第104話 楽しくて美味しいヨツツメです

「ちょっとごめんね」

軽く微笑み、素知らぬ顔で奥に入っていくピノ。

その動揺を悟られないように。


「いや、あれだけ大騒ぎしておいて何事も無かったようにっていうのは流石に・・・」

「ああ、あれは間違いなくカルア君絡みね」


もろバレである。


奥の部屋に入ったピノは通信具に向かって呼び掛け、間もなくその相手から応答が返ってきた。

「どうしたのピノ様。今日って確か出勤日よね? あ、もしかして今休憩時間?」

「ロベリー聞いて、私どうしよう、ねえどうしたらいいと思う!?」

「・・・えっと・・・まず落ち着いて? で、何があったのかを初めから説明。オーケー?」

「・・・・・・ゴメン」


親友であるロベリーの言葉に、多少落ち着きを取り戻したピノは、今日カルアがヨツツメの合宿に出発した事、そして先ほどセンサーとアラートに反応があった事を伝えた。


「ふむ、なるほどなるほど。・・・そうねえ、まずカルアラートはすぐに止まったんでしょ? だったら瞬間的に何かがあって、でもすぐに危険じゃなくなった、って事じゃないかな」

「えっ、それってどういう・・・」


「例えば・・・かわいい女の子ふたりに挟まれて息が止まりそうになった、とか?」

「なっ」

まるで現場を見ていたかのようなロベリー。


「センサーもそんな感じじゃないの? まあ気にしない気にしない。学校行事だし、ダンジョンとかに入った訳じゃないし、だいたい馬車で集団移動中でしょ? 事件なんて起きようがないじゃない」

「それはそうだけど・・・」


なんとなく納得しきれないピノ。


「大体ね、そんな細かい事で毎回駆けつけたら、カルア君にどう思われると思う?」

「どうって・・・お姉ちゃんってば心配性・・・とか?」


「愛が重い女」

「えっ!?」

「ストーカー」

「なっ!?」

「盗聴疑惑」

「うっ!?」


一言ごとにダメージを受けるピノ。

だがまだ終わらない。


「・・・まずこのあたりは鉄板ね。あとは、そこから『ルピノス疑惑』にも発展するかも」

「そっそんな・・・」

「大体ね、さっきは聞き流してあげたけど『お姉ちゃんってば心配性』って何よ。弟離れできてない困ったお姉ちゃんって事? それだって十分悪印象だからね」

「すん・・・」


ピノのライフは残り少ない。


「いいピノ様? 本当に危険だったら学校からでもギルドからでも情報が来るから。それが無いうちは大丈夫。でね、何があったのか知りたいんだったら、カルアくんに気付かれないように情報を集めなさい。そのあたりの伝手はないの?」


ロベリーの言葉に、ピノの脳裏にとある少女の顔が浮かぶ。

そう、ピノズクラブピノのこん棒会長、アイの顔が。

彼女ならカルアの周辺に関する情報収集を怠っていない筈。ならば・・・


「分かった。情報が入るのを待つ事にする」

「うんうん、それでいいのよピノ様(そっか、情報網はあるんだ)」

「ありがとうロベリー。じゃあそろそろ私、仕事に戻るね」

「ええ、じゃあ私も『って室長! 何ニヤニヤしてるんですかっ!!』」

『いやぁ、カルア君愛されてるねえ。うんうん、実に微笑ましいし羨ましいよ。あっそうそう、今日この後なんだけどさ――』

『ちょっ、室長!?』


そして通信は切れた。


「うあ・・・モリスさんに聞かれてたぁ・・・」


落ち着きを取り戻しはしたピノだったが、その落ち着きはすぐに落ち込みへと変わってしまうのであった。





朝。

いつもと違う風の匂い。

「おはようカルア君」

ふと聞こえた声にそちらを向くと・・・ノルト?

あれ? ええっと・・・ああ、合宿!


「おはようノルト。あれ? もう起床時間だった?」

窓を開けてたノルトに朝の挨拶。

「まだ大丈夫だけど、もうすぐ。ネッガーは随分前から起きてるけどね」


そう聞いてネッガーのベッドを見ると・・・あれ? いない?


