配信者と掲示板
♦︎……???視点
「えー、どうも皆さんこんにちは。ドらどラです」
俺はDry Rad Lion、略してドらどラ。自分で言うのも何だが、登録者87万人の大手ストリーマーだ。元々は50万人程度だった登録者も、COOの動画を上げ、配信をするたびにグングンと伸びていった。よって、このゲームは俺の中で、そして配信者業界の中で最も熱いコンテンツなのだ。
そして、今まさにCOOの配信を開始したところだ。見る見るうちに視聴者数が増えていく。やはりCOOは最強のコンテンツだ。
「今日はネン湿原北部、通称ネン平原と言われる場所でレベルを上げようかなと思います」
そう言って俺はオークやレッサーオーガがチラホラと見える平原を指差した。眩しい太陽の光が低く茂った草花に降り注いでいる。
「まぁ、こんな風にそこそこ強くて経験値も悪くないモンスターが多いので、3時間くらいここで狩りをしつつ、ついでに新しいスキルの紹介もしていけたらな、と思います」
と、言い切ったところで茂みからコボルトが飛び出して来た。
それを冷静に回避し、体勢を崩したコボルトに
「はい、ネン平原はこんな風に茂みからコボルトが飛び出してくることが多いので注意しましょう。気配察知のスキルを持っている方は簡単に分かるので問題ないですが」
ミスリルの剣を何度か振り、血を落としていると、三匹のオークが槍を持って俺を包囲していることに気づいた。
「あー、この仕草癖になっちゃってるんですよね。血を落としてもどうせ直ぐ別の血が付くんですけどね、癖ですよ、癖」
適当な口調で喋り続ける俺に苛立ったのか、オーク達は槍を深く構え、咆哮を上げながら同時に突撃してきた。
「えー、こういう時の一番の対処法は……
剣を構え、スキルを発動すると、俺の体は高速で回転し、一周する頃にはオーク達の首は全て離れていた。よっしゃ、格好良く決まった。リスナーの反応も悪くない。
「はい、上手く決まりましたね。ただ、ミスリルの剣じゃないとここまで綺麗には斬れないので、剣によっては槍の先を切り落とすくらいにしておいた方がいいかも知れませんね」
普通の鉄の剣じゃ無理かな、と思って言ってみたが、『いや、そんな器用な真似一般人はできねえから』とコメントで突っ込まれてしまった。正直、練習すればこのくらいは誰でもできると思うんだけど。
「あ、今回の目標言ってなかったですね。まぁ、ここに来た理由はレベル上げなんですけど、これは目標って言うより目的ですね。それで、今回の目標なんですけど、このネン平原に潜むオーガを倒すことですね。別にエリアボスとかではないらしいんですけど、ここのオーガがそこそこ強いらしいです。レベルは25程度とのことなので、30の俺なら問題なく倒せると思います。というわけで、オーガを探しつつ新たに取得したスキルを紹介していきましょう」
そう言って俺は真っ赤な肌を持つレッサーオーガに剣を向けた。気付いたレッサーオーガが石の斧を構えるが、もう遅い。
「先ずはこれからいきましょう。風魔術よりSLv.5スキル、
レッサーオーガに向けられた俺の指先に緑に光る激しい風の奔流が発生し、幾重にもなるそれは指先から発射されると、一つの強烈な風の刃となりレッサーオーガを切り裂いた。
「うーん、レッサーオーガともなると流石に一撃では倒せませんでした。まぁ、ここまで削れば
今度は溜めも必要ない風の槍が射出され、レッサーオーガの胴体を貫き、やがてレッサーオーガは絶命した。
「はい、こんな感じですね。
と言ったところで、何か嫌な予感がした。
「あ、あれは……ッ! オーガです! 早速遭遇しました! オーガですッ!!」
慌てて振り返った先にいたのは鋼鉄の斧を持ち、全身が少し暗い赤色で角が生えた巨漢。喉の位置が黒いドロドロの何かで覆われ、そこを起点に身体中に枝分かれするように黒い線が走っていること以外は俺の知っているオーガと同じだった。だが、明らかに普通ではない。
急いで剣を構え、
「えっと、毎回言っていますが、今のはバックステップと呼ばれる技術で
説明している途中、突如目の前まで迫ったオーガに驚き声が詰まる。
咄嗟に剣を構え、振り下ろされた斧から身を守るが、その圧倒的な衝撃には耐えられずに5mほど吹っ飛ばされてしまう。
「やっばいですねこれ、予想以上です。ていうかこいつ本当に……」
本当にオーガなのか? そう思い
