第117話 僕の夏休みはソロで始まります

合宿が終わってから、今日で1週間ちょっと。

合宿のレポート提出とか振り返りテストとかで色々と忙しかった学校だけど、

「はーい、それではぁ、明日からいよいよぉ・・・」

ここでグッと溜めて・・・

「夏休みでぇーーーーっす」

「「「「「うぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!」」」」」

今日はいよいよ夏休み前の最終日。


「みなさんいろいろとぉ、計画があると思いますけどぉ、新学期になったらぁ、元気に登校してくださいねえーーー」

「「「「「はぁーーーーーいっ」」」」」」


「ちなみにぃ・・・先生はぁ・・・・・・皆さんの学習状況の報告書提出とか新学期からの授業計画策定とか教員用講習とか他校教員との交流会とか王宮やら貴族さんの対応とかでぇ・・・休みはホンのちょっとしか無いんですよぉ。皆さんくれぐれも『学校の先生は夏休みが沢山あってお得』なんて変な誤解しないようにしてくださいねぇ。学校の先生になりたいと考えている人はそのあたりきちんと覚えておいて下さいねぇ。ちなみに先生は異動してきた去年の夏に初めて知ってびっくりしましたぁ。まさか普段よりも夏休みの方が忙しいなんてぇぇぇ・・・ぅぅぅ・・・はぁ、以上でぇす・・・」


突然の早口(普通の人くらいの早さ)からだんだん表情が暗くなって、最後は俯いてトボトボと教室を出ていくレミア先生。

あの元気なレミア先生があんな感じになるって、本当に大変なんだろうなあ。

ええっと・・・頑張って下さい。



「じゃあ私達オーディナリーダも明日から暫く解散ね。いい? 夏休みが終わったらすぐにまた冒険再開よ。絶対だからね!」

アーシュは夏休みの間ずっと貴族の勉強だって。

学校とか冒険で出来なかった分の遅れを取り戻すよう強く言われたとかで。


「カル師、進化したわたしの料理、乞うご期待」

ワルツは家の手伝いと料理の修行。

ヨツツメの夏は掻き入れ時だから、レストランの営業は家族総出でやるんだって。


「夏の農園はもう毎日が収穫だよ。一日収穫が遅れただけで実が育ちすぎちゃって売り物にならなくなるんだ」

ノルトはまあこんな感じ。

もし嵐が来たら使ってねって結界具を渡しといた。もちろん充填した魔力で張れるように改良済み。


「俺はひたすら剣術の修行だ。少しでもクーラ師匠に追い付かないとな」

そんなネッガーにも結界具を渡しておいた。

ノルトのとは違って、案山子というか巻藁として使えるように作った結界。

『結界を斬る』って張り切ってるお父さんへのお土産としてね。


「「「「「じゃあ新学期に!!」」」」」


こうしてパーティのみんなと別れ、僕のソロの夏休みが始まった。




「こんにちはー」

ヒトツメギルドに入ると、何だかのんびりした雰囲気。みんなもう依頼を受けて出払ってる時間だからね。

でも――

「おお、何だカルア帰ってきたのか」

「ああそっか、学校には夏休みってのがあるんだったなあ」

「よおっし、じゃあ夏休みに乾杯だ。さあ、カルアもこっちに来て飲――」

「未成年にお酒を勧めないで下さいっ!」


一瞬のうちに受付カウンターから移動してきたピノさん。でも最近はもうみんな慣れてるみたいで、

「おおっとピノちゃんに怒られちまったぜ」

「すまんすまん、ちょっとした冗談だって」

「よおっし、今度はピノお姉さんに乾杯といくか」

「もうっ」

あはは、今日もとっても楽しそうだ。


という訳で、

「今日から暫く夏休みなので、ヒトツメに帰ってきました。こっちで何をするかは決めてないけど」

「おお! 飯に困らない程度にゆっくりすればいいさ。それより土産話でも聞かせてくれ。あっちじゃあどんなだったんだ?」

「ええっとですね・・・ええっと・・・」


あれ? そういえば・・・

話していいのって、どこまでだろう?


