俺にそういうのは無理だ。簡単に説明するぞ。

 先ず、最初に攻撃した銃使いの仲間が攻撃された……名前出していいか?


 274:ふぁんぐ@ドラム缶

 全然いい。寧ろ名前出して欲しいんじゃないか? 絶対自分からは言わないだろうけど


 275:エイマー

 おっけー、とりあえずその銃使いのバレルが攻撃されたんだ。


 276:つべるんっ!

 いや、銃って何だよ。どうやったら手に入んの?


 277:レン

 レアだけど、売ってる店には売ってるし、ダンジョンにも偶にあるらしい。俺は一回遺跡で見つけた。売ったけど


 278:エイマー

 それでな? ふぁんぐがそれを何とか受け止めて庇ったんだが、簡単に弾き飛ばされた。そして吹き飛ばした隙をついて閏柳が攻撃したんだが、ジャンプで逃げられた。そこで俺たちは二手に分かれた。レッサーオーガもとい雑魚処理班と、オーガ処理班だ。レッサーオーガ処理班は閏柳とつちたまんが担当した。閏柳は無双してたし、つちたまんは圧倒的な魔法を見せつけてたな。これを見て俺たちはちょっと浮かれてしまった。バレルがかなり前に出てオーガに狙われちまうんだが、何とか俺たちでフォローした。けど、その流れで弓使いのレミエが負傷しちまう。自分の放った矢を投げ返されてな。これも投擲だ。


 279:Mr.シュガーサイト

 投擲有能だな。俺もとってみようかな?


 280:閏柳

 やめといたほうがいいんじゃない? 便利かもしれないけど、STRが無いと大した威力は出ないと思うよ。


 281:エイマー

 そして、レミエがやられるのを見て動揺した俺も斧を食らって負傷した。それからオーガは大ジャンプするんだが、その隙をバレルが撃ち抜いてダメージを負わせる。だけど、あんまり効いてはないみたいで上から石ころを投擲してふぁんぐにかなりのダメージを負わせた。そこにトドメを刺そうとオーガが斧を持って落ちてくるんだが……


 282:ふぁんぐ@ドラム缶

 めっちゃこわかったです


 283:アイン

 怖そう《小並感》


 284:エイマー

 レミエが見事に斧を撃ち抜いて押し返すんだ。斧にはヒビを入れ、オーガも吹き飛ばすファインプレーだ。


 285:エイマー

 そしてオーガはそのヒビ割れた斧を見て呆然と立ち尽くすんだが、それは罠でまんまと攻撃したバレルはヒビ割れた斧を投げつけられる。鋼鉄でできた斧だから、食らったら恐らく即死だ。


 286:レン

 結構いいところで区切ってくるな


 287:クラペコ

 そうね。続きが気になるところで止めてくるわ。無駄に


 288:エイマー

 無駄にって言うな。これでも工夫してやってる。

 それで、斧を投げつけられたわけだが、ふぁんぐがバレルを庇い、死んじまうんだ。そして、それを見たバレルは激昂する。


 289:リヤス

 めっちゃ庇いますやん、ふぁんぐさん。


 290:ふぁんぐ

 まぁ、このパーティタンクやれる奴がいなかったから、自然に俺がそういうムーブをするしかなくなったな。パーティのバランスは正直悪かった。


 291:閏柳

 確かに、土魔法使い、銃士、弓士、双剣士、大剣士、刀士。サポートとかヒーラー、タンクも居ない。全員火力要員なんだよね。強いて言うなら土魔がサポートできるくらい?


 292:エイマー

 確かに、バランスは相当悪いな。まぁ、合わせるのも無理だったが。

 それで、激昂したバレルは無鉄砲に突撃するんだ……鉄砲だけにな?

 そして、当然のように死にかけるんだが……俺とレミエがなんとかカバーし、生存する。まぁ、この後は特に面白い展開も無いが


 293:閏柳

 待って、その鉄砲だけにな? って何? ねぇ、何なんだい?


 294:エイマー

 ……良し、続けるぞ。

 この後、レミエが跳躍で跳んできたオーガに瞬殺され、バレルが蹴り飛ばされた石ころで顎を打たれて、仰け反ったところを狩られ、戻ってきた二人も満身創痍で速攻殺され、一対一になった俺もその後すぐに死んだ。具体的には、殴り殺された。


 295:アイン

 うん、無双だな。これは


 296:閏柳

 後、回復力も異常だろうね。僕が来た時には外傷は殆ど無くなってた。唯一残ってたのが傷跡が焼けてるところだけだったね。


 297:レン

 待て、最初のステータスが上がってた理由って何だ


 298:エイマー

 あぁ、それはだな。こいつの飼い主が原因だ。


 299:閏柳

 噂のネクロ君だね。噂の


 300:エイマー

 先ず、俺たちがネン平原に来た時、あのオーガと一緒にネクロは立ってた。ていうか、オーガと話してた。


 301:レン

 待て、話してた?


 302:クラペコ

 それって、死霊術師じゃないですよね?


