冒険者ギルド
結局、エメトの名前は『メト』に決定した。他ならぬメトの言葉によって。
そして、使い続けた闇魔術のスキルレベルは4に、死霊術は3まで上がり、僕の
「にしても、あの人たち結構いいお金になりましたね。実は良い人かも知れません」
そして、あの怪しい集団を騎士団に通報した僕たちはそこそこの謝礼金を受け取った。これが依頼であったならば十倍は貰えたらしい。
そして、特に目標も無い僕らは、街でギルドカードを貰うために冒険者ギルドに向かっている。
「いいお金になったのは事実だけど、良い人では無いと思うよ」
「うーん、よく考えればそうかも知れないです。何か気持ち悪いですし」
良い人かどうかの判断基準を気持ち悪さに置いているアホはさておいて、さっきから何も喋らず目線も合わせない美少女、ホムンクルスのメトだ。
「あの、メトさんも、一緒にお話しませんか?」
「……何を喋ればいいのか、分かりません」
メトはそう言って目を伏せた。
「取り敢えず、考えたことをそのまま言ってみればいいんじゃない?」
言っちゃいけないようなことは後から修正していけばいい。少なくとも、何も喋らないよりはマシである。
「なるほど。例えば、どのように……?」
「うーん、そうだね。エトナがあいつらを良い人とか言ってた時、どう思った?」
「……何を言ってるんだ、この馬鹿は。と、そう思いました」
「あの、メトさん?」
うん、結構な毒舌だね?
「…………うん。それを口に出せば良いんだよ」
「分かりました。……エトナさん」
僕の方からエトナに振り向いたメトは、何か決意をしたような表情で口を開いた。
「何を言ってるんだ、この馬鹿は」
「ネクロさぁぁぁぁんッ!! こうなるのが分かっててやりましたよね?!」
そうだ、アホみたいに叫んでいるエトナを見て思い出した。早速だけど音魔術の実験をしてみようかな。
『エトナさん、うるさいです。黙って下さい』
「メトさん?! いや違うッ! ネクロさんですねッ!?」
もう、エトナは煩いなあ。街の中なんだからもう少し静かにして欲しいところだ。
「エトナさん、うるさいです。黙って下さい」
「またネクロさん……じゃないッ?! まさかの本人ッ!?」
騒ぎ散らすエトナに通り過ぎる人は怪訝そうな目を向けていたが、隣にいるメトは少しだけ口角を上げ、楽しそうに笑っていた。
♢
というわけで、やって来ました。冒険者ギルド。
かなり大きい二階建ての建物の中に入ると、そこは開けた空間で、入ってすぐの場所には無造作に依頼用紙が貼られており、軽い人だかりが出来ていた。
そして、入り口から真っ直ぐ行った場所には受付があり、一番右の列には普通の服を着た一般市民が、それ以外には鎧を着込んだり武器を持ったりしている冒険者達が並んでいた。
恐らく、一番右は依頼をする専用の窓口なのだろう。
「すごいね、結構大きい」
「ふふん。でしょう? この街の冒険者ギルドは他の街よりも立派なんですよ」
ふーん、
初めての冒険者ギルドに、ワクワクした気持ちで受付へと向かうと、ヒソヒソと何か噂するような声が聞こえてきた。
「……おい、あれ『影刃』だろ? 隣歩いてる奴誰だ?」
「いや、見たことねえな。しかも立ち位置から見ると、あの男が中心になるぞ?」
更には、プレイヤーらしき者たちの声も聞こえる。
「ねぇ、エイマー。あいつ、プレイヤーよ……ネクロ? 聞いたことある?」
「無いな、レミエ。そもそも、俺より長くやってるお前が知らんなら俺も知らん」
成る程ね。A級冒険者として有名なエトナの隣にいる僕たちは誰だ? って話ね。
「うふふ、噂されてますよ。ネクロさん」
「僕はあんまり良い気分でも無いんだけど、君は楽しそうだね」
「良いじゃないですか。あいつは何者だ? A級冒険者様の隣を歩くなんて、只者じゃないな? みたいな感じですよ? めっちゃ良いじゃないですか! 羨ましいです!」
何が羨ましいのか、全く分かんないんだけど。取り敢えず受付へと向かおう。
「そして、数多の視線を受けても堂々と歩くネクロさんに突っかかる荒くれ者が来て、こう言うんですよ」
そんなの来るわけないだろ。と反論しようとした瞬間、ギルドの入り口から真っ直ぐと僕たちの方に向かって来るスキンヘッドの男を見つけた。見つけてしまった。
「「おい、クソガキッ!」」
自信満々に溜めて言ったエトナと、スキンヘッドの男の言葉が重なる。気まずい。
「……エトナ。女の子なんだから下品な言葉はあんまり使わないようにね」
「あ、はい。すみません……でも、ほら! やっぱり来たじゃないですか! 一言一句同じでしたよ!?」
別に、そんな奇跡何も嬉しくないんだけど。
「……おい、そっちのガキ。てめえもあんまり調子に乗るんじゃねえぞ。……それとそこのヒョロイの。ここはお前みたいなのが女連れて来る場所じゃねえ。帰ってママのミルクでも飲んでな!」
「うわ、その見た目でママとかミルクとか言う言葉を発して欲しくないなぁ」
ていうか、このハゲの人、エトナを知らないのかな?
