第111話 あれははぐれたメタルですか?
クラス全員海岸に着くと、そこにはさっきの銀色のが・・・
「いたわ! 何よあいつ、ほんとにメタルな感じじゃない!」
そこにいたのは僕の倍くらいの高さがある銀色の何か。
表面はどこも全部がずっと波打ってて、時々ところどころがボコっと大きく膨らんだと思ったら、それがまた元に戻ったり。何だか不安定な感じ。
これって一体何なんだろう・・・やっぱり魔物、なのかなぁ。
もし魔物だったら、一番似てるのはやっぱり・・・スライム、だよね。
でもシルのとこにいたのとはちょっと違うような気がする?
「こいつ、変わった魔物ね。あ、もしかしてこれがスライム? 図鑑で見たのとちょっと違うみたいだけど、実物はこんな感じって事かしら?」
スライムはサーケイブでたくさん見たけど、アーシュは行ってないんだよね。
その時はネッガーと一緒だったから。
でもこれ・・・スライムっていうにはどこか違和感があるんだよなあ。
「カルア、とりあえずスティールよ」
「『とりあえず』ってまるで何かの注文みたいに・・・って注文だったよ。じゃあ注文どおり『スティール』!」
僕の放ったスティールはその銀色のに・・・あ、弾かれちゃった。でも今の手応え、これってスライムの時と似てる気がする。
そう、あともうちょっとでスティール出来そうな・・・
これってやっぱりスティールが進化すればいけるって事?
「ふぅん、スティールの効かない魔物か・・・じゃあこいつ、それなりに強いわけね。じゃあみんな一斉攻――」
『ジ空カン魔ホウ師ノ存ザイヲ確ニン』
「「「「「しゃべった!?」」」」」
『時クウ間マ法シヲ殲メツスル』
今こいつ、時空間魔法師を殲滅って言った?
『魔リョク防ギョ開シ』
今度は魔力防御? うわ、こいつ急に自分の周りに魔力を纏って・・・これって魔力の、鎧?
「目的を持ったしゃべる魔物って訳ね。で、こいつのターゲットは時空間魔法師、この場だとあたしとカルアか」
そんなアーシュの言葉を聞いた途端、銀色から超意外な反応が。
『カるア・・・かルあ・・・カルア! 偽エルフ『カルア』ヲ殲滅セヨ』
「ええっ!?」
偽エルフカルアって・・・あの事だよね? 僕の存在を隠すためにってモリスさん達が流した噂の・・・
って事はつまり、こいつの標的は・・・僕って事!?
「ちょっとカルア、あんた『はぐれたメタル』の恨みを買った覚えは?」
「そんなのある訳無いよ!」
「まあそうよね、じゃあ次の可能性。こいつってあんたのお母さんが言ってた『ドロドロ』、じゃない?」
「ああっ!」
アーシュの言葉であの日の事を思い出したよ。
パーティで母さんと再会して、そして僕に訪れる運命を聞いた、あの日の事を。
「そうか、こいつが僕を殺そうとする『ドロドロ』・・・」
「多分だけどね。でもだとしたら、もう遊び半分の気持ちじゃあダメだわ。本気で倒すわよ!」
その横ではノルトがクラスの他のみんなに、
「こいつは敵だ。誰かクーラ先生を呼んできて! 早く!!」
その声を受けて何人かが合宿所へと走った。
「みんな下がって。遠距離から魔法――」
ブンッ!
アーシュの言葉を遮るように、銀色から長い鞭のようなものが延びて、後ろのみんなのいる辺りを横薙ぎに・・・
「うわぁっ」
「きゃぁ」
「ふべっ」
それは後ろのみんなに直撃し、みんなは吹き飛ばされた。
「みんなっ!!」
「カルア、今は敵に集中! みんなは大丈夫、後で回復すればいいわ!」
「でも!」
「すぐに先生達も来てくれる筈だから! 今一番危険なのはあんたなんだから、集中しなさい!!」
アーシュの強い叱咤。
そうだ、こいつの狙いは僕なんだ。集中しないと!
「まずはとにかく攻撃よ。カルア、スライムに効く魔法って知ってる?」
「スライムに効く魔法・・・あっ、加熱!」
「熱に弱いっての?」
「じゃなくって、スライム自体を『把握』して体内組織を直接『加熱』『冷却』する攻撃が効くみたいなんだ」
「分かった。やってみる」
そう言って銀色を把握しようとしたアーシュだったけど――
「無理! 弾かれちゃう!」
「あ、そういえば、かなりの魔力量が必要だって言ってたっけ」
「ちょそれ先に言いなさいよ!!」
って事で僕の番。
あいつを『把握』・・・よし、じゃあ・・・『冷却』!
