第53話 校長先生から直接指導を受けます

「カル師、新魔法って、なに?」

昼休みにそんな事を訊いてきたワルツ。

「そうよ! あたしも昨日絶対に訊かなきゃって思ってたのに、回復魔法の授業とピノ様との関係疑惑ですっかり忘れてたわ。 一体何なのよ、新魔法って!」


「加熱」と「冷却」は氷魔法の発展だから、ワルツにはものすごく影響しそう。

教えておいた方が絶対いいよね。

アーシュも全属性だから覚えられるだろうし、錬成だったらノルトにも役立ちそう。


「この前ワルツの氷魔法を見た時にさ、光魔法や火魔法じゃなくって土魔法、それも錬成に近い魔法に見えたんだ。だから僕にも出来るんじゃないかと思ってやってみたんだけど、指導員の先生から聞いた『水の粒がゆっくり』が上手くできなくてね、それで『粒がみんな静かに座る』イメージで試してみたら凍らせる事が出来たんだ」


「へえ、氷魔法をあっさり成功させるなんてやるじゃない」

「うん、カル師、氷魔法、おソロ」


「で、その時にさ、凍るのがそのイメージだったら、逆の『粒がみんな激しく踊る』イメージなら熱くなるんじゃないかって思ってさ、試してみたらやっぱりその通りだったんだよ。それで、指導員の先生と校長先生にそのあたりの事を説明して、『氷魔法は錬成魔法じゃないか』って話したんだ。そうしたら、氷魔法を『冷却』、その逆を『加熱』っていう名前にして、錬成魔法に含まれる新魔法として登録するって事になったんだよ」


「氷魔法は氷魔法じゃなくて錬成魔法?」

「うん、そうなるみたい」

「お湯とかも作れる?」

「そうだね。試した時は溶岩も作れたよ」

「わたしにも出来る?」

「氷魔法が得意なワルツだったら、わりと簡単に覚えられるんじゃないかな」


淡々と繰り返してきたワルツの質問が、ここで停止。

プルプルと震えだして、またあのキラキラした瞳で・・・


「ふおおおおお・・・カル師、マジ、カル師・・・むしろマジカル師」

「いや、その恥ずかしい呼び名だけはやめて!」


「マジカル」って・・・「付与の聖女」に匹敵するヤバさ!!



「ねえカルア・・・」

ん? これまで静かに聞くだけだったアーシュが・・・

「さっき、『溶岩を作れた』って言ったよね?」

「うん、出来たよ?」

「溶岩ってさ、熱く溶けた土とか石だよね?」

「そうだね。石から作れたし」

「じゃあさ、その辺の石とか砂を溶岩にして、土魔法の『移動』で操作できるって事よね?」

「ええっと・・・そうか、確かにその通りだ」

「それってさ、火魔法よりもよっぽど凶悪な魔法なんじゃない? っていうかさ、もうそれって『歩く活火山』よね?」


ひとつ覚えた。

静かなアーシュから出る言葉は、途轍もなく危険って事を。

『歩く活火山』・・・そんな恐ろしい想像、してなかったよ・・・


静かに顔を見合わせる僕とアーシュ。

ふたりとも気づいちゃったから。

モノづくり特化だと思ってた錬成魔法が、実は超ヤバい魔法だったって事に・・・


「「錬成魔法、最強?」」



「ふっふっふ、話は全部聞かせてもらったよ」

「だっ誰だ! ってノルト・・・。そりゃあずっと隣にいたんだから、普通に聞こえてた、っていうか聞いてたよね」

「ごめんごめん。なんか雰囲気的につい言いたくなっちゃって」

「まあ気持ちは分かるけどさ」


「それで、さっきの『加熱』の話なんだけどさ、それってつまり、土や空気なんかも温められるって事だよね?」

「空気は試したことないけど、たぶん出来るんじゃないかな。まあ水を加熱した時に熱い湯気が出てたから、もし空気を温める事が出来なくっても、何かを熱くすればその周りの空気は温まると思うよ」

「そうか。じゃあさ、障壁なんかの結界を張ってさ、その中の土や空気を温める事ができるって事だよね」

「ああ、それだったら出来ると思うよ?」


ものすごく嬉しそうなノルト。

もう出会ってから初めて見るくらいのいい笑顔。


「凄いよカルア! それってつまり、寒い時期でも温かい時期の野菜や果物が作れるって事じゃないか! 一年中きゅうり食べ放題だよ!!」


おお、さすが農業のプロ。そんな素晴らしい活用方法を見つけるなんて!

