第121話 ドワーフといえば次はやっぱり

それからすぐ、僕達はミゲルさんの家に戻ってきた。

ミッチェルさんに「じゃって、お主を連れてったらあの鉱山全部掘り尽くされそうじゃし」って笑って言われて。

いや、やらないから。


で、ミッチェルさんはミゲルさんに鉱山でのことを説明。

「っちゅう訳じゃ。残っちょった鉄はともかく、ミスリルは始末に困っての」

「鉱山の見学など、普通は何事も無い退屈なものになる筈なんだが・・・これすらも平穏とはいかないのか。こんな特大の爆弾を持ち帰って・・・」


「兄貴よ、カルデシに平穏なぞ求めちゃあいかん。砂漠で雨を望むようなもんじゃ」

「ミッチェルさん、それ結構ヒドい事言ってない!?」

「言ってない!」

「言うちょらん!」


ふたり揃って同じ返事が返ってきた。

出会って二日目のミゲルさんも同意って・・・


「で、ミスリルだったな。正直これはどうしようもない。国に報告する義務はあるが、報告したらドワーフの里の平穏は終わる。どうしたらいいんだ」

「じゃよなあ・・・」

そして頭を悩ませたミッチェルさんが出した答え。

「あの人に何とかしてもらうしかないかのう。カルデシ案件じゃっちゅうてな」


ミゲルさんは他にやりようが無かったみたい。

ミスリルについてはミッチェルさんに任せる事になった。


そして翌朝――

「カルデシよぉ! 世話になったなあ!」

「絶対また来るんだの!」

「「「「「待ってるだの!!」」」」」

「師匠! これからもカットを極めていきますじゃ!!」

「師匠! わしは魔剣を極めますじゃ!!」


里のみんなに見送られながら、僕とミッチェルさんは帰途についた。

僕のドワーフの里観光、これにて終了。




「で、こいつがドワーフの里のお土産って訳かい」

ミッチェルさんの言った『あの人』っていうのは、ベルベルさんの事だった。

そのベルベルさんは目の前に置かれたミスリルの塊を見て難しい顔をしてる。


「あんたこれ、どう見ても20キロはあるよ。この国で保管してるミスリルを全部足した量よりも多いじゃないか」


国が持ってるよりも多いって・・・


「ったくあんたは毎度次から次へと・・・国に引き渡すにしても産出地の報告が必要だし、馬鹿正直にドワーフの鉱山だなんて報告したら、ミスリル鉱脈じゃないかなんて山全体を掘り起こしかねないし」

「ええっと、あそこにあったのはこれで全部でしたよ?」

「だからそれをどうやって証明するってんだい。だいたい『山の内部を空間把握したらどこに何があるか分かりますから』って、それ絶対ただの『把握』じゃない別のヤバい新魔法だよ。公表なんて出来るもんか」


ええ・・・

やってる事は今までの把握と同じなのに・・・


「それに何だっけ、さっきのその『掘削』?」

「『採掘』です」

「そうそう、その『採掘』だって相当ヤバいよ? 山を掘らずに中の金属だけ抜き取るって・・・」

「え? やってるのは全部普通の魔法ですよ?」


するとベルベルさんは溜息を吐いて、

「そりゃ確かに異質なのは『山の中身の把握』だけさ。それ以外のひとつひとつの魔法は、どれも一般的な錬成魔法と時空間魔法だよ? だけどね、それらをそのレベルで組み合わせられる奴なんて、世界中探したってあんた以外にいやしないよ。そもそも遠隔錬成自体が『理論上可能か?』なんて議論されてる段階なんだからね」

