第108話 いよいよ戦いが始まるようです
ミッチェルさんがお城に最後の仕上げをし始めた頃、僕は先生に呼ばれてみんなの浮き袋を元に戻す作業を始めた。
ひとつも残さないようにって、みんな自分の浮き袋を持って列に並んで、ひとりずつ順番に。
最初に話を聞いた時には嫌がった人もいたけど、悪の組織に狙われるって説明されて――っていうか脅されて――それからは誰も反対しなくなった。
あと人に話すのも禁止。知ってると思われるだけでも狙われるからだって。
それを聞いてみんな顔を青くしてた。
うーん、何だかゴメン。
そして夕方。
「まあ、こんなもんじゃろ。みんなご苦労じゃったな。この城は手伝ってくれたみんなの作品じゃ。ほれ、ここにさっき訊いた全員の名前を入れといたぞ」
「「「「「おおーーーーーーっ!!」」」」」
砂浜に出来上がったのは、中に住めるくらい大きな砂の城・・・
って言うより、砂を原料に作った石の城。
ちょっと大きな宿屋とか商店くらいの大きさのお城。
そうそう、透き通った窓は実はガラスじゃなくって、貝殻を錬成して作ったんだって。すごいや。
「あのミッチェルさん・・・このお城ってこの後どうすれば・・・」
砂浜のお城にちょっと困り顔の校長先生。
「ん? ああ、ここは学校の敷地じゃしワシは作っただけで十分満足じゃからな。消えゆくのもまた砂の城、あとは好きにしてくれて構わんぞ」
「はぁ・・・好きに、ですか・・・」
ミッチェルさんは『砂の城』なんて言ってるけど、校長先生はこんな立派なお城を壊すなんてもったいないって思ってるんじゃないかな。
あ、でも建ってる場所が砂浜だから困ってるとか?
嵐とかが来たら、大きな波がぶつかってかなり傷んじゃうだろうから。
うん、だったら・・・
まずは砂を集めてお城の回りをぐるっと囲んだら、そこにさっきみんなの浮き袋から回収した魔石を溶かして混ぜて壁にして、あとはその壁に付与を・・・よし出来たっと。
門の部分に魔力を注げば、城を守る結界が起動した。
「うん、大丈夫だね。あっモリスさーん! あとでこれにホワイトリストを組み込んでもらえますか? 中に入れる人を登録できるようにって」
「おおーー立派な結界じゃない。いいよー、りょうかーい!!」
これで嵐が来ても大丈夫。
「校長先生、これなら大丈夫ですか?」
「これならって言われても・・・うーん・・・」
まだちょっと困ってる?
「あれ? もしかして他にも何か?」
「ああ、すまないね。建物の有効活用はありがたいんだけど、城で砂浜がちょっと狭くなったのがね」
「・・・言われてみればそうですね」
綺麗な砂浜の真ん中にお城がどーんと。
確かに・・・
「カルア君、だったらさ」
ここで知恵袋登場。
ノルトが声を掛けてきた。
「このお城、海の中に移動しちゃったら?」
「え?」
海の中?
「待って、それじゃ誰も入れなくなっちゃうよ?」
「ああいや水中じゃなくってさ、海の中に盛り土して海の上に建つお城にしちゃうんだ」
海の上に建つお城、それって・・・
「かっこいい!」
絶対すごいお城になるよ!!
「校長先生、それでいいですか?」
「ええっと・・・」
さっきよりもっと困り顔の校長先生。
とそこへベルベルさんが、
「何だいラーバル、せっかく生徒が自主性を発揮してるんだ、まずはやらせてみたらいいじゃないか。ダメならダメで所詮は砂の城、何の問題もありゃしないよ」
この一言で校長先生も吹っ切れたのか、
「そう・・・そうですね、分かりました。カルア君、海の上に建つ城、是非見せてください」
お城の引っ越し作戦、開始だね!!