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オーガ・ゾンビ (ロア) Lv.29
■状態
【従魔:ネクロ】
《閲覧権限がありません》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レベル29、予想とそこまで変わらないが……オーガ・ゾンビか。文字通り、オーガをゾンビ化させたらそうなるんだろうな。
「……ん? ちょっと待て、お前──ッ!」
容赦無く降りかぶられた斧を
「従魔って、従魔ってどういうことだッ!? テイムされてるのか? それともアンデッドだから死霊術で仲間にされたのか? クソ、なんだこれッ! なんかのイベントかよ?!」
一瞬で距離を詰めては斧を振るうオーガの猛攻を凌ぎ続ける俺だったが、配信中なので頭に浮かんだことはちゃんと口に出して言った。本当はそんな余裕無いが。
「クソッ、一回距離を取ってやるッ!
俺は俺とオーガとの間に
「
とりあえず簡単な魔法で近付けないように牽制する。
「グゥオ、グオォゥ、グゥオオッ!!」
俺の魔法を軽々と回避したオーガが何か呻くと、赤い光と青い光が一瞬だけオーガを包み込んだ。待てよ、あのエフェクトどっかで見たことがある。確か……、
「
意味が分からん、クソッ!
「
指先に緑の光を放つ風の奔流を集める。そしてそれを放とうとした時、オーガが飛んだ。
「飛んだッ?! い、いや、跳んだのかッ!?」
見たところ、15mは跳んでるぞ!? ありえねえだろマジでッ!!
「いや、空中にいる今がチャンスだッ! 発っ──」
「グゥォォォオオオオオオオッッ!!!」
なんだ、これ、体が、
「ぁ、ぇ……ぃ、まの、咆哮、か?」
オーガの咆哮により集中を崩した俺は、指先に溜めていた暴風の塊を崩してしまった。その場に一瞬だけ強い風が吹き荒れるが、それで終わりだ。
天高く舞い上がったオーガが、鋼鉄の斧を空に向けて掲げ、落下すると同時にそれを振り下ろすのが見えた。斧は仄かに赤いオーラに包まれていた。落下が進むたびにその赤は強まり、斧が俺の体を砕く頃には、赤は激しい炎になっていて、メラメラと燃えていた。
視界が炎に包まれ、体がメチャクチャになったのを感じながら思い出す。
「……確か、今の技は斧術のSLv.4スキル、
もう舌が回らなくなったのを確認した俺はゆっくりと目を閉じ、俺の体を燃やす炎と、足から俺を食らうオーガに身を任せた。
ボロボロに、負けた、けど。結構、取れ高は、良かった、かも、な……。
どこか満足した気持ちのまま、俺は静かに息を引き取った。
♦︎……COO掲示板
【公式】COO掲示板・Ⅺ part.27
1:*公式
COOの公式掲示板です。次スレは自動で立てられます。
また、過度な荒らし行為や一定以上に通報が集まった場合、掲示板にログインできなくなる可能性がありますので、予めご了承ください。
456:フロス・T・マット
ドラドラの配信見たか? 昨日の深夜のやつ
457:ナックパック
ドらどラは動画しか見てないわ。配信は信者キモいから無理
458:つちたまん
いや、コメント消してみればいいだろ
459:ナックパック
いや、コメントあるのが配信の醍醐味みたいなもんじゃね? 少なくとも俺はコメ消したら見る気無くす
460:フロス・T・マット
オッケー、誰も見てないのは分かったわ
461:ふぁんぐ@ドラム缶
俺は見たよ、やばかったなあのオーガ。
462:ウィスパー・ウッズ
いや、ネン平原のオーガの話かよ。あれは同レベル程度で挑むと大体負けるって程度だろ。俺も一回ボコられたわクソが
463:フロス・T・マット
いや、ちげえんだよ。多分ちょっと前の話をしてるんだろうけど、あそこのオーガ、今アンデッド化してんだよ。ゾンビな
464:つちたまん
弱体化やんけ
465:ふぁんぐ@ドラム缶
いや、めっちゃ強くなってるよ。レベルが10上でも勝てないくらい。
466:シインク
嘘つけなんでゾンビ化して強くなるんや
467:フロス・T・マット
分かんないけど、あのオーガ従魔になってたし、ネクロとか言う奴の。
468:エイマー
多分そのネクロ、プレイヤーだよ。うちのレミエが言ってた
469:ナックパック
誰だよレミエ。いや、そうじゃなくてプレイヤーってマジ? ソースは?