「……あいつ、もしかして『影刃』を知らないのか?」
「そうかも知れん。あのハゲ男、ここいらでは見たことも無いぞ。恐らく余所者だろうな」
「うわぁ、マジかよ。ご愁傷様って感じだな」
「ああ、だな」
周りでも、ヒソヒソとあのハゲ男の身を案じるような声が聞こえる。だが、頭に血が上っているあの男は気付いていない。
「ねぇ、君。もしかしてだけどさ、エトナを知らないの?」
「あ? 誰だよ。この女のことか? だったら知らねえな」
「だったら、大事になる前に教えてあげるよ。この娘は、A級冒険者の『影刃』だ。正直、君とか僕とかが敵う相手じゃない」
「ふふん、そうですよ! 私はこの街でも1、2を争うほどの最強冒険者なのです!! ひれ伏すが良いわ下民がッ!!」
エトナ、品が無いよ。
「……はッ、ハハッ! ハハハハッ!!! おい、聞いたかよお前らッ!! こんな細い女がA級冒険者様だとよォ! 最近のガキは冗談が面白えなァ!!」
周囲の冷ややかな反応にも気付かず、男は笑い続ける。
「だがよォ、冗談を言っていい相手ってのを間違ってんじゃねえのかッ!!」
そう言ってエトナに殴りかかろうとした男だが、その拳はエトナには届かず中空に留まった。
「対象の敵対行動を確認しました。速やかに排除します」
男の拳を片手で止めた人物、それはメトだった。
慌ててメトの手を振り払い、男は腰に挿していた剣を抜いた。
「お、おい。クソアマ、近づくんじゃねッ?!」
だが、立派に輝くその剣は、メトの蹴りによって一撃で破壊された。
そして、メトの攻撃はそれだけでは終わらず、右手を固く握り、それを男の顔面に向かって────、
「メト、ストップだ」
直前で停止した。
「了解しました。しかし、何故ですか? 彼は敵対者です。速やかに排除すべきだと思いますが」
あー、あいつらがメトを殺人の道具として利用する為の教育なのかな、これは。
「確かにあのハゲは敵だけど、ここで殺したら周りの人に迷惑がかかるよね? そうなると、今度は周りの人も敵になっちゃう。もしその人たちを倒しても、今度はその人たちの仲間が敵になるよね? だから、殺人は本当に必要な時しか駄目だ」
「……了解しました。今後は気を付けます」
「うん、ありがとね。メト」
そう言うと僕は、尻餅をついて地面にへたり込んでいるハゲの方を向いた。
「ねぇ、面倒臭いからさ、今度からこんなことはしないでね?」
「は、はいッ!! わ、分かりやしたァ!!」
彼は僕に何度も頷くと、怯えたようにギルドを出て行った。
「良し、それじゃあ行こうか」
「は、はい! 良い感じにお決まりの展開を突破できたと思います!!」
いや、お決まりって何? もしかしてこれ確定で発生するイベントなの?
「不思議そうな顔をしていますね? いいでしょういいでしょう! 説明してあげましょう! これはですね、古くから伝わる『アルン・ゼルド英雄譚』で初めて登場した────」
やばい、興味が無い。
「あー……メト、代わりに聞いて上げて?」
「……マスター?」
「……ネクロさん?」
面倒になった僕は、エトナをメトに押し付けた。
ていうか、『マスター』なんだね、呼び方。この街中で呼ばれるのはちょっとキツいから矯正しておこう。
「メト、マスター以外の呼び名でお願い」
「以外、ですか……では、御主人様と」
「…………それ以外で」
「以外、ですか。では、飼いーー」
馬鹿野郎。
「ストップッ! メト、ストップだ。ごめん、どうやら僕が悪かったみたいだよ。うん、マスターでいいよ」
流石に飼い主はマズい。語弊どころの話じゃない。最悪逮捕まである。
「そうですか? 私は飼い主さーー」
「ストップッ! シットッ! シャラップッ! ……マスターで。うん、マスターがいいな! 僕はマスターが良いよ。とても気に入った、マスター。うん、良いね。マスター良いね!」
やばい。メト、強敵だ。この僕が軽くキャラ崩壊する程度には強敵だ。
「……お客様、後ろが支えております」
聞こえてきた鋭い声の方を見ると、そこには冷ややかな目で僕を睨む受付嬢の姿があった。あー、一部の人には需要ありそうな感じだね。僕にはないけど。
「うん、ごめんね。後ろのみんなもごめん。……それで、ギルドカードを作って欲しいんだけど? お金いる?」
「…………まぁ、良いですが。ギルドにご登録ということでしたら、500サクになります」
「えーっと、500サクね。はい」
僕は大きめの黄色い硬貨を一つ差し出した。どちらも日本のお金に似ている。これはイメージして作ったのだろうか。
「ねぇ、このお金っていつからあるの?」
「え? えーと、こちらの硬貨は千年以上前の硬貨と言われております。何やら、元は次元の旅人が建国した国の硬貨らしいです」
あー、成る程ね。その大昔に転移した日本人が広めたって設定なのかな?
「ありがとね。それで、出来たかな?」
「いえ、あと少しです。……では、こちらに血を一滴お願いします」
血、か。そういえば、僕の体って血が出るのだろうか? 少し不安だったが、もし出ないならば今頃ネットで話題になっているはずなので大丈夫だろう。
「……はい、どうぞ」
僕は短剣で自分の指先を軽く突いた。
「ありがとうございます。これでギルドのご登録及び、ギルドカードの作製は完了になります。お疲れ様でした」
「うん、ありがとう。じゃあ、行こうかエトナ、メト」
暇そうにボーッとしていた二人に声をかけ、僕たちはギルドを出た。
♢
現在、僕らはネン湿原を抜けた先にある平原でレベルを上げている。そこそこ時間をかけた甲斐はあり、レベルは33まで上がった。
この平原に名前は無く、一応ネン湿原の一部という扱いらしいが、スライムは殆ど居ない。それどころかさっきからレッサーオーガやらオークやら、ちょっと手強い敵ばかりだ。
それと、メトは大地の精霊核? みたいなのをコアとしているらしく、地面の土とかを動かしたり、それを石や金属に変換できるらしい。ただ、今のところその能力を必要とするほどの敵はいないが。
「それにしても、ここら辺の魔物は手強いね。平原って言ったらあんまり強い魔物が居なそうなイメージがあるんだけど」
手強い、というのは飽くまで僕にとっての話だ。彼女たちからすれば余裕も余裕だろう。
「んー、この平原には強いボスがいますからね。強いボスがいる場所は周りのモンスターも強くなる傾向があるらしいですから、そんなにおかしいことでも無いと思いますよ」
ふーん、それじゃあ
「
「いや、あそこのボスはまだ分かって無いですね。でも、結構強いと思いますよ」
あ、そういえば安斎が言ってた気がする。未確認とかなんとか。