よし、弾かれてない・・・
けど効いてない? ものすごく冷えてる筈なのに凍ってないし普通に動いてる。
だったら逆に・・・『加熱』!
「これ効果無さそうね」
今度は物凄く熱くなった筈だけど、でもやっぱり普通に動いてる。
試しに何度か『加熱』『冷却』を交互に繰り返したけど、全然効いてないみたい。
じゃあ次はどうしよう・・・
「危ないっ! 全員回避!!」
また銀色から鞭みたいなのが上に向かって延びて、でその先端が変化して・・・あれって大きな板?
次の瞬間その板が僕達の真上から振り下ろされ――ヤバっ!
ドッパーーーーンッ!!
板を叩き付けられた海岸の砂は辺り一面に飛び散って、攻撃を避けた僕たちは全員砂まみれに。
「ううっ、ぺっぺっ」
口の中が砂まみれでジャリジャリだよ。
それを吐き出して、目の周りも拭ってあいつを見ると、鞭だったものは先端が板状になったからか、その形はまるで害虫タタキ。
それが猛烈な勢いで砂浜に打ち付けられた事で、その周囲の地面が抉れてクレーターみたいになってた。
「何よ! あたしたちは害虫じゃないっての!」
これ、もし避けるのがちょっとでも遅れてたら・・・
ヤバい! あの鞭はヤバい! 何とかしなきゃ。
今の僕に出来る対処は・・・よし!
「『結界』!!」
結界で囲むのはすごく簡単だった。
だってあの銀色、その場から全然動かないなから。
もしかして自分で移動出来ないとか? いやそんな訳ないか。
でもこれであいつの攻撃を封じた。
流石に結界は破れないでしょ。あいつがクーラ先生くらい強くない限り。
あとはどうやって倒すかだけど・・・とりあえず色々試してみようか。
まずは物理系から。
「ノルト、『火山弾』よろしく」
「了解」
ノルトの前に真っ赤に加熱した石が現れる。
パーティの共有ボックス、ノルトはそこを石置き場として使ってるんだよね。
そこから取り出して真っ赤に加熱された石は、結界を素通りして次々と銀色に直撃。ホント、ヤバいくらい凶悪な魔法だよこれ。
なんだけど・・・
あいつ、石がぶつかっても何ともないみたい。
それに石が溶ける程の超高温だけど、やっぱり『加熱』と同じで効果は無いみたいだ。
おっと、結界が石で埋まっちゃいそう。石だけを『把握』して『収納』っと。
じゃあ次、爆発はどうだろう。
「ワルツ、アレやっちゃって」
「カル師の、頼みなら、是非も無し」
そう言ってワルツは『水球』を発動。
目の前に浮かんだ水球を飛ばして結界の中の銀色に到達した瞬間、
「激☆加熱!」
銀色の目の前でその水球が大爆発。
結界のせいで全く聞こえないけど、きっと中は凄い音なんだろうなあ。
って待って! 今結界が揺らがなかった!?
もしかしてワルツの魔法って、もうちょっとで僕の結界を破壊できる威力!?
爆発の後の結界の中は、まるで霞がかかったみたい。
あいつ、どうなった? よく見えないな。
「激☆冷却」
霞はキラキラと輝きだし、氷になって落ちていく。
結界の中は地面も壁も氷だらけだ。でも細かい氷の粒が舞ってるみたいで、まだあいつの様子は分からない。
だったら今度は氷だけを『把握』して『収納』。
よし、視界クリア!
結界の中では、向こう側の壁が銀色になってる。
っていうかあれ、爆発でバラバラに吹き飛んだあいつが壁に貼り付いてるんだよね。
これならもしかして・・・
「やったか?」
思わず声に出した瞬間、ワルツがジト目を送ってきた。
「カル師、それ、わざと言った?」
「あ・・・ゴメン」
もちろんわざとじゃないってば・・・
じっと見つめる僕らの前で、銀色はやがてもぞもぞと動き出し、千切れ飛んだ破片はお互いに近付きながら合体し、そして・・・
「元に戻ったわね」
バラバラになっても元に戻るとか・・・
「言っとくけど、今のを見た限り、あれ多分あたしの魔法も通用しないわよ。それにネッガーの攻撃も」
「そっか・・・あと他には・・・あ、空間ずらし――」
「も、きっとダメよね。斬れた次の瞬間にまた貼り付いて元通り、ってのが目に浮かぶわ」
「だよねえ」
困ったな。
だとすると、今の僕達じゃああいつを倒す事は出来ない。
なら今は結界に閉じ込められただけでもよかったと思うしか――え?