「ネッガー、外で素振りしてるよ。朝の鍛練だって言って毎日やってるんだ」

「ああ、そうなんだ。ネッガーらしいや」

「だよね」


そんな話をしてると、汗だくのネッガーが帰ってきた。

「おはようネッガー。朝から頑張るね」

「ああおはようカルア。もう昔からの習慣になってるからな。やらないと逆に落ち着かないんだ」


それから身支度を整えて3人で食堂へ。

寮に入るといつもこんな感じなのかな。


空いている席に座ってしばらくすると、アーシュとワルツがやってきた。

「・・・おはようカルア」

「おはようアーシュ・・・ってどうしたの?」


なんだかすっごく眠そうだけど?

「はぁ、何だか寝付けなくってね。枕が変わったせい? でもフタツメじゃあそんな事なかったし・・・何なのよもう」

うーん、眠れないのは大変だよね・・・

「じゃあ後で枕を取りに行ってみる?」

「・・・お願い」




「カル師、おはよう。朝ごはんにする? それとも、わ・た・し?」

「・・・おはようワルツ。ワルツは朝から元気だね」

「おやすみ3秒、お目覚め1秒」

「あはははは。それ冒険者適性高すぎだよ」

パッと寝てパッと起きるのが冒険者、だからね。


いつものアーシュとワルツの会話を見てて気づいた事が。

もしかしてワルツの場合って、突っ込みに困ったら流すのが正解じゃないかって。

で、試しにやってみたんだけど、今の成功だよね?




「いただきまーす」

焼き魚とか赤くてピリ辛の魚卵?とかがちょっとずつ入った小鉢、それと真っ白いお米が今日の朝ごはん。

食レポはしないけど、とっても美味しかった。

お味噌汁っていうのも何だか安心する味だったしね。


「ああ美味しかった。こんな朝ごはんもホッとしていいなあ」

「ふふふ、これが、ヨツツメの、定番の朝ごはん」

「へぇ、そうなんだ」

「なんと、わたしも、味噌汁、作れる」

「へぇ、じゃあワルツの味噌汁も飲――」

「駄目ぇっ!!」


突然話を遮ったアーシュ。何事?


「ちっ」

え? ワルツ、今の舌打ち?


「のせられちゃ駄目よカルア。『君の味噌汁を飲みたい』っていうのはヨツツメの定番のプロポーズ文句なんだから」

「ええっ」


ワルツを見ると、

「まさか、研究されて、いたとは」

「ふふん、ベルマリア家の情報網を嘗めないことね」

「さすが、我が、ともライバルよ」

って何だか楽しそう。


やっぱりコレ、ネタにされてるだけなんじゃ・・・




ご飯の後は先生から。

「はーーい、それじゃあみなさーーん、今日はぁ、これからヨツツメの街にぃ・・・行っちゃいまぁーーす。身支度を整えてぇ、馬車の前にぃ、集合してくださぁーーーい」


冒険者クラスのみんな、ビックリした顔してる。

もしかして、レミア先生のアレ、初めて見たのかな?


そして僕達魔法師クラスは、

「はあぁぁぁぁぁぁい!!」

いつも通りの返事をして、それを見た冒険者クラスのみんなは、またまたビックリしていた。


いや、僕達もちょっと恥ずかしいんだよ?