まずはお城の土台を何とかしなくちゃ。
「ええかカルア、海ん中もたぶん一面柔らかい砂じゃ。安定させるにはかなり深いところまで『圧縮』する必要があるじゃろうな」
ミッチェルさんのアドバイス。
そっか、表面だけじゃダメなんだ・・・
「それでじゃ、大量の砂が必要になるじゃろうが、この辺だけでかき集めたら大きな穴になっちまうじゃろうからな。広い範囲から少しずつ集めてくるんじゃ」
「はいっ!」
「それと、海っちゅうのは時間や天気で今よりも海面が高くなる事があるもんじゃ。今の海面よりも少し高めにするんじゃぞ」
海中の広範囲を把握、土魔法でそこの砂に『移動』をかけてずるずると・・・
集まって出来た大きな砂山、それを海底から海面を突き抜けて立つ四角い塊にする。地中深くまでの範囲を指定して『錬成』と『圧縮』・・・
よし、これで土台が完成。
次はお城の移動。
結界の範囲をお城の底面部分まで広げて、その結界にベクトルを――
おっ重い!
魔力が足りないかも・・・ええいっ、ちょっと循環っ!!
少し浮き上がったお城を海の上のブロックまで移動して・・・あ、入口が逆だ。
お城の入口をこっち側に向けて、ブロックの上に下ろす。
ふぅ・・・移動完了っと。
次はお城までの道を作れば・・・
「出来たぁ!!」
両手を上げて振り替えると、先生も生徒もみんな大はしゃぎ。
それからみんな代わる代わる城に入って、そこから海の景色を堪能して・・・
こうして楽しかった海での1日が終わった。
最後に魔力、使いきっちゃったよ・・・
ひたすら走り続けたテーセン達は、夜になってようやく王都に到着した。
既に門は閉ざされ中に入る事が出来ないが、もとより身分証明が不可能なテーセン達は門から入るつもりはない。
単独行動に移行した彼らはその場から三方に分散し、それぞれ個別に王都への侵入を果たした。
ある者は壁を飛び越え、ある者は水路を通り、ある者はドロドロとした流体へと姿を変え壁の隙間から。
そして彼らの襲撃が始まる。
――時空間適性、なし
――時空間適性、なし
――時空間適性、なし
――時空間適性、なし
テーセン達には魔力センサーが搭載されており、人それぞれの魔力パターンを識別しその適性を判別する機能を持っている。
その機能により歩きながら時空間魔法の適性を持つ人間を探しているが、適性を持つ人間自体が少ないため、中々発見する事が出来ずにいた。
そんな中、
――時空間適性、あり
前方から歩いてくる男性に時空間適性を確認、そっとその後をつけ始めた。
「ったく、室長にも困ったもんっすよ。また今日も仕事放り出していきなりいなくなっちゃうんだから。そのツケがまわりまわって・・・残業する事になるこっちに身にもなって欲しいっすよ」
ぶつぶつと独り言を言いながら帰り道をひとり歩いているのは、インフラ技術室に所属するスラシュ。
ちなみに、突発的に姿を消すモリスの代理として会議に出席する事が多い彼は、他の部署の人々から『お代理様』と呼ばれていたりする。
そのお代理様は、自宅へと向かう最後の曲がり角に差し掛かった。
ここを曲がって
人気のない道に入って間もなく、突然スラシュの背後から大男が襲いかかってきたのだ。
「ええっと・・・念のため訊きますが、なんか用っすか?」
その攻撃を華麗(本人談)に
「時空間魔法師ヲ排除」
返ってきたのは抑揚無く無機質なその声。
それはスラシュの問いへの返事なのか、それとも与えられた指示を声に出しただけなのか。
その次の瞬間、大男――テーセン1号――はスラシュへの連続攻撃を開始していた。
「おっと、うわっ、ちょ、ほっ」
風を切るが如く突き出される鋭い拳、唸りをあげて跳ね上がってくる重い蹴り、それらすべてを余裕で(本人談)避けつつ、
「これは・・・どうも・・・話が通じる・・・雰囲気じゃないっすね」
心の中で溜め息を吐きつつ、最後の切り札を切る事にした。
シュンッ
「はぁ、我が家のすぐ前から職場に逆戻りっすか。これも残業になるんすかねえ」
先ほどまで仕事をしていたインフラ技術室に転移し、引き続きぼやくスラシュであった。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
無言で歩くエド、コリー、そしてバーン。
インフラ技術室に勤めるこの3名もまた、突然の残業を終え家路に就こうとしていた。
――時空間適性、あり
――時空間適性、あり
――時空間適性、あり
標的に気付かれぬよう、そっと3人の尾行を開始するテーセン2号。
1号と同様に、
尾行者に気付いていないエド達3人は、賑わいを見せる一軒のレストランの前でそっと頷き合い、そして店の中へと消えていった。
彼らが出てくるのを店の前でしばらく待っていた2号だったが、ふとその店の前に貼られた貼り紙に気付き、じっとそれを見つめる。
◇◇◇
本日大感謝デー
なんと3時間食べ放題!!
