第106話 さあ、波間に浮かぶ水着回です
「あーあ、やっぱりダメだったかぁ」
地面に寝転がったアーシュが空を見上げながら呟いた。
「あら? あなた達いい線行ってたわよ? あの畳み掛けるような連続攻撃も良かったじゃない。私も結構ダメージ受けちゃったし、まさか開発したばかりの切り札まで使わされるとは思ってなかったわ」
そんな言葉をアーシュに返すクーラ先生は、優しげな微笑み・・・というより満足げな表情で、
「みんな強くなってくれて嬉しいわ。これからもっともっと強くなってね。んーーー楽しみだなあ」
「楽しみ」って・・・
やっぱり「強くなった僕達と戦うのが」って事なんだろうなあ・・・
ははは・・・
「クーラ先生を楽しませるのが目的って訳じゃないけど・・・そっか、あたしたち、強くなってたんだ」
強くなってるって言われて、アーシュも満更でもないみたい。
クーラ先生の弟子って事になってるネッガーも、何か手応えを感じたみたいな表情で・・・うん? ネッガー・・・って言えば何かあったような・・・えっと・・・何だっけ・・・あっそうだ! ネッガーのお父さん!
ミツツメから帰る時に、ネッガーのお父さんのベスタさんが「次までに結界を斬る技を会得する」って言ってたけど・・・
ベスタさん、僕達の先生は技じゃなくって力ずくで粉砕しちゃいましたよ・・・
3日間の勉強が終わり、今日は海水浴の日だ!
青く晴れ渡ったいい天気、穏やかな波が打ち寄せる白い砂浜。
僕達が今いるここは合宿所の敷地に連なる、そう、学校のプライベートビーチ!
合宿所からすこし歩いてこのビーチにやって来た僕達は、海岸に備え付けられた更衣室で持ってきた水着に着替え、真っ白い砂浜に降り立った。
僕とノルトの水着は膝くらいまでの丈の短パン、そしてネッガーは・・・筋肉が良く映える水着、と言っておこう。
そしてそのネッガーの横では、さっきからバックがネッガーに話し掛けてる。
この間の模擬戦以来、バックはネッガーと一緒にいる事が多い。
同じ身体強化タイプ同士、話が合うみたいだ。
水着の趣味は僕達寄りで安心したけど・・・まさか感化されたりしないよね?
ああ、バックはパーティだといつも女の子ふたりと一緒だから、気楽な男同士で気が休まる、ってのもあるかもね。
「お待たせ! ビーチに女神達が降臨したわよ!」
そんなアイの声に振り替えると――
風を切るように先頭を歩いてくるアイ。真っ赤な上下の水着を身に付けて・・・凄くスタイルがいい。
そのアイのすぐ後ろ、アイの身体で身を隠すように歩いてくるのはルビー。
ちょっと可愛らしい感じのワンピースなんだけど・・・あれ? アイに負けないくらいのスタイル?
そして次がアーシュ。
純白のワンピースの上からヒラヒラした布――あれってパレオっていうんだっけ?――を纏って・・・
いつもみたいに自信ありげじゃなくって、ちょっと落ち着かなそう感じで歩いてる。
そのアーシュの横を歩いてくるのはワルツ。
水色の上下を身に付けて、アーシュとは対照的に歩き方は堂々と、でも色々と慎ましやかで微笑ましい。
「さあ、普段と違う女神達を見た感想はどう? 次の一言が今後の人生、いや命にも大きく影響するかもしれない、そんな感想を・・・男子代表カルア君、さあどうぞ!!」
ぼっ僕ぅ!?
そんなヤバそうな台詞から僕に振るの!?
どっ・・・どうしよう・・・
「さあ! 素直に率直に思った通りに感じたままに!!」
「感じたままにって・・・えっと・・・みんな・・・すっごく・・・よく似合ってて・・・綺麗で・・・可愛くて・・・目のやり場に困るよっ!!」
アーシュが真っ赤になって俯いて・・・
ワルツはむふふって笑って・・・
これダメだったって事?
命に・・・係わっちゃう?
「うんうん、いいんじゃない? 感想としては十分合格点よね、そう思わない、アーシュ?」
「うっ、うるさい! もうほっといてよアイ!」
「お、珍しく弱気が入ってるわね。じゃあワルツはどうだった?」
「カル師、目のやり場に、困ってから、わたしを見た気がする。わたしの、身体は、癒し効果?」
「それって・・・ま、まあそんな感じじゃないかしら・・・うん、まだまだ成長期、がんばれワルツ」
「うん・・・がんば、る?」
そんな感じで僕やアーシュとワルツの反応を見ながら、
「ふむふむ、なるほど。そんな感じね・・・カキカキ・・・よしっと」
えっと・・・何をメモしてるのかな、アイ?