470:エイマー
詳しいこと言うとあんまり良くないから言わないが、ファスティアの冒険者ギルドでメチャクチャ目立ってた。強い仲間も居たからオーガ・ゾンビを従魔にしてても不思議ではない。あとレミエは俺のフレンドだ。
471:ダル源・老いゲン
俺も配信見てたんだけど、何がやばいってあれ、ハイジャンプとショートジャンプとか斧術SLv.4のバーニング・ストライク、咆哮スキルまで持ってるし、スキルが多彩すぎるとこだよ。マジで頭おかしい
472:閏柳
そうですね。僕も見ていましたが、セルフブーストまで使えるのは流石に意味が分からないですね。多分、主のネクロさんが何かしたんじゃないでしょうか。
473:つちたまん
ていうかゾンビなのに日光ダメージ食らってないのって光属性耐性持ってるの確定じゃん。スキルレベルまでは分からんけど
474:ウィスパー・ウッズ
なんだよメチャクチャ強くなってんじゃんオーガ。元々強かったのに絶望か? はい、もうネン平原には行きませーん!
475:シインク
見てきたわ。最後ドラドラ食われてね?
476:フロス・T・マット
ドらどラな。確かにめっちゃ食われてるわ。プレイヤーだから完食される前に消えただろうけど
477:閏柳
普通の食事だったらいいんですけど、そうじゃなかったら結構まずいですね。
478:ふぁんぐ@ドラム缶
何かまずい要素ある? グロいから? そりゃそうだ
479:シン
悪食か
480:閏柳
はい、それです。何となく取得にSP100以上かかるスキルを眺めてた時に見つけたスキルなんですが、食えば食うだけステータスが上がるスキルです。
481:つちたまん
いや、それシャレにならなくね?
482:シン
一応、一回の食事でのステータス上昇はそこまで高くない。それに、食える量にも限界がある。元がオーガだからかなり食いそうだが
483:フロス・T・マット
お、おい、あいつが平原からネン湿原に出てきたら初心者終わるじゃねーか。誰か倒せよ
484:ウィスパー・ウッズ
お前が倒せ。
484:ダル源・老いゲン
誰が倒すかはさて置き、本当に討伐隊結成しないとまずいんじゃね? 際限なく強くなるとか敵モンスターが持っていい性能じゃないだろ
485:シインク
ていうかそのオーガ倒して大丈夫なのか? エイマーさんのいうことが本当ならプレイヤーの従魔なんだろ?
486:エイマー
倒してもいいだろ、こっちも殺されてるわけだからな
487:閏柳
というか、あんなところに置いて行く時点で誰かに倒されることは想定してるんじゃないんですかね?
488:ふぁんぐ@ドラム缶
まぁ、そうだろうな。それかあそこまで凶悪だとは予想してなかったとか?
