第122話 エルフと聖樹は僕が助けます!
森の中を結構な距離歩いて、やがてエルフの集落に辿り着いた。
どこにも『エルフの集落』とは書いてないけど、所々にエルフのひとが
「校長先生、聞こえますか? 集落に着きましたよ?」
結界を解除して校長先生に声を掛けると、しばらくして・・・
「ん、ああカルア君・・・すみません、集落まで・・・運んでくれたんですね」
校長先生はゆっくりと目を開け、辺りを見てそう微笑んだ。
「それで僕はこれからどうすればいいんですか?」
とりあえず集落までは来れたけど、これから何をどうしたらいいの?
「どこでもいいので私に触れて下さい。・・・ちょっと特別な転移をします」
特別な転移・・・不謹慎だけどちょっと楽しみかも。
僕が肩に触れたのを確認して、校長先生は転移を発動した。
すると僕の目の前に現れたのは――
「大きい・・・」
ものすごく大きな木だった。
見上げると上一面に広がった枝でその先が見えず、一体どれくらいの高さがあるのか全く分からない。
でもこの太い幹と広がった枝からすると、きっともの凄く高い木なんだろうなあ。
そしてその葉っぱは緑色じゃなくって、どれもこれも赤とか黄色とかに――
「紅葉してる・・・まだ夏なのに・・・」
するとその色づいた葉を見て、校長先生が呟いた。
「やはり・・・」
「やはり、って?」
「本来なら・・・葉は一年中緑色なんです。・・・何らかの原因で・・・弱ってしまった・・・のでしょう・・・この『聖樹』全体が」
「そっか、木が弱ったから葉の色が・・・って『聖樹』?」
「すべてのエルフは・・・聖樹と繋がっていて・・・聖樹の魔力を受け取り・・・自分の魔力を聖樹に渡しています。・・・現在、その循環が・・・途切れているんです」
それが校長先生が倒れた原因って事?
「それって魔力切れみたいな感じ? でも魔力切れで具合が悪くなるとかないし・・・」
「エルフは、人間よりも・・・生命活動における・・・魔力への依存が高いんです。・・・なので、今結構・・・ピンチです」
ピンチって・・・
「生命活動のピンチ!?」
「カルア君、聖樹が弱っている・・・原因を・・・」
ここで校長先生は力を使い果たしたみたい。
でもお陰でこれから僕が何をすべきかが分かった。
よーし、校長先生待っててくださいね!
とある場所の地下研究所。
「うう・・・力が入らん・・・我ピンチ・・・だれかアレ止めて・・・」
まずは聖樹を含むこの辺り全体を『俯瞰』してみよう。
それで何かが見えてくるかも。
ええっと・・・あれ?
あらためて見ると、ここって・・・聖樹の他には何もないみたい。
地面はずっと先までただただ平らで、山も川もない。
それでその地面には、ただ聖樹が生えてるだけ。
他の樹や草や・・・生き物も全く反応がない。
まるでここは『聖樹だけの空間』って感じ。
その聖樹は、やっぱりすっごく大きい。
でも一体どれくらいの高さなんだろう。
視点をどんどん上げていってるんだけど、まだ梢まで届かない。
把握の範囲を聖樹だけに限定して、視点をもっと高く・・・
っ届いた! 聖樹の梢!
まさかこんなに高いとは・・・でもこれでようやく聖樹全体が把握できた。
よし、じゃあ調査開始!
まず聖樹に何か悪い虫とかが付いていないかを調べて、と・・・
何も付いてないみたいだ。聖樹以外の何の反応も無い。
なら次は魔力感知に切り替えて、魔力の流れを確認してみよう。
ええっと・・・幹を伝う弱弱しい魔力は、枝を通って葉っぱに流れている。
そしてその魔力は葉っぱの一枚一枚から放出されて、その直後すぐに消えてなくなってる。
どこに消えちゃうんだろう?
あれ? 一枚の葉っぱから出た魔力は消えずにそのまま・・・校長先生の体の中に吸い込まれていく。
あ、多分これがさっき校長先生が言ってた循環ってやつかな。
完全に途切れている訳じゃなくって、ほんのちょっとだけど今も魔力を送ってるみたい。
きっと、他の葉っぱからの魔力もそれぞれ他のエルフに送られてるんだろう。
って事はつまり・・・
聖樹の葉っぱから出るこの魔力が増えれば、元気になったエルフが自分の魔力を送り返す。
それを受け取って聖樹が元気になれば僕のお仕事は完了、って事かな。
でもそれってどうすればいいんだろう。
目に見える範囲には特に異常とか無さそうだったし・・・ん? 目に見える範囲?