ところで、もしかしてノルトってきゅうり大好き?


「それに土木工事でも役立ちそうだよね。『圧縮』と組み合わせたら石畳よりも頑丈な道路が簡単に作れそうだ。ああ、でも水捌みずはけの問題もあるか」


ノルト発案の平和的利用の話で、ヤバい雰囲気だった空気もほっこり。

よかった、けわしかったアーシュの表情も和らいだみたい。



「カル師、わたし、新魔法やりたい」

「いいよ。じゃあ『回復』が出来るようになったら教えるよ」

「やった、ありがとうカル師。回復大至急」

「あたしもやるわよ。当然教えてくれるわよね? ライバルなんだから」

「僕も頼むよ。実家に結界農場を作るんだ。目指せ通年きゅうり!」

「俺は・・・使えるかどうか分からんが頼む」


「了解、みんな教えるよ。でも回復魔法が先だからね!」



こうして全員に『加熱』『冷却』を教えることに。

「ところでノルトってきゅうりが好きなの?」

「うん、大好きだよ。きゅうりは栽培期間や手間に対して売り上げが大きいからね。利益率が高いうえに作付面積も広げやすい、そんな素晴らしい野菜なんだ。それに時期外れなら結構な値段をつけても間違いなく売れる。VIVA付加価値!」


実にプロらしい答えが返ってきた。

さすがだよノルト・・・



そして今日もまた回復の時間。

「では皆さん、昨日に引き続き回復の練習を行ってください」

先生の声に、みんなはそれぞれ自分の爪の回復を始めた。

「カルア君はどうしますか?」

「時空間魔法の訓練をしようかと思います。それで時間の感覚を掴んで、そこから中回復の訓練を始めるつもりです」


「ふむ・・・そういう事でしたら、校長先生に指導をお願いしてみましょうか?」

「校長先生にですか?」

「ええ。校長先生はエルフですからね、時空間魔法が非常に優れているんですよ」

「へぇ、そうな・・・ん? エルフだから時空間魔法? ってエルフと時空間魔法に何か関係があるって事ですか?」

「あれ? カルア君は知りませんか? エルフは時空間魔法、ドワーフは錬成魔法の適性が非常に高い種族なんです」


そういうのってあるんだ・・・

ああ、そういえばミッチェルさんも兄弟で練成師だったっけ。


「僕、是非とも校長先生に時空間魔法の指導をお願いしたいです!」

「分かりました。それでは校長先生に確認してきます。少し待っていてください」


しばらく待っているとバリー先生が戻ってきて、

「大丈夫だそうです。では校長室に行きましょうか」

そうしてバリー先生と一緒に僕も校長室へ。

今日は安心して校長室に入れるよ。これって初めてじゃない?



一緒に来てくれたバリー先生は教室に戻り、校長室には僕と校長先生のふたりきり。

「ではさっそく始めましょうか。カルア君、君は今のところ時空間魔法をどこまで使えますか?」


どうしよう、言っちゃってもいいのかなあ? 秘密って言われてるけど・・・


言い淀む僕を安心させるかのように、校長先生はニッコリと笑って、

「僕だったら大丈夫ですよ。君を預かるにあたってマリアベルさんとは秘密を守る約束をしてますし、マリアベルさん自身も僕にこれまでの経緯などを伝えるつもりでしたから。それに何と言っても、もう既に非常に重い秘密を幾つも抱え込む事になってしまっていますから」

毒を混ぜてきた。


でもまあ確かに・・・今更何を気にしてるんだって思うよねえ。ええと「軍事的脅威レベル」だっけ?


