第105話 クーラ先生へのリベンジマッチ

「んんーーーーーーーっ」

大きく伸びをして、海の匂いのする風を胸一杯に吸い込んで。


昨日はヨツツメの街、楽しかったなあ。

ワルツのレストランのご飯、すっごく美味しかったし、街の雰囲気もすっごく良かった。

・・・また行きたいなあ。

今度は学校行事じゃなくって自分達で。


「よし、目が覚めた! おはようノルト!」

「おはようカルア君。今日は早起きだね。起床時間まではまだ時間があるよ」

「あれ、そうなの? でもノルトの方がもっと早いじゃない」

「それはまあ、農家の朝は早いから、ね」


見回すと、やっぱり今朝もネッガーはいない。


「ふふ、それと武道家の朝もね」

「そっか、ノルトもネッガーの家が剣術道場だって知ってるんだ」

「まあね。寮で一緒に生活してると、顔を合わせた時に色々話をするからね。お互いの家族とか子供の頃の話とか」

「そうなんだ」


まだ少し時間があるから、着替えて一緒に敷地の中を散歩することに。


「今日から3日間は勉強漬けかあ。実技の時間が多いといいなあ」

「だね。座学も知らない事は為になるし聞いてて楽しいけど、もう知ってる事も結構あるから」

「そうそう。それに、これ一体何の役に立つの?みたいな内容も時々あるしね」

「あるある!」


歩いていると、木立の向こうに剣を振る見慣れた姿が。


「おはようネッガー」


ネッガーは剣を振る手を止めて軽く顔の汗を拭うと、

「おはよう。散歩か?」

と軽く手を上げた。


「うん、ちょっと時間があったから。あゴメン、邪魔しちゃった?」

「いや、ちょうど終わろうと思っていたところだ」


周りを見ると、僕達みたいに散歩してた人たちが合宿所の建物に戻り始めてる。

「そろそろ時間かな。じゃあ僕達も戻ろうか」


部屋に戻り、身支度を整えて食堂へ。

「おはよーカルア! こっちよ!」

今朝はもう席に座ってるアーシュが元気。

「おはようアーシュ。今朝は元気だね」

「ええ! やっぱり枕が合わなかったみたい。いつもの枕で寝たらもう朝まで熟睡よ!」


アーシュは昨日、ヨツツメ散策の後ちょちょっと枕を取りに家に帰ったんだよね。

僕の転移で。


「同じ枕をもうひとつ用意しとくようにお願いしてきたから、合宿から帰る頃には出来てる筈よ。この枕はこのまま共有ボックスに入れとくわ」


冒険中の夜営で真っ白いふわふわの枕で寝るアーシュ・・・ふふ、ギャップが面白いかも。


なんて話をしているところへ、ワルツもやってきた。

「おはようワルツ。昨日は有難う」

家のレストランを貸し切り手配してくれたおかげで、すっごく楽しい昼食になった。


「おはよう、カル師。カル師なら、いつでも、大歓迎」

「あら、あたしたちは?」

「もちろん、歓迎。でも、家族としての、歓迎と、友人としての、歓迎は、ちょっと、違う」

「またあんたはサラッとそんな事を・・・」




今日もホッとする朝ごはん。

今度家でも作ってみようかな。ご飯だったら自動炊飯鍋で炊けるし。

あとはお味噌汁か・・・あ、ピノさんだったら作り方知ってるかも。

さすがに「作り方を教えて」っていうのはプロポーズの言葉じゃないよね。

・・・ないよね?


食事が済んだら、いよいよ勉強の時間。

さっき食堂で冒険者クラスの誰かが話してたんだけど、冒険者クラスは海の魔物の解体方法とかの授業みたい。

僕もそれ参加してみたいなあ。


「はぁーーい、それじゃーあ、魔法の授業をー、始めまあーーす」


なんと講師はレミア先生。

どんな内容かな。ちょっとワクワクしてきたよ。




授業は、最新の魔法技術の動向について。

これまでも授業中の雑談みたいな感じで軽く聞いていたんだけど、今日は時間を掛けてガッツリと。


だったんだけど・・・


新しい付与術として最近話題のロベリー式付与術が・・・、知ってる。

魔石の新しい利用法として魔石を粉末化した魔石パウダーが・・・、知ってる。

抜いた魔石には魔物の魔石がほとんど含まれていないため錬成が・・・、知ってる。


せっかく最新の動向を知る授業だっていうのに、どうして僕が関わったものばっかり語られるのかな。

何だかまるで損したみたいな変な気持ち・・・

あ、合宿先が地元だったワルツもそんな気持ち?