「あ、そう言えば編入試験の時に校長先生が『軍事的脅威レベル』って・・・」

「思い出したかい? つまりそういう事だよ」


うん、これは公表できない。って言うか・・・

「絶対秘密でお願いします」

「それしか無いだろうね。そういう訳だから、そのミスリルはそのままあんたのボックスにしまっときな。もし何かに使いたくなったら、まずあたしらに相談するんだよ」

「はい」


ここでベルベルさんは表情を緩め、話題を変えた。

「じゃあこれでミスリルの話はお終いだ。ミッチェル、あんたもそれでいいね?」

「うむ、願っても無い結論じゃ」

ベルベルさんは頷いて、

「それでミッチェル、この子はドワーフの里で大人しくしてたかい?」

「む・・・里に迫っちょった100頭以上のヒベアの群れを20分で殲滅しちょったぞ」

「まあ殲滅だけならあたしでも出来なくは無いだろうけどさ・・・20分て」

「それと里での話じゃが・・・里の肉屋から包丁を取り上げて、里一番の老舗鍛冶師から鍛冶を取り上げて、そのふたりから『師匠』と呼ばれちょったぞ」

「何だいそりゃあ・・・」


緩んだ表情が一瞬でまだ難しい顔に戻っちゃった。

続けてミッチェルさんが詳しい説明をすると、頭痛がする時みたいに頭に手を当てて、

「夏休みに入った途端にこれかい・・・こうして考えると、学校がある間はまだ大人しい、って事なのかねえ」

「学校で経験を積んだ結果、っちゅうのも考えられるぞ?」

「嫌な事言うんじゃないよ」





マリアベルの魔道具店の奥の部屋。

カルア達が帰り、そこにいるのはマリアベルひとりだけとなった。

「さて。さっきの話、あいつらにも伝えとかなきゃねえ」

通信具で呼び出しを掛けたマリアベル。

すると間もなく、部屋にはいつもの3人が現れた。


「校長、連れてきたよー」

「ししょー、どうしましたー? 寂しくなっちゃいましたー?」

「それだったらいいんですが、正直あまりいい予感はしませんよミレアさん」


3人の暢気そうな表情にイラっとしたマリアベルは、

「カルアが20キロ以上のミスリルを持って来た」

初手に爆弾投下を選択する。


「は? 今なんて・・・聞き間違えっちゃったかな?」

「ええ? ミス―― ええ!?」

「ミスリル・・・ですか?」


3人の表情の変化に満足したところで、ようやくマリアベルは先ほど聞いた詳しい情報を伝え始めた・・・


「弟弟子君のやらかしは今に始まった事じゃないけど・・・20キロ以上のミスリルって・・・」

「知られたら間違いなく大騒動になりますね。最悪戦争に発展する事も・・・」

「カルア君・・・僕のいない間に、何て楽しそうな事を!!」

ひとり感想が少しおかしいのは当然モリス。


「ずるいよ。僕フォーケイブ君のところの結界改良をやってる間に・・・」

モリスの言葉が引っ掛かったマリアベル。

「ちょっと待ちなよ。モリス、あんたフォーケイブの精霊に会ってたって事かい?」

「ああそうさ。シル君と一緒に行ってきたんだよ。だってほら姉妹ひとりだけ後回しって訳にはいかないじゃない? それにあそこって、普段から人の出入りが多いんだし」

「だけどカルアがいないんじゃあ――」

「カルア君が行くのは操化身アバターを作るためだからね。もともと結界の改良は僕の案件だよ。彼女たち姉妹の環境改善と連絡手段回復っていうね」


モリスの働きにより、実はすでに姉妹全員の通信は完全回復していた。

しかも、その後フォーケイブ以外の姉妹全員の操化身アバターを連れて行った事により、姉妹全員がフォーケイブに集合できるようになっている。

カルアが精霊たちからフォーケイブ行きを催促されないのは、一重ひとえにモリスのお陰と言っていいだろう。


「にしたって、ミッチェル君も声を掛けてくれたっていいだろうに。僕だってドワーフの里に連れてってもらう約束してあるんだからさ」

ブツブツ文句を呟くモリス。

まあたとえ誘われたとしてもフォーケイブ案件で手が離せなかったのだが。


「まあそれはそれとしてさ、モリスあんた『山の中の把握』って可能かい?」

「うーん、ひらけた空間があるかどうかってのは判別できるよ。ダンジョンの中でもやってたしね。だけど、土とか金属の区別はつかないなあ。思うに、カルア君にそれが可能なのは、優れた錬成の適性と技術のお陰じゃないかなあ」