そうだ、まだ目に見える範囲、つまり地面から上だけしか確認してないじゃないか。
これだけ大きな聖樹なんだから、きっと根っこだってすごく大きいはず。
その根っこに何か原因があるのかも。
よし、それじゃあ今度は視点を地下へ移動。
思った通り聖樹の根っこはすごく深く、そしてすごく遠くまで広がってる。
このままだと全部範囲に納めても中を把握しきれないから・・・
地上部分を範囲から外して、根っこに集中しよう!
よし、根っこを全部把握できた。
じゃあ早速魔力の流れを・・・
あれ? 地面に含まれる魔力、地下深くなっていくにつれて少しずつ増えてる?
ずっと深いところだと魔力はすごく濃くなって・・・
あ、これもしかして『根幹の魔力』じゃない?
うんそうだ、そうだよ!
って事はつまり、聖樹が取り込んでるのは根幹の魔力なんだ。
そしてそれをエルフに渡し、代わりに聖樹はエルフの魔力をもらってるのか。
あれ? これってこの世界とダンジョンとの関係と一緒だ。
じゃあもしかして、聖樹はこの世界そのものの一部で、そして・・・
っと、今は難しい事を考えてる場合じゃない。
聖樹に集中しなきゃ。
根っこが吸収した根幹の魔力は、聖樹の幹を通って葉っぱまで流れるはず。
その流れは今どうなって・・・え!? 何これ!?
根っこの中を流れる魔力は、ほんのちょっとだけ幹に流れてるけど、ほとんどは根っこの何ヵ所かに吸い込まれていってる。
そこにあるこれって・・・根っこに出来た瘤?
いや違う、これって多分魔道具だ。誰かが作って聖樹に取り付けたんだ!
じゃあその魔道具に入った魔力は、その後どうなってるんだろう・・・
あれ? この魔道具、『転送』魔法を発動してるみたいだ。
って事は、この魔道具は集めた魔力をどこか他の場所に魔力を転送してる?
ってちょっと待って。そもそも『転送』って、魔力そのものも送れるの!?
ちょっと落ち着いて考えてみよう。
魔力の転送はともかくとして、聖樹が弱ってるのは絶対あの魔道具のせいだよね。
だって、根っこが吸収した魔力を全部横取りしてるんだから。
うん、絶対そうだ!
だったら今僕がやるべきは・・・魔道具を聖樹から取り外す事!!
よし、ならあの魔道具を詳しく視る必要がある。
どうやって聖樹の根に取り付けてあるのか、そしてどうやって魔力を吸収してるのか。
魔道具に意識を集中して・・・視えた。これは・・・
魔道具から6本の太い足みたいなのが伸びて、それが聖樹の根に刺さってる。
その足で聖樹に取り付いて、魔力もその足から吸収してるのか。
だったらまず最初に、足を含む魔道具の輪郭に沿って結界を展開して、聖樹との接触を絶つ・・・
よし出来た、結界が魔力の流れも断ち切った。
次にやるのは、結界ごと魔道具をお取り寄せ・・・
うん、転送成功! 地中から姿を消した魔道具は、結界に包まれたまま僕の足元に現れた。
最後に取り外した痕の『回復』を・・・
よし、根っこの穴が塞がった。
これで最初のひとつが取り外し完了。
あとは残りの魔道具も同じようにやっていけば・・・
うん、これで全部取り外せた。
聖樹の様子はどうなったかな?
