第133話 謝るって大事、それから大事に

「大っ変申し訳ありませんでした!!」

「ぐすっ・・・」

「本当に本当にごめんなさい!」

「ひぐっ・・・」

「何でも言う事きくので、どうか許して――」

「えくっ・・・・・・ん、何・・・でも?」

「うん何でも! 何でも言って!」

「んっく・・・じゃ、じゃあ・・・」



今回の事は間違いなく全部僕が悪いんだから、きちんと誠心誠意謝らなくっちゃ。

泣きじゃくるフォーケイブさんが許してくれるまで。




僕が重大な失敗に気付いたのは今朝の事。

寝ている所に突然ラルが・・・


「カルアお兄ちゃん、何寝てるですか! とっとと起きるですよ!!」

ううーん、この声、ラル?――

「ああもうっ、起きやがれですっ!!」

ドスッ

「ぐほぁっ!?」


息が止まるような激しい衝撃に目を開くと、ピンと伸びたラルの両足が僕の鳩尾に突き刺さってて・・・って何で!?

「げほっげほっ・・・うう、ラル酷いよ」

「酷いのはカルアお兄ちゃんです! どうして昨日フォーケイブダンジョンに行かなかったですか!?」


フォーケイブ、ダンジョン・・・?


「え? 行ったよ?」

魚たくさんゲットして、ワルツの家で美味しくいただいて・・・

「フォーケイブお姉ちゃん、泣いてたですよ?」


フォーケイブ、お姉ちゃん・・・・・・あっ!


「ああーーーーーっ!? しまったぁ!!」

途中から――いやかなり初めの方から目的がワルツに頼まれた魚獲りに・・・


「さっき、フォーケイブお姉ちゃんから連絡があったです。昨日ずっと待ってたって。朝までずーっと待ってたって。もしお兄ちゃんが来てくれたとき、寝ちゃってたら申し訳ないからって」

「うう・・・」

「それで朝になっても来なかったから、もしかしてカルアお兄ちゃん、怪我とか病気とかで来れなかったのかなって。大丈夫かなって。心配だよって」


フォーケイブさんの優しさが心に突き刺さる・・・


「それでラルは王都のお兄ちゃんの部屋に行ったですよ。でもカルアお兄ちゃんいなかったから、もしかしてこっちの家なのかなって。でも場所が分からないからモリスに言って連れて来させたですよ」

よく見たらラルの後ろでモリスさんが手を振ってる。


「ごめん・・・」

「ラルに謝ってどうするですか。謝る相手が違うですよ」

「うん、そうだね。フォーケイブさんに謝らなくっちゃ」

「です。でもまずは昨日何があったのか話すです。話によってはラルも一緒に謝ってあげるです」

「ありがとう。実はさ・・・」


そしてラルに機能の出来事を説明。

ヨツツメの冒険者ギルドでソロでのダンジョン入りが禁止となっていた事。

そこにワルツがやってきて、ワルツと一緒にダンジョンに入る代わりに魔魚を獲る手伝いをする事になった事。

必要な量の魔魚を獲り終えたら午後になっていて、ワルツの家に魔魚の納品に行った事。

食事をご馳走になっているうちに夕方になって、そのまま家に帰った事。

当初の目的がフォーケイブさんに会う事だったっていうのをすっかり忘れてしまっていた事。


「・・・と、そういう訳だったんだよ」

「何と言うか・・・予想外の事態に巻き込まれているうちに、手段が目的に書き換わっちゃったって感じです」

「面目ない」

「とは言え、今聞いた限り明らかにカルアお兄ちゃんのミスです。これじゃあラルが一緒に謝るって訳にはいかないけど・・・まあ仕方ないからラルだけは先に許してあげるです」


「ラル、ありがとう」

ラルはニッコリ笑って、

「まったく世話の焼けるお兄ちゃんです。さあ、ラルが転移でフォーケイブお姉ちゃんのところに連れてってあげるですから、急いで顔を洗ってくるですよ」


うん、急いで支度するからちょっとだけ待ってて!


「ええっと・・・これはあれかな、僕ももう暫く付き合わないといけない感じかな。業務開始時刻までにロベリー君に連絡しとかなくちゃ・・・はぁ、また怒られちゃうかなぁ」

モリスさんもすみません・・・




こうしてラルの転移でフォーケイブさんの所に直行した僕は今、誠心誠意フォーケイブさんに謝っている。


「じゃあ、私もラルちゃんみたいに『カルアお兄ちゃん』って呼んでいい?」

「もちろんいいよ! でもそんな事でいいの? 他にはもっと無い?」

「うん、それでいい・・・よ。カルアお兄ちゃん」

「ありがとう! フォーケイブさん!」

「あ・・・」

「あっ、やっぱり他にも何かある?」

「あの、私の事はフォウって呼んで? 『フォーケイブさん』なんて呼び方はイヤ」

「わかったよ。フォウ」

「うんっ!!」


目に涙を浮かべたまま満面の笑み。

よかった・・・許してもらえた・・・

あれ? でも「お兄ちゃん」って・・・


「それってやっぱり、ラルの時みたいにダンジョンコアに魔力を流し込んだ方がいいの?」

ラルはそれで僕の魔力で上書きしちゃって『妹』になったんだから、今回も必要なのかな?


「ううん、それはいいよ。ラルちゃんから話を聞いたけど、何だか私が私じゃなくなっちゃうみたいな気がして怖いし、それに体も大きくなっちゃうって」

「どうなのかな、ラルの時は『ダンジョンを大きくしよう』っていう意識が入り込んじゃったのが原因だったみたいだから、体が成長しちゃうっていうのは大丈夫だと思うけど・・・でも怖いんだったら無理はしないほうがいいよね。フォウのコアは十分魔力が足りてるみたいだし」


僕達が今いるのは最下層の更に下、普通では入って来れない管理用の部屋。

フォウの後ろには台があって、そこにはこのダンジョンのダンジョンコアが設置されている。

見たところ根幹の魔力は潤沢にコアへと流れ込んでいて、ダンジョンの運営に支障はなさそう。


「ですです、そうですよ。ラルも突然サーケイブお姉ちゃんと同じくらいにおっきくなっちゃって、もうビックリだったですよ」

「ええっ、大きくってそんなに!? ちょっと待ってラルちゃん。シルお姉ちゃんと同じくらいって事は・・・」

「そうなんです。まったくラルの子供時代を返せって感じですよ」

「やっぱり・・・それって私より年上になっちゃったの? 私ラルちゃんに追い越されちゃったの? 私ラルちゃんの妹になっちゃったの!?」


うん、見た目は完全に逆転してます・・・

ラルは最初4~5歳だったのがシルと同じ12~13歳に成長、一方のフォウの見た目は10歳くらいだから。

さっと目を逸らした僕とラルを見て、フォウもその答えに気付いたみたい。


「で、でもラルちゃん、その操化身アバター・・・」

「あの・・・姉妹の皆さんが混乱しないようにって、操化身アバターは以前の姿で作ったから・・・」

「・・・そっか。本当に追い越されちゃったんだ・・・」


俯くフォウに何て声を掛けたらいいのか・・・


「ねえ、カルアお兄ちゃん。やっぱり私、魔力を入れてもらおうかな・・・」

急にフォウがそんな事を言い出した。


「え? でもさっきはいらないって――」

「だって、ラルちゃんに追い越されたままじゃお姉ちゃんとしての威厳が」

「ラルはラルのままです。フォーケイブお姉ちゃんの妹のままです。お姉ちゃんを追い越してなんていないですよ。」

「でも!」

「どのみちラルもお姉ちゃん達もダンジョンから出られないですから、見た目なんて関係ないです」

「うーん・・・」


悩むフォウを尻目にラルが近づいてきて、

「ほら、お兄ちゃんも何とか言うです」

ええと、何て声を掛けたら・・・

「ええとあのさ、さっきはああ言ったけど、他にどんな影響があるか分からないからダンジョンコアに魔力を注がない方がいいって言われてるんだ。それに、今の僕の魔力って半分くらい根幹の魔力になってるから、ますますどうなるのか分からなくって」


多分あと2日くらいで完全に僕の魔力に染まるとは思うけど・・・


「そう・・・なんだ」


あ、納得してくれた?


「ちょっと待つですカルアお兄ちゃん。今聞き捨てならない事を言ったですよ?」

「え?」

「お兄ちゃんの魔力が根幹の魔力になってるってどういう事です?」


ああ、エルフ里での聖樹の説明、ラルにはまだしてなかったんだっけ。


「実はこの間エルフの里に行ってね、そこで魔力を横取りされて弱っていた聖樹を助けたんだ」

「え? ちょっ聖樹って――」

「でね、その聖樹の精霊っていうセージュさんにちょっと頼まれ事されたんだけど――」

「え? セージュ様にも会ったの!?」


あれ?


「でね、そのお礼にって聖樹から魔力をもらえるようになってさ、もらった魔力を何日か僕の中に入れておいてから聖樹に返す事で、聖樹の魔力をいつでも使い続けられるようになったんだ」

「・・・・・・」


何だかラルの表情が――


「その聖樹の魔力が根幹の魔力だったから、僕の魔力が根幹の魔力になってるって訳なんだよ。今僕の中にある根幹の魔力は、明日か明後日くらいには完全に僕の魔力になるから、そうしたらまた聖樹に魔力を送ろうかなって」

「・・・そう、それでカルアお兄ちゃんの魔力を聖樹に送ると――」


だんだんと――


「うん、代わりに聖樹の魔力が送られてくるから、その瞬間は100パーセント聖樹の魔力だけになるね。ところでラル、さっきセージュさんの事『セージュ様』って」


薄く――


「カルアお兄ちゃん・・・まあ知らなくて当然って話ですけど――」

「うん」

「セージュ様って、精霊の中じゃ無茶苦茶偉いひとです。どれくらいかっていうと、それはもう『雲の上』レベルの偉いひとです」

「えっ、そうなの? 話した感じは全然そんな風じゃなかったけど――」

「カルアお兄ちゃん・・・偉いひとが偉そうにしてると思ったら大間違いってやつです。むしろ本当の大物はそう感じさせないものかも知れないですよ?」


ううん・・・そんなものなのかな?


「ちなみにですけど、聞いた話だとそこのモリスも冒険者ギルドの中では上から数えたほうが早いくらいの超大物って話らしいです」

「えっ!?」

うそ、だってモリスさんだよ?


「あれぇ? カルア君、何だか失礼な事考えてない? まあ僕も今更偉ぶるつもりなんて無いし、いいんだけどね」

あ、そう言えばモリスさんと初めて会った時、ギルマスがもの凄く緊張してたっけ。

もうすっかり忘れてたよ・・・


「まあホントに『ちなみに』の話です。ぶっちゃけ人間の階級なんてどうでもいいです。それに・・・モリスだし」

「うわぁ、この精霊本当にぶっちゃけたよ」

「・・・いい意味でモリスだし」

「うん、意味わかんないし何のフォローにもなってないよね。っていうか、そもそもフォローする気がないよね!?」


「まあお陰でカルアお兄ちゃんがしれっとぶっ込んできた爆弾でささくれたラルの傷だらけのハートが少しだけ癒えたです。よくやったです。ついでにこの事で恨むのならカルアお兄ちゃんを恨むです」

「ははは、まあお役に立てたってのなら何より・・・かな?」


ラル、少しだけ元気が戻ったみたい。

一度完全に無になった表情は、疲れたような表情に変わったし・・・

ってあれ? これって元気が戻ったって言えないよね・・・


「カルアお兄ちゃんにも分かるように説明するです。いいですか、そもそも聖樹っていうのはこの大地を象徴する、謂わば大地そのものと言ってもいい存在です。そしてそれを司るセージュ様もまた、この大地そのものを司る存在と言っても過言ではないです」

「へえぇ・・・セージュさんってそんな凄い精霊さんだったんだ」

「うう・・・カルアお兄ちゃんのリアクションがヘリウムよりも軽いです・・・」


だって・・・ねぇ。


「はぁ・・・もういいです。諦めたです。こうしてラルはひとつ大人の階段を上ったです」

「はは・・・」

「で、カルアお兄ちゃん・・・もう他には爆弾とか隠し持ってないですよね?」

「爆弾・・・って?」

「他の大物の精霊さんと出会ったり力を貰ったりとか・・・です」

「うん、流石にそんな事はもうないよ。他に会ったのって、イズミさんくらいだし」

「・・・イズミさんって・・・まさか・・・まさか・・・」


またラルってば大袈裟なリアクションだなあ。

イズミさんは南の小島の泉を守る、焼き鳥を食べるのが趣味の精霊さんだよ?