お昼ご飯を食べたら、午後は実技の時間。

今回はなんと冒険者クラスとの合同授業。

魔法師が冒険者と組む場合の連携訓練だって。

いや、ちょっと待って。僕達は魔法師だけど冒険者で・・・


なんて考えてたら、アイ達が声を掛けてきた。

「ねえ、今日の訓練、私達と一緒にやらない?」

「え? あ、うん、構わないと思うけど・・・みんないいよね?」

「ええ、いいわよ」

「僕も大丈夫」

「いいぞ」

「大丈夫、問題ない」


アイ達は身体強化の前衛ふたりと回復役の後衛の3人パーティ。

で、僕達は前衛がネッガー、アーシュとノルトとワルツの3人が後衛、そして僕が状況に応じて前衛だったり後衛だったり。

あれ? もしかして僕達パーティとアイ達パーティの合同チームって、凄くバランスが良い?


「連携においては、お互いがお互いの得意な事をきちんと把握し、役割分担をきっちり決めておくのが効率的です。といっても、冒険者、魔法師ともに自分の手の内を明かしたくないと考える人が多いため、役割のみを決めて実戦を行う事も多くあるのですけどね」


ああ、確かに初めての相手に手の内を教えるのはちょっと躊躇うよね。


「今日は訓練ですので、まずは冒険者クラス、魔法師クラスから混合チームを作り、用意された的を魔物と見立てて攻撃してみてください」


的はいつものやられ役、鎧人形くん。

「さてと、あなた達の事だから、本気でやったら大惨事になるんでしょう?」

そんなアイの言葉に・・・はは、否定できないかも。


「私たちもブラック先生とピノ先生の特別指導を受けてかなり強くなったわ。そう・・・かなり、ね」

アイが遠くを見るような表情に。

その横でルビーとバックも。


「だからね、的相手にはフォーメーションと動きを合わせる程度にしておいて、その後に模擬戦闘をやる、ってのはどう?」

「模擬戦闘って、誰と?」

「それは決まってるじゃない。私達とあなた達――」

「当然、私とよね!」


アイの言葉を遮ったのは――

「「「「クーラ先生!?」」」」


「うふふふふ、相手は5プラス3の8人、しかもアイ達はピノ先生とブラック先生の指導を受けて強化されてて・・・ふふっ、これは滾るわね!」




「ぜっ全員集合!」

アーシュの掛け声で僕達とアイ達がアーシュの元へ。

「人形相手に遊んでる場合じゃなくなったわ! 全員の役割の再確認、それから本気で連携を詰めるわよ」


やっぱりそうなるかぁ・・・


「アイ、あなたとバックは剣がメイン武器?」

「ええ、そうよ」

「カルア、ふたり・・・いえルビーも必要か。撲撲ボコボコ棒を3振り用意して」

「了解」


撲撲ボコボコ棒?」

「ええ、後で説明するわ。ネッガーはアイ達と近接戦闘の連携確認、ノルトとワルツはあたしと遠隔攻撃の連携確認よ」

「「了解」」

「あの、私は?」

「ああゴメン。ルビーはあたし達と一緒に。どんな事が出来るのか教えてちょうだい」

「ええ、分かった」



という事で、急遽始まったクーラ先生対策。

僕は大急ぎで撲撲ボコボコ棒を3振り――棒だから3本? どっちだろう?――用意して、ネッガー達のところへ。


「持ってきたよー」

「おお、すまないな」

アイとバックに1本ずつ配ると、ふたりは揃って妙な顔をしてる。

「これが撲撲ボコボコ棒っていうの? 一体何なの?」

「何って言われても・・・うーん、気持ち良く魔物を吹っ飛ばせる、魔法の・・・棒?」


「「??」」

アイとバックは良く分からないって顔。

まあ言葉だけじゃよく分からないよね。


実際に使ってみるのが一番早いんだけどね・・・うん、それがいいや。

「アーシュ、ちょっとルビーも連れて森で撲撲ボコボコ棒の使い方を説明してくる」