ちょっと困った顔でピノさんを見ると、ピノさんも察してくれたみたいで、

「それはまた後でね。まずはギルマスに挨拶に行きましょうか」

と、ギルマスの部屋に連れて行ってくれた。


「おおカルア君、先日ベルマリア女史の家で会って以来だな」

「はい! 夏休みで帰ってきました」

「うむ。それで何か予定はあるのかね?」

「いえ、今のところ特には」

「そうかそうか。まあこれまで波乱続きだったからな。たまにはのんびりするといい。私もそれを望んでいる」


挨拶も終わって、冒険者のみんなにどこまで話していいか相談すると、

「ふむ、まず分かっていると思うがダンジョンの精霊については口外禁止だ。それとセントラルダンジョンはまだギルド本部から通達がないから、これも禁止だな」


ふむふむ。


「テーギガ事件については、避難指示と終息宣言があったからそれ自体は構わんが、テーギガの名前と君達が戦ったという事については口外しないでくれ」


ああ、確かにそのほうがいいかも。


「次に君自身についてだが・・・」

「はい」

「スティール及び入学時に禁止とした内容は引き続き口外禁止、学校で校長に禁止と言われたもの、モリス氏に禁止と言われたものも禁止だな」


ええっと・・・つまり?


「うむ。話せる内容の方が少ないな」

「やっぱり・・・」

「まあ彼らにもカルア君に関する事は深く追求しないように伝えてある。君がうっかり口を滑らせない限りは大丈夫だろう」


はは、それが一番心配が気が・・・

「ふむ、だったら――」

そしてギルマスは僕の後ろに視線を向け、

「ピノ君、君がお目付け役として同席してくれたまえ」

「はい、分かりました」


「ええっ、そんなピノさん悪いですよ」

「この時間だったら大丈夫。それともギルマスに同席してもらう方がいい?」

「ギルマスに?」


ギルマスの顔を見ながら、そのギルマスが難しい顔をして僕の隣に座ってるところを想像すると・・・

「絶対みんな緊張して話が始まらないと思う」

「でしょ?」

「・・・」



という事でピノさんと一緒にみんなのテーブルに座ったんだけど・・・


学校での事はほんのちょっとだけで、その後はずっとピノさんとの事を揶揄われて話が終わっちゃったよ。

何だかなあ・・・



「じゃあ行ってきます」

「はい、大丈夫だと思うけど気を付けて行ってきてくださいね」

みんなに食堂でお昼をご馳走になって、そのまま僕ひとりフィラストダンジョンへ。

他に行くところもないし、フィラストダンジョンがどうなったのか見てみたかったしね。




転送装置にカードを翳してダンジョンの中へ。

うん、このあたりは前と変わってないね。

じゃあ一歩・・・あれ?


赤くならない・・・

って事は転送トラップは無いって事なのかな?

うーん・・・うん、まあフィラストさんに直接訊けば分かるよね。

じゃあダンジョン探索開始っと。


バット、ランニングバット、ラビットバット、切り裂きバット。

第3階層まで降りてきたけど、出てくる魔物は前と変わってないみたい。

もしかしてトラップを外しただけで後は何も変えてないとか?

・・・いやそれはないか。

ラルも一緒に手伝ってたくらいだし。


第3階層の一番奥、以前ダンジョンコアがあったここには、階段があるだけで他に何もなかった。

そっか、第3階層まではそのまま何も変えず、増築した第4階層以下をすっごく頑張ったって事だったんだ。

じゃあ新しい階層、行ってみよー!



第4階層。

新しいバットが出てきた。

羽を畳んで身体を丸めて地面や壁を転がるように走り回るバット。

でも攻撃してくるような気配はない。

何だろうこれ・・・

転がってるみたいに見えるから、ローリングバットとかって名前かな?

こいつに気を取られて他のバットの攻撃を受けたりしないように気を付けよう。


でも他には特に何もなくそのまま階段まで到着、そして第5階層へ。

第5階層では、降りてすぐにまた新しいバットが出てきた。

天井付近を飛び回る銀色のバット。ちょっと綺麗かも。


バチバチッ

「痛っ!」


突然そのバットから攻撃を受けた。

全身がものすごく痛い! それに身体が硬直して全然動かせない!

ヤバイヤバイヤバイ!

(結界!)


急いで結界を張ってほっと一安心。

身体はまだ痛いけど、少し経ってだんだん動けるようになってきた。

「回復」

よし、これで完璧元通りっと。



あ、奥から銀色のバットが天井沿いに飛んできた。

あまり増えないうちにスティールし――

え?


飛んできたバットから青白い何かが延びて結界に当たり、一瞬光ってそのまま消えた。

もしかしてさっきの攻撃って今のこれ?


その後しばらく結界の中からバットを見ていると、交互に青白い攻撃を仕掛けてくるようになった。

ああ、何度も見ていたら流石にこの攻撃が何なのか分かった。

「これ、雷だ」


そう、どうやらあの銀色のバットは小さな雷を攻撃に使ってるみたい。

でもこれって魔法、なのかな?