「分かりました。今僕が使える時空間魔法は、『回復』『俯瞰ふかん』『探知』『遠見』『収納』『転移』、それに『界壁』と『空間ずらし』です」

「なるほど。空間に関するところは習得済みか。しかし『空間ずらし』って、あのモリス氏のオリジナルだろう? よく教えてもらえたね」

「え? 普通に教えてくれましたよ? あれ? そういえばやり方って教えてくれてないかも。目の前でやってくれたから、それから真似して使ってるけど・・・」


「あっそう。真似して出来ちゃったんだ。真似で出来るようになっちゃうんだ。見せたら真似されちゃうんだ・・・」

何だかブツブツ言い始めた校長先生。


「あの、いくら何でも見ただけで全部出来るようになったりしませんよ? 『空間ずらし』だって、『収納』の感覚が全然掴めなかったから、その参考とか切っ掛けになればって言って、それで見せてくれたんです」

「ああ、なるほど。重なり合う空間のイメージを掴むのは苦労しますからね。ただそれにしても、あれは真似するだけで出来るようなものではないんですが。何と言うか、君は順序が滅茶苦茶ですね」


何だかその言葉、前にも聞いたことがある気がする。


「それでは次にスキルですが、君のスキルは確か『ボックス』でしたね」

「あ、はい・・・あの・・・ええっと・・・」

「ああ、もしかして秘密のスキルをもってたり? まあ今更ですよ、今更」

「ですよね、今更ですよね。じゃあええっと、『コアスティール』と『ゲート』を持ってます」

「は?」


「えっと、『コアスティール』と『ゲート』を持ってます」

「『コアスティール』? 聞いた事のないスキルだが『スティール』関連のスキルなのか? いやいや、それは後にするとして、『ゲート』? カルア君、今『ゲート』と言った?」

「はい。僕もモリスさんから聞いてビックリしました。『ゲート』は伝説のスキルなんだよって」


「やはり聞き間違いではなかったか。何と言う事だ・・・。で、現代においてカルア君がその伝説のスキルの唯一の保有者という訳か。これはまたとんでもない秘密が・・・」

「ああいえ、僕だけじゃなくってモリスさんも使えます」

「ええっ!?」


「モリスさんも使えます。僕がうっかり人前で使っちゃった時に、『モリス式転移魔法』って言い張れるようにって、練習して使えるようになってくれたんです」

「何と・・・彼もまた天才、それも恐ろしい程の天才と言う事か。目の前にお手本があったとはいえ、それを魔法として理解し、スキルにまで昇華させるとは」


ああ、エルフの人から見てもモリスさんって時空間魔法の天才なんだ。

やっぱり凄い人なんだなあ。


「今ここで『ゲート』を見せてもらう事は出来ますか?」

「はい、大丈夫です」

「ではお願いします。出口は、そうですね・・・あの辺りで」

そう言って校長先生が指差したのは、この部屋の反対側の隅。

そう言えば、すぐ近くに出口を繋げた事ってなかったなあ。


「ゲート」


僕の目の前と部屋の隅にゲートが開いて・・・目の前のゲートに手を入れたら、もうひとつのゲートから僕の手がひらひらと。ははっ、なんか面白い。ああ、そういえば『俯瞰』を練習した時にも似たような事したっけ。

「おお、これが伝説のスキル『ゲート』ですか・・・」


あらら、校長先生の目がまるでワルツみたいにキラキラしちゃってるよ。

さすが伝説。


「ではちょっと入ってみます」

そう言ってゴキゲンな校長先生は僕の目の前のゲートに入り、と同時に部屋の隅のゲートから出てきた。

「おお、これは確かに転移とは違いますね。なんでしょう、空間そのものが接続された状態と言えばいいのでしょうか。であれば当然こちらのゲートに入れば・・・」

そして僕の前のゲートから出てくる校長先生。

「対となるこちらのゲートから出てくると・・・ふむ・・・」


何やら考えてるみたい。


「通り抜ける時に受ける魔力の感触は、結界のそれと極めて似ていますね。であれば、この感触は空間の境を通り抜ける際のものという事、つまり空間そのものを接続しているという考え方は間違っていないのだろう。ならばまずはこの方向で進めてみようか。エルフとしては習得を挑戦せざるを得ないからな。だってエルフだもの、か。ふふふふふふふふふふ」


「校長先生?」

自分の世界に入っちゃってませんか?


「ああ、すみません。非常に良いものを見せていただきありがとうございました。ちなみにこの『ゲート』は、繋いでいる間ずっと魔力を使い続けるんですか?」

「あ、いえ。魔力を使うのは開く時と解除する時だけで、その間は消費していないと思います。もしかしたら感じられないくらいほんの少しずつ使っているのかもしれませんけど」


「なるほど。じゃあ君の負担にならないようだったら、しばらくこのままにしておいてもらっていいかな?」

「それは大丈夫です。もしよかったら、邪魔にならないところに開き直しましょうか?」

「ああ、それはありがたい! 是非お願いします」


という事で、このゲートは閉じて部屋の隅に開き直し。

誰かがこの部屋に入った時に見つかる事が無いように、今度はどちらも壁沿いに作って、その前に校長先生が隠蔽効果のある結界を張った。


ふーん、『隠蔽』って魔導具でしか見た事なかったけど、魔法にするとあんな感じなのか。今度やってみよーっと。



「さて、それではもう一つのスキル『コアスティール』について聞かせて下さい」

「ええっとですね、もともとは『スティール』だったんですけど、進化して『コアスティール』になったんです」

「今、さらっともの凄い事を言いましたよ? スキルが進化したのですか?」


「そうなんです。フィラストダンジョンにある転送トラップで魔物部屋に転送されて、そこでの戦闘中に『スキルが進化しました』っていうスキルの声が聞こえてきて、その時に進化したんです」

「スキルの進化・・・もの凄く、もの凄ーく気になりますが、それは取り敢えず置いておきましょう。それで、『コアスティール』というのは、どのようなスキルなのですか?」


「生きている魔物から魔石を抜き取るスキルです。このスキルをもとに、モリスさんが『魔石抜き』の魔道具を作ったんです」

「何と・・・あの『魔石抜き』の原型となったのがカルア君のスキルだったとは。はぁ、世界は既にカルア君によって変えられてしまっている最中だったんですね」


「あはは、モリスさんも『これで世界が変わるよ』って言ってました」

「その通りです。それに君もそれを自覚してるようで安心しました。また無邪気に『そんな大袈裟な』なんて言われたらどうしようかと本気で心配しましたよ」

「いや、そんな大袈裟な」

「ネタ振りなんてしてませんからね!?」


あ、つい・・・


「それで、君の『コアスティール』の性能は『魔石抜き』と同等、という事でいいですか?」

「いえ、そうじゃないみたいです。モリスさんは『魔石抜きは不純物が残ってスティールより魔石の効率が少し低い』って言ってました。あ、でもミレアさんは『全然別物』って言ってましたけど」

「ふーーむ、『全然別物』、か・・・」


校長先生、もの凄く考え込んでるみたい。

そろそろ時間魔法について聞きたいんだけどなあ・・・


「カルア君、君とピノ君の通信具、そしてペンダントに使われている魔石はやはり君のスティールによるものですか?」

「はい、そうです。そのほうが透き通ってて綺麗なので」

「そんな理由・・・いや、それがカルア君なんでしょう。もう理解しましたよ。それにアクセサリーを作るのが目的なら非常に大切な視点です。ふむ、これはむしろカルア君こそが正しいと言えますね」


よかった。ところでそろそろ終わらないかな。


「スキルに関しては以上でしょうか。他に伝えてない事は何かありますか?」

「あとひとつだけ。『コアスティール』ですけど、そのあともう一度進化して『コアスティールDp2デプスツー』になってます。といっても今までと何が違うのか、まだ全然分かってないんです。モリスさんはスティール出来る魔物の種類が違うんじゃないかって言って調べてるみたいですけど」

「そうか・・・」


そうひとこと呟いて、両手で顔を覆う校長先生。


「ちょっと話を聞いただけでこれだけとんでもない情報がボロボロと・・・。やはり一度マリアベルさんに話を聞いたほうがいいだろうなあ。はぁ、あの時カルア君の取扱説明書を要らないなんて言った自分を殴りたい。身体強化MAXで」


「あの、校長先生?」

「はい、何ですかカルア君? まさかまだ他にも?」

「いえ、そうじゃなくて・・・」

「今更言い淀むなんてなしですよ。さあ、スパッと言っちゃって下さい」


なら遠慮なく。


「そろそろ時間魔法を教えてくれませんか?」

「あ・・・」



もうっ! このままじゃ僕の話だけで授業の時間が終わっちゃうよ!!

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