「じゃあ、アボン荒野は?」
「あそこは……確か、ゴブリンキングとかだったと思います」
「あー、ゴブリン多いらしいからね。まぁ、順当なのかな」
ゴブリンキングかぁ……単体の強さは想像できないけど、多分巣の中から出てこないだろうから他のゴブリンも相手にしなきゃいけない、と。厄介なボスだね。
「そういえば、ボスに影響されて周りの敵も強くなるんだよね?」
「はい。それが一般的な説ですね」
「だったら、ボスを倒したらどうなるの? みんな弱体化?」
「いえ、直ぐに弱体化することは無いと思います。ただ、ずっと居なければ段々とそこら辺の種は弱くなっていくと思います」
そっか。だったらあんまり無闇に倒さない方が良いのかな。
「でも、ずっと居なくなるなんてことはあり得ないですね。ボスが倒されても、しばらくしたら復活するので」
「なんだ、だったらあんまり気を使う必要は無いね。……でも、どういう仕組みで復活するの? 魔王とかそんなのが手出ししてるとか?」
まぁ、エリアボスが死んだままだったら新規ユーザーが萎えるよね。
そんなことを考えながらエトナの方を見たが、考え込んだまま返事はない。エトナにもその理由は分からないようだ。
「……それは違います。エリアボスというのはある程度の強さを持ったモンスターが半永久的に君臨し続けるという自然の仕組みでしかありません」
「自然の仕組み、ですか? 初めて聞きました」
「はい。例えばこのネン湿原では、スライム同士が融合しあって強力な個体が生まれます。先程話題に上がったアボン荒野では、ゴブリン達の長としてゴブリンキングか、それに類するなにかが君臨します。例えゴブリンキングが滅ぼされても、ゴブリン達の数がある程度残ればまたキングは発生するということです」
「成る程ね。その土地の環境が変わらない限り発生し続ける……文字通り自然現象ってことか」
「でも、だったらどうして強いスライムはもっと増えないんですか? もっと合体してもっと強いスライムを増やせば良いじゃないですか」
「いえ、そうはなりません。ある程度の大きさまで成長したスライムは人並みの知能と自我を持ち、自分以上の存在が現れるのを嫌います」
確かに、あのスライムはなんか偉そうだった。自尊心が高いのだろう。
「そして、一つ補足すると……稀にですが、エリアボスよりも強いモンスターが出ることがあります。その名はユニークモンスター、通常種が変異した個体である場合が多いです」
ユニークモンスター?Unique? 確か、あのクソ馬もユニークだった気がする。
「ねぇ、エトナ。あの氷の馬ってユニークじゃないの?」
「氷の馬……私が一撃でぶっ殺したやつですか?」
そう、君が一撃でぶっ殺した奴だ。
「あれ、ステータスに
「へー、そうだったんですか。それは凄い……です、ね?」
なんでそんな自信なさげ?
「うん、凄いんじゃないかな。だって、エリアボスより強いんだ。誇って良いよ」
「ふふん、じゃあ誇らせて頂きます」
うん、勝手にして良いよ。
「それで、そのユニークモンスターとかで所在が分かってるのは居るの?」
「そうですね、生息エリアだけ分かっているのは結構居ますが、一番有名なのは……そうですね、アースドラゴンでしょうか。確か、アボン荒野に生息しています」
「へぇ、竜なんだ。結構楽しみだね」
「え……あそこに行くんですか? 砂は服の中に入るし、地中から襲って来る大きなミミズは気持ち悪いですし、無駄に統率のとれたゴブリンの集団は面倒臭いことこの上ないですよ? そして極め付けは……」
「
これも安斎と話をした時に聞いたことだ。蠍が一番厄介らしい。
「あれ、知ってるんですか? 知った上で行きたいんですか? 一応言っておきますけど、あそこの土竜はアースドラゴンって言っても殆どドラゴンじゃないですからね」
……殆どドラゴンじゃない?
「見た目は完全に
……うん。こんなに強いエトナが言うんだから間違いないだろう。アボン荒野はやめとこう。
「マスター、避けて下さいッ!」
珍しく声を荒げたメトの言葉で振り向くと、そこには斧を振り被るオーガの姿があった。
「
「グォオォォッ!?」
咄嗟に生成した石の壁で、どうにかオーガの一撃を凌ぐことが出来た。突然現れた
「
赤く光るエトナの短剣が呆けたオーガの隙をつき、喉を突いた。
噴出する真っ赤な血の勢いが収まると、オーガは倒れ、経験値となった。
「オーガが一撃……流石です、エトナ」
「ふふふ、そうでしょう? 一撃必殺には自信がありますよ?」
実は、この平原のオーガのことはネットで調べた時に知っていた。それが一目でオーガだと分かった理由でもある。
オーガは、レベルの割に結構手強いらしく、上級者のプレイヤーでもかなり苦戦するらしい。僕がテイムしたい候補の一つだったんだけど、残念ながら即死した。
「うん、エトナは凄いね」
だけど、従魔が倒すよりも本体の僕が倒した方が経験値は美味しいからちょっと自重して欲しいな、なんて。
「ふふん! もっと私を褒めていいですよ、皆さん? あ、でもネクロさんのレベル上げってことならあんまり私が倒しすぎるのも良くないですね!」
馬鹿な、エトナが自分で気付いただと?
「偉い、偉いよエトナ。とても偉い」
「え? そんなにですか? あはは、照れちゃうなー! エトナ、照れちゃいますー!」
……うん、ちょっとウザくなってきたからこれくらいにしとこう。
「あ、そうだ。ちょっと試したいことがあるんだけどいいかな」
そう言って僕は余っているSPの40を使い、死霊術のスキルレベルを4に上げた。
「『円環の理に未だ導かれぬ者よ、死を以って偽りの生を取り戻せ。
強力な効果を持つこの魔法だが、この魔法はそれほど簡単では無い。先ず、死んでからの時間制限という条件だが、これは時間が経つほど成功確率が下がる。僕の場合、2時間も経てば成功確率は半分以下だ。
次に、死体の損壊度で確率は大きく変わる。首が離れていれば、その時点で成功確率は殆どゼロだ。
そして、レベルの差。対象と術者のレベルが1離れているごとに1%減っていく。勿論、術者の方が高い場合は問題無い。
最後に確率を左右するのは、死霊術のスキルレベル。
さて、この条件を今回の状況に照らし合わせていくと、先ずスキルレベルは4。成功確率は50%だ。次に経過した時間はほぼゼロで、仮に1%減ったとしても49%程度。そしてレベル差は恐らく僕の方が上だから問題ない。最後に死体損壊度、オーガの死体は喉を一突きされているだけで殆ど損壊は無い。これを踏まえて現在の成功確率は、47%と言ったところだろう。
黒い光がオーガの死体に入り込んでいくのを期待した眼差しで見ていると、ゆっくりとオーガの体が動き出し、目に暗い光を灯して起き上がった。つまり、成功だ。
「あれ? ネクロさん、オーガが復活しましたよ?」
「うん、これは死霊術の中でも死体をアンデッドとして蘇らせる魔法。
へぇ〜、と頷くエトナを尻目に僕は蘇ったオーガを
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Race:オーガ・ゾンビ Lv.27
Job:
Nameless
HP:128
MP:57
STR:152
VIT:128
INT:62
MND:78
AGI:65
SP:260
■スキル
□パッシブ
【HP自動回復:SLv.3】
【MP自動回復:SLv.2】
□アクティブ
【斧術:SLv.2】
【体術:SLv.1】
■状態
【従魔:ネクロ】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
予想はしてたけどそんなに強くないね。
……ん? SP? エトナの時はちょっとしか無かったけど、なんでこいつは200も持ってる?
「ねぇ、エトナ。スキルってどうやって取得してる?」
「え? まぁ、普通に神官さんにお金を払えば取得できますよ? 神官さんが言うには、SPと言うものがレベルが上がるたびに溜まるらしくて、それを使えば特定のスキルが取れるとか」
やっぱり、NPCは自分でSPを消費できないのか。だから、普通の魔物はSPを生まれた時から一切使わずに抱えてるってことか。じゃあ、APは?