根っこからの魔力は全部幹に流れ、そこから葉っぱへと流れるようになった。
赤とか黄色になってた葉っぱははらはらと舞い落ち、空中で消えてなくなっていく。
そして聖樹には緑色の艶々した葉っぱが新しく生えて、そこから大量の魔力が放出され始めた。
そしてその魔力は校長先生にも流れて・・・
「うう・・・ん、ああカルア君、どうやら無事に対処してくれたようですね」
「はい、無事に終わりました。校長先生大丈夫ですか?」
校長先生はその場に立ち上がり、少し体を動かしてみて、
「ええ、すっかり元通りです。ありがとうカルア君」
ああ、よかった・・・
「それで一体何が起きていたのか、説明してくれますか?」
僕は地面に積み重なった魔道具を指さして、校長先生に説明する。
「それで聖樹の根に取り付けられていたのがこれです。この魔道具が聖樹の魔力を横取りして、聖樹を弱らせていたんです」
聖樹に付いていた魔道具は、全部で8個。
さっきまで根の八方で聖樹の魔力を横取りしていたその魔道具は、今はすべて僕の足元に転がっている。
「何という事だ、こんな物が聖樹に・・・」
校長先生は睨むようにその魔道具を見て、そして聖樹に視線を移す。
それから僕を見て穏やかな笑みを浮かべ、
「カルア君のお陰で、聖樹はもう大丈夫なようです。さあ、この魔道具を持って集落に戻りましょう」
ここで僕がやるべき事は、こうして無事に完了した。
校長先生の転移で集落に戻ると、さっきまで静かだった集落はすごく賑やかになっていた。
今はもう道端に座り込んでいるひとはいない。
それに家にいたひと達も表に出てきてるみたいで、そこら中でたくさんのひと達が歓声を上げたり抱き合ったりしてた。
「さあ、我々は状況の説明に
そして僕達は、校長先生の案内で集落の長の家に到着した。
長の家にはちょっとした人だかりが出来ていて、みんな中の様子を窺っている。
「彼らは何があったのかを訊きに来たのでしょう。さあ家に入りますよ」
校長先生はひと混みを掻き分けて、長の家の中へと入っていく。
僕もその後に続き、校長先生とふたりでそのまま奥へと進んでいった。
中には数名のエルフがいて、真ん中には小さなおじいちゃんエルフがひとり椅子に座っている。
そのおじいちゃんエルフに向かって校長先生が話し掛けた。
「長、お久しぶりです」
「おおラーバルか。久しいな・・・」
集落の長は、そのおじいちゃんエルフだった。
「それでラーバルよ、このタイミングで私に会いに来たと言う事は、君はこの一件に関わっていると考えていいのか?」
少し警戒したような表情の長。
「ええ。といっても私が関わったのはこの災害の解消だけです。犯人や犯行の手口は分かっていません」
「『犯人』、それに『犯行の手口』か・・・つまり今回の災害はひとの手によるもの、と考えているのだな?」
「ええ、その通りです」
校長先生は僕に視線を向けて軽く頷いた。
その意図を察して、さっきの魔道具をボックスから取り出すと、校長先生はその魔道具を指し、
「聖樹の根に、これが取り付けられていたのです。カルア君、この魔道具について説明をお願いします」
校長先生の言葉を受け、僕は長達に説明した。
僕が視た聖樹の魔力の流れ、この魔道具がそれを横取りしていた事、そしてどの辺りに取り付けられていて、どうやって取り外したかを。
「何と、まさかそんな事が起きていたとは・・・」
「緊急時につき無許可で聖樹の間に入った事は不問としていただきたく。このカルア君以外に聖樹と我々を救える者はいなかったのです」
「・・・ああ、確かにその通りだろうな。もし私がその場に行く事が出来たとしても、聖樹を救う事は出来なかったと思う。不問にするどころか、我々は彼に最上級の感謝をせねばなるまい。カルア君と言ったな。ありがとう、我々エルフは君によって救われた」
そう言って長が僕に深々と頭を下げ、周りのエルフもまた・・・
いやいやいやいやいや、そんなにされたら逆にいたたまれないよ!
「あの! 分かりましたからみなさん顔を上げてください。僕困りますから!」
僕の声を聞いて長は顔を上げ、
「そうか、感謝すると逆に困らせてしまうのか・・・だがおそらく、ここに住むすべてのエルフが同じように君に頭を下げると思うぞ」
「ええ・・・」
そんなぁ・・・
「あの、お手柔らかにお願いします」
「ははは・・・皆にはそのように伝えよう。君の功績と共にな」
それから校長先生が長に僕の事を説明した。
僕が時空間魔法の適性を持っていて、『復元』とかの時間操作まで出来るようになっている事も。
あと僕がやらかしたあれやこれやをほんの少しだけ。
でも校長先生、そのあたりの説明ってホントに必要でした?