「また急いで手紙を出さなくっちゃ。あーあ、反応を確かめるためとはいえ、今回は軽く煽ったみたいになっちゃったなあ・・・」
誰かと文通でもしてるの?
波打ち際までやって来た。
打ち寄せる波が足にかかって、
「水はちょっと冷たいわね」
「でもそれが、いい」
うん、僕もそう思うよ。
「ほらアーシュ、海に入るならパレオを取らなきゃ。濡れて纏わり付いたら危ないわよ?」
「分かってるわよ! もう・・・ちょっと恥ずかしいんだからね」
そう言いながらパレオを『収納』したアーシュ。
ますます目のやり場に困るよ・・・
しばらくしたらアーシュも水着に慣れたみたい。それとも開き直ったのかな?
すっかりいつものアーシュに戻って、
「さあ! 遊ぶわよ!」
チョオーテ商会で買ったアレコレを取り出し始めた。
「まずはやっぱりコレね」
アーシュが空気の注入口からベクトル操作した空気を流し込むと、それは徐々に膨らんでその形を現し・・・
「よし出来たわ! これはドラゴン? 海のドラゴンだったらシードラゴン・・・じゃなくってマリンドラゴン? ふふん、なかなか可愛い顔してるじゃない」
膨らんで出来上がったのは長さ3メートルくらいあるドラゴンっぽい浮き袋。
それを海に浮かべて、その上に跨がると、
「このユラユラ漂う感じ、なかなか気持ちいいわね」
それを見てみんな自分が乗る浮き袋を選び始めた。
もちろん僕だって負けてられない。さあ、どれにしようかな?
ワルツが選んだのは、赤いクラーケンみたいな浮き袋。でも足が短くって、何故か頭にハチマキみたいなのを付けてる。
ノルトは・・・アレってとうもろこしだよね? 海とは関係なさそうだけど・・・さすがプロ農家。
ネッガーは・・・あれはまさか・・・ママツタケ!? ここで地元ネタを繰り出してくるとは・・・
そして僕が選んだのは・・・四角い筏みたいな感じのやつ。うーん、シンプル!
でもこれって上に寝転がることが出来るんだよね。それで波に揺られたら、きっと気持ちいいんじゃないかなって。
しばらく波に揺られてまったりとした時間を過ごしていた僕達だけど、
「これはこれでいいんだけど、ちょっと飽きてきたわ。カルア、これ動かせるようにして!」
なんて指示が影のリーダーから。
んーー、どうしようか・・・よし!
浮き袋を持って砂浜に戻って、作業開始!
ボックスから取り出した材料は、もちろん魔石。
まずは浮き袋を魔石でコーティングする。
次はその魔石に付与。
ベクトル操作の魔力を受けたら前後左右に移動移動するようにっと。
あ、あと水の上で浮き袋が壊れないよう頑丈になあれ。安全対策は大事だからね。
よし、こんな感じかな。早速試してみよう。
海に入って浮き袋を海に浮かべて・・・テスト開始。
まずは前進させよう。よし・・・
「カルア号、発進――うわぁ!!」
急に前に進んだカルア号から、船長兼操舵手の僕カルアが海に落下!
ザブンって。
考えるまでもなく、それは当たり前だよ。
だってこれ、ただの平らな板みたいな形だもの。
掴まるところや身体を支えるところが何処にも無いからね。
で、船長を振り落としたカルア号は、少しだけ進んでからベクトル操作が途切れ、プカプカ浮かんでる。
カルア号の元まで泳いで行ってそこに手を掛け、ベクトル操作でカルア号を僕の方に引き寄せるようにしてよじ登った。
さあ、改良だ。
まずは身体を固定できるようにしなくちゃ。
魔石で極薄の操縦席――まあただの座る場所なんだけどね――を作って、と。
出来上がった操縦席に座ってみると・・・うん、いい感じじゃないかな。
次は・・・振り落とされた時の対処を・・・
よし、乗ってる人が落ちたら、魔石に残った魔力でその人のところまで自動で戻る機能を付与しよう。
・・・これで落ちても大丈夫かな。
じゃあ改めて、
「カルア号、発進!!」
海の上をスイスイと滑るように移動するカルア号。まあ実際ベクトル操作での移動だから滑ってるようなものだけどね。
しばらく動かしてみたけど、うん、問題ないみたい。
これ以上はみんなも待ちきれないと思うしね。
って事でみんながプカプカしてる所に戻って、
「お待たせー。もうこれで大丈夫そうだから、みんなのも改造するよー。一旦海から上がってくれる?」
改造が終わると、みんな自分の浮き袋をもって海に突撃。
あれ? そういえばベクトル移動だったら砂浜の上でも移動できるんじゃ・・・
ま、いっか。僕も行こっと!