389:ぺぺロス二世
俺もファスティアでネクロって奴見かけたわ。めっちゃ可愛い女の子二人連れてる、どっちもNPCで、二人とも結構レベル高い。片方は有名な冒険者らしい。爆発しろクソが
390:エイマー
『影刃』な。しかも、もう片方にはマスターって呼ばれてたな。羨ましいの次元を超えてる。どうやったらそんなイベント発生するんだよ。ていうか、結局ほとんど話しちまったじゃねーか
391:つちたまん
どうせそんだけ目立つ奴なら時間の問題だろ。どうしよ、俺明日討伐行くけど、来る人いる?
392:閏柳
僕は時間によりますが行けると思いますよ。
393:エイマー
行くわ。朝以外なら行ける。朝は基本的に寝てるから無理
394:フロス・T・マット
ニートかよ。俺はレベル低いからパスで
395:エイマー
ニートじゃねえよハゲ。一人養えるくらいには稼げてるっつの。
396:ダル源・老いゲン
まさかの家庭持ち? シングルパパン?
397:エイマー
いや、ただの居候。どっちかっていうとそいつがニート。
398:ふぁんぐ@ドラム缶
俺も行くわ。フレが一人来るかもしれないけどいいか?
399:つちたまん
別に俺は構わんけど、嫌な奴いる?
400:エイマー
別にどうでも
401:閏柳
構いませんよ
402:ふぁんぐ@ドラム缶
おっけ、あざす。じゃあそういうことで。俺はちょっとレベル上げて来るわ
403:ふぁんぐ@ドラム缶
いや、その前に何時にどこ集合?
404:つちたまん
14時にファスティア中央の噴水……は人多いからその西側にある酒場前で集合で。酒場の名前は『イノプネ』
405:ふぁんぐ@ドラム缶
了解、じゃあまた明日
406:フロス・T・マット
俺はもう寝るかな。頑張れよ、結果を楽しみに待ってるわ
♦︎……ネクロ視点
『てことが起きてるみたいだぞ』
早朝に電話をかけてきたチープ、もとい安斎が画像を送りながら僕に語りかけてくる。
「へー、その掲示板どうやってログインするの?」
『……COOのIDとパスを入れれば書き込めるぞ。眺めるだけならログインしなくてもできるけどな』
そっか。まぁ、特に何も書き込むつもりは無いけど。
「まぁ、うん。どうしようかなぁ……」
『いいのか? 多分、あのオーガ死んじまうぞ?』
良くは無いね。
「うーん、積極的にPKとかする気は無いんだよね。ロアにもネン平原をあんまり出ないでねって命令してあるし、戦う意思の無い人は殺さないようにとも言ってる。だから、まぁ、討伐されなかったところでネン湿原で初心者が狩られる訳じゃないし、討伐されたところで文句を言うつもりもない」
でも、うん。
「ただ、自分の従魔が殺されるのを黙って見てるって言うのも違うよね」
『お、じゃあお前も戦うのか? それともあのオーガを逃すのか?』
いや、どっちも違うね。
「ううん、戦うのはロアだよ。逃げさせる訳でもない。そんなことしたら、みんな冷めちゃうだろうし」
『……じゃあ、どうすんだよ』
「ロアを強化するんだ。集合は14時、今は6時、ご飯とか食べてからやるとしても、最低7時間は猶予があるよね。それだけあれば、十分だよ」
『なるほどな。強化、テイマーらしいな。手伝おうか?』
「いや、いいよ。手を借りるまでも無いね。既に仲間はいるから」
エトナと、メト。そしてロア。僕には三人……三匹の仲間がいる。
『ありゃりゃ、もう取られちまったか。まぁでも、偶には遊んでくれよ?』
「当たり前だよ。僕は君に誘われて来たようなものだし」
さて、そろそろトーストが焼き上がる頃だ。
チンッ、とこ気味良い音と共に焼けたパンがトースターから飛び出る。
「じゃあ、そろそろ切るよ」
『おう、頑張れよ。またな』
電話が切れた。トーストを召し上がって、歯を磨いて顔を洗って、さっさとCOOの世界に入り込むとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます