第112話 究極進化! テーギガ爆誕す!

サーケイブダンジョンに入ったら、そのままシルの研究室へ。

あれ、誰もいない?・・・ってそんな訳無いよね?

「こんにちはー」


声を掛けると、ダンジョンコアの中からサーケイブダンジョンの精霊サーケイブ、愛称シルが顔を出した。

「こんにちは・・・えっと・・・スラスラ、さん?」

「カルアだよっ」

うう・・・名前じゃなくってスラスラで覚えられてた。


「うん・・・そうそう・・・カルア。・・・大丈夫、覚えた・・・じゃなくって・・・覚えてた」

「それ絶対忘れてたよね? スラスラしか覚えてなかったよね?」

「そんな・・・事ないよ?・・・一度聞いた名前・・・どんなキノコも・・・スライムも・・・ちゃんと覚える・・・から」


僕、キノコでもスライムでもないんだけど?

そんな僕の心の声が聞こえたのか、すっと目を逸らすシル。

その目には・・・あ、眼鏡。

「シル、モリスさんから眼鏡貰えたんだね」

僕がそう言うと、シルは嬉しそうな表情で眼鏡に手をかけ、

「うん、この間。・・・さっきまで、研究してて・・・外すの忘れてた」


そう言って、でも眼鏡はそのままに僕を見つめて、

「それで・・・えっと・・・スラスラ、さん? 今日は・・・どうした・・・の?」

え? もしかして他の話をしたらまた名前忘れちゃったの?

これは・・・もう「スラスラさん」を受け入れるしかないのかなぁ?



「実はね・・・」

とりあえず呼び名の事はおいといて、シルにこれまでの事を説明。

そしてスティールを進化させる為に来たって事を伝えた。


「そう・・・あなたの・・・スティール・・・興味深い、から・・・私の研究の・・・為にも・・・是非進化させて・・・欲しい。だから・・・私も・・・協力する」

「ありがとうシル!」

よかった。これで修行できる!


「まずは・・・修行する・・・場所を作る・・・むにゅら」

「むにゅら?」

「気にしない・・・ただの・・・掛け声。・・・スライム、的な・・・イメージの」

「あ・・・うん、そうなんだ・・・」


スライム的な掛け声って「むにゅら」なんだ・・・


「うん、出来た・・・さあ・・・移動・・・するよ」

そう言ってシルは僕を連れて転移。

移動した先、僕の目の前には広くって真っ白な空間が広がる。

「ここは・・・?」


「ここは・・・『スライムと時の部屋』」

おおっ! なんだか凄そうな名前!!

「ここでは・・・一日で・・・一年分の・・・修行を・・・」

時間操作!? まさか時空間魔法の神髄的な何か!?

「した気に・・・なれる」


「は?」

した気に・・・なれる?

それって・・・


「効果は・・・個人によって・・・異なります」

「ええっと・・・?」

「あくまで・・・個人の・・・感想です」

「・・・」


つまり、そういう事?


「ええっと、ただの白くて広い部屋?」

「集中・・・しやすい・・・環境が・・・何より大事」

「それはまあ・・・分かるけど」

「だから言った・・・効果は・・・個人によって・・・異なります・・・って」

「そうか・・・後は僕の集中力次第、って事なんだね」


シルは静かに頷いて、

「私には・・・どうすれば・・・進化するのか・・・分からない。・・・ただひとつ、分かって・・・いる事、それは・・・」

「それは?」

「スラスラさん・・・あなたは・・・スライムを・・・知らなすぎる」


スライムを・・・知らない?


「闇雲に・・・突っ走るのも・・・必要かも・・・しれない。だけど・・・研究者として、見ると・・・それは効率的・・・じゃない」


うーん、シルの言う事にも一理ある気がする・・・


「私に用意・・・出来るコースは・・・ふたつ。まず・・・ひたすら・・・スライムを投入する・・・スラ放題コース。・・・もうひとつは・・・一匹のスライムと・・・ずっと一緒に過ごす・・・スラップルコース」

「スラ放題コースとスラップルコース、か・・・」


「どちらの、コースも・・・スライムは・・・心を込めないで・・・提供します」

ん?