こちらは砂浜の上。
海の上を軽快な動きで進む浮き袋、いや自由に動かせるようになった今はボートと呼ぶべきか・・・クーラは溜め息を吐きながらその様子を眺めていた。
「はぁ・・・またあの子達は・・・」
そんなクーラの背後から歩みより、その横に立ったのは、
「あら、ラップス先生?」
かつてカルアの編入試験の実技試験官を担当し、カルア君対策会議のメンバーでもあるラップスだった。
「あれは・・・土魔法の『移動』? だがあれは浮き袋だから土ではない・・・では一体・・・そうか、錬成なら! だが何を材料に・・・」
流石は既にカルアの非常識を目にしているだけあり、かなり的を射た推測である。
「多分ですけど、魔石を使ってるんじゃないかしら。カルアは魔道具によく魔石を使うようなので」
「ああ、魔石ですか・・・確かにあれは優れた錬成の材料ですからね」
そう答えたラップスだが、眉を寄せて、
「しかし彼らは気付いてるんでしょうか、自分達が今行っている魔力による水上移動、これがどれだけ画期的な事かという事に」
クーラはここでもうひとつ溜め息を吐き、
「まったく意識していないでしょうね。彼らにとっては単なる日常、そしてあのボートは単なる遊び道具でしょうから」
「ははは・・・やはりそうですか・・・」
力が抜けたような表情でカルア達を眺める教師ふたり。
その彼らの目に、ふと何かを考え込んでボートを止めたカルアの姿が写った。
「ちょっと待って、何か嫌な予感がする」
「ええ、私も・・・あのカルア君の顔、あれは絶対何かを思い付く前兆です」
「ダメ、もう何か始め・・・ああっ!?」
その次の瞬間、ふたりは自分の目を疑った。
「あの・・・彼のボート、少し浮いてるように見えませんか?」
「ええ、浮いてるわね・・・というかアレ、超低空を飛行している、という事かしら」
「・・・ぐっ」
「ラップス先生?」
苦し気に顔をゆがめるラップス。
「ぐっぐっぐっ・・・」
「あの・・・大丈夫で――」
「軍事的驚異レベルーーーーーっ!!」
それはいつか見た光景。
合宿所には緊急時に連絡が取れるよう、学校に繋がる通信具が備え付けられている。
その通信具を使用して校長のラーバルに事態の報告を行うべく、ラップスは全速力で合宿所に向かうのであった。
走れ、ラップス!
報告を受けたラーバルは、急いで用事をすませて転移してきた。
「ラップス君!」
「校長・・・ははは、遅かったじゃないですか・・・」
そう言って海を指差すラップス。その横ではクーラが放心している。
ラーバルの指差す先に視線を向けたラーバルは、頭を抱え砂の上に崩れ落ちた。
海の上をスイスイと走り回る僕達。
「これ気持ちいいわね! もう浮き袋なんて呼べないわ。ボート・・・そう、魔力ボートよ!!」
という事で、浮き袋は魔力ボートにクラスチェンジした。
しばらく魔力ボートで自在に海の上を走り回っていたんだけど、海だから時々波にぶつかってちょっとガクガクする。それもまた楽しいと言えば楽しいんだけど、でもちょっと乗り心地が・・・あっそうだ!
波にぶつかるからいけないんだよ。だったらぶつからなければ問題解決じゃない?
どうせベクトルを使ってるんだから、海の上から一定の高さまで浮き上がるように調整してあげれば全部解決。もし魔力が切れたって、海の上に浮かぶだけだしね。
よし、じゃあ早速付与を追加して・・・うん、浮き上がった。
海からの高さは自動調整で固定させてと。
これで改良完了!
みんなの所に戻ると、
「何よカルア、今度は浮くようにしたわけ? いいじゃないそれ。あたしのもお願いするわ」
「僕のモロコシ丸もお願い」
「なら俺のマツタケも頼む」
「わたしの、たこらーけん君も」
はは、みんなも名前付けてたみたい。
「何よ・・・だったらあたしもカッコいい名前を付けるんだから!・・・ええっと・・・よし、あなたは今からマリドラよ!」
海の上を高速で走ると、吸い上げられた水が後ろで飛沫になって楽しい。
で、そんな僕達を当然他のみんなも見ているわけで・・・
「おーい! カルアーーーーっ!!」
みんなが砂浜に集まって、大きく手を振って僕の事を呼んでる。
「呼んだ?」
カルア号に乗って砂浜に移動すると、
「「「「「もちろん俺(私)達のもやってくれるよな(ね)!!」」」」」
あ、はい・・・
ひとつずつ改造していくと、終わった人から順に海へと飛び出してった。
浮き袋を持ってない人や魔力が少ない人は、他の友達と2人乗りとかでね。
「おおーーっ! これすげぇ!!」
「風が気持ちいいーーーっ」
時々ちょっと大きな波が来るとそれを避けたり乗り越えたり。
その都度水飛沫が上がり、みんなとっても楽しそう。
改造はちょっとだけ大変だったけど、まあやって良かったかな。
よし、じゃあ僕もふたたびの海へ!
後ろでこっちを見てるクーラ先生達に手を振って、さあしゅっぱーつ!!
砂浜に崩れ落ちたラーバル。
力ない表情で呆然と海上を飛び交うボートを眺めながら呟いた。
「ははは・・・まさかここに来た生徒達全員が、とは・・・」
そのラーバルの呟きに、疲れたような、あるいは悟りでも開いたかのような、そんな何とも言えない表情のクーラとラップスが頷く。
「彼らの様子を見てましたけど、彼らにとっては技術がどうとか常識がとうとかは関係なくって、ただ単純に『楽しそう』『やってみたい』ってだけだったわ」
「ええ、私もそう思いました。そう言う意味では、彼らもまた、カルア君と同じなんでしょうね。いや、みんなそういう年頃、という事かな」
クーラとラップスの言葉に、ふと瞳を輝かせ深く頷くラーバル。
「年頃、か。そうかもしれないなあ。好奇心、それに憧れ・・・そんな心を原動力に彼らは羽ばたき、そして旅立つ。ああ、なんて素晴らしい・・・よし、僕も負けてはいられないな。さあ旅立と――」
「子供たちの後始末は大人の仕事、ですよ。校・長?」
「良い感じなセリフで煙に巻いて自分だけ逃げ出そうなんて、許しませんからね」
「あはははは・・・・・・ダメかい?」
「「当たり前です!」」
彼らの苦悩はまだまだ続きそうだ。
某所。
「うむ、基本はやはり人型で運用するのが良さそうだな。物理以外の攻撃手段を持たんのが唯一の欠点と言えば欠点だが、なにこいつらには相手の攻撃も効かんのだ。何の問題も無かろう」
そのエルフは満足気にそう呟いた。
目の前には、一般の成人男性よりも筋肉質で大柄な男が3人、表情を一切変化させる事なく立ち並んでいる。
「ふふふ、まさかあの柔らかい金属のような塊が、これほど完璧な人型をとるとはな。未来の技術とは凄まじいものよ」
そう、彼の前に立つ3人は、かつてこの研究所で『時間超越転送装置28号』により手に入れた、3体の柔らかい金属のような塊だったものである。
「こいつ等が一体何で出来ているのか、あれからどれだけ調べてみても分からなかった。スライムのようであり、魔道具のようでもある。だがこいつ等には剣や棍棒などの武器はおろか、ワシの時空間魔法による攻撃すら効かなかった。他の属性は試すことは出来なかったが、このワシの時空間魔法が効かんのなら当然効く訳も無かろう。・・・ふふふ・・・無敵だ! こいつらはワシに絶対服従の、無敵の兵士なのだ!!」
呟きは徐々に大きくなり、ついには部屋中に響き渡る叫びとなった。
そしてエルフは彼らに向かい、ついにその望みを叶える為の指示を出したのである。
「さあ行くのだ! 我が無敵の兵士、テーセン1号、2号、3号よ! 行く先は王都、さっき貴様等にインプットした場所だ! 行けぃ! そして時空間魔法に強い適性を持つ人間どもを殲滅するのだ!」
命令を受けたテーセン達は研究所を出ると、その足で走り出した。
主人からの命令を全うすべく、カルア達のいない王都に向かって。
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