ヨツツメの街までは、それほど時間が掛からなかった。

注意事項とか集合時間の案内とか色々念押しされて、それでやっと解散。

さあ、何をしようか・・・って最初はやっぱりあそこだよね。


「最初はやっぱり冒険者ギルドよね。新しい街に入ったらまずギルド、それが冒険者の基本なんだから。さあ、行くわよ!」


ギルドに入ると見覚えのある顔が。

あれってもしかして・・・

「あれ? ルビーとバックじゃない。って事はもしかしてアイも?」

アーシュもふたりに気づいたみたい。そう話し掛けながら近付いていった。


「アイだったら受付で手紙の転送を依頼してるよ。君達は何しに?」

そう答えたのは物静かな印象のバック。

「ふふん、決まってるじゃない。冒険者たるもの、街に着いたらまず最初は冒険者ギルドに顔を出すものよ!」


アーシュってばすっごいドヤ顔。

そんなアーシュの声が耳に入ったのか、食堂の方から、

「おお、嬢ちゃん、まだ若いのにいい心がけだあ。よし、もし何か困ったことがあったら俺に言えよお。いつでも大体ここにいるからなあ!」

「ぶははは、いつもここにいちゃあ駄目だろ! 少しは冒険者らしく働けって」


ナイス突っ込みです。


「おお、それもそうだなあ! じゃあ今日はフォーケイブにでも顔を出しに行くか」

「よし、なら俺も付き合うぜ、ここしばらく肉が続いたからな。今夜は魚にすっか」

「よおっし、じゃあ飯食ったら出掛けるぞー」

「おおーー!」


うん、ここの冒険者さん達もみんな楽しそうだ。




しばらくすると、アイが受付から戻ってきた。

「手紙は送れた?」

「ええ、ちゃんと送れたわ」

ルビーに返事をするアイだけど、何故か僕の方をチラチラと。


「ええっと、何?」

「ああゴメンなさいね、ただ、を出す頻度が下がるといいなあって」

「??」


僕と手紙に関係はないと思うけど。


「それよりあなた達は何故ここに? まさか今日1日の自由行動で依頼を受ける訳じゃないでしょ?」

「初めての街だからね。ここのギルドの様子とか雰囲気を見ておこうかなって。アイ達は?」

「手紙を出しにちょっと寄っただけよ。まだもうしばらくはダンジョンとか見たくないしね」

そう言ってアイ達はギルドから出ていった。


「さてと、じゃああたし達は――」

「ねえ、ちょっといいかしら?」


あれ? 受付のお姉さんがこっちに手を振ってる。


「ええ、何かしら?」

アーシュが近付いていったから、僕達もそれに付いて行く。

「あなた達って王都の学校の生徒さんよね。パーティを組んでるのかしら?」

「ええ、そうよ」

「パーティ名を教えてくれる?」


「ふふん、よく訊いてくれたわ。あたし達は・・・オーディナリーダよ!」

アーシュが今日二度目のドヤ顔。


お姉さんは軽く目を見開いて、

「やっぱり。聞いてた特徴と似てたからもしかしてって思ったけど・・・ちょっと待っててくれる?」

そう言って奥へと入っていった。


「初めてのギルドで名前を知られてるなんて、あたしたちも有名パーティの仲間入りかしら?」

そんな話をしながら受付のお姉さんを待っていると、

「お待たせしました。ギルドマスターがお会いしたいとの事ですので、奥に来てもらえるかしら?」


ええっ、初めて来たギルドなのにギルドマスターから呼び出し?


僕達はお姉さんの後についてギルドマスターの執務室へ。

部屋に入ると、そこには凄く大きなひとが。でっか。

このひと、フタツメのギルドマスターと同じくらいの大きさじゃないかな。

「おお、よく来てくれたな。俺がここのギルドマスター、モナオーだ」


四角い顔のモナオーさん。

その顔つきと大きな体格のせいかな。どことなくフタツメのギルドマスターと雰囲気が似ている。

「ジャンボの奴から『オーディナリーダってパーティに凄く世話になった』と聞いてな、学校の生徒のパーティだと聞いていたから、もしかしたら今日あたり来るんじゃないかと思ってたんだ」


ジャンボさん・・・確かフタツメの・・・


「あの、ジャンボさんってもしかしてフタツメのギルドマスターのジャンボさんですか?」

「おお、そのジャンボだ。アイツとは昔から親友でライバル同士でな、そのジャンボがそこまで言うパーティなんて初めてだったから、俺も会ってみたくなったんだ」


なるほど・・・って、ん?

横を見るとアーシュの様子が?