「ああそうか、その時点でもう時空間に錬成を組み合わせてるって事かい。だけどそれってやっぱり、時空間と錬成を融合した『新魔法』って事になるのかねえ」

「ししょー、融合の深度によってはむしろ『新属性』の方かも」

「ああ、確かにミレアさんの言う通りかもしれませんね」

「「「はぁ・・・」」」





ヒトツメの家に到着っと。

うーん、思ったより早く帰ってきちゃった。

もう少しドワーフの里をゆっくり見て回りたかったなあ・・・

でもまあ転移でいつでも行けるし、それに里にも自由に出入りしていいって事になったし、そのうちまた行けばいっか。

あ、でもミッチェルさんは「鍛冶師に会わせたくない」って言ってたっけ。

今度相談してみよっと。


「次は何しようかなあ」

予定は未定。でもヒトツメで出来る事って、あとはもうギルドで冒険者活動くらいかなあ・・・

どうしよう、『そのうちまた』じゃなくって明日またドワーフの里に行っちゃおうかな。


ん? ちょっと待って・・・

そうだよ、物語だとドワーフの里と双璧を成すもうひとつのド定番が・・・




「それで私のところに来たのですね」

ここは学校の校長室。

学校は夏休みだけど、先生たちはみんな普段通り仕事してる。それにすごく忙しそう。

この前レミア先生が言ってた通りだ。


「ふむ、そうですね・・・カルア君だったらエルフの森に連れて行ってもいいかもしれませんね。エルフや森に危害を加える事は無いでしょうし、君自身も得るものが多いでしょう」

「それじゃあ!?」

「ええ、いいですよ。ただあそこは結界に守られていて、いきなり集落に転移する事は出来ません。森の入り口まで転移して、そこから集落まで歩いていく事になるでしょう」


やった! エルフの森!!

あ、でも・・・


「物語とかだと、森の結界が侵入者を道に迷わせたりとか・・・」

「ふふふ、そのあたりは森についてから実際に体験してもらった方がいいでしょう。数日間留守にするのであれば、私もそれまでに色々とやっておかないといけない仕事とか引継ぎがあります」