「心、込めないんだ・・・」

「それは・・・そう。心を・・・込めると・・・情が移る。・・・倒された時・・・悲しい、の・・・」


「そっか・・・」

それは・・・そうだよね。

どっちを選んでも、僕はそのスライムをスティールする事になるんだから。



さて、どっちのコースにしようか・・・

これまで実績があるのは、ひたすら相手を倒す方法。

フィラストでもセカンケイブでもそうだった。

でも本当にそれが正解だったのかな?


もしかしたら、これまですっごく遠回りしていたかもしれない。

倒したら倒しただけゴールに近づくなんて、僕達が勝手に考えた推測だ。

必要なのは理解する事だけで、何度も倒しているうちにたまたま理解、そして進化したのかもしれないのだから。


でももし沢山倒すのが正解だったら? その時はスラップルコースだといくら頑張っても進化出来ない、って事になるんだ。


それに・・・それに、実はどっちのコースを選んでも間違いで、別の方法じゃないと進化できない可能性だってある。

でもそれを考えだしたら何も出来ないし・・・


僕はしばらく悩んで、そして・・・

「うん、決めたよシル。僕が選んだコースは――」





一方こちらは戻るまでの時間稼ぎをカルアより託された仲間たち。

「えっとさ、クーラ君。確かカルア君はそいつを倒す修行に行ったんだよね?」

殺る気を見せるクーラにモリスが問いかけた。

「ええ、そうよ。私たちがアレの足止めをしてる間にサクッと進化、ってね」

「だよね。じゃあさ、『倒してしまっても構わんのだろう?』って訳にはいかないんじゃないかなあ」


そう、目の前にいるのがピノから逃げおおせたテーセンだと気付いていない一同は、ピノがテーセン達を消し去ったと信じている。

その為、同様にクーラも目の前の敵を消し去る事が出来るのでは、と考えたのだ。


そして、クーラの恐ろしさを身をもって知っているオーディナリーダもまた、「クーラなら或いは」と考えている。だから・・・

「そうよ。あれだけ『最高のシチュエーション』とか言って送り出しといて、カルアがいない間に倒しちゃったりしたら・・・カルアってば、とんだピエロじゃない」

「ほんとそれだよね」

「カル師・・・それは、それで(見てみたいかも)」

「師匠、流石にそれはあんまりです」


そしてラーバルからも。

「クーラ君、教育者としてそれはどうかと思うよ」



冷静になって考えれば、確かにみんなの言う通りだ。

「い、いやねえ・・・カルアが帰ってくる間にあいつを倒しちゃおうなんて、そんな事考える訳ないじゃない・・・あ、あははは」

必死で取り繕うその姿、実に説得力が無い。

だが・・・


「まあそうなんだけどね。だけどさ、みんな考えてみてよ。カルア君が持って帰ってくるのは、あくまで『倒す可能性』だけなんだ。『進化したら倒せそう』って確かにカルア君はそう言ったよ? だけどそれって、『どこまで』進化したら倒せそうなんだろう? ひとつ? ふたつ? それとももっと先?」


モリスの突然の問題提起に、答えを返せる者はいない。


「まあだからつまりね、カルア君を待ちつつ第二次策を用意しとく必要もあるよね、って事さ。だから僕はこう思うんだ。『倒しちゃうのはダメだけど、倒せるかどうかの確認は必要じゃないか』って」