ちょっと何? 結界の魔力がだんだん弱まって・・・あれ? あの銀色、結界に貼り付いて何を・・・え? あれって結界の魔力を吸収してる!? それとも分解してる、とか!?
「みんな! あの銀色、僕の結界を壊してる!!」
「何それ、どう言う事よ!?」
「壁に貼り付いて結界の魔力に干渉してるみたいなんだ」
「うそ、そんな事も出来るわけ!?」
「どうしよう・・・」
連絡を受けたクーラは生徒たちの元へ駆けつけるべく急いでドアを開け、そこではたと冷静さを取り戻した。
「まって、銀色・・・銀色か。だとすると例の時空間魔法師狙いと関係があるかも。ならまずはラーバル校長に確認、あと師匠に連絡ね」
合宿所の通信具からのクーラの連絡を聞いて、ラーバルは即決した。
「今そちらに行きます」
そして次の瞬間にはクーラの前に転移し、
「では現場に向かいましょう」
と、クーラを連れて海岸へと転移した。
「あれですか・・・っ!? 生徒達が!」
海岸では、鞭でなぎ倒された生徒達が横たわったり踞っていた。
ラーバルは素早く彼らの元へと向かい、そして彼らとともに合宿所に転移する。
「先生方、急いで彼らに『回復』を!」
幸い『中回復』が必要な生徒はいないようだ。ラーバルはそこにいた教員達に生徒を任せ、海岸へと戻った。
今海岸に残っている生徒はオーディナリーダのみ。
彼らは報告にあった銀色の物体を結界で囲み、少し離れた場所でそれを見守っているようだ。
「ラーバル校長、あれ、どう思います?」
クーラが訊きたいのは王都に出没したという時空間魔法師襲撃犯との関連。
だが、
「聞いていたのは成人男性の形をした3体の魔道具です。あれとは違うようですが、ただ攻撃を受けると銀色の素肌――と言うんでしょうか?――を見せるそうですので・・・」
「同系統の魔道具である可能性、という事ですか」
「ええ、その可能性は否定できません」
それを聞いてクーラは若干考え、
「彼らに状況を聞いてみましょう。校長はモリスさん達に連絡をお願いできますか」
「ええ、分かりました」
そしてカルア達の元へと向かった。
「みんな、無事?」
「「「「「クーラ先生!!」」」」」
よかった、クーラ先生が来てくれた。
「うん、無事みたいね。それで、状況を説明してくれる?」
説明タイム。
「なるほど、物理攻撃も魔法攻撃も効かない訳か。しかも結界も侵食されて――」
って言ってるそばからまた結界が食い破られた。
「結界!」
その瞬間に新しい結界を張り直し、それで何とか抑えてる状態。
「そう・・・さっきからずっとこの調子な訳ね。なんて厄介な」
クーラ先生も考え込んじゃった。
あ、ひとつ言い忘れ。
「あの、もしかしたらだけど、スティールが進化したら倒せるかも」
クーラ先生の目がキラリと光って・・・まるで獲物認定された気分。
「それ詳しく」
「あっはい。最初に一度スティールを試したんですけど、何て言うか『スライムをスティールしようとした時と同じ』感触だったんです」
「ふんふん、それで?」
「この前スライムにスティールしてみたんですけど、その時に『もうちょっとで出来そう』って感じたんです。進化すれば出来るんじゃないか、って。さっきあいつにスティールした時もその時と同じ感触だったんです」
僕の言葉を聞いて考え込むクーラ先生。
おっと、今のうちに結界を張り直しっと。
「なるほどね。つまり現時点で唯一あいつを倒せそうな希望は、カルアの進化したスティールって事か。ふっ、ふふふふっ・・・あははははははは」
「え? あのクーラ先生?」
「まったくもう・・・ほんと凄いわカルア。仲間が敵を抑えてる間に必殺技の修行? それってまるで物語みたいな最高のシチュエーションじゃないの! あなた一体どこの主人公よ!!」
物語の主人公って・・・
あ、これってあのシーンだ。
ふふ、何だか久しぶりに思い出した気がするなあ。
『おいおい、やっと奴を倒す方法が分かったと思ったら『虹色の魔力』だって? 今この状況で『虹の祠』まで行って、そいつを一から覚えにゃならん訳か。ったくよう、何つうか・・・『最っ高のシチュエーション』じゃねえか! お前らがこの町を守ってる間に、俺は大急ぎで『虹色の魔力』を手に入れる。それで帰ってきた俺は指先ひとつで奴を消し去る、って話だろう? って事はつまりだ、俺が失敗たら負け、お前らが失敗しても負け、俺たち全員が成功して初めて勝利を掴めるってえ訳だ。ああいいさ、やってやる! 俺はたとえ何があっても、明日の日の出までに『虹色の魔力』を手に入れて帰ってくるからよ、だからお前ら・・・町の事は任せたぜ!!』
うん、確かに『最っ高のシチュエーション』だよ!