「分かった、よろしくね」


あ、先生にも言っとかなきゃ・・・って、クーラ先生が楽しそうにこっちを見てるから大丈夫そうだ。



って事で、ネッガーも連れて5人で王都の森へ転移。

「えっ、ここ何処――」

「はい、これルビーの分ね。剣みたいに使ってくれればいいから。ええっと、ゴブリンは・・・あ、いた」


シュンッ


転移で森の中を移動。

そこにいるのは5匹のゴブリン。今日の撲撲ボコボコ棒の練習相手。


「じゃあアイ、あのゴブリンで撲撲ボコボコ棒を試してみて」

「ふふふ、よりにもよってゴブリンか・・・ルビー、バック、行くわよっ! ゴブリン即殲滅っ!」

「「毛の無い緑は即殲滅っ!」」

あれ? ゴブリンへの反応が過剰すぎない?


まずはアイがゴブリンに一閃、そしてはじけ飛ぶゴブリン。

「あれ? 何この感触?」

次はバック。宙を舞うゴブリン。

「気持ち・・・いい?」

身体強化組ふたりに少し遅れて、今度はルビーの番。おお、ナイスショット!

「ふわ、飛んでったー」


残り二匹はアイとバックがアッパースイングで空の彼方へ。

「ちょっと何よこれ! 何だか緑野郎どもが気持ちよく飛んでくんだけど」

「緑野郎!?」

「あ、つい・・・ゴブリン部屋のトラウマが・・・緑の無限増殖が・・・ああ殺っても殺っても終わらないィィィ!!」

「アイ落ち着いて! もうここにはゴブリンはいないから! 全部飛んでったから!」

「はっ!? あ、ああ。ごめんカルア。まだちょっとあの時の光景を引きずってて・・・」


セカンの魔物部屋・・・そんなに大変だったのかぁ。

「そっか、僕の方こそごめん。じゃあゴブリン相手は止め――」

「いいえっ! 逆よ! 今の感触、すっごく気持ちよかった。トラウマも吹き飛びそうなくらい!」

「え、そう?」

「もっと・・・もっとよ! ゴブリンをふっ飛ばして心の傷もぶっ飛ばすの! さあ、次よ次!!」



それからゴブリンを求めて王都の森中をあちこちと。


「あはははは、ゴブちゃん発見! ぶっ飛べーー!」

「グゲッ!?」

「うわぁ、よく飛んだなあ」

「ナイスごぶりーーん」


「よーし、わたしもっ! えーいっ」

「ギャウウウゥゥゥゥゥ・・・」

「ナイスごぶりん!」

「綺麗な弾道ね」



その日、王都の森では空飛ぶゴブリンの目撃情報が相次いだという・・・なんてね。



森からゴブリンの反応が無くなる頃、僕達は合宿所に帰った。

心のつかえが取れたみたいなすっごく晴れやかな表情の3人と、対照的に微妙な表情の2名・・・もちろん僕とネッガーだよ!


時間にして20分くらいだったと思うけど、何だかなあ・・・

まあ、アイ達が元気になったからよかった・・・のかな?

結局ついて行っただけになっちゃったネッガー、お疲れ様。


「という訳で、撲撲ボコボコ棒がどんなものなのかはよく分かったと思うけど」

「ええ、すっきりしたわ」

「で、模擬戦の武器はアレを使おうと思う。あ、ちなみにクーラ先生も持ってるから」

「えっ!?」


急に表情を失うアイ達。

次は自分達が空を飛ぶ番かもって気付いたみたい。

撲撲ボコボコ棒は撲撲ボコボコ棒で防げるからね。頑張ろうよ」

「え・・・ええ」


それからアーシュたちと合流して、お互い動きを合わせて戦術を組み立て詰めていって。


「取り敢えず今やれることはやったわ。後は当たって砕けるだけよ」

「砕ける前提なんだ」

「人数が増えたくらいであのクーラ先生に勝てるとか、そんな虫のいい事は考えていないわよ。でもまあ・・・ただやられるつもりはないわ! なんとかクーラ先生をビックリさせて、出来れば慌てさせて、あわよくば一矢報いるわよ!」