あ、これはあれだ、「親友でライバル同士」って言葉が響いた感じ。

アーシュもよく「ライバルよ!」って言ってるから・・・


「あのギルドマスター、ライバルってどんな感じのライバルだったんですか?」

そのアーシュが切り込んだ。

「おお、そうだな・・・アイツとは学校で出会ったんだ。同じ冒険者クラスだったんだが、その頃から雰囲気がよく似ていてな、周りからは『ゴツい双子』などと揶揄われていたものだ」


その時の様子が目に浮かぶようだ。


「俺達はな、ふたりとも格闘を中心とした戦闘スタンスだったんだ」


だろうね。この体格で魔法中心だったら逆にビックリだよ。

「筋肉に謝れ!」とか言われそう。


「それでお互い格闘の実力も近くてな、自然とお互いがお互いをライバル視するようになっていったんだ」


強さまで似てるとか。ホントに他人?


「だが不思議とお互い反発するってよりもウマが合ってな、たまに一緒に魔物の相手をしに行ったりとかしてたんだ。セカンケイブのゴブリンなんかもよく相手にしてたぞ」


そっか、セカンのお得意さんだったんだ・・・


「そんな感じでお互いそれぞれ実績を積んでな、俺はここヨツツメの、あいつはフタツメのギルドマスターになったんだ。ギルドマスターになってからのあいつは『ゴブリンじゃあ冒険者を呼べん!』ってよく愚痴をこぼしてたぞ。初級から中級くらいまでの遊び相手にはちょうどいいんだがなあ」


まあ魔物と戦うのを遊びって言っちゃうのが、何と言うかそもそもね・・・


「そしたらあのゴブリンダンジョンが森のダンジョンになって大にぎわいって話じゃないか。アレには驚いたぞ。確かお前達がフタツメの農園を守ったしばらく後くらいのはずだ。もう少し早ければお前達もその現場を見られたんじゃないか? 惜しかったなあ」


ははは・・・ソウデスネ・・・




そんな感じでギルドマスターとしばらく話し、

「呼びつけてすまなかったな。今回は学校行事だから無理だろうが、そのうちフォーケイブダンジョンにも来てくれ。あそこはうちの管轄だから、その時はここの受付で申請してくれればいいぞ」


という事で、ギルドマスターの執務室を後にした。

それにしても、初めての街でギルドに顔を出すのは普通なんだろうけど・・・

ギルドマスターの執務室に顔を出すのは絶対普通じゃないよね!?




ギルドを出て街をブラブラと散策。

「へぇ、どの店も海の近くって雰囲気が漂ってるじゃない。売ってる服とか道具、あと食べ物なんかも」

「本当だ。こういうのを見ると旅に出たって感じがするなあ」

「合宿だけどね」

「「「はははは」」」


「ふふふ、カル師、我が街はどう?」

「うん、すっごくいいところだと思うよ」

「わたしと共に、歩むのなら、この街の半分を、お前にやろう」

「それってどこの魔王!?」

「ワルツ・・・」



ちょっとお腹が空いてきたかな。

「そろそろお昼ね」

「ああ、どこか店を探すか」

みんなもそうみたい。


「わたしに、任せて。いい店、予約済み」

いい店? あ、もしかして。

「この街一番の、レストラン」

「ねえワルツ、それってもしかしてあなたの――」

「そう、うちの店。家族権限で、貸し切り予約」




ワルツの案内で辿り着いたのは、街の中心から少し離れた一軒の大きなレストラン。

「ここが我が家。そして今日の、お食事処」

「おおー、大きい」

「さすが超有名店」


扉を開けて中に入るワルツ。

「父よ、母よ、友を連れてきた」

「お帰りワルツちゃん」

「いらっしゃい」


お母さんがウエイトレスでお父さんがコックさん、かな。

「こんにちは、おじゃま・・・します?」

レストランに入るのに「お邪魔します」は変だよね。

でもワルツの家族だし挨拶しなきゃだし。


「本日はお招き有難うございます」

「「「それだ!!」」」

さすがアーシュ! そつがない。

「「「ありがとうございます!」」」


「ふふ。はい、いらっしゃいませ。今日のお客さんは皆さんだけだから、気兼ねなくゆっくりしていってくださいね」

「「「「はいっ」」」」

優しそうなお母さん。

そしてお父さん・・・あれ? 僕睨まれてない?


