第93話 とある乙女達のダンジョン探索記

これは、ピノ、ロベリー、ミレア、そしてマリアベルによるセントラルダンジョン初探索の物語。


さて、モリスとカルアによる報告会が終わるや否や、セントラルダンジョンに向けて出発した乙女4名。ただし「少女4名」ではない。


セントラルダンジョンに行った事のないピノは、転移で直行する事は出来ない。

その為まずは森の入り口までピノの転移で移動した。

そして、

「ちょっとここで待ってて。時短してくるから」

そう言うや否や、その場につむじ風を残して姿を消すピノ。


「まあ確かにあたしら全員で歩いてくより、あの子に任せる方がよっぽど早いだろうね」

マリアベルの言葉にうなずくロベリーとミレア。

それから1分とかからず、彼女らの元にピノが転移で戻ってきた。

「おまたせー。じゃあ行こ」

セントラルダンジョンの入り口まで自らの足で赴き、転移で帰ってきたピノ。

これでダンジョン前まで転移出来るようになり、彼女らはダンジョンに到着した。


「この短時間でこんな所まで走って来たって事かい・・・そんな事可能なのかね?」

自らの時空間魔法により現在地を把握したマリアベルがそう呟くと、

「まあピノ様だし」

「そうね。ピノ様だもん」


少女ら2人の身も蓋もない感想に、最年長乙女もかつてのピノの所業を思い出し、

「はあ、それもそうだね。そう言えばピノはこんなんだったよ・・・」

ため息を吐きつつも納得の表情を見せた。


だが、当のピノは自分のパフォーマンスに納得してはいなかった。

「うーん、受付の仕事やってるうちに体が鈍っちゃってるなあ。来週からはアイ達の訓練もあるんだし、一度真剣に鍛え直そうかな」

ピノと『主に愛の戦士』には、近日中にパワーアップイベントが発生する事になりそうだ。


「さあ、時間が限られてる事だし早く行きましょ。ししょーが眠くなっちゃう」

「あん!? あたしゃまだそんな年じゃないよ! 近頃じゃ日の出前に目が覚めるくらい元気が溢れてるのさ!」

「ししょー、それって・・・」


ミレアは途中で言葉を飲み込んだ。

言う必要が無い事というのは、世の中には確かに存在するのだ。

それが理解できるようになったミレア。

マイペースな彼女が見せた、彼女なりの成長の証である。

「ほら、おしゃべりはそれくらいにしときな。とっとと行くよ」


まだ扉が取り付けられていないセントラルダンジョンの入口は、まるで洞窟のそれ。

しかし洞窟と違い、中に入れば不思議と明るい。

ダンジョンの特性による現象である。


そして広間の奥にはひとつの扉。

それを空け中に入ると、そこには――

「これが第0階層・・・うわぁ、本当に外みたい」

先ほどカルアから聞いた通りの光景が広がっていた。


外はもう日が暮れて暗くなっていたのだが、ここは青空が広がり陽光が満ちている。

草原を走る風は青い草の匂いを運び、耳を澄ませば遠くから川のせせらぎの音が聞こえてくる。

所々に小さな白い花が咲く草原は、まるで一面芝の絨毯のようだ。

そしてその向こうに広がる森。


「これは確かにピクニック向きの場所ね」

「ふふ、カルア君とピクニック――」

「はいはい、それはまた今度ねピノ様。今日の目的地はこっちでしょ?」


そのミレアが指差す先には、下に続く階段が。

その横の看板と合わせ、これもまたカルアに聞いたままの景色である。

「さて、降りようかね」

そして一同は第1階層へと降り立った。



「おお、普通のダンジョンだ」

先ほどの第0階層の驚きがまだ残っていたのか、第1階層を見たロベリーは思わず呟いた。

そして歩き始めた乙女たち。散発する魔物の襲撃は彼女らの足を止めるには及ばない。ここは初心者エリアなのだから。


カルアからもらったオリジナル撲撲ボコボコ棒を装備したピノ、そしてロベリーの作ったコピー撲撲ボコボコ棒を装備した3名だ。

当然何の問題もなくあっさりと第3階層までクリアし、第4階層までやって来た。


「ししょー、足は大丈夫ですか?」

「っ!? またあんたは人を年より扱いして!」

ミレアの言葉に瞬間的に沸騰したマリアベルだったが、そのあとニヤリと笑い、

「ああ、でもそういえばちょいっと疲れちまったねぇ。ここは可愛い弟子に背負って行ってもらうとしようか。まさかあんた、師匠の頼みを聞けないなんて事はないよねえ」

と返す。


流石のミレアもこれには顔を引き攣らせる。

「あははは、いやだなあ師匠。もちろん師匠の頼みを断るなんて訳ないじゃないですかあ。でもほら、私って力がないから師匠を落っことしちゃう可能性が高いし・・・」

そして、いい事思い付いたとばかりに手を打ち、

「ピノ様にお願いするのがいいんじゃないかなあって思います! ね、ピノ様?」


急に矛先が向いたピノだったが、

「そうします? あ、でも背負ってるのを忘れて魔物に突撃しちゃったらごめんなさい」

と平然と返す。

ちなみに魔物への突撃についての発言は、純粋な注意喚起である。


「ふん、ちょっと弟子をからかっただけだよ。まだまだ全然疲れちゃいないし、疲れる前に身体強化を掛けるさ。さあ行くよ、このフロアは確かゴブリンだったね」

この話はこれでおしまいと、マリアベルは先頭に立って歩き出す。

「ししょー、ちょっと待ってくださいよー」


そしてかわいそうなゴブリンの物語が幕を開けた。



「ギャビッ」

通路の奥に飛んでいき、そのまま見えなくなるゴブリン。

「ほう、話には聞いていたが、この撲撲ボコボコ棒ってやつは本当に気持ちがいいねえ」

手に残る感触を確かめ、にんやりと笑うマリアベル。


「カルア君が作ったのを抜いた魔石で再現してみたけど、同じ性能を維持できて良かったわ。多少消費魔力が増えたけどね」

「「さすが聖女!」」

「だから聖女はやめてって」



代わる代わる撲撲ボコボコ棒を振り、代わる代わるゴブリンが飛んでいく。

誰も彼もフルスイングの気持ち良さに手加減などする気は欠片も起きず、出会ったゴブリン達は揃って壁の染みとなり、そのまま吸収されて消えていった。

もちろん平面蛙ならぬ平面ゴブリンになる者などはいない。


そして(ゴブリンは)誰もいなくなった。


「何だろうね、魔法を使う間もなくここまで辿り着いちまったよ」

「どちらかと言うと、『使う気も起きずに』って感じですかね、ししょー。久々にいいストレス解消でしたよー」


下への階段の前でそう感想を漏らす師弟。


「さあピノ様、後は下の連中を吹っ飛ばせばいよいよ・・・」

「行くわロベリー。全てはモフの為に」

「そうよ、これ以上毛のない緑に構ってても仕方が無いもの」

「モフへの道を遮るものは」

「「「消し去るのみ!」」」

「さあ行くわよ!」

「「「おおーーーっ!」」」


可愛らしい握りこぶしを天に突き上げる乙女たち。

最早、彼女らを止める事の出来るゴブはひとりもいない・・・

そして彼女らは第5階層を踏破した。

いよいよ念願の第6階層に突入である。



「きゅうぅぅぅん・・・」

ピノの腕の中に抱かれる1匹のコボルト。

その胸には「コボルトマメシー」と書かれたワッペンがぶら下がっている。


「かわいい・・・」

潤んだ瞳、震える小さな体。

緊張しているのではない、怯えているのだ。

なぜなら、彼は殺意を持って襲いかかった獲物に、逆に捕獲されてしまったのだから。

そして・・・


「うふふふふふ」

もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ


「次私ねっ」

まふまふまふまふまふまふまふまふまふまふまふまふまふまふまふまふまふまふ


「ああっ、ずるい。私も」

モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ


「そろそろあたしにも抱かせてくれないかねえ」

もっふぁもっふぁもっふぁもっふぁもっふぁもっふぁもっふぁもっふぁ


代わる代わる新たな刺激を全身に受け続け、彼の精神は徐々に融解していった。

そしてついに訪れるメルトダウン。


「くふううぅぅぅぅん」

その表情はだらしなく蕩け、半開きとなった口からは吐息のようなか細い鳴き声。

尻尾はゆっくりと左右に振られ、だがそこに彼の意思は感じられない。


と、その時だ。

まるで彼のその声を聞きつけたかのように、通路の奥から別のコボルトが現れた。


自分を見つめ、怪しく輝く乙女達の瞳。

その異様な雰囲気に、コボルトは一瞬足を止めるが、自らに課された使命を全うすべく、唸り声を上げて彼女らに襲いかかろうと・・・


「もふゲット!」

「やたっ今度は何コボルト?」

「ええっと・・・コボルトテリアだって」

「へえ、何だか顔立ちに気品があるわね」

「これって、誰かがカットとかしてるのかな」

「かわいくても魔物だからね、この姿で生まれてきたんだろうさ」


このコボルトテリアもまたまた乙女達の洗礼を浴び、人前に出せないような表情を浮かべる。

その時、彼女らの注意がそれたコボルトマメシーは、自らの体が地面にあることに気付くや否や、一目散に駆け出した。


「ああっ、私のマメシーちゃんがっ!」

ひとりの乙女がそれを見て悲しげに声を上げるが、

「大丈夫、すぐに新しい出会いが待ってるから。さあ、次の子達に会いに行くわよ」



一方、こちらはダンジョンコアの間。

「ううう、何ですあいつら! あの子達はモフられ係じゃないですよ!?」

乙女達の様子をじっと観察していたセントラルがひとり喚いていた。


「確かに皆それほど強い魔物じゃないですけど、視認できない程のスピードで一瞬の内に無力化とかあり得ないですよっ! あいつ、絶対ヤバイ奴です!」


そう叫ぶセントラルの視線の先には、コボルト達をあっさり捕獲するピノの姿があった。

通路からコボルトチワワが現れ、その次の瞬間にはコボルトチワワの背後に移動し、いつの間にか剣を奪い取って投げ捨て、その全身をモフり倒す。

コボルトチワワは自分の身に起きた事態を把握できないうちに、全身をモフれらるその刺激で身動きが取れなくなり、そして・・・


「ああっ、また1匹堕ちたです・・・」

ダンジョンコアの間に、悲しげな声が響いた。


「あいつら、時々カルアお兄ちゃんの名前を出してたですから、間違いなくお兄ちゃんの関係者です。それなら迂闊な手出しは出来ないし、そもそもあのピノって女の強さ、異常です。あれじゃ返り討ちにされる未来しか見えないです。こうなったらもう、嵐が過ぎ去るのを待つしかないですよーーー」


現状を分析し、どうにもならないという結論に達したセントラルは、ついに対処を諦めた。


「ううっ、まったく何て奴等を呼び寄せたですかっ! カルアお兄ちゃんの、ばかああぁぁぁぁぁっ!!」




「あれ? 今揺れなかった?」

ロベリーが地面の小さな揺れに気付いて声を上げた。

「何処かで拡張工事でもやってるんじゃない? まだ出来たばかりのダンジョンだしね」

「そうそう、そんな事より早く下の階に行くわよ」


そう、出てくるコボルト達をすべて(モフり)倒し、彼女たちはすでに第6階層を踏破していた。

彼女たちの歩いてきた跡には、床に横たわり全身をピクピクさせているコボルト達、そして抱き合ってプルプルしているコボルト達が転々としている。


「次は大型犬種か、楽しみぃ」

「どんな種類のが出てくるのかな」

「カルアの話には出てこなかったけどさ、あの名札ってあれ、亜種の名前だろう? 便利だねえ」


階段を降りながら雑談を交わす乙女達。

そして階段を降りきり・・・



「ウゥゥゥゥゥゥ」

低い唸り声を上げるコボルトドーベルマン。

「あれ? この子はあまり可愛くない?」

「そう? シュッとしててかっこいいじゃない」

「あとは触り心地だね。ピノ?」

「はーーい」


成人男性程の身長があるコボルトドーベルマン。

トコトコと自分に近づいてくる小柄なニンゲンに対し、やれやれとばかりに鼻を鳴らした――

その次の瞬間。



あれ、今何が起きた?

何故か両膝を地に付け、そのニンゲンに首の後ろを片手で掴まれていた。

「ほおーら、怖くないよー」

自分の顔を間近から覗き込むニンゲン。

歯を剥き出しにしたその表情は、自分を威嚇しているのだろうか。

慌てて抵抗しようとしたが、身体が動かない。

拘束されているわけではないのに、自分の意思に身体が反応してくれないのだ。

まるで身体が「このニンゲンに逆らってはいけない」と思っているかのように。


それでも必死に後ずさろうとするが、身体が起き上がらない。

その時になってコボルトドーベルマンは、首の後ろを掴んでいるニンゲンの手より上に頭が上がらない事に気付いた。


強く掴まれているようにも押さえ込まれているようにも感じないのに、頭を上げようとしてもその手はピクリとも動いてくれないのだ。

「ふふふ、はぁい、いい子ですねー」

そのニンゲンはじっと自分の目を覗き込み、掴んでいるのと反対の手で自分の頭に手を置き、何かを話しかけてきた。


そしてコボルトドーベルマンは悟る。

自分が出会ったコレは、絶対に逆らってはいけない存在なのだと。

言われるがままにこうべを垂れ、命を乞うしかないのだと。


自ら為すべき行為を悟ったコボルトドーベルマンは、仰向けに転がり、絶対者にその腹を晒すのであった。

或いはそれは、このダンジョンを司る精霊とリンクしたが故の心境だったのかもしれない。

彼女もまた、ピノ達が立ち去るのを身を潜めて待つしかないと諦めたのだから・・・


「なんだ、案外大人しいじゃない」

「実はピノ様、テイミングとかの才能があったりしてね」

「ああ、頭に手を置いて話しかけるだけで魔物が服従のポーズを示すんだからねえ。懐かれやすいのかヤバさを感じ取られるのか・・・」

「ししょー、この子の顔を見ればどちらか分かりますよ」


ミレアの指差す先には、怯えとそして精一杯の媚びの表情を浮かべたコボルトドーベルマンの顔。

「まあ見なかった事にしといてやろうかね」

それがピノとコボルトドーベルマン双方の為である、そう含めたマリアベルの言葉に、微笑を浮かべて同意するロベリーとミレア。

「さあ、モフってみようか」


こうして4人掛かりで全身隈無くモフられまくったコボルトドーベルマンの精神は、あっという間にメルトダウンを迎えるのであった。




「あーあ、もうこの階層も終わりかあ・・・」

小型犬種に続き、大型犬種も全滅。

為す術もなく翻弄された小型犬種コボルトに対し、大型犬種コボルト達はことごとくその精神をピノに折られていた。

恐らく再びピノに出会うことがあれば、全員その場で速やかに腹を晒すだろう。

嗚呼、上下関係・・・



「ふふふ、次はにゃんこよ!」

「ケットシー! ケットシー! ケットシー!」

「でもケットシーって魔物っていうより妖精とか精霊に分類されるんじゃないの?」

「広義では魔物、って事でいいんじゃないかな? だってダンジョンコアで作り出せるって事でしょう?」

「細かい事はいいんだよ! さあ行くよ!」

こうして天災達は前人未踏の第8階層へと降り立つのであった。




「第8階層は小型猫だったよね」

「うん、また捕獲よろしくねピノ様」

「あ、来た・・・って・・・嘘」

「服、着てる・・・」


「「「「かっ・・・可愛いっ!!」」」」


前方から歩いてきたケットシー。

何処となく野性味を感じる顔つき、まるで目の細かい絨毯のようなゴールドの毛並み。赤と緑からなる上下はジャケットに半ズボン。

そして胸にぶら下げた名前は、

「ケットシニアンか・・・」


腰元からすらっと細剣レイピアを抜き、身体の前に突き出す。

生来無口な質なのか、声を出す気配はない。


そしてその瞳が妖しく輝き、僅かに腰を落とした次の瞬間、ケットシニアンは乙女達に突撃を敢行した。


目にも止まらぬ3連突き。

身体ごと突っ込んでくるその突きを躱す事は非常に難しい。そしてケットシニアンはピノに激突した。

「ピノ様!?」


「もう、そんなに勢いよく抱きついてくるなんて、そんなに寂しかったの? でもこんなの持ってちゃダメよ。転んで怪我とかしたらどうするの」