「分かりました。じゃあ僕は絶対に虹色――じゃなかった。スティールを進化させて帰ってきます。だからそれまで・・・あいつの事をお願いします!」
「分かったわ。後の事はあたし達に任せなさい。 あんたは今からスティールの事だけ考えてればいいわ! その代わりもし諦めて途中で帰ってきたりしたら、絶対に許さないんだからね!!」
ふふ、アーシュらしい激励。
ありがとうアーシュ、やる気出たよ!
「それでカルア、修行場所の当てはあるの?」
と、クーラ先生。
今回の修行場所・・・それはもちろん!
「はいっ! サーケイブダンジョンに行きます!!」
そしてカルアはサーケイブに転移していった。
「それでクーラ師匠、カルアがいない間どうやってあいつを抑えるつもりですか?」
ネッガーはクーラに尋ねた。
カルアが最後に張り直していった結界は、カルアからの魔力が途絶え、もう間もなく消えてなくなりそうだ。
「それなら問題ないわ。こちらには結界のスペシャリストが二人もいるんだから。ひとりは私と一緒にここに来たラーバル校長。そのラーバル校長からカルアの
「いやぁみんな! 僕が来たよ!」
「・・・ほら来た」
モリスが張った結界を通して、一同はあらためて敵を観察する。
「ふむ・・・銀色の感じはあいつらと似てるねえ。大きさは・・・こっちのほうが大分大きいなあ。見たところ大体あいつらの3倍くらいかな? あ、それだったらあいつら3人合わせたらちょうどこれくらいの大きさに・・・ってまさかね。あいつはピノ君が消滅させた筈だし。ははは」
モリスは正解にかすり、そして猛スピードで逸れていった。
そして聞き捨てならない情報にクーラが反応する。
「ちょっと待って! 今ピノ先生が3人組を消滅させたって言った!?」
モリスは何でもなさそうに、
「あれ? 知らなかった? 昨日あいつらが王都に向かう途中でヒトツメの街の近くを通りがかった時にね。何でも大きな害虫タタキで原型留めないくらいまでひたすら叩きまくって、最後は超圧縮魔力弾で消滅させたんだってさ。いやぁ、流石はピノ君だねぇ」
クーラは驚いた。
何しろ物理攻撃が全く通用しない相手だと聞いていたから。
そして魔法も通用しない相手だとも聞いていたから。
「大きな害虫タタキで叩きまくった? それってどういう事? って言うか何で害虫タタキ? あいつらの事を害虫だって思ったから? いいえ、気になったのはそこじゃないわ。ピノ先生、物理攻撃が効かない相手を物理攻撃で叩き伏せたの? そんな事ってあり得る?」
「まあそう思うよね、普通。でもその不可能をやっちゃったらしいよ。まあその
興味深そうにモリスを見つめたクーラは、
「その推測ってのを聞かせてくれる?」
当然のようにそう訊き返す。
「いいよ。でも言っとくけど、これはあくまで推測だからね。『あくまで個人の感想です』ってやつだからね」
そう前置きしてからモリスは話し出す。
「彼らは恐らく魔道具だ。だとしたら彼らが活動するためのエネルギーは何だと思う?」
「そりゃあ魔道具だったらやっぱり魔力、じゃないの?」
「うん、正解。だったらさ、攻撃を受けて、それを受け流して、変形したり元に戻ったり・・・そんな事を繰り返したら当然魔力は減ってくよね?」
そこまで聞いてクーラもモリスと同じ推測に思い至った。
「なるほど。つまり奴らの魔力が尽きるまで攻撃を続ければ――」
「そう、彼らの活動を止めることが出来るはずだよね」
それは非常にシンプルな思考。
――殴っても効かないのなら、効くまで殴り続ければいいじゃない。
正に脳筋の極みであった。
そして同時に、それはクーラにとって非常に心に刺さる思考。
(そうよ、一発殴って効かないのならもう一発殴ればいい。もう一発殴っても効かなければ、もっともっと殴ればいい。沢山殴っても効かなかったら? その時は効くまで殴ればいいんだ)
そして銀色に視線を送るクーラ。
「私もそれ、やってみようかしら」
かつてテーセンだったソレは、突然全く意識する事なく振動した。
・・・ひとはそれを『悪寒』と呼ぶ。
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