(飲み物は料金をいただきます)
◇◇◇
テーセン2号は次の獲物を求め、夜の町へと消えていった。
ヨツツメの海から帰ったチーム一同がそれぞれの家へと帰る中、やりかけだった仕事を終わらせるべく、マリアベルは自分の店へと戻ってきていた。
「さてと、そろそろ帰ろうかね」
ラーバルからの通信で中断していた魔道具の整備を終わらせ、今日作るつもりだった魔法薬も作り終えた。
スッキリした表情で店を出たマリアベルは一瞬夜空に目をやり、やれやれと呟きながら店の戸締まりを始めたが、ふと背後に気配を感じ振り返った。
――時空間適性、あり
「あんた客かい? 今日はもう店じまいだよ。用があるのなら明日来ておくれ」
「・・・時空間魔法師ヲ排除」
「あん?」
不穏な言葉と気配に、警戒レベルを上げたマリアベル。
そのおかげで突然襲いかかってきたその男――テーセン3号――の攻撃を咄嗟に光の障壁で受け止める事が出来た。
「何だい何だい、最近の若いもんは礼儀ってもんがなってないねえ。いや、そう一括りにしちゃああの子達が気の毒だね。で、あんた・・・まさかあたしに手を出して只で済むだなんて思ってないだろうね」
そう言うや否や、男に向かって火球を飛ばそうとしたマリアベルだったが、
「おっと、こんな所で火を使ってあたしの店に燃え移ったら大変だね。だったら・・・」
と、小さな魔法の鞄から
「気持ちよくぶっ飛びな」
セントラルダンジョン。
そいつは、ふと何かを感じ取った。
野生の勘とでもいうのだろうか、不吉なそれを否定する事無く行動を開始する。
「なんです突然? え? 外へ? ふんふん、悪い予感がすると・・・で行き先は・・・えっそこです!? しかも今すぐ!? ええと・・・分かったです、だったらセカンお姉ちゃんにお願いしてあげるです」
獰猛な笑みを浮かべ、テーセン3号に
その攻撃を数回躱されたところで瞬間的に身体強化を発動、突然のスピードアップに動けなかったテーセンの胴体を遂に捉えた。
その瞬間、
その結果――
「はぁ!? 何だいそりゃ!?」
攻撃を受けた箇所だけ流体に変化したテーセン3号。
そしてテーセンはと言えば・・・
「おいおい・・・」
その後何度も攻撃を叩きつけたマリアベルだったが、結果は全て同じ。
どうやら物理攻撃は効かないらしい。
・・・かと言ってここで魔法を放つ訳にはいかない。
「ったくしょうがないね。こうなったら魔法をぶっ
マリアベルは走り出した。
「おいおい、何勝手に増えてんだい」
ベルマリア家の敷地に駆け込み、王都の避難場所にも指定されている広い芝の上で振り返ったマリアベルが見たもの、それは――
3体になったテーセンの姿。
獲物を見失ったテーセン1号と次の獲物を探して徘徊していたテーセン2号が、マリアベルを追跡中のテーセン3号に気付き、合流したのである。
「「マリアベル様!」」
ただ事ではない様子で敷地に駆け込んできたマリアベルに気付き、ベルマリア家筆頭執事ベクタと筆頭メイドのラスタが駆け付けてきた。
「ご無事ですかマリアベル様?」
「ああ、何とかね」
まずはマリアベルの無事にひと安心、そして次に賊に目をやり、
「それでこの者達は?」
「さっき店の前でいきなり襲われてね。その時は1人だったんだが、ここに着いたら3人に増えてたんだよ」
「へぇ、つまりマリアベル様が手を焼く程の相手、ですか?」
「ああ、こいつら多分人間じゃないよ。かと言って魔物でもない。一体何なんだろうねえ」
「人間じゃない、とは?」
「こいつで散々ぶっ叩いてやったんだけどさ、攻撃がすり抜けちまうんだよ。まるで水面を叩いているみたいにさ」
「ほう」
ギラリと目を光らせ、
「では私にもそれを見せていただきましょう」
ベクタは支給されている魔法のポーチから愛用の細剣を取り出し、テーセン達の前に立った。
――時空間適性、なし
――時空間適性、なし
――時空間適性、なし
一瞬ベクタを見たものの、すぐに興味を失いマリアベルへと視線を戻すテーセン達。
「ふん、嘗められたものですね」
まるで隙だらけの彼らに一瞬で間合いを詰め、一体のテーセンの胸に細剣を突き立てた。