雷の魔法とか聞いたことないけど・・・


でもあいつの呼び名は決まった。

「サンダーバット(仮称)、だろうなあ」

雷を出すバットだからサンダーバット・・・うん、いいんじゃない?


しばらく結界の中からサンダーバットと雷攻撃を眺めていると、奥から今度は「ローリングバット(仮称)」がやってきた。

そろそろ先に進んだ方がいいかな・・・なんて考えてると、サンダーバットの雷がローリングバットを直撃!?


え!? 魔物同士でフレンドリーファイア!?


と思ったら、丸まってたローリングバットが突然身体を跳ね上げて後ろ回し蹴りを放ち、飛んできた雷を僕の方へと蹴り飛ばす!

「あれは・・・ローリングソバット!?」


ジャンプしながら後ろ回し蹴り・・・

あの技は学校で見たことがある。

誰だったかな、教室で格闘の技だよって言って自慢してたっけ。

その時に聞いた技の名前がローリングソバット。

まさかローリングバットがローリングソバットを使うなんて・・・

て言うかローリングバット案外足長いな。



で、サンダーバットとローリングバットの組み合わせで、上から下から結界目掛けて雷が飛んでくるようになった。

合体技で『ローリングサンダー攻撃』って感じ?

この階層、実は結構危険かも。

「スティール」


・・・よし、静かになった。

これ、どっちも新種かなあ? 一応身体も魔石もお持ち帰りっと。

さあ、次はどんな感じかな。




その後はさくさく進み、次は第6階層。

ここでは、これまでの全種類のバットが総登場してきた。

足元をランニングバットが走り回り、ラビットバットが跳ね回り、ローリングバットが転げ回る。

空中をバットと切り裂きバットとサンダーバットが飛び回る。


これで密度が高かったらまるで魔物部屋だよ。

・・・スティールするにはその方が手間がかからなくて助かるんだけどね。


片っ端からスティールして一番奥まで進むと、そこはボス部屋だった。

そしてそのボスとは・・・金属バット。

うん、そうだと思ったよ・・・


と思ったら、金属バットが他のバットを召喚。

全種類1匹ずつ。

これって魔物部屋みたいにどんどん増えてくのかな?


様子を見ようとしばらく撲撲ボコボコ棒で金属バットを優しく転ばせながら待ってみたけど、これ以上バットを増やす様子はない。

逆に召喚されてきたバットを倒してみたら、同じ種類のバットを補充召喚してきた。

ああなるほど、そんな感じなんだ・・・

じゃあ様子も分かった事だし、そろそろ――

「スティール」


金属バットも他のバットも全部まとめてスティールして、ボス部屋は無事にクリア。

そうしたら、奥の壁にすごく大きくて立派な扉が現れた。

「うわ、何この扉? すごくかっこいい!」



この扉、ドアノブとか無いから押せばいいのかな?

・・・違ったみたい。押しても全く動く気配がない。

それとももしかしてスライド式とか?

左右、あと念の為上下方向も・・・

ダメだ、どの方向にも動かないや。


うーん、開かないのは仕方ないとして、とりあえずこの先がどうなっているかを『把握』しておこうかな。

と思ったけど、扉の先が全く見えない。

あれ? この反応って――


「この先ってダンジョンの外? っていうか別のダンジョン、って事なのかなあ」

そう、これってまるでダンジョンの外壁みたいな反応。

範囲を広げてみたけど、第1階層からこの第6階層の外側は完全に遮断されてて、フィラストさんのいる部屋の位置も分からない。


「とりあえず今日はここまでかな」

改築したダンジョンの様子も見れたしね。

あ、でも最後に挨拶だけしとこうかな。

「フィラストさーん、こんにちはー!」


しばらく待ったけど返事がない。

「カルアですけどー、見てますかー?」


やっぱり何の返事もない。

気付いてないのかな?

まさかまた悪いエルフと間違えられてるとか・・・


「じゃあまた来ますねー!」

改築したフィラストダンジョンの探索、今日はここまで。

とりあえずギルドに帰って報告しよっと。




「ただいまー」

ギルドに戻ると、さっきいなかった人が帰ってきてて、少し賑やかになってた。

「おう! お帰り!」

「あらカルア、久し振りじゃない」

「がははは、カルアに乾杯だー」


軽く手を振って挨拶して、それからピノさんのところへ。

「ただいまピノさん」

「お帰りなさいカルア君。久し振りのフィラストダンジョンはどうでした?」

「はい、転送トラップが無くなってるし、6階層まで増えてるし、出てくる魔物の種類なんかも変わっててビックリしました」


「え?」

驚いた顔になったピノさん。あれ?