それから僕は長達に連れられて、中央の広場に向かった。
「皆、聞いてくれ。今回の一件は誰かが聖樹に悪さをしていたのが原因だった。その詳細についてはこれから調査し、分かり次第皆に伝えよう。そして皆を救ってくれたのが、ここにいるカルア君だ。カルア君は『世界を巡る者』ラーバルが連れてきた。皆も知っているとおり『世界を巡る者』は今、王都にある学校の校長を務めている。カルア君はその学校の優秀な生徒だそうだ」
「「「「「ほぉーーーー」」」」」
そして長は僕の目を見て、軽く頷く。
ええ、これって僕から一言って事?
ってちょっと待って、ちょっと待って。
何を言うか急いで考えなきゃ。
うわぁ、緊張してきたぁ・・・
「あの、皆さん初めまして。僕はカルアです。校長先生から助けてって言われた時には正直すごく不安でしたけど、こうして無事に解決できてほっとしました。学校の夏休みを利用してこちらの見学に来たので、しばらくの間こちらでお世話になります。皆さん仲良くしてください」
はぁ・・・何とか無事に終わったぁ・・・
えっと・・・変な事言ってなかった、よね?
そして僕の挨拶の後、長の話が続く。
「先ほど彼とは話をしたのだが、このカルア君は中々慎み深い性格をしていてな、あまり大袈裟に礼を言うと逆に彼を困らせてしまうようだ。なので、今ここで皆で『最上級の感謝』をし、あとは普通に接する事としよう。では皆、カルア君に感謝を」
長の声に合わせて、目の前の全員が一斉に地面に両膝をつき、そして、
「「「「「カルア君に最上級の感謝を!!」」」」」
そう言って、両手をついて頭を下げた。
エルフの『最上級の感謝』、攻撃力高すぎ!!
皆さん今それ十分僕を困らせてますから!!
ああもう・・・何ていうか、いたたまれない・・・
そして長の発案により、集会はそのまま宴会に突入する事になった。
ドワーフの里に続いてエルフの集落でも宴会・・・
あ、そう言えば、
「エルフの皆さんってどんなものを食べるんですか?」
「特に他の種族と変わらないな。肉も野菜も食べるし、ドワーフ程ではないが酒も嗜む。いつだったかラーバルが草食エルフのおとぎ話の本を持ち帰った時には、皆その本を見て笑い転げていたな」
よかった。それだったら――
「あの、これも食材に使ってください。食べきれないくらいたくさんあるので」
ヒベアと金属バットを取り出した。
「ほう、この新鮮さ、時間停止のボックスか。しかもこれが大量に入る程の容量に対して時間停止とは・・・ラーバルの言った通り、本当に優れた時空間魔法の使い手のようだな。実に素晴らしい・・・おおい誰か、カルア君からの差し入れだ。これらも料理して宴会に出してくれ」
会場の準備は着々と進み、そしてエルフの宴会が始まる。
とある場所の地下研究所。
「ああ、死ぬかと思った。今まで順調に稼働していたのが、まさか突然暴走するとは・・・やはり定期的なメンテナンスは必要か。だがしかし、『時間超越転送装置29号』の開発に必要な魔力を手に入れる事が出来たと考えれば暴走もまた僥倖、いやこの幸運もまた我の天才たる所以と言えよう。ぬはははははははははははは!!」
他に誰もいない研究室に響く笑い声、そして――
「はて、そう言えばなぜ突然聖樹の『魔力横領装置11号』は停止したのだ? いや、我の天才が停止させた、のか? ぬふ、ぬはは、ぬはははははははは・・・」
その笑いは盛大に咽るまで続くのであった。
王都、とある女子会会場。
「ミレア、ロベリー、何とかして――!」
友人たちの顔を見るや否や感情が爆発したピノ。
だが、当然それでは彼女らには伝わらない。
「はいはい、ちょっと落ち着こうかピノ様。一体何がどうしてどうなったのか、一から順に説明してくれる?」
「うう、実は・・・」
ロベリーの手慣れた誘導により多少冷静さを取り戻したピノは、ふたりに説明を始める。
そう、ルピノスの身バレの危機を。
「魔力感知で個人の特定って・・・弟弟子君ってば、また一段
微妙な言い回しをする姉弟子。そして
「魔力の隠蔽とか偽装とか・・・上手くやれば付与だけで解消できるかも」
対応手段に思考を巡らせる聖女。
メタルピノスーツにアップデートパッチが適用されるのは、それから数日後の事であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます