第99話 合宿の買物とサーケイブ攻略です

夏合宿まであと1週間。

そろそろ持ち物とかの支度をしなくちゃね。

と言っても、合宿自体は座学と実技をそのまま合宿所でやるだけみたいだから、普段の授業の持ち物だけでいいみたい。

むしろそれ以外の時間を充実?させるために何が必要か考えましょうねぇー、だって。


って言われてもねえ。

周辺の探索をするんだったら、セカンケイブに行く前に道具類を用意したばかりだし、あとは何だろう?


「リラックス、そして、レクリエーション」

「ええっと・・・目一杯楽しもう、って事かしら?」

「ううん、どちらかというと『ここで一旦気を緩めて、また引き締め直そう』みたいな感じ?」

「アーシュ、ノルト、どっちも正解。Reが大事」


ワルツの言葉、何だかなぞなぞみたい。

でもつまり、

「じゃあ楽しむための道具が必要だね」

って事、かな?


「むむ、カル師、大正解」

「だったら明日みんなで買い物に行くわよ。遊び道具と、あと水着もよ!」

という事で、明日の予定が決定。

あれ? でも確か・・・


「アーシュは家で水着を選ぶんじゃなかった?」

「最初はそのつもりだったけどね。でもどうせならみんなで選んだほうが楽しいじゃない。だからチョオーテ商会には学校の友達と店舗に行くからって連絡してあるのよ」



午後の魔法実技は光魔法。

と言っても光魔法は適性が無いから、今まで一度も発動した事がないんだよね。

適性を調べた時のは結局空間把握だったし。

だから、自分でも色々試してはいるけど、どちらかというと先生や周りのみんながやるのを見てる時間のほうが長い。


もちろんただ見てるだけじゃないよ。

校長先生から教えてもらった魔力の波形、あれを見分ける訓練も兼ねてるんだ。

校長先生の時空間魔法実技は数日で終わって、「後は自己訓練だね」って言われてるからね。

・・・まだ全然分からないけど。


アーシュは校長先生からの課題の『姿鏡すがたみ』を数日でマスター。

それからはいつも僕と同じ属性を受けてる。

「お互い教えあい競いあい高めあうって事よ。それもまたライバルってものでしょ!」



そして今日の授業は全て終了。

「明日もいつもみたいに校門のところに集合よ。いいわね」

「分かった」

「了解だよ」

「カル師、わたし、いつまでも、待ってるから」

「ったくワルツは・・・カルアもいいわね?」


「もちろん!」

明日が楽しみ!




朝。

「おはよー」

「おはようカルア君」

「おはよう、カル師。待ってた」

「おはよう」

そういえば寮住まいのノルトとワルツとネッガーっていつも必ず先に来てるけど、一体どれくらい前に来てるんだろう。


そして今日はアーシュももう来てた。

「おはようカルア。さあ、全員揃ったし、早速行くわよ」



朝の王都を歩く。

店先に野菜や果物を並べて元気よくお客さんを呼び込むお店や開店準備に忙しそうなお店。

そんないつもの朝の光景。

冒険者ギルドを出て門に向かう冒険者パーティがすっごく楽しそうな表情なのは、良い依頼をゲット出来たのかな?



屋台の匂いに引き寄せられそうになるのをグッと堪えて進んでいくと、やがてアーシュはとある建物で足を止めた。

ん? ここってお店じゃないよね?


「アーシュお嬢様、そしてご学友の皆様、お待ちしておりました」

その建物の入り口に立つ男性が、そう僕達に頭を下げる。

って事はここが目的地で間違いないのか。


「無理を言って悪かったわね。今日はよろしくね」

「とんでも御座いません。足をお運び頂き、むしろ申し訳なく思っております。私どもといたしましては、準備に掛かる時間と労力が少なく済みますので」

「あら、ではそれはもちろんお値段に?」

「ははは、流石はベルマリア家のご息女、敵いませんな。ええ、もちろん反映させていただきますとも」


アーシュ凄いや。

何て言うか、大人の会話!


「では早速こちらへどうぞ。倉庫の一角に特設会場を設けておりますので」

そう言って、その人・・・ええっと?

「私、チョオーテ商会で商会長を勤めております、ウッテカッテと申します」


僕達はウッテカッテさんの後をついて、隣にある大きな建物へ。扉も大きいや。

と思ったら、その横の小さな扉を開けて、

「こちらへどうぞ」

「あら、あちらの扉じゃないのね」

「ええ。あちらは物品の搬入口で、馬車が出入りするための扉なのです」


おお、馬車用扉!


で、倉庫の中に入ると、

「うわっ、広い!」


ここ、ベルベルさんのお店の奥くらいの広さがあるよ。外からはそんな大きく見えないのに・・・って事は?


「空間拡張、ね」

「はい、その通りで御座います。幸いにも商工ギルドの審査に通りまして、倉庫に空間拡張を施す事が出来ました」


へえ・・・って審査?

「あの、空間拡張に審査が要るんですか?」

「はい。悪用すれば脱税や密輸に使用できてしまいますし、質の低い術式を使用して拡張が解除されてしまった場合、周辺に多大な迷惑を掛けることになってしまいます。ですので倉庫の空間拡張には、社会的信用や拡張を依頼する魔法師など、様々な条件をクリアする必要があるのです」

「なるほど。色々ルールがあるんですね」



倉庫の中には棚や大きな木箱が整然と並んでいる。

棚には「衣類」とか「食器」とか分類の札が貼ってあって、どうやら種類ごとに置き場が決まっているみたい。


その一角に、

「こちらが今回ご用意させていただいた特設会場となります」

まるでお店みたいに、服やいろんな物がたくさん並んだ「特設会場」があった。


「ふーん、色々揃えてくれたのね。水着はどこかしら?」

「はい、あちらカーテンで仕切られた中に女性用水着をご用意しております。陳列棚から直接手に取りその場でお試しいただけるよう、各棚に鏡もご用意しております」


「分かったわ。行きましょワルツ」

「わたし、カル師と、選びたい」

「却下よ却下! そんな事出来るわけ無いでしょう! ほら、行くわよ!」

「カル師ーーー、いっしょにーーー」


いや、その場で試着とかするんでしょ? 行ける訳無いじゃん!


「男性用水着コーナーもご用意しております。皆様こちらへどうぞ」


という事で、僕達も水着選び。

といってもどれも同じような形で、色とか柄で選ぶくらい・・・ん!?

「何これ?」


やたら小さい・・・こんな水着もあるの?

「ふむ、これは・・・ブーメランだな」

「知ってるの? ネッガー?」

「ああ。何やら筋肉を誇示するのに特化したタイプらしい」

「へえ・・・」


これは無いな。

ってネッガー、もしかしてブーメランも真剣に選んでる!?

「むぅ、これもまた・・・」


僕はノルトと普通の水着選び。

「膝くらいまであるのがいいなあ」

「うーん、僕はもう少し短くても良いかも。短いほうが泳ぎやすそうな気がする」

ほほう、ノルト先生は泳ぎ重視ですか。


そんな感じで3人とも決定。

それぞれ選んだ水着を持って水着コーナーを出た。


「アーシュ達は・・・」

「まだ選んでるみたいだね。先に他のを見てようか」

「そうだな」


遊び道具を中心に揃えてくれてある感じかな。

カードやボードゲーム、浮き輪やビーチボール、それに・・・あれはっ!!


あの英雄の物語、しかも文庫本サイズだとっ!!

「あのっ、商会長さん!」

「はい、私の事はどうかウッテカッテとお呼びください」

「じゃあウッテカッテさん、こちらの本はシリーズ全巻揃ってるんですか?」

「ええ、揃っておりますよ。先月発売された最新刊、それに作者非公開としてベルマリア家経由で発表された聖地巡礼ガイドブックもご用意してあります」

「全巻下さい! ガイドブックも!」

「はい、お買い上げありがとう御座います」


やった!!

読んだ事の無い最新刊ゲット!

しかも聖地巡礼のガイドブックも!

それにしても作者非公開ってどういう事だろう・・・ん? ベルマリア家経由って言った?・・・で、聖地巡礼・・・

はは・・・まさか・・・まさか、この作者って・・・はは・・・



「お待たせー! これだけあれば今シーズンはもう買わなくても大丈夫かな。ね、ワルツ」

「うん。一緒に選べなかったから作戦変更、カル師は当日までお楽しみに」

「いいわね、あたしもそれでいくわ。カルア、あたし達の水着姿、楽しみに待ってなさい!」


アーシュとワルツも合流して、合宿所で着るゆったりした服とか遊び道具なんかを選んだら、今日の買い物は終了。

服選びは・・・はは、大変だったなあ・・・


「アーシュお嬢様、そしてご友人の皆様。本日はご来店とお買い上げ、誠にありがとう御座いました。次のご機会にも是非チョオーテ商会をご利用下さいませ」

「そうね、そうさせてもらうわ。でも店舗とかは無いの?」

「私どもは卸しを主に行っておりますので、本日はこちらを会場とさせていただきましたが、郊外に近い場所にあります複合道具店がチョオーテ商会直営店となります」


へえ、あの大きな道具屋さんかあ!

さすが超大手、店舗もでっかいや。


「ああ、あの店ね。以前行ったけどなかなか面白い店だったわ。また使わせてもらうわね」

「ありがとう御座います。あちらも是非ご贔屓に」


さあ、これで合宿の準備は完了。

合宿、楽しみになってきた!




次の日はモリスさんと。

「さあ、今日はサーケイブだ。準備はいいかい?」

「はい、大丈夫です」

「俺も問題ありません」

一緒に行くのはなんとネッガー。

ミツツメの街に実家があるから、帰りにちょっと寄ってく事になってる。

家族を紹介したいんだって。


そして、

「ラルも大丈夫ですよー」

今日はラルだけ参加。

セカンはアイさん達の様子を見ながらフィラストさんのお手伝いをするって言ってた。


「じゃ、行こうか。サーケイブダンジョンの前・・・は人がいるようだね。ミツツメの転移スポット経由で行こう」


ミツツメの転移スポットはミツツメの街からサーケイブダンジョンに向かって少し歩いた辺りにあある。

「ここからサーケイブダンジョンまでは、大体歩いて10分くらいかな。まあ焦らずのんびり行こうよ」


って事でのんびり話をしながら歩く。

「そう言えばネッガー、この姿のラルは初めてだよね」

「ああ、セカンケイブダンジョンの精霊の操化身アバターは以前に見たから、おそらく同じものだろうと思っていたんだが」

「うん、その通りだよ。これはラルの操化身アバターで、ラル自身はセントラルダンジョンの中にいるんだ」


「ラルはサーケイブダンジョンでの用事が終わったらそのまま帰るんだったよね? 僕はそのあとネッガーの家に行くつもりなんだ」

「ラルはサーケイブお姉ちゃんに会ったらそのまま帰るです。フィラストお姉ちゃんの時みたいにお手伝いを頼まれたら、それが終わってからになるですけどね」


「サーケイブさんってどんなひとなの?」

「うーん、サーケイブお姉ちゃんですか・・・」

ちょっと考え込んでるラル。

「物静かで、何かに興味を持ったらずっとその研究ばっかりしてたです。確か最後に会った時は全身スライムまみれでニコニコしてたです」


スライムまみれでニコニコ・・・ちょっと想像つかないなあ。そもそもスライム自体も見た事無いし。


「そう言えばサーケイブダンジョンはキノコとスライムのダンジョンだったね。スライムはまあともかくとして、キノコはサーケイブダンジョンというかミツツメの街の名産品だよ。ねえネッガー君」

「はい。近くの森で採れるものもありますが、多くはサーケイブダンジョンの中で採取されたものです。ミツツメでは『キノコダンジョン』と呼ばれています」


「へえ、キノコが採れるからキノコダンジョンかあ」

「ああ。だがそれだけじゃない。キノコ型の魔物も出るんだ」

「キノコ型の魔物って・・・もしかして『マキノコン』?」

マキノコンは前に図書室の図鑑で見た事がある。それに入学の勉強でギルマスから教えてもらった事も。


「そうなんだけど・・・どうもこのダンジョンでしか見られない変わったマキノコンばかりで・・・あれらがホントにマキノコンなのかって話も出たりしてるんだよねえ」

「変わったマキノコン・・・もしかしてラルのところのコボルト亜種みたいな?」

「ああ、この前話してくれたアレか。うん、言われてみれば確かにそれもあり得るね」

「って言うか、サーケイブお姉ちゃんだからほぼ確定な気がするですよ」



サーケイブダンジョンに到着。

ダンジョンの前では4人組の冒険者パーティが何か話してる。

「いいか、今日こそは何とか最下層にたどり着いてマツタケを手に入れるぞ」

「そうね。目指せ一攫千金!」

「マツタケ、ゲットだぜ!」


「ああ。その為に絶対あのスライム地獄を攻略するんだ。みんな攻略方法は頭に入ってるな?」

「青いスライムには火属性魔法、赤いスライムには水属性魔法、緑のスライムには土属性魔法・・・」

「よし、じゃあ行くぞ!」


おお! 気合いの入った作戦会議!