そんな僕達の様子を見たクーラ先生から声が掛かった。

「準備出来たようね。じゃあ・・・そろそろ始めましょうか」


そして戦いが始まる――





ヨツツメの合宿所。

クーラの案内でオーディナリーダ・アイパーティ混合チームは訓練室に移動した。

この訓練室は最近開発された最新の空間遮断型結界具を備えており、通常の魔法や物理攻撃であれば結界の外へは一切影響を及ぼさない。

ちなみにこの結界具、冒険者ギルドと基魔研、応魔研の3組織にて共同開発されたものである。

表向きはトップ同士の共同研究として、だがその実体としてはダンジョンコアの改良型結界開発の副次的な産物であった。


「ここなら何があっても周りに影響は無いわ。だから・・・さあ、安心して全力で掛かってきなさい」


(限られた空間か・・・ここなら切り札のアレ、使えそうだね)

(ええ、計画通り作戦の最終段階でやるわよ)

獰猛な笑みを浮かべたクーラに多少気圧されながら、カルア達はそっと頷きあった。


「前衛、行けっ!! 初っ端から全力全開、出し惜しみは無しよ!!」

「「「おおっ!!」」」


身体強化を最大まで上げ、弾丸のように飛び出すネッガー、アイ、バック。

クーラを囲むように三方に別れ、それぞれから同時、あるいは時間差で撲撲ボコボコ棒や蹴りを繰り出す。

「よっ、はっ、おっと」

驚異の動体視力と予測からそれらを素早く判断、その驚異の身体能力を持ってそれらすべての攻撃を避け、躱し、防ぐクーラ。

自らも撲撲ボコボコ棒の愛用者であるクーラは、もちろんその恐ろしさを重々承知しており、受ける場合は必ず自らの撲撲ボコボコ棒を使用、お互いのベクトルを打ち消し合わせている。


「作戦を第2段階へ移行。ワルツ、霧で目隠し! ノルトは上から石の雨! カルアは3人を即時回復!」


『加熱』と『冷却』の同時発動により暖かい空気と冷たい空気の塊を作り上げたワルツ。

その空気の塊をアーシュがベクトル操作し、激しくぶつかり合うクーラたちの元へと運び、そして――

『混合』


カルアの錬成魔法『混合』により、『加熱』され大量の水蒸気を含んだ空気は急激に冷え、クーラを中心とした戦闘範囲が一瞬で霧に覆われた。

「ええっ!?」

ホワイトアウトした視界に驚くクーラの声が響く中、

「行けっ!」

ノルトの前に開いた共有ボックスから大量の石が高い放物線を描いて飛び、上方からクーラに襲い掛かった。

ベクトル操作により、まるでドライブ回転が掛かっているかのような不自然な速度で。


「わわっ、ちょっとこれ地味に痛い!!」

身体強化により防御力も跳ね上がっているクーラであったが、それでも石が直撃すれば痛みは感じる。

気配察知を駆使して襲い掛かってくるネッガー達の攻撃に、どうしても石への対応は優先順位を下げざるを得なかった。


戦闘範囲内へと降り注ぐ石の雨は当然ネッガー達にも当たったが、彼らが痛みを感じる前にカルアが回復し、ダメージを受ける事はない。

模擬戦の後に回復魔法が要求するであろう肉や魚について、彼らの夕食の増量を申し出るところまでも作戦に織り込み済みである。


こうしてカルア達は、少しずつではあるがクーラにダメージを与える事に成功していた。

だがしかし、それでも前衛の戦いの趨勢すうせいは徐々にクーラの側へと傾いていく。

「ふふふ、そろそろ魔力が尽きてきたようね」

そう、最初から身体強化全開で戦ってきたツケが回ってきたのだ。

最初はバック、次にアイ、そしてネッガーの順に、だんだんスピードとパワーが低下してきた。

それに伴い、クーラには彼らの攻撃を捌きながら降り注ぐ石に対応する余裕さえも出てきた。


「今回はここまで、かな?」

「まだよっ! ルビー、やって!!」

「はいっ! 『魔力譲渡』」


ルビーの手から放出された魔力がアイ、バック、ネッガーを包み、そして――

「なっ!?」

彼らの魔力が、そして身体強化が復活した。

「ちょ、そんなのアリ!?」

最初は手で触れないと行えなかった魔力譲渡であったが、ピノの指導によって徐々にその距離を伸ばし、今では後衛の位置から前衛に対して遠隔譲渡を行うまでになっていたのである。


再び激しさを取り戻した3人の攻撃に、思わず顔がヒクつくクーラ。

「作戦第3段階に移行。『光遮断』! 変身よ、みんな!」

「「「「「オーディン!!」」」」」


一瞬で色とりどりの戦闘スーツに身を包んだオーディナリーダメンバー達。

アーシュ、ワルツ、ノルトの3名は散り散りとなった霧に代わってクーラを包んだ闇の上空に飛び、下方に向けて魔法を放ち続けた。


スーツを纏ったネッガーは、その結界が魔法の雨から身を守るが、このままではスーツを持たないアイとバックは魔法攻撃に晒される事になってしまう。

彼らを魔法から守る為、カルアはふたりの位置を把握し続け、その動きに合わせて結界を展開していた。


第3段階の攻撃によりまたダメージを蓄積させられたクーラであったが、当然このままでは終わらない。

「ったく仕方ないわね。ならもう一段階上げるっ!」

実はここまで一段階開放のみで対処してきたクーラ。

彼女もまた、ピノから刺激を受けた事で身体強化の最適化を進め、以前より更に強くなっていたのである。


「はあああああああああっ!」

クーラは激しい気合いとともに、身に迫るすべての物理攻撃と魔法攻撃を打ち落とし始める。

いよいよ手が付けられなくなってきた。


「きっついわね・・・予定よりちょっと早いけど最終段階よ。カルア!」

アーシュの合図により部屋全体に結界を張り巡らせるカルア。

これにより、カルア自身を含む全員がカルアの発動した結界の中に閉じ込められる事となった。

「よし、縮小開始」

結界はクーラを中心に徐々に小さくなってゆき、

「転移!」

カルアの転移により、クーラを除く全員が結界の外へと移動した。


そう、これが今回の切り札。嘗てセカンケイブダンジョンで兄貴ゴブリンを倒し、そしてネッガーの父親までもを毒牙にかけた、あの凶悪結界戦術である。

そしてアーシュは用が済んだとばかりに「光遮断」を解除した。


クーラを閉じ込めた結界はぐんぐん縮小を続け、やがてクーラひとり分の大きさにまで小さくなった。

結界の中でもがくクーラだったが、結界に邪魔されて手足を動かす事が出来ない。

「くっ、動けない!?」



カルアの結界は外から中への一方通行だ。

つまり、結界の外にいるカルア達はクーラを攻撃する事が出来る。

すべて作戦通り、そして訪れた今この時こそが最大のチャンス!!

「今よ! 全員一斉攻撃!!」


クーラを取り囲み、一方的に攻撃を開始する物理攻撃班。

魔法攻撃班はフレンドリーファイアを起こさないよう、再びクーラの上空に移動し、攻撃のチャンスを待つ。


「たっ! うわ! ちょ!?」

手足を動かせないクーラは彼らの攻撃を捌く事が出来ない。

辛うじて撲撲ボコボコ棒の攻撃を自分の棒で受けたが、その隙に数発の攻撃を受けてしまった。

「こうなったら・・・仕方ないわね」

そう呟いたクーラは身体強化を解除し、そして――


「瞬間全開放! 『破砕はさい』っ!!」

ほんの一瞬、一回のまばたきにも満たない時間、クーラは極限まで高めた身体強化を発動した。

それによりクーラの全身から発せられた魔力は波紋のように全方向に広がり、そして衝撃波となってカルアの界壁に衝突する。


その破滅的な力に対して一瞬持ちこたえた界壁であったが、相手はダンジョンを閉ざす異界の壁すら破壊しうるクーラの全力である。

到底抑えきることなど出来ず、あえなく崩れ落ち消滅する事となった。


「嘘ぉ・・・」


そう、かつてセカンケイブの『真なる最下層』への道を開いたあの一撃、それを更に昇華させたこの技こそがクーラの新たなる必殺技、『瞬間全開放・破砕』なのだ。


「さて、これで自由の身・・・ふふふ、覚悟はいいかしら?」

満面の笑みを浮かべるクーラ。

「「「「「ひっ」」」」」




そしてカルア達は全滅した。

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