「イズミさんはピノさんと一緒に南の海に浮かぶ小島で出会った精霊さんなんだ」

「それやっぱりイズミ様・・・あ、イズミ様だったら・・・何か『祝福』みたいな事言ってなかったです?」

「ええと・・・」


祝福? ・・・あ、そう言えば――

「別れ際に『海の祝福を』とか『よい波を』とか言ってたなぁ。僕の船って実際は海の上を飛んでるから『いらない』って言ったら笑ってたっけ」

「うわ、イズミ様の『祝福』を断りやがってたです・・・」



あれ? 何だろう、ラルの向こうから何か声が・・・

「・・・イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様イズミ様・・・許してくださいイズミ様・・・カルアお兄ちゃんが何てご無礼を・・・」

「フォーケイブお姉ちゃん!? どうしたですか、しっかりするです!」

「うう、ラルちゃん・・・このダンジョンは・・・このダンジョンは・・・海のダンジョンなんだよぉ!!」

「はっ!? そうだったです!!」


「え? どういう事?」

それってイズミさんと何か関係が?

「カルアお兄ちゃん・・・無自覚って、怖いです」

「はぁ・・・いい、カルアお兄ちゃん? イズミ様って言うのはね、この海全てを司る、セージュ様と肩を並べる程の大精霊様なの」

溜息を吐いてラルと説明を交代したフォウ。


「ええっ、あの小さな泉と渡り鳥の小島の周りの海だけじゃなくって?」

「す・べ・て・の! 海です! イズミ様次第で・・・世界だって滅んじゃうかもだからね!! 私のこの小さなダンジョンなんて、イズミ様だったら指先ひとつでダウンさ、だからね」


ええ・・・

あれ、でもちょっと待って?

そう言えばイズミさんもそんな感じの事言ってたような――

『あとついでに、私がここでこの海の管理をしてるからってのもあるんですけどね。ほら、海流が乱れて海の環境が保てなくなると、あちこちで嵐が起きたりとか海の生き物が全滅したりとか、ちょっと面倒な事になるから』


「あっ! だからイズミさん、あの時そんな事言ったのかぁ・・・ふふっ、そうかそうか、そうだったんだぁ」


言われて納得、何だか断片と断片が繋がったって感じでちょっといい気持ち。


「ナニ暢気な顔して思い出し笑いしてるですか。そんなイズミ様の祝福を断るとか、もう世界滅ぼすレベルの大罪ですよ」

「もう、ラルは大袈裟だなあ・・・大丈夫だって、イズミさんはピノさんに弟子入りして『師匠』とか『ピノ様』とか呼んでるくらいの間柄だから」

「・・・・・・もう・・・こいつら・・・ホントにもうっ!!!」


ラル・・・

語尾の『です』を忘れる程なんだ・・・


「何がどうしてそうなったかは・・・怖いから聞きたくないです。って言うか、もう全ての気力と体力を使い果たした、いや削り取られた感じです」

「ホントそうだよ・・・私も今となってはカルアお兄ちゃんに謝らせた事を猛烈に後悔してるし・・・ああ、セージュ様とイズミ様に詰め寄られる夢とか見たらどうしよう・・・ううう、眠るのが怖いよぉ」


何だか居た堪れない雰囲気に・・・

何とか空気を換え・・・あっそうだ!


「あのほら、操化身アバター! そもそも今回は操化身アバターを作りに来たんだよね」

「ああ、そう言えばそんな話もあったですね」

「もうすっかり過去の話って感じがするよ」


「さあ作ろう、すぐ作ろう! フォウ、操化身アバターが出来るときっと楽しいよ。転移の機能だってつけるから、ダンジョンを出て他の姉妹にだって会えるし、何だったら他の精霊にだって――」

「ああ、それでセージュ様とイズミ様に謝りに行かせると」

「いや、そんな話じゃあ――」


「「カルアお兄ちゃんの鬼畜っ(です)!!」」




それから、ささっとフォウの操化身アバターを作って、そのままそそっと家に帰ったよ。


あーあ、それにしても何だか昨日から色々上手くいかなかった気がするなぁ・・・

まあフォウと会う約束を忘れちゃったのは完全に僕の失敗だけどね。


フォウにはそのうち落ち着いた頃にまた会いに行こっと。

何か喜ばれそうなお土産とか持ってね。

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