そしてそのパーティは転送装置でダンジョンの中に入っていった。

って、あの人たちが手に入れるって言ってたのって・・・


「マツタケ?」

「ああ、マツタケだ。ミツツメ特産の高級キノコでな、1本で数日、ものによっては数週間の食事代くらいの金額で売られている」

「キノコ1本で数週間分の食事代!?」


高っ!

それはあの人達も気合いが入ってる訳だよね。


「マツタケは最下層に生えていて、まずそこに辿り着くのが大変なんだそうだ」

「ネッガーは入ったことがないの?」

「ああ。この間まで冒険者登録していなかったからな。それに、スライムには魔法以外の攻撃が通用しないんだ」


ああ、それはネッガーと相性が悪すぎる。

って言うか、ネッガーには通用する攻撃の手段がない。

魔剣は折れないように『固定』しか付与してないし、撲撲ボコボコ棒は『ベクトル』だけ。


「そうか・・・じゃあネッガーはマキノコンの相手を頼むよ。スライムは僕が相手をするからさ」

「ああ、頼む。それと気を付けないといけないのは、さっきの冒険者も言っていたが、スライムの種類によって効果が高い魔法属性が違うそうなんだ。それ以外の属性でもまったく効果がないという訳では無いらしいんだが」

「うんうん、君達もしっかり冒険者してるねえ。じゃあ僕は後ろから君達の勇姿をしっかりとこの目に焼き付けるとしよう」


モリスさんが高らかに攻撃に参加しない宣言をしたところで、

「じゃあ出発!」

いよいよダンジョンの中へ。



「ちょっと空気が湿ってる?」

「そうだな。外よりも少しだけ湿り気を帯びているようだ」

「気温は少し高めかな」

「ああ。夏ほどではないが、春よりは少し高い感じか」


どことなく薄暗い感じのダンジョン内。

軽石みたいにざらざらした見た目の石壁には、時々小さなキノコが生えている。

「あの小さなキノコって食べられるのかなあ?」

「以前聞いた話だと、旨いキノコは奥に進まないと生えていないらしい」

「そっかあ」


今回の目的はキノコじゃないけど、せっかく来たんだから美味しいキノコを採って帰りたいよね。

なんとなく壁を触ると、え? 手が沈む?

「何これ、柔らかい」

「ああ、このダンジョンの壁は柔らかいと聞いている。本当だったんだな」

「へえ、柔らかい石壁なんて変な感じ」



「む、何か近づいてくる」

先に進むと、ネッガーが魔物の気配を捉えたみたい。

さすがギルマス直伝の気配察知。


「あれがマキノコン?・・・なんか小さくない?」

「ふむふむ、ダンジョンコアによると、あれはマキノコンの亜種です。ママッシュって言うです」

「ママッシュ・・・」


まるで白いお饅頭みたいなママッシュが、通路の先でピョンピョン跳び跳ねてる。大きさはスイカくらい。


「あいつは街でもよく売られている。煮ても焼いてもなかなかいけるぞ」

「へえ、キノコだけじゃなくってマキノコンも食材として売られてるのか。よし、じゃあ・・・『スティール』・・・うん、初めての魔物だけど、ちゃんとスティール出来た」


魔石と本体をボックスに収納。

さあ、次行ってみよう。


「あれはママッシュの色違いだ。茶色だが味は白いのと変わらない」

「スティール」


「またママッシュか」

「『スティール』それにしても出てくる魔物が少なくない?」

「おそらく先行したパーティが狩ったからだろう。今現れている奴らは、そのあとにリポップしたか彼らが通らなかった通路からやってきたんだろうな」

「ああ、そっか」


そういえば僕達のすぐ前に入った人達がいたんだったっけ。


「下手に追い付いてトラブルになっても嫌だからな。まあ俺たちはゆっくり進めばいいだろう」

「トラブル?」

「ああ。こいつらはわりと簡単に狩れてしかもまるごと売れるからな。横取りだとかで喧嘩になることがよくあるんだ。親父がよくぼやいていた」

「ネッガーのお父さんが?」

「ああ。親父は街の警備隊長をやってるんだ」



そして階段に到着。

結局この階層ではママッシュしか出てこなかった。

他のマキノコンはみんな狩られちゃったのかな?


「ラルの魔物ナビ、あれから出番なかったですよー。次回に期待です」

「ははっ、じゃあ降りよっか。次はどんな階層かなあ」




▽▽▽▽▽▽

お待たせしましてすみません。

まさか2週間もかかるとは・・・

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