「わたしはワルツの母のトレス、こちらは父のコクサンよ。よろしくね。さああなた、みんなお腹を空かせてるだろうから、早く料理をお出ししないと」

「ああ、分かった。すぐ作る」


厨房へと入っていくコクサンさん。

少しするといい匂いが漂ってきて、その匂いでどんどんお腹が空いていって・・・


「お待たせしました」

料理を運んでくるトレスさん、とコクサンさん?

料理だけじゃなくって配膳もするの?


そして僕達の前に料理が並ぶ。

ワルツと僕のはコクサンさんが出してくれた。

「君が、カルシ君、かな?」

「ありがとうございます。僕はカルアです。ワルツには何だかそう呼ばれてますけど」

「そうか。ゆっくり、味わって、食べてくれ」


まあ「カルシ」じゃなくって「カル師」だけどね。

あ、「カルシ」って「カルデシ」とちょっと似てるかも。そういえばミッチェルさん元気かな?


出てきたのは色んな具材がたくさん入ったスープ。

「これがうちの名物、Wスープよ。このあたりじゃあ魚介出汁のスープがほとんどなんだけど、それに他の地域で一般的に食べられてる動物出汁のスープをブレンドして、より味に深みを出してるの。どうぞ召し上がって」


ちょっと透き通った感じのスープ、そこにたくさんの具材、そして真ん中に沈む・・・赤い玉?

あれ? 横のアーシュとかワルツのには入っていないような・・・?


まあとりあえずそれは後にして、まずはスープを一口・・・美味しいっ!!

「これすっごく美味しい!!」

「ああ! こんな旨いスープは初めてかもしれん」

「ええ、うちの食卓にも上がった事ないかも」


みんな大絶賛。

そして得意気なワルツ。


スープは熱々だけど、みんな少しずつスプーンの運びが速くなっていって・・・もちろん僕も・・・あ、コクサンさんから「ゆっくり味わって」って言われてたんだった。

ゆっくり、ゆっくり・・・


だんだん体が熱くなってきたのは、熱々スープを食べてるからかな・・・


だんだん口の中が熱くなってきたのは、熱々スープを食べてるからかな・・・


だんだん辛くなってきたのは・・・


ってあれ? みんな平気そうに食べてる。

辛いのは気のせい?

いやでも涙が・・・あれ? スープの色、こんなに赤かったっけ? さっきまで透明だったような・・・ゲホッゲホッ!


喉の奥の方が辛くなって痛くなって、食事中なのに思わずむせちゃった。


「カル師、どうした? 大丈夫?」

心配そうに顔を近付けてくるワルツ。

その視線が僕の顔からスープに移り、

「母、事案。至急!」


ワルツに呼ばれたトレスさんが僕の皿を見るなり、

「ちょっとご免なさいね?」

その皿を持って厨房へと入っていった。

「ワルツちゃん、カルア君にお水持っていってくれる?」


ワルツの持ってきてくれた冷たい水――これ魔法で冷やしてくれたのかな?――で口の中と喉を冷やしていると、厨房の方から砂袋に何かがぶつかるような低い連続音が微かに聞こえてきた。

何を料理してる音なんだろう?


そしてトレスさんがワゴンで料理を運んできた。

今度はひとりで配膳するみたい。


「熱々のスープの次は、冷たいサラダで体を冷やしてね。カルア君はご免なさい。さっきのって暑い地域の人たちが好む辛子玉が入っちゃってたみたいなの。入ってないのに交換したから、サラダと一緒に食べてね」



それから色んな料理が出てきて、どれも全部美味しくって。

みんなと楽しく話をしながら夕方まで食事を楽しんだんだけど・・・



その日はもうコクサンさんの姿を見る事はなかった。





ヒトツメギルド、通信室。

「アイ、あなたならきっと報告してくれるって信じてた!」

アイから届いたその手紙を大急ぎで確認し、

「そっか、馬車の中でそんな事が・・・」


まずはカルアの無事に安堵し、そして手紙に描かれた妙に上手なカルアサンドイッチの絵を見て、

「・・・私、今からもう一度入学しようかな」

そんな事をつぶやくピノであった。

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