 303:レン

 あぁ、モンスターと意思疎通ができるのは現状で魔物使いモンスターテイマーだけだ。


 304:エイマー

 じゃあ、ネクロはテイマーってことか。名前紛らわしいなぁ!

 えぇと、それでな? ネクロ、ネクロさん? は、速攻でレミエが射撃したせいで俺たちに気付いたんだが、オーガに守ってもらって、余裕の表情で俺たちを見て、言ったんだ。「へぇ、随分とご挨拶だね……とかで、良いのかな?」って。因みに、オーガは困った表情をしてたな。スクショもある。


 [オーガの困り顔のスクショ]


 305:Mr.シュガーサイト

 いや、ちょっと間抜けで可愛いけどいらねえから! 需要ねえから!


 306:つちたまん

 正直、俺は意外だったな。女を侍らせてるって聞いたから、もっとキモいのを想像してたけど。まぁ、ちょっと一般人とはズレてそうってくらいかな?


 307:エイマー

 そうだな。多分結構ズレてる。

 それで、ネクロは普通に逃げようとした。「これはロアの試練だからね」とか言ってな? 俺たちが逃がすまいとすると、ネクロは虚空から岩禿鷲のゾンビを呼び出してそいつの足を掴み、速攻で逃げ出した。闇魔法で煙幕みたいなのも張ってたな。


 308:レン

 闇雲ダーククラウドだな。それで、岩禿鷲を持ってるってことからアボン荒野でレベル上げをしたと考えた訳か?


 309:リヤス

 ん? 確か、土竜が討伐されたのって……あ(察し)


 310:レン

 そうか、さすがにアボン荒野でレベルをあげたとしても早すぎると思ったが……ユニークボスを狩ったということか。これは舐められない相手だな


 311:クラペコ

 ふぅん、なるほど。これは一度会ってみる必要もありそうですね。


 312:エイマー

 それと、俺たちがくることも分かってたみたいだな。恐らく、掲示板を見て知ったんだろうから、この掲示板も見られてる可能性は高い。


 313:アイン

 別に見られて困るものもねえし


 314:閏柳

 ネクロくーん、いぇーい! 見てるぅ〜?!






 ♦︎……ネクロ視点




 そろそろ夕方に差し掛かりそうなファミレスの中、僕と安斎は既に料理を片付け、現在はちびちびとジュースを飲んでいた。


「はぁ……見てるよ。悪い?」


「何を溜息吐いてんだお前は。無事クリアしたみたいで良かったじゃねえか」


 いやぁ、駄目だね。


「今回の僕の行動はさぁ、テイマーとして失格だったんだよ」


「何がだよ」


 全部だよ。と言いたくなるのを何とか堪えた。


「いやぁ、だってさぁ。いくら試練って言ったって、陰からいつでも助けられるように見とくのがテイマーってもんだよ。今回の僕の行動は我が子を谷に突き落として放置しただけだぁ……はぁ……無いわ、僕無いわ……」


「別に、勝てる見込みはあった訳だし良いんじゃねえのか? 実際、掲示板を見るにかなりの圧勝みたいじゃねえかよ」


「圧勝とか、圧勝じゃないとかじゃないんだよねえ……それに、僕今までテイマーとしてまともに指示も出してないしさぁ……」


「いや、自主的に行動して結果を出せるならそれがベストだろ。下手に命令する必要あんのか? 俺はいちいち指示を出してるのを聞いて行動を予測できる方がありがたいけどな。PvPをする上では、だが」


「PvPとかPKとかあんまし興味ないよ……そもそもこの掲示板の流れがどんどん広がっていくのも嫌だしさぁ……助けて安斎ぃ……」


「お前がそんなヘニョヘニョなのも珍しいな……」


 頭を掻いて安斎は言った。


「はぁ、このファミレス結構高いなぁ……もう、何もかも嫌だよ……」


「あぁ? 別にファミレスの代金くらい俺が奢ってやるよ」


「あ、ホント? ありがとう安斎。なんか元気出た気がする!」


「てめぇ、嵌めやがったな?!」


 思わず席を立つ安斎にススス、と駆け寄る店員。


「あの、お客様、店内ではお静かに……」


「あぁ、はい! すみません! ほんとすいませんねぇ! なぁ真ォ!」


「あはは、うるさくしてごめんね。安斎はいつもこうだから、ね……」


 痛々しく目を伏せると、店員は同情の眼差しで僕を見た。


「それは……お疲れ様です」


「いや、大丈夫だよ。慣れてるからね。それより迷惑かけてごめんね」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ! ごゆっくりどうぞ!」


 店員が奥に消えていくのを見て、安斎は呆然と呟いた。


「……え、俺が悪いの? お前じゃなくて?」


「まぁ、そういう見方もあるよね」


「そういう見方しかねーよ? ていうか何をお前店員さん味方につけてんだよ! しかも結構可愛い子をさぁ!」


「安斎、僕の職業ジョブを忘れたの? テイマーだよ? あれくらい余裕だって」


 呆れる安斎を宥め、僕はしたり顔でオレンジジュースを飲んだ。

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