そっか、先生はみんないつも通りだから・・・


「それに君のを取り寄せる時間も必要ですね・・・出発は明日にしましょう。明日の朝にもう一度ここに来てください」

「はいっ! やった!!」




晩ご飯はもちろんピノさんと。

「ドワーフの里かあ、私は話でしか聞いた事が無いなあ」

「本当におとぎ話のままの感じでしたよ」

「ふぅん、私もそのうち行ってみたいな」

「じゃあ次は一緒に行きましょうよ。今度ミッチェルさんにお願いしてみますね」

「うん、楽しみ」


美味しいご飯は終わり、でも楽しいおしゃべりは終わらない。


「じゃあ里に行ったら私もカルア君の事『カルデシ君』って呼ばなきゃいけないのかな」

「あ・・・そうかも」

「ふふ、何だか変な感じ」

「そうですね」




「でもそれって、カルア君がドワーフに錬成を教えたって事でしょう? それって凄い事だと思うんだけど」

「でも相手はお肉屋さんと錬成を殆どやらない鍛冶屋さんですよ?」

「うーん、そう言われると・・・そうなのかな?」




「そういえば、ドワーフの里に行く途中で会ったふたり、ピノさんのスープを物凄く喜んでましたよ」

「作り置きが少なくなったら言ってね。ふふ、今度はどんなの作ろうかな」

「材料だったらヒベア肉がたくさんありますよ」

「100頭くらい収納してるんだっけ。どんどん増えてくね」

「持ってても食べきれないし、売っちゃおうかな」

「一気に売っちゃダメだよ? 市場が大混乱するから」




「ミスリルかあ・・・実物を見たのはこの間が初めてだなあ。あれはほんのひと欠片くらいだったけど」

「ベルベルさんに『国が持ってるのよりも多い』って言われてビックリしちゃいましたよ」

「ミスリルって魔力を増幅できるんだったよね。そのうち何かの魔道具の材料にするの?」

「うーん、今のところは考えてないかな。ベルベルさんには使う前に相談するようにって言われてるし」

「ふふ、この間のテーギガみたいなのを作っちゃうとか?」

「ええーー」




「そういえばルピノスさんって今何してるんでしょうね」

「え!? どどどどうしたの、いきなり?」

「いやほら、この間の戦いで、ピノさん達と一緒に戦ってくれてたら心強かったのかなって」

「ええええっと・・・うん、そっそうかもね」

「あ、でもこの間の修行で魔力の識別が出来るようになったから、もう一度会ったら『遠見』と組み合わせて居場所を探せるようになるかも」

「え・・・」




「ピノさん『はぐれたメタル』って知ってます?」

「ぐふぉっ」

「・・・えっと、大丈夫ですか?」

「ご、ゴメンね。ちょっと心の何かが変なところに入っちゃって。ええっと・・・『はぐれたメタル』だっけ?」

「この間テーギガを初めて見た時、アーシュが言ってたんです。『ヒトツメギルドで話題になったはぐれたメタルかもしれない』って」

「アーーシュぅーーー・・・」


「それでその『はぐれたメタ――」

「話題と言っても何も分かってないのよ都市伝説みたいなだからえっと『謎の生物ヒトッシー』?みたいなそれでね目撃情報って言ってもそんな大したものじゃなくって何て言うかほらだからそう樽に目がついてじっとこっちを見てるから目樽めたるとか目が合ったら樽の中に引き込まれるとかそういう――」

「何それ怖っ! それってミミックの一種ですか?」

「あ、あははは・・・そうかもね」


「そんなのがヒトツメの街に・・・だったら夏休みは目樽めたる討伐を――」

「だっ大丈夫! ギルマスが頑張るから。気配察知で『えい!』って。だからカルア君は何も心配しなくて大丈夫だから。情報とか集めなくていいから! ね!?」

「ええっと・・・そうですね。ギルマスが出てくれるんなら安心ですね。じゃあギルマスに『頑張って下さいって』応援――」

「大・丈・夫・だから!!」



途中ちょっと様子がおかしかったり慌てたみたいな感じだったりちょっと変なピノさんだけど、その後はいつものピノさんに戻って楽しくお話しして。

きっと安全面からは必要無いだろうなあとか思いながら、でもやっぱり一緒に歩きたいから夜道を家まで送って行って。


帰って寝たら、明日はいよいよエルフの森だ。

ああ、楽しみだなあ・・・




そして朝。

身支度を整えたら王都に転移して、そのまま学校へ。

ノックして校長室に入ると、校長先生がぐったりしてた。

昨夜ゆうべ仕事を頑張り過ぎたのかな?


「カルア君、よく来てくれました・・・緊急、事態です・・・君の力を、貸してください」


もしかして急ぎの仕事が終わらなかったとか?

それって絶対僕のせいだよ!


「はい、何でも言ってください。僕は何をすればいいんですか?」

「カルア君、私達エルフを・・・エルフの里を・・・救ってください」


ちょっ、何この急展開!?

それに・・・


「それなら他のみんなも――」

「取り寄せる事が出来た・・・入場許可証は、これひとつだけ、でした。・・・そしてこれを持たない者は、森を抜けられない。・・・つまり一人しか、行けないんです」

「だったら追加で取り寄せたりとかは?」

「おそらく、里のエルフ全員・・・動けない状態です。私ですら・・・ギリギリなのですから」


エルフは誰も動けない。

そして森を抜けて集落に入れるのは、今は僕ひとりだけ。

何をすれば助けられるのか分からないけど、今はそんな事言ってる場合じゃない。

だから答えはひとつ。

当然・・・


「分かりました。校長先生、僕をエルフの森に連れてってください!」




校長先生は残った魔力と気力を振り絞って、僕を森の入り口まで連れて行ってくれた。

「カルア君、この許可証に・・・私と君の魔力を注ぎます。そうすれば森は・・・君を受け入れてくれる」


許可証を受け取って森に足を踏み入れると、校長先生の言った通り、森は僕達を迎え入れてくれた。

木々が左右に移動し、奥へと続く道を作り出して・・・

「では行きま――」

そこで校長先生は力尽きたみたい。

言葉の途中で目を閉じると同時に、倒れるようにその場に座り込んじゃった。


その校長先生を包むような樽型の結界を張る。

そしてその結界で校長先生を優しく持ち上げ、

「ここからは僕が連れて行きますから、校長先生はそのまま休んでいてください」

さあ、集落に向けて出発だ。




何故結界が樽の形をしてるかって?

昨日ピノさんから聞いた目樽めたるの話が頭に残ってたから、っていうのは僕だけの秘密。

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