「それってつまり・・・」

「うん、敵戦力を把握するため、君の力を貸してくれるかい、クーラ君?」




かつてテーセンだったソレは、自分を閉じ込めていた結界が消えた事に気付いた。

そして自分の前に立つ見知らぬ者にも。


――時空間適性、なし


興味を失いかけたその時、目の前の魔力反応が突然爆発した。

「あなた今、私を無視しようとしたでしょ? 私から意識を外そうとしたでしょ? ふふっ残念、それはもう出来ないわ。今からあなたは・・・私しか目に入らなくなるっ!!」


クーラの目的は相手の能力を探る事。

まずは生徒達から聞いた内容の再確認だ。

軽いジャブを放つと、敵の体表に波紋のような揺らぎが起きる。

「ふむ、こんな感じか。じゃあ次は少し強く」

唸りを上げたストレートは手首まで埋没し、

「わっ、危ない危ない」

そのまま引きずり込まれそうな気配に、慌てて引っ込めた。


「ああそうか、『害虫タタキ』! ピノ先生は面の攻撃が有効だと判断したのね」

そして拳を開き、掌底を叩き込む。

「うそっ」

その右手は、相手に当たった瞬間再び埋没した。

「もう、これでも小さすぎるの? もっと面を広げなきゃダメかぁ」



ソレは目の前の者を敵と認定した。

ソレにはテーセンだった頃の記憶はほとんど残っていない。だが、その存在の根底には、『恐怖』が刻み込まれていた。

嘗て自分だったモノは消滅寸前まで追い込まれた。その時の『恐怖』は、その時に受けた攻撃を無意識のうちに自らの最強の技として使用する程。


目の前に立つ者は、理由は分からないがその『恐怖』を強烈に呼び起こす。

故に、最上級に警戒すべき存在と感じ取ったのである。

そしてその最強の技による攻撃を開始した。



「ちょっ!?」

2本に伸びたまるで触手のような鞭。その先端は大きな四角い板のよう。

その板が交互にクーラに叩き付けられる!


「何で私が害虫タタキされる訳ぇーーーっ!!」

襲いかかるそれらを高速で避けながらクーラは叫んだ。

その叫び方、どうやらまだ余裕がありそうだ。


ソレもそう感じたのか、攻撃を続けながら鞭を更に4本増やし、その数は合計6本となった。

偶然か必然か、テーセン達3体分の腕と同じ数である。


バンバンバン!

バンバンバン!

バンバンバンバンバンバンバン!


リズミカルに叩き付けられる害虫タタキ。

だが飛んでくる腕は毎回ランダムなため、すべて初動を確認してから避けなければならない。

覚えゲーではないのだ。



初めのうちは戸惑いがあったが、そこは百戦錬磨のクーラ、徐々にその攻撃にも慣れてゆき、やがて反撃に転じる。

「そろそろ! 打ち返すっ! わよっ!」


身体強化。

それは自らの体内で魔力を循環させる事によって身体能力を向上させる技だ。

だがその魔力は体内に留まるだけではない。魔力を放出出来る者であれば、循環するその魔力で身体の表面を覆ったり、また集中させて弾丸のように射出する事も出来る。

そう、ピノの圧縮魔力弾のように。

そしてクーラの場合は――


「むんっ!」


気合いと共に目の前の両拳に魔力を集中するクーラ。

そして引き絞る弓のように一方の拳を引き、魔力を込めたその拳を向かい来る害虫タタキに一直線に放つ。

「ナックルバンカー!!」

その拳は害虫タタキに触れる前に射程に達し、停止したその拳からその10倍以上ありそうな拳型の魔力が射出された!


その魔力は害虫タタキを跳ね返すだけに留まらず、害虫タタキはそのまま空高く千切れ飛んでゆく。

「ナックルバンカー! ナックルバンカー! バンカー! バンカー! バンカー!」

クーラの両拳から立て続けに放たれる拳型の魔力!

それを受けた害虫タタキはもれなくすべて千切れ飛び、そして暫くの空中遊泳ののち、地に落ちた。


「「「「「おおっ!!」」」」」

「凄い・・・」

「これでこそクーラ先生よね」

「師匠、いつか俺にその技を!」


クーラの後方で感嘆の声を上げる生徒達。

だがクーラの表情は冴えない。

地に落ちた欠片達がうぞうぞと本体に向かって進み、やがて本体に吸収されていくのを目にしたからだ。


「まあ分かってはいた事だけど、バラバラにしたくらいじゃ倒せそうもないわね。あ、でも制御のための中心核みたいなのが体内のどこかにあるとしたら・・・よし、試してみるか」


そう言ってクーラは振り返り、モリスに声を掛けた。

「ちょっとアレ粉々にしてみたいから私ごと結界で囲ってくれる?」

「了解だよ。でもくれぐれも気を付けてくれよ。今回のはあくまで調査だからね」

「ふふっ、分かってるわよ。ちょっとバラバラにして、アレに核――魔物で言うところの魔石みたいなのが無いか探してみるだけだから」



「ナックルバンカー! ナックルバンカー! ナックルバンカー!」

先程から幾度と無く叩き付けられる魔力の塊。それを身に受ける度に意識は薄れてゆき、だがそれと反比例するかのように『恐怖』が膨れ上がってゆく。


ああそうだ、この身体中がバラバラになってゆく感覚には覚えがある。

ソレは薄れゆく意識のなかで、うっすらそう感じていた。

はっきりとした記憶としては残ってはいないが、『恐怖』とともにその感覚もまた、存在の奥底へと刻みつけられていたのだ。

そして浮かび上がるひとつの意識。


――使命の途中で消える訳にはいかない

――消える訳にはいかない

――消えるのは・・・駄目だ

――消え・・・たくない

――消え・・・いやだ

――イヤだ! 消えたくない!!


ひとつの意識・・・いや、自身の消失への恐怖から生まれ落ちた『感情』、その感情の爆発によって、ソレは突然急激な進化を遂げる。



「「ヤバいっ!!」」

結界の中と外で同時に響く二つの声。

その次の瞬間、結界の中にいたクーラは防御姿勢をとったまま、同時に声を上げたモリスの隣へと移動していた。

モリスの転送によって。


結界の中ではソレの放つ魔力が爆発的に増加し、結界に途轍も無い圧力を掛け続けている。

「結界が持たない! ラーバル君、僕の結界を君の結界で覆って!!」

「分かった」


ラーバルが結界を張ると同時に砕け落ちるモリスの結界。

それによってラーバルの結界が魔力爆発にさらされ始める。

と同時に、モリスは更にその周りに自分の結界を張り直した。


「多分瞬間的なものだろうからもうすぐ収まるとは思うけど・・・あれ、何が起きてると思う?」

モリスは隣のクーラに問いかけた。

「分からないわ。追い詰められて癇癪を起こしたってだけならいいんだけど・・・この魔力量、いい予感はしないわね」



やがて魔力爆発は徐々に収束してゆき、と同時に結界内に充満していた濃度の高い魔力は、結界の中央へと集束していった。

そして集束した魔力を吸収し、姿を現したのは――


「銀色が・・・人型に?」

表面は銀色のまま、微妙に揺れるそのシルエットは、

「女性のシルエット? それにさっきよりかなり小さくなって」


そう、その姿形、それにその体積は、一般的な女性のそれ。

先程までと比べてかなり小さくなっている。

そして・・・


「あの姿、どことなくクーラ君に似てないかい?」

「そう? 私にはピノ先生に似てるように見えるけど」


顔はなく、髪型も銀色の凹凸により表現されているのみ。

だがその姿は、見る者によってどことなくクーラやピノに似た印象を受ける。


やがてソレは結界の中で身体を動かし、そして手の平を見つめるような仕草を見せたかと思うと、

『ワタシは・・・何だ?』

「「「「「しゃべった!?」」」」」

自らに向けて話し出した。


周囲に上がる驚きの声に、ソレは全く何の反応も見せない。

そしてソレは、そのまま自己分析を進めていった。


『記録――記憶の断片を統合。この姿はワタシを滅ぼしうる2体の敵の姿を模したものと判明。構成体の圧縮により強度と魔力運用能力が上昇。現在の保有能力により、想定される敵能力に対抗可能と推測』


「ねえモリスさん、あいつ、敵2体の姿を模したって言ってたわよね」

「うん、言ってたねえ。はは・・・僕あいつの正体、何となく分かっちゃったよ」

「ええ、私もよ。そっか、ピノ先生、討ち漏らしちゃってたかぁ」


だがまだ、ソレの言葉には続きがある。


「あとさ、君と戦えるだけの力を手に入れた、とも言ってたよね」

「言ってたわね。あの態度、どうもハッタリとかじゃなさそうだから、多分さっきまでの戦闘から判断した、って事でしょうね」

そう答えるクーラの表情はすぐれない。


『個体識別名テーセン3体の統合により、新たな個体識別名が必要。前識別名から新識別名の候補を100パターン作成・・・そこからの選定が完了、これより自らを新識別名テーギガと呼称する』


「はは、自分に名前つけたみたいだ・・・ああ、『セン』の3乗で『ギガ』かな? うーん、戦闘力は分からないけど命名能力はあまり・・・ってそれはまあいいか。それよりクーラ君、進化したっぽいあいつの戦闘力、クーラ君としてはどう思う?」

「そうねえ、瞬間的な力だったらまだまだ余裕があるけど・・・あいつ相手だと初めから持久戦のつもりで戦わないといけないってのがね。あとは戦闘技術の差だけど、あいつの吸収力によっては――」

「その技術も戦闘中に盗まれるかも、って訳か」

「そう言う事」


顔を見合わせるふたり。

そしてどちらからともなく・・・


「呼んじゃう?」

「呼んじゃおっか」


モリスはひとつ頷いて通信機を手に取った。

「やあ、ピノ君かい? 実はさ・・・」




そしてついに・・・

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