右手で剣を摘まみ、左手はケットシニアンの背中に優しく添える。

ケットシニアンは何が起きたのか理解できていないようだ。


そしてピノの背後には3人の乙女達。当然ロックオンは完了している。

妖しく目を輝かせ、手をわきわきさせながらケットシニアンに近づいてきた。

そして・・・

「――――――ンッ!?」



「ふう・・・それにしても、この子最後まで声を出さなかったわね」

「その子の性格なのか、種類の特性なのか・・・」

「ま、そのうち分かるだろうさ。まだまだ・・・たくさん出てくるだろうからねえ・・・くっくっく」



そして彼女達が立ち去ったその場には、着衣が乱れに乱れまくったケットシニアンが呆然とした顔つきでへたり込んでいたのであった。


次なる獲物は、ケットスコティ。

小さな垂れ耳の、ちょっと顔が大きめな三毛。

「これはまた・・・」

「いいじゃないっ!」

当然ケットスコティもまた、ケットシニアンと同じ運命を辿る事となった。


そして、ケットアメショ、ケットマンチカン、ケットシアンブルー、ケットペルシャ、ケットベンガル、etcetc・・・


殺意の高さ、そして身体能力の高さ。

その双方においてコボルトよりも危険なケットシー達であったが、結果はすべてモフ堕ちであった。


そして第9階層。

うきうきワクワクと突き進む乙女達の前に現れたのは、

「猛獣?」

「あの顔つきは完全に猛獣よね」

「でもあの服装・・・Tシャツに短パン?」

「夏休みかっ」

やたらラフな格好をしたケットジャガーとケットヒョウだった。

ちなみに麦わら帽子と虫取網は装備していない。


「「ぐるるるるるぅ」」


姿勢を低くし、牙を剥いて唸るケットジャガーとケットヒョウ。

その迫力に一瞬押されそうになったロベリーとミレアだったが、

「「先生、お願いします」」

その指名に、ピノは一歩前へ。

ちなみにマリアベルは後ろで涼しい顔をしている。

単独で何とでも出来る魔法戦闘力を持ち合わせている彼女だが、今回はその全てをモフりに使う心づもりらしい。

「あのサイズ感、いいね。とっととやっちまいなピノ」


「うーん、2匹、いやこの大きさだと2頭って数えたほうがいいのかな・・・まあどっちでもいいや」

ケットシー達に向かって歩きながらそんな事を考えていたピノだったが、

「でも2匹かあ・・・まとめて大人しくなってもらうには・・・これかな?」

と、冷気混じりの殺気を前方に向けて発した。



ケットシー達は、死を幻視した。

いや、ほんの一瞬ではあったが実際に死んでいたのかもしれない。

涙を流し、その場にへたり込むケットシー達の頭に手をやり、

「大人しくしようね。オトモダチニナリマショウ」

と声をかけるピノ。


その言葉はケットシー達の心にすっと入り込み、言葉の意味は分からなかったが、彼女に逆らってはいけないという意識は精神の奥深くに刻み込む事となる。

この御方は自分に生を与えた母とは逆の、自分に死を与える絶対者であると。神であると。

そしてケットシーは命以外のすべてを諦めた。


「ほおう、やっぱりこれくらい大きいと撫で甲斐があるねえ」

「おおっ、抱きついた時の全身のモフ感が」

「ごっ、ごろごろにゃあお」


「ふん、愛想もいいじゃないか」

「こっちの子も可愛いですよ、ししょー」

「にゃんぐるぅ」


そして散々モフり倒し、やがて訪れた別れの時。

「さあ、そろそろ進むわよ」

直立不動で乙女たちを見送るケットジャガーとケットヒョウ。

その姿は飼い主を見送る飼い猫そのものだった。



ケットカラエル、ケットサーバル、ケットオセロット、ケットクーガー、ケットチーター・・・

次々に現れ、乙女達においしくモフられていった大型猫種ケットシーたち。

だがそんな彼ら彼女らを遥かに凌駕する最強猫種が、とうとうその姿を現す。

その名は・・・


ケットラ。




▽▽▽▽▽▽

もうちょっとだけ、つづくです。

でもホントは早く帰って欲しいです。(某ダンジョンの精霊談)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る