「じゃあ、APはどうなの?」
「え、えーぴー……なんか、聞いたことあるような無いような……あ、SPの仲間みたいな?」
んー、なんだろう。SPを知ってるのにAPを忘れる筈無いし……こっちの住人にはAPの概念自体無かったりするのかな? APを振れるのはプレイヤーの特権的な。
「いや、ごめん。何でもないよ」
「はぁ、そうですか。変なネクロさんですね。変ネクロです」
この前の雑ネクロといい、何なんだそれ。
いや、そんなことはどうでもいい。大事なのはこの余りに余ったSPを僕が操作できるかだけど……出来るみたいだ。
どうしよう、260もある。何取らせようかな。うーん……取り敢えず普通のプレイヤーに人気の技能を取らせてみようかな。
先ずは、【
次に
さて、これで30消費した。次に取るのは……【
僕は強化をSLv.2まで取らせた。これで、
これでまた30消費。残り200か。
あ、ゾンビ化したせいで日光のダメージ食らってる。だったら……そうだね、SPを30消費し、【光属性耐性】を取得させる。これで……うん、鬱陶しそうにはしてるけど、少なくともダメージは無くなったみたいだ。これで良し。SLv.1だけど、これから勝手に上がっていくだろうし。
うーん、斧術はどうせ勝手に上がるだろうから……HP自動回復をSLv.4に上げて、40消費。
次に……100消費して【悪食】かな。これは、生きている敵か、死後数時間以内の死体を食らうとステータスが少しだけ増加するスキルだ。100消費するだけあってそこそこ強力なスキルだが、食える量にも限界はあるので一気にステータスを上げるのは難しいだろう。
残りの30を消費して【咆哮】をSLv.2まで取る。これは自分より弱い敵に恐怖を与えて緊張状態にしたり、自分自身のステータスを上げたりするスキルだ。3まで上がれば、自分より格下の同種族を服従させることもできる。
さて、全部振り終えたけど、こいつは連れて行く訳ではなく、ここに放置していく。
「じゃあ、オーガ……君はロアだ」
由来は、スキルの咆哮だ。英訳するとRoar。
「うーん、なんかまともな名前ですね……ノット雑ネクロです」
なんで残念そうかは知らないけど、割と適当に付けたから雑ネクロだと思うよ。
「じゃあ、ロア。この平原の中なら好きにしていいよ。でも、戦う気がない人間は殺さないようにね。あと、君に与えた力は自覚してる?」
命令の後、不安になった僕が尋ねるとロアは緩慢な動きで頷いた。
「そっか、じゃあオッケーだね。試しにあそこのオークでも狩ってみてよ」
頷いたロアは、
そしてロアは落ちた首を加えて噛み砕き、呑み込むと、残った体を貪り始めた。
「うわぁ……結構えげつないですね」
「マスター、グロテスクです」
うん、グロいね。マスターもそう思うよ。
「じゃあ、ロア。後はよろしくねー!」
死体を貪るロアに手を振り、背を向けた。
「あ、じゃあもうここでの狩りは終わりですか?」
「そうだね、でも……」
僕はエトナの背後を指差して言った。
「影からチラチラと隙を狙ってるのは分かってるんだよ? そこのコボルト」
僕の言葉に、茂みの中に潜んでいたコボルトが動揺し、大きく動く。恐らく、さっきのエトナの攻撃か、オーガの首刈りにビビって出てこれなくなったのだろう。
「ヴ、ヴォォンッ!!」
青い肌のコボルトが錆びたナイフを持って僕に斬りかかる。が、そんなことお見通しだ。
「
影から無数に生え出た闇の腕がコボルトを拘束し、動けないところを闇の槍が貫いた。肌の色と同じ青い血を垂れ流したコボルトは、直ぐに息を引き取った。
そう、称号により得た150APの全てをINTに注ぎ込んだ僕の
「おー、流石ですネクロさん。まぁ、私はずっと気付いてましたけどねっ!」
適当に僕を褒め称えるエトナを軽く睨み、僕はコボルトに
それはさておき、今回オーガをアンデッド化させて放置したのは、狙いがある。
こんな風に各地のそこそこ強いモンスターをアンデッド化させてそこで狩りを続けさせれば、何もしなくても経験値が入ってくる。つまり、
「良し、じゃあ行こうか」
死体を食い終えたロアが、今度はコボルトの死体に牙を立てるのを尻目に、僕たちは平原を去った。
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