「転送トラップが無いのはともかくとして、階層や魔物が増えてたんですか?」

「はい。そうなんですけど・・・これまで誰からも報告がなかったんですか?」

「ええ、今初めて――ちょっと奥の部屋で話しましょうか。パピ、他の冒険者さんからの聞き取りをお願い」

「分かりました」



ピノさんと奥の個室に移動、少ししてギルマスが来たところで話が始まった。

「ダンジョンの変化についてもう一度聞かせてくれるか」

「はい。まず入ってすぐに気付いたのは、転送トラップが発動しない事でした。一歩踏み出してもダンジョン内の色が変わらなかったんです」

「ふむ、なるほど」


「第3階層までは出てくる魔物は以前と同じでした。あ、でも少し数が増えてたかも」

「バット、ランニングバット、ラビットバット、切り裂きバットの4種類だな」

「そうです。それで第3階層の一番奥まで進んだんですけど、そこにあったのは下に進む階段だけでした」


「ふむ、ダンジョンコアは無くボスも出現しなかったと」

「はい。以前精霊のフィラストさんに会った時にダンジョンコアは移す事になってたので、まあそうだろうなとは思ったんですけど。それで階段を降りて第4層に入りました」


「ふむ、ここからフィラストダンジョンで初めての階層だな」

「そこでは初めて見るバットが出てきました」

そう言って、テーブルの上にローリングバット(仮称)とその魔石を取り出した。


ギルマスはその身体を持ち上げて手足や羽を動かしたり眺めたり。

「ふむ、普通のバットとあまり変わらんな。違いとしてはラビットやランニングより更に足が長く発達している点か」


「このバットは身体を丸めて床とか壁とか天井を走り回るんです。まるで転がっているように見えたので、ダンジョンの中では『ローリングバット』と呼んでました」

「はは、転がるからローリングバットか。もし新種ならそのまま正式名として採用したいな」


「この階層では他に何か変わった事は無く、そのまま第5階層へと降りました。そこでまた別の新しいバットが現れて、そいつの攻撃を受けたんです」

「ほほう、更に新しいバットがか。それも見せてもらえるんだろう?」

「はい、これです」


今度はサンダーバット(仮称)をテーブルに置く。


「ほう、全身銀色か。こいつの特徴は?」

「はい、まず攻撃は青白い雷みたいなのでした。当たると全身に鋭い痛みが走り、そして麻痺で動けなくなります」

「何だと!? 無事――だったんだよな、こうして帰ってきてるんだから。カルア君はどのように対処したんだ?」


「はい、身体が動かないので結界で身を守りました。そして外の様子を見てるうちにだんだん身体が動くようになって、その後『回復』で全快しました」

「なるほど。だが麻痺か・・・危険な攻撃だな。それに雷? そんな属性は聞いた事が無いが・・・カルア君は知っているか?」

「いえ。僕も知りません」


「そうか・・・それでこのバットは何と呼んでいたんだ?」

「はい、そのまま『サンダーバット』です」

「ふむ、これもまた性質をそのまま表した名前か。新種なら正式名称案として申請しよう」


「それでですね、さっきのローリングバットなんですが、飛んできたサンダーバットの雷を僕の方に蹴り飛ばしてきたんです」

「何だと? それは多種の魔物による合体攻撃という事か。そんな事例など・・・」

「それでその蹴りなんですけど、ジャンプしての後ろ回し蹴り、所謂いわゆる『ローリングソバット』だったんです」

「・・・」


急に考え込んだギルマス。


「冗談じゃ・・・ないんだな?」

「はい。ローリングバットが・・・ローリングソバットで雷を蹴り飛ばしました」

「何と言う事だ。発表したらたちの悪い冗談と受け止められかねん」

「ちなみに、この合体攻撃の事は『ローリングサンダー』攻撃って呼んでました」

「むぅ、すかさず止めを刺しに来るとは、やるな・・・」



ここで扉をノックする音とともにパピさんが登場。

「あの場の皆さんに確認しましたところ、2日前にフィラストダンジョンに入った方がいました。その方によると、その時点では第3階層の様子に変わりは無かったそうです」

「・・・とすると、昨日もしくは今日変化した、という事か。もしかしたらカルア君が来るのを待っていたのかもしれんな」


いやそんな事あるわけ・・・



はは、うっかり『ありそう』って思っちゃった。

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