「ほう、確かに」
大した抵抗もなく突き刺さった細剣の感触。
そして剣を抜くと、そこだけが銀色に揺らめく流体となっている。
攻撃が全く効いていないのを確認し、ベクタはマリアベルのもとへと下がった。
「まあそんな訳でね、魔法をぶっ放そうって事でここまで来た訳さ」
「よく分かりました。では私達は後ろに控えます」
「ああ、頼んだよ。万が一だが魔法が効かない可能性もあるからね。ラスタとふたりであいつらをよく観察しとくんだ」
「「分かりました」」
「さあて、それじゃあいくよ。勝手について来たとはいえあたしに用があるっていうんだったら、きっちりオモテナシしてあげないとねえ」
マリアベルは魔力を練り上げ、そして――
「燃えちまいな。『火流』!」
突き出したマリアベルの掌から炎が渦となってテーセン達を包み込む。
テーセン達は炎の中で立ち尽くしたままだ。
果たしてダメージを受けているのかいないのか・・・
「ちっ、どうやら大して効いちゃいないようだね。仕方ない、アーシュがやってたアレ、やってみるか・・・『加熱』!」
炎の渦はマリアベルの魔力を受けてその色を赤から青へと変化させる。
それに伴いマリアベル達の頬に当たる風もその温度を上げ、やがて風はその向きを変え炎へと向かい始めた。
高温の炎が熱した空気を上空へと送り、周囲から風を吸い寄せ始めたのである。
「こっ、こいつはキツいねえ。魔力消費が半端じゃないよ!」
そろそろ頃合いかと魔力を止めたマリアベル。
炎はその勢いを弱めてゆき、そして最後はすっと消えた。
炎が消えるとそこに現れたのは、3体の銀色に揺らめく金属のような流体の塊。
マリアベル達が見つめる中、しばらく揺らめいていた3体は、やがて先程までの人型へと姿を変えた。
「チッ、まったく効いていないってかい。今のが効かないんじゃあ手の施しようが無いねえ。こいつは困ったよ・・・おい! あんたら一体何が目的なんだい!!」
返事を期待していたわけではない。
策を考え付くまでの時間稼ぎ程度のつもりだったが――
「時空間魔法師ヲ排除スル」
「時空間魔法師ヲ排除スル」
「時空間魔法師ヲ排除スル」
何と、テーセン達から平坦な声が返ってきた。
「時空間魔法師・・・時空間魔法を使う連中は全部気に入らないってかい。ったく、こいつは・・・」
今はどこにいるのか分からない自分の娘、そして可愛い孫のアーシュやカルア、ついでに可愛げの無いモリスにその同僚達・・・
「絶対に何とかしなきゃいけないねえ」
「だったら超高温の次は超低温でどうだい!? 『水流』『冷却』!」
自ら魔法で出現させた水を媒体とし『冷却』を掛けるマリアベル。そしてテーセン達を包む氷ごと更なる超低温へと冷却していく。
やがて――
ピキッ・・・
ピキピキッ・・・
テーセン達を中心に広がっていく氷のヒビ。
「これもダメかい・・・魔力ももう残り少ないし、いよいよ困ったねえ」
氷からの脱出を果たしたテーセン達は、一度全身を流体へと変化させ、そして再び人型へとその姿を戻す。
超高温もダメ、超低温もダメ、そしてどうやら激しい温度変化による劣化にも期待できなさそうだ。
「仕方がない、シャクだがモリスの奴でも呼ぼうかね。それとミレア――」
通信具を操作するマリアベルの姿にチャンスと考えたのか、テーセンの一体が突如接近し、その拳をマリアベルに――
「しまっ――」
ドムッ!!
突如として目の前が黄色と黒に染まり、思考が追い付かないマリアベル。
ついでに急な焦点の変化に目のピント調節も追いつかない。
だがすぐに我を取り戻したマリアベルは、素早く体の位置を変え敵の位置を把握しようとする。
そして目に入ったのは、マリアベルに迫っていたテーセンの拳をその両の掌で受け止めた――
「あんた・・・ケットラかい!?」
「がうっ!(女神、無事でよかった)」
女神の危機にセントラルダンジョンから駆けつけた最強